恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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拝啓神様、ぶち殺しに行きます素材寄こせ

 かつて、とある山の奥にひっそりとあった集落。精霊が集まるほどに空気中に漂うアムリタが濃い山の奥に、その集落はあった。

 

 山の恵みによって生活を続けていた彼らは、時折超常的な現象を引き起こし、怪魔を追い払う精霊たちのことを神と呼んだ。小さな信仰ではあったが、信仰は信仰。何代にも連なる信仰を受けた精霊たちはいつの日か、精霊から神へと変じた。

 

 神へと変じたとしても、精霊達の在り方は変わらない。信仰は受け取るが、その見返りとして大きな贈り物などはしない。したとしても、怪魔を追い払うのみ。そもそも、怪魔を追い払う見返りとしてお供え物などを貰っていたのだ。熊や鹿などを狩る力があっても怪魔を退治する力を持たない集落の人間達もそれでいいと納得していた。

 

 我々はこの山に生きる者であって、精霊達の庇護下にいたいから山にいるわけではない。怪魔に喰われて死に絶えるのもまた自然の摂理なのだろう、と。

 

 潔いと言うべきなのか、覚悟が決まっていると言うべきなのか────それとも、価値観が現代人とは全く違うと言うべきなのか。

 

 とにかく、そんな集落の人間達を精霊達は気に入っていた。集まり、育み、次へと繋いでいく。時折集落にやってくる者との交流をしたりして発展と衰退を繰り返して、細々と暮らしている彼らの生活を見るのが、精霊達は好きだった。子が生まれたり、立ち上がったりすれば人間達と一緒になって喜び、狩りの成功を祝ったり、年に一度の山や精霊への感謝を伝えるための祭で夜通し歌い、踊り、笑った。年月を重ね、老いて亡くなる者がいれば人間達と共に悲しみ泣いた。

 

 何年も、何年も。ずっと、ずっと見ていた。大好きな人間達のことを、ずっと見てきた。見守っていた。

 

 ずっと見ていたかった。

 

 突如起こった怪魔の大量発生。怪魔を退けるために、精霊達は力を振るった。人間達も戦った。力無くとも勇敢に、懸命に。そして、怪魔を退けて勝利を掴んだ。けれど────その代償は大きかった。

 

 ある人は怪魔による切り傷が毒となって、ある人は子を守るために身を挺して怪魔を食い止めて、ある人は集落から女子供を逃がすための殿となって。皆、戦った。戦い、勝ったけれども、死んでしまった。広いとは言えない集落は怪魔によって荒らされ、とてもじゃないが住める場所ではなくなってしまった。

 

 怪魔が放つ瘴気によって、疫病が蔓延した。一人、一人と死んでいく。老いた者、生まれたばかりの者────例外なく死んでいく。加護を与えたのならもしかすると、生き残れただろう。精霊達はそれを見ているだけだった。苦しむ人間の手を握り、寄り添いはすれども────ただ見ているだけだった。

 

 疫病にならぬ精霊達は亡くなった人間達を丁寧に埋葬した。人間達は精霊達に謝り、言った。この山を出て、他の人間達の輪に入ると。沈痛な面持ちの人間達に対して、精霊達は言った。謝る必要はない。この山を出ても、元気に暮らしてくれればそれでいい。

 

 精霊達は人間達を見送った。見えなくなるまで手を振って見送った。その道行きに幸があることをと願いながら、見送った。

 

 

 

 

 長い年月が経った。精霊達は山に住み着いた怪魔を退治し続けた。自分達の領域を穢す者を許すわけにはいかなかったのもそうだが、彼らを守ることができなかった自分達を戒めるため、忘れないようにするために。彼らに加護を与えることをせず、ただ見ているだけだった己の罪を、彼らの死に際を永遠に忘れぬように。

 

 怪魔を生み出す穢れを喰らった。穢れきったアムリタを飲み干した。いつしか精霊達は堕ちた神となり果てた。それでもなお、彼らは山へ訪れる人間達が怪魔に襲われぬように、怪魔を殺し、喰らい続けた。

 

 許されぬ。

 

 赦されぬ。

 

 我らの罪は許されぬ。

 

 断じて赦されてはならない。

 

 誰が何と言おうと、我らが許されることはない。赦される日が来るとすれば────それはきっと、零落し、堕ちた神となったこの身を滅する力を持つ者が現れた時だろう。

 

 見ているこちらの気が狂いそうになるほどの自罰の意思。加護を拒んだのは人間側なのだから開き直ればいいだろうに、割り切ればいいだろうに。だが、それをできなかったからこそ、彼らは山の中にいた怪魔の全てを喰らい尽くした後、山を迷宮と化すことなく山の奥へと閉じこもっている。

 

 

 

 

 

 また、長い年月が経った。山の奥に閉じこもり、目を閉じ、耳を塞いでいた精霊達は────ふと、声を聞いた。

 

「どこだここ」

 

 子供だ。子供が山に迷い込んだ。知らない子供だ。人間がこんなところにまでやってくること自体、珍しい。

 

「んー……日が暮れる……ひいひいひい爺ちゃんの仕事場の奥に興味を持った俺が馬鹿だった……」

 

 どうやら、子供は山がどうなっているのか興味を持ってしまった結果、こんな奥までやってきてしまったらしい。好奇心猫をも殺す、という言葉があるように、子供一人でどうして山の中に来てしまったのか。そして我らがいる洞窟に転がり込んでくるような不運を引き当ててしまうとは。そんなことを考えながらも、精霊達は子供の姿をその目に捉えた。

 

「………………ん?」

 

『──────!?』

 

 目が合った。間違いなく、あの少年はこちらを見ている。そして、目が合ったというのに恐れて叫ぶでもなく、不思議なものがいる、程度の目を向けていた。

 

「えーっと……あんたらってあれ? 神様的なサムシング?」

 

 それどころか話しかけてきた。

 穢れを喰らい、飲み干した時点で精霊達は堕ちた神として瘴気を放ってしまう。自らの意思でそれを食い止めてはいるが、ちょっとだけ漏れてしまう瘴気もある。そんなものをただの人間が吸い込んでしまえば、気が狂って発狂するか、腐り落ちるかもしれないというのに、その少年はそんな気配を一切見せずに精霊達に声をかけてきた。

 

「どうすっかなぁ……お供え物にできるのあんぱんとカレーパンしかねぇ……!!」

 

 しかもお供え物を供えようとしている。このよく分からない少年に対して精霊達は困惑を隠せない。

 

『こわくないのこわくないの』

 

 精霊達の姿は控えめに言っても悍ましい。穢れで肉は溶け落ち、零れた肉を無理矢理抑えるように集合し、無理矢理結合、縫合しているような姿だ。もはや元々の姿など思い出せぬほどに、醜く、恐ろしく、悍ましい。子供が見れば泣き叫ぶこと間違いなしの姿だ。

 

「? 怖いって何がさ。見た目の話? 正直なまはげの方が怖い」

 

『なまはげなまはげ。……なまはげ?』

 

『なまはげって誰?』

 

「秋田の鬼。……鬼? あいつ鬼かな……まぁ、そういう類のやつ。とりあえずお供え物をどうぞ。俺が作ったやつだから不格好だけど」

 

 なまはげなるものの方が怖いと言ってお供え物を渡してくる少年。腐り落ちて骨が見える手で、少年が作ったという不格好な二つの『あんぱん』と『かれーぱん』なるものをそっと取り、獣と虫と人間の口が混ざっているような口に運ぶ。

 

 あんぱんと呼ばれたものは自然にあるような甘さを持っておらず、濃厚な甘さを感じさせる。対してかれーぱんと呼ばれたものは辛く、塩気があり、油も感じる。お供え物ということで、供えた人間の思念が少しだけ伝わってきており、自分達が眠っている間に、人間の生活は豊かになったのだと精霊達は理解した。生きるために食べるだけではなく、道楽として食べることが許されるほど、人間の暮らしは豊かになったのだと。

 

『よかった』

 

『よかったよかった。繋がれた繋がれた』

 

『あの子達の命は繋がれていた』

 

『うれしいうれしい。……されど』

 

 喜びも束の間、忘れられない罪を思い出し、気落ちする精霊達。それを見て、少年は首をかしげて口を開く。

 

「なんで落ち込んでんの? どしたん? 話聞こか?」

 

 それを聞いた精霊達は拒めばよかったのに、耐え切れずに自分達のことを話し始めた。久しぶりに出会った人間に対して、警戒心が緩んでいたのもあるのだろう。そして、人間と同じ感情を持ってしまったからこそ、誰かに聞いてもらいたくなったのだろう。少年は神父ではないが、懺悔のようなものだ。精霊達は話した。この山にあった集落のこと、自分達が犯した罪のこと。抱え込んでいたものの全てを話して、涙を流した。赤黒い、血のような涙を流して、懺悔した。

 

 そしてその懺悔を聞いた少年────幼き頃の模歩巡、我らが気狂いは。

 

「つまり俺があんたらをぶっ殺せばいい……てこと!?」

 

 とんでもない結論に至った。これには精霊達も涙を引っ込めて驚愕する。

 

『ころせないころせないわれらをころすにはきみはよわい』

 

「ならば強くなればいいということ……まぁ、俺あれだから。バグみたいな人の弟子だから。あ、やべえ震えが……」

 

 震えるなこの足め、と太ももを叩く少年は爆笑する膝の笑いを止めてから、驚愕と若干の期待が混ざった視線を向けている精霊達に笑う。

 

「とにかく、強くなるよ。んでもって、神様を殺せるくらいになる」

 

『どうして?』

 

「どうしてって……」

 

 うーん、と悩む少年は言葉が見つかったのか、手を叩いて精霊達に言う。

 

「俺がやりたいから。俺がそうするべきだって思ったからかな」

 

『……どうして?』

 

「まだ聞くか。疑い深い神様だなあんたら。もう自分を許してやれよと思うけど、それができないわけでしょ?」

 

『……許されぬ赦されぬ』

 

「おう。なら、誰かがあんたらの代わりにあんたらを許してやるしかないわけだ。死が許しってんなら、俺が殺る。神殺し、俺がやってやろうじゃないの。んでもって素材を寄こせ」

 

 本気だ。本気で言っている。この子は、この少年は────本気で我らを殺し、許しを与えようとしてくれている。

 

 もう一口、あんぱんとかれーぱんを齧る。少年の本気度が伝わってくる。素材を寄こせという言葉にも嘘はない。もはや自分達を殺して、自分達を何かに使ってやるとしか考えていない少年に精霊達は手を伸ばした。

 

「ん?」

 

『やくそく』

 

『約束。契約結んで』

 

『つよくなって、殺しにきて』

 

『我らの罪を許してくれるなら』

 

『つよくなってころしにきて』

 

「分かった。約束する。いつか絶対にあんたらを────神様を殺しに行くよ」

 

 契約は結ばれた。だが、殺してくれると約束してくれた、この心優しい少年が少しでも自分達への殺意を緩めてしまわぬように。重荷を背負ってしまわないように。この罪を背負った我らのことを憐れまぬように。我らを背負おうとしないように。

 

『のろいをきみに』

 

『器を』

 

『契約し、奪い、模り、与える』

 

「へ? 何、を────」

 

 君を呪おう。君を呪い、器を奪い、呪いで器を模して、君を縛ろう。いつか、殺しに来てくれるように。強くなった暁には呪いに気付き、呪った我らを容赦なく殺しに来てくれるように。

 

『われらはのろうわれらはのろうきみのみちゆき』

 

『我らはまつろわぬ神。忘れられた罪ある神』

 

『さようならさようなら。またおいでまたおいで。ころしにおいで』

 

『殺しに来てね。きっと殺しにおいで』

 

『おいでおいでこっちにおいで。殺しにおいで』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、呪われた模歩巡が知らぬ記憶の断片。精霊達しか知らない、契約の記憶。




ずっと見てきた。ずっと見てきた。ずっと見ていたかった。
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