恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
久しぶりに来たなぁ、この山。師匠に弟子入りした次の年に来たきりか? 掃除しに来る以外で来ることはなかったし、ひいひいひい爺ちゃんの仕事場だってもうとっくの昔に壊れてしまったから、仕事道具とかは実家に保管している。不用意に山に入るもんじゃないし、立ち寄ったこともなかったが……まさかこんなところに神様がねぇ……まぁ、何でもかんでも神様として信仰する日本人のことだしな……そうじゃなくても怪魔が神の座に至ることだってあるのだ。ゲリュオンとクリュサオルみたいにな! ヘラクレスさん、ギリシャ側のやつが日本に来てるんですけど。
まぁ、それはそうとだ。俺のことを呪ってくれやがった神様の気配はどうやって辿っていくか……アムリタ感知による逆探知と行きたいところだが、この山、神様が長くいるせいなのか霊峰と化しているようでアムリタの濃度が濃い。あと生き物の気配が濃いせいで探知ができねぇ。大耀さん達連れてくるべきだったかねぇ。でもなぁ……ご所望は俺らしいから、大耀さん達を連れてきてもはぐれてしまうなんてことが起こりかねない。
「しっかし……変な感じだな」
この山、アムリタの濃度が濃いってだけじゃなくて……何かダンジョンじゃないのにダンジョンっぽいというか……ダンジョンになりかけているというか……とにかく変な感じだ。こりゃマッピングとか考えない方がいいな。実際、ダンジョン内部の構造を表示してくれるくらい高性能なタブレットがバグってやがる。俺が感じ取れてないだけで、とんでもない瘴気の量だったりするのか? でもひいひいひい爺ちゃんの仕事場があったわけだし、そんなはずはないだろう。浄化は得意じゃねぇんだよなぁ……むしろ俺は汚染する側の人間。
「ま、いいや。とりあえず歩いていれば分かるだろ」
幸いと言うべきなのか、俺の体はその神様が呪いで雁字搦めにしているらしいし、その呪いが勝手にその神様のところまで導いてくれるだろうさ。なので俺は、山の中を散策しながら禍津日様が渡してくれた呪いこと人魔一戴の使い勝手を確かめていくことにする。
「仙妖ゲージを使うわけだが……仙妖ゲージってどうやって感じ取るんだ?」
とりあえず立ち止まって目を閉じ、自分の内側に集中してみる。精神力やアムリタの量などは意識してみると結構簡単に感じ取ることができる。となれば仙妖ゲージも結構簡単に感じ取ることができるんじゃなかろうか。
禍津日様曰く、呪いが使い方を教えてくれるとのこと。ならばと、怪魔の反応を捉えるためのアムリタ感知などの色んな感知系スキルの発動をシャットアウトして、右目から右腕にかけて伸びている刻印こと禍津日神の呪いに意識を傾けてみる。────────しばらくの間意識を傾けていると、右目を中心に俺のものではない何かが俺の中に根を張っているのを感じた。多分、これが禍津日様が俺にかけられた呪いに便乗する形で刻んだという呪いだろう。感じ取ったのはいいが、どうやって使うのか。そう思った矢先。
「………………」
「ん?」
ずももも、と黒い靄が形を成していき、複数の人型が現れた。怪魔……ではなさそうだが、こちらに対して友好的なやつらというわけでもなさそうだ。
「………………示せ」
「ああん?」
「力を……彼らを殺しうるか…………」
「ああ、そういう感じね」
黒い靄が何者なのかは知らないし興味もないが、そういう感じであればこのストレイツォ容赦せん。殺してやる、殺してやるぞ黒い変なやつら。
そんな気概を以って鉈を抜刀。フックショットを使って黒い靄の肩に引っ掛かるように射出して巻き取る。中々のパワーなのかこちらに引っ張ることができなかったが────人型であれば膝治療できるんだよなぁ!! なお人型じゃなくても膝があるなら膝治療できる。
「膝ァ! 膝ァ! 膝ァ! からの頭!!」
いつもの黄金コンボ、黒い靄は死ぬことしかできません。やはりこれよ。にしても、予想通り血は出てねぇな。人型とはいえ、黒い靄だからもしかしてと思っていたが、こいつら死人……というか思念体か? この土地に縛られ続けている地縛霊的な……それにしては少々違和感を感じざるを得ないが。
「「………………示せ」」
「あ?」
「「「力を……彼らを殺しうるか…………」」」
「何だよお前ら無限ループかよぉ!?」
しかも増えたぞ!? どうなってやがる。さっき脳天かち割ったはずのやつも復活してやがるしよ……光属性のエンチャント付けて殴ったのにこれだからな。幽霊系っていうわけでもなさそうだが、じゃあ何なんだこいつらはって話になってくる。残留思念が形になったものだとすれば、その核となっているものがあるはずだが────!?
「あっぶ!? 何しやがる!」
「足りぬ……これだけでは……」
「ああ?」
「殺し得ぬ。神を殺すことなど────」
「じゃかあしい」
鉈をぶん投げて頭を吹き飛ばし、フックショットで鉈を回収する。ぶつぶつやかましい連中だねこいつらは。神だろうが殴れば死ぬだろ。一発目で死なないなら二発、二発目で死なないなら三発と重ねて死ぬまで殴るんだよ。1ダメージでも通るんだったら拳でも殺せるんだよ。ヘラクレスが不死の獅子をどうやって殺したか知ってるか? 自慢の上腕二頭筋を用いて三日三晩締め上げて窒息させて殺したんだよ。不死がそれで殺せるんだったら神様だってそんな感じで殴り続ければ死ぬんだよ。死なぬなら、死ぬまで殴ろうが死にゲーマーの考え方なんだよ。
「新選組に比べたらてめぇらなんざ毛ほども怖くねぇわ数だけ一丁前に増やしやがって」
「………………示せ」
「それしか言えんのかてめぇら」
火縄銃を構え、ぶっ放す。ヘッドショットで撃破したがまた復活して増えやがる。プラナリアでももっと丁寧に増えるぞ?
とはいえ埒が明かないのも事実。どうしたもんか────そう思った直後、右目から右腕にかけて刻まれた呪いが熱を帯びる。
「ん!?」
紫と金の、禍津日様の両目と同じ色の刻印が淡く、妖しく輝いている。黒い靄の囲いから抜け出して、比較的開けた場所────人が住んでいたかもしれない、と思うような場所の中心に出た俺は、刻印をまじまじと見つめた後、意識をもう一度集中させる。ドク、ドク、と呪いが躍動するような感覚と、熱。集中すればするほど、それが強くなっていくように感じる中、俺は虚空に手を伸ばせば────何かが俺の手を掴んだ。
「…………人魔一戴」
バキッ、と何かが砕ける音と共に、俺の体に変化が訪れる。虚空から半分に割れた骸骨を模したような仮面と、黒い鎧が現れて右腕に纏わりついていく。仮面が俺の顔の右半分を覆い隠すと同時に、俺の右手には鎧を着た馬を模した黒と銀の片刃剣が握られていた。
何なのか、なんて野暮なことは言わない。人魔一戴が発動した瞬間、真っ先に俺の手を掴んだやつがいた。
「全く……記念すべき最初の人魔一戴がお前らかよ」
『ふっ、そう言ってくれるな。私もクリュサオルも、天照からこの話を聞かされた時から心待ちにしていたのだ』
『ブルルッ』
剣と仮面と鎧がカタカタと鳴り、何度も何度も聞いた声が耳に届く。
ゲリュオンとクリュサオル。俺が人魔一戴を使った瞬間、どこで見ていたのか、俺の手を真っ先に掴んできた怪魔であり神であり、俺が調伏したらしい存在。加護を貰えなくても、とりあえずこいつらは式神か眷族にしろ、という天照大御神様のお達しが成されたこいつらとの人魔一戴が、俺の記念すべき一回目の人魔一戴となった。
ゲームでもそうだったが、力の強いやつは人魔一戴を使うと喋ったりするらしい。というか呪いだからなのかゲームとは全然違う気がするんだが? 確かに怪魔の一部を体にコピーして使う感じだったけど、こんなんだったっけ?
『知識は所詮知識だ。お前はそこに依存するような男ではないと思っていたが、違ったか?』
「あ?」
『人魔一戴、だったか。お前と一つになったことで、お前の記憶が流れ込んできた。難儀な生き方をしているようだな、お前は。まさか転生を経てこの世界に生まれてきた存在とはな』
『ブルッ』
マジかよ……人魔一戴って俺の思考が融合している相手にも伝わるのか! いや、そりゃそうか。一体化しているんだから、同じ思考を共有していてもおかしくはないわな。いや、ゲリュオンとクリュサオルが特殊なだけか? ぶっ殺したやつの力を使っているわけだが、こいつらは生きているわけだし。なんで生きてるのに人魔一戴で融合できるんだよ。
いや、そんなことよりも。
「…………どこまで見た?」
『断片的にだ。お前が原作知識? とか言っているところはあまり見ていない』
「そか。……まぁ、お前らは口が堅いだろうしな。バレてもまぁ大丈夫か……転生バレは転生ものじゃポピュラーだけど、まさかお前らが最初とはなぁ」
まあ、精神的な面で考えると悪くないと思っている自分がいる。何だかんだで自分が転生者で、色々知っているのに口に出せずにいるというのは結構きついものがあったのだ。人目がないところで、という状況限定ではあるが、ぶちまけることができるやつがいるというのは精神衛生上凄く助かる。……あれ? ワンチャン人魔一戴の進化系である人魔戴冠で英雄召喚できるようになったりするけど、大丈夫かしら色々と。
「…………細かいことは考えても無駄か。とりあえず色々話したいことはあるけど────」
『ああ。そうだな』
空気を読んでくれていたのか、囲むだけで何もしてこなかった黒い靄に目を向ける。ああいや、ゲリュオンとクリュサオルの気配で動けなかっただけか? いやでもこいつらに意識とか無さそうだし、実際のところはどうなんだろうな……ま、どうでもいいか。
「てめぇらどうせあれだろ? 素材出ないタイプのあれだろ?」
「「「………………示せ」」」
「あー、うん。聞いた俺が馬鹿だったわ。出ようが出まいが関係ねぇわ」
ゲームと同じような性能なら、人魔一戴は制限時間付きのスキルであり、一度解除するとリキャスト時間があるタイプのスキルであり、仙妖ゲージは限りがある。精神力と同じようなものなのだから当然と言えば当然だが────仙妖ゲージを回復するための霊薬とかアイテムとかを持ち合わせていないので、ちゃっちゃと片付けなくては。
「んじゃ、色々自己紹介とかしなくていいだろうし、行くぞゲリュオン、クリュサオル」
『ああ、我らが力、使いこなしてみせろ!!』
『ブルルルッ!!』
とはいえ、ゲームで人魔一戴の説明が行われた時に禍津日様が言っていたが、使い方は力とした魔が勝手に教えてくれるとのことで────俺の中にゲリュオンとクリュサオルの戦いの記憶が流れ込んでくる。ここに至るまでの戦いの歴史。ギリシャにて戦った勇猛果敢な英雄達。特にヤバいのはヘラクレスを筆頭にヤバい奴らばかりが乗り込んだアルゴノーツとの戦いや、トロイア戦争。どうなってんだギリシャ。そしてそれをあと一歩まで追い込んでるゲリュオンとクリュサオルも何なんだ。
「まーじで何で殺し尽くせたのやら……ま、それはともかくとして、使い方は何となく分かった」
片刃の剣を地面に付くか付かないかのギリギリで構え、脚に力を込め────一気に爆発させるように飛び出す。
「切り捨てるッ!!」
黒い靄を下段から振り上げた剣でまとめて薙ぎ払う。今の俺は武器に振り回される、という言葉が似合っているだろうと苦笑が漏れる。当たり前ではあるが、この剣、俺が使っている鉈よりも重い。ちゃんとした加護の場合の人魔一戴と、呪いの人魔一戴の使用感は結構違いそうだな。
「んでもってぇ────これをこうッ!!」
右腕に巻き付いている銀の鎖。これ、剣の柄にくっついている鎖なのだ。なので、これを解いてぶん回せばモーニングスター(剣)の出来上がりである。……ん? どっちかって言うとあれか。モーニングスターよりも鎖鎌に近いのかこれ。もう一本あれば某神殺しにそっくりな戦い方ができそうだ。
『うん? クレイトスは神殺しではなく巨人殺しだろう? それに、得物は槍のはずだぞ』
「あー……まぁ、前世の話よ。あれも面白かったんだよなぁ」
『ふむ……興味深いな』
「つか、クレイトスと会ったことあるのかお前」
『ああ。アレスの炎を宿らせた槍によって容赦なく殺されたがな。いやはや、クレイトスもそうだが、怪魔よりも多い軍勢とは恐れ入った』
てかこの世界にクレイトスさんいるのか……あ、でもアレキサンダー大王の臣下なんだっけ、クレイトス。黒のクレイトス、なんて呼ばれていたっけか。でもゲームのクレイトスさんとアレキサンダー大王の臣下のクレイトスは全く関係ないはずなんだけど……ま、もしかしたら海外行ったら会えるかもしれないし、その時を楽しみにしておこう。あわよくば戦ってみたい。
なんてことを考えながら黒と銀の剣を振り回し続ける。本当なら怪魔が使っていた技を使えるようになるはずだが、初めて使うもんで中々勝手が分からない。あと山の中にいる神をぶっ殺すために仙妖ゲージは温存したいところ。
一薙ぎ五殺並みの速度での殲滅。一歩、また一歩と進み続ける度に黒い靄が蹴散らされていく。こんなやべぇ力を持っていたゲリュオンとクリュサオルをよく殺せたな、と自分でも自分のことをちょっとおかしいんじゃないかと思う中────黒い靄共の動きが止まった。
「…………?」
さっきまで感じていた攻撃の意志などが感じられない。むしろ、友好的というか……何かを期待しているかのような……?
「その力……怪魔ではなく、神の刃か」
人魔一戴を解除して黒い靄の声に耳を傾ける。さっきまで示せとかしか言ってこなかったのに、今は話が通じる感じがする。
「ああ、なんか怪魔から神になったストーカーの剣。まぁ、神の刃ってことでいいんじゃね?」
「…………その、力ならば……彼らを、滅することが────終わらせてやれるか……?」
「知らね。でも、俺は殺すぞ。殴れるなら殺せる理論信者が俺だ」
ダメージが1だけでも通るなら、どんな武器でも殺せる。時間がかかったとしても、1ダメージを1万回与えたら1万ダメージであるように、死ぬまで殴れば敵は死ぬのだ。格上殺しに大事なのは死ぬまで殴り続ける覚悟とそれを可能とする根性だけである。神殺しだってそれで何とかなると信じている。
「この先に────彼らが、いる……」
「あ、教えてくれんのね」
「……どうか、彼らを……ずっと、泣き続けている彼らを……終わらせてやってくれ」
「彼らに背負わせてしまった我らが言うことではないが……彼らを、許してやってくれ」
「我らの声では、彼らは眠れない。我らの声を聞けば、彼らは己を呪うだろう」
だから、彼らを殺してやってくれ。
そう言って黒い靄は消えていった。……ふむ。何だかよく分からんが、山の中にいる神様が慕われてたんだなってことは分かった。殺すけど。
『情緒も風情もあったものではないな』
『ブル……』
「知ったこっちゃねぇわ。呪ってきたやつが悪い」
というわけで黒い靄が教えてくれた道を突き進む。首洗って待ってろ山の神。必ずてめぇを殺してやるからな。そんでもって素材を寄こしやがれください。
巡がゲーム本編にいた場合、このイベントは好感度が一定値に達していないと介入できないようなイベントだと思う。しばらくいなくなったなと思いつつストーリー進めてたら、そのうち帰ってきて、禍津日様の加護貰っていらっしゃるみたいなキャラ。RTAだったら一時離脱させた方が早いとか言われてそうなやつ。
それはそれとして人魔一戴『ゲリュオン&クリュサオル』の説明
本来であればゲリュオンの鎧とクリュサオルの体――――つまりはケンタウロスみたいな姿になるもの。機動力と火力を兼ね備えた人魔一戴。なお、遠距離手段は一切存在しないので近接攻撃特化。
現在の呪い版人魔一戴は右半分にゲリュオンとクリュサオルが混ざっている状態。なおクリュサオルは剣に、ゲリュオンが鎧になりました。どういうこったよ。