恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
山から帰ってきたら夕方になっていたでござる。山に入ったのが正午くらいだったから、これでも早い方かもしれないが……何とも長い時間山の中にいたようだ。山の中にいた時はずっと空が青かったから、山が疑似的なダンジョンにでもなっていたのかもしれない。霊峰って呼ばれる場所には結構ダンジョンが────と言ってもミニダンジョン程度だが────が存在したりする。
まぁ、そんなことよりもだ。俺がアラハバキなる神の席を貰ったらしいが、全く自覚がない。神様が持っている神気とか全く感じ取れないし、アムリタや霊気の流れがより見えやすくなったとかもないし。まだ検証していないから分からないが、神と現人神は別物で、現人神=ジョブの可能性がある。記念すべき討魔第二作品『討魔2』にはジョブシステムが実装されて、色んな武器やキャラクターが使いやすくなるような形となった。このシステムのお蔭でずっと悲しいままなキャラクターが比較的いなかった印象がある。NPCにジョブを設定すると、ジョブの得意武器を優先的に使うAIが追加されるためだ。
現人神がジョブだとして、何が得意武器になるのだろうか。杖とかか? 仕込み杖? 仁王の魔縁の錫杖作っちゃう? 仁王2ではあれと鎌しか使った記憶ないんだが。
「そっか。そっちを選んだんだね」
「────ッ!? なんだ、天照大御神様か…………天照大御神様ァ!?」
「こんばんは、模歩巡」
下山して禍津日様のダンジョンに戻るべく歩いていると、何を考えているか分からないサングラスをかけた美少女、天照大御神様が現れた。フットワークが軽すぎるぜこの神様……! さすがは「有給溜まってるので使い切ります」で天岩戸に閉じこもって惰眠を貪ったり、祭りを開催したりする神様だ面構えが違う。
「というかそっちを選んだ、というのは?」
「君の状態。アラハバキ────かつて人に寄り添った精霊達を眠らせたんだってこと」
「その結果現人神なるものになったらしいんですけど」
「うん。現人神……と言っても、君は神様になるつもりがないから人間8割って感じだけど」
いやぁ、前世の記憶のせいで神様って厄ネタ抱えてることが多すぎてちょっとなりたくないな、と思っている自分がいる。あと喰われたくないです……荒ぶる神々を喰らうやべーやつらの影がチラついていて、なりたくないです……あいつらの存在は別ゲーだけど。
「でも、これで宇迦の子以外にもお願いごとができるようになった。とてもはっぴー」
「お願いごと?」
「そう。と言ってもそこまで大変なことじゃない。たまに大変なことになってる時があるけど」
なんか不穏なことを言ったぞこの神様。
「もちろん報酬は出す。仕事には相応の報酬がないといけない。のっとタダ働き、のっと残業」
「は、はあ……」
まあ、この世界の神々ってそういうところきっちりしてるんだよな。この神様からのお願い事というのは討魔シリーズ恒例のものであり、クエスト報酬でアダマンタイトとか貴重な回復アイテムとか渡してきたりするし。どこかの報酬格下霊薬先生とは違うぜ! でもテスカトリポカ様はもっと優しい依頼をください。あんたの全力に勝てるやつがどれだけいると思ってんだ?
「まぁ、今はお願いごとはない。追って連絡する」
「うす」
「うん。…………ところで模歩巡」
「はい」
「アラハバキにお供えしたあんぱんとカレーパンを所望する。あと葛粉アイス」
「クリームパンしか持ってねぇ……!!」
「それもまた良し」
ならばこれをお供え物にさせていただこう。実家の店ではこのクリームパンが子供人気No.1商品である。バニラの香りが強いタイプのクリームパン、人を選ぶような気がしないでもないが、人気なのだ。子供ってバニラアイス好きね。まぁ、このクリームパンはカスタードクリームの他に生クリームが入っているタイプなんだが。
「うん、美味しい。豊受のご飯も美味しいけど、こういうのもたまにはよし」
「やっぱり和食がメインなんです?」
「そう。でも最近豊受はえすにっく料理に手を出したから、たまにそういうのが来る」
さすが豊受大御神様、天照大御神様を飽きさせないために大量のレシピを考案して作っては改良し続けている神の実力は伊達じゃない。豊受大御神様も天照大御神様と同じように結構フットワークが軽い神様で、まだ朝日が昇る前の市場に買い物しに行ったりしている。お使いクエストで「お金は渡すので、これとこれとこれを買ってきてください。私は野菜を買ってきます」と言ってくるだけあるぜ。……あれ、そういえば。
「俺と山の神の戦い、見てなかったんですね」
「うん。何でもかんでも見てるわけじゃない。ぷらいべーとも全部見てたらただの覗き魔」
「ダンジョン攻略と百鬼夜行は見てるんです?」
「見てるのは迷宮の主との戦いだけ。……ごめん、嘘。素材まらそんもたまに見てる」
あ、見てる時と見てない時があるんですね。というか素材マラソン見てるのかよ神様達。藻掻き苦しむ様を見て喜悦に浸ってるのか? いいのか? バッドエンドルート進むぞ? 進まないけど進むぞ? どうにかして素敵なご友人がやっていたメイケイオスビルド組んで焼き溶かすぞ?
「そろそろ日が落ちる時間。修行はまた後にして今日は帰ることをおすすめする」
「あー……まぁ、確かに」
とんでもなく頑丈なタブレットに入れている連絡用アプリに、実家の両親達からの連絡が入っている。友達連れていくって言ったからなのか、はよ連れてこいっていう旨のチャットが。
「仕方ない。帰るかぁ」
「賢明な判断」
「あ、お土産にクイニーアマン持ってきます?」
「もらう」
真面目な妹に自慢しよう、と小さく笑う天照大御神様。妹……ということは月読様か? でもこの世界、性別が色々ごっちゃごちゃになっていたりするからな……
「ああそうだ。禍津日が説明と観戦くらいはさせてるだろうけど、ちょっとだけ怒られることは覚悟するように」
「あー……まぁ、はい」
「まぁ、ほんとにほんの少し小言を言われるだけだと思うから、そこまで身構えなくてもいい」
縁のないやつが山の中に行っても遭難するだけだっただろうし、禍津日様もそこら辺含めて色々説明してくださっているだろうから、行くにしても一言欲しかった的なことを言われる程度だろう。……その程度だよな? まぁ、俺に何言っても無駄なことは三人共理解しているだろうし、師匠は「そんな戦いがあったのなら連れていかんか」とだけ言ってくるくらいだろう、きっと。
「じゃあ、またね。次はあんぱんとカレーパンを用意しておくように」
「うす」
「よろしい」
そんなに食べたいなら実家に寄ればいいのに。天照大御神様のことだから、路銀くらい持って日本中を歩き回っているだろうに。お供え物というものがいいのだろうか? 神様の感性はよく分からねぇや。
* * *
俺の実家────模歩家兼『パン・菓子工房模歩屋』は、禍津日様のダンジョンへの入口がある場所から少し離れた、山の麓の商店街の外れにある。外見はちょっと大きな喫茶店と民家が合体したような感じ。なんでそんな見た目なのかって? それはこの家兼店を作ったひい爺ちゃんとひい婆ちゃんに聞いてくれ。もう亡くなっているけど。
さて、そんな家では現在、小さな宴会が開かれていた。
「まさかうちの息子がこんなに可愛い子とイケメンを連れて帰ってくるなんてねぇ。で、誰が彼女? 彼氏でもいいわよ」
「人生何があるか分からないものだよ。で、どっちが彼女なんだい、巡。男の子同士でも別にいいけど」
「ははは、こやつらめ。三人に失礼なので謝ってどうぞ」
酔っ払ってんのかってレベルの絡みをしてくる男女。この二人が俺の両親である模歩有海と模歩
「照れて────いやうん、ごめん。これ以上は止めるわ」
「そうだね。だからその鉄板を仕舞ってくれるかな」
「次に瑞騎先輩とローズ先輩と大耀さんに失礼なこと言ったらシベリアン行くからな」
両親だろうが容赦なくODシベリアンやるからな。それか師匠のところに行って滝に放り込む。
「個性的な人たちだね」
「変な人って言っていいんだぞ大耀さん」
「君には負けるでしょ」
「そうね、巡君には負けるわ」
「メグちゃん並みにおかしい人達は中々いないと思うけれどね」
お? 何だ? 喧嘩か? 喧嘩売ってるなら買うぞ? 具体的には格ゲーで。気狂いに喧嘩を売ると低価買取されることを忘れたか? 何でもありの誉れファイトはしないが、売られた喧嘩は必ず買い取るのが気狂いスタイル。虎成さん? あの人はもう少し落ち着いてもろて……
「ははは、愉快な子達と友達になれたみたいで私は嬉しいよ」
「本当にね。小さい頃からずっと店の手伝いか藤原先生のところにいるかで、友達を連れてくるなんてことなかったし」
そんなにストイックにやっていたつもりはなかったが、実際、小学生の頃は友達を作ったことはなかったな。こう……戦士になって色々楽しむための準備はしっかりしたかったというか……事実、小学校では同級生含めて避けられてたしな。ハブられていたとも言う。
まぁ、遊びに誘っても毎回断られることが目に見えてるようなやつに声をかけてくる奇特な人間は中々いない。前世のご友人はそういう奇特なやつだったけど。
「ところで三人共、巡は学園に馴染んでる?」
「馴染んでるよ」
「巡には聞いてない」
知ってる。
「うーん……馴染んでいる、と言えば、馴染んでいると思います、けど」
「少なくとも、明日夢さんみたいに避けられている、ということはありませんね」
そうね。避けられてはいないよ、避けられては。でも百鬼夜行の時に同じ区域にいた学生たちが記憶を消す霊薬を使うのはオニイサンユルサナイヨ。せっかく俺が誉れ高い戦いをしているというのに、失礼じゃあないか。SAN値は削って生きるのが社会の常識というものだろうに。そんな霊薬に頼るくらいなら、ハイになるまでバフ系霊薬を盛った方が建設的だと俺は思いますがいかがか。
「そっか。ほら、学園の生徒達って結構お金持ちとか、神様? 神獣? 守護獣? とかの加護ってのを持ってる人達ばっかりって言うし、ちょっと心配だったんだよね」
「身内の恥を晒すようで申し訳ないのですが、加護を特別視している人間がいるのも間違いではないですね」
「全員がそうってわけじゃないんだろう? 君達はそんな感じがしないし……そんな人なら、巡は早々に縁を切ってるだろうからね。というか関わりもしなかったんじゃないかな?」
結構、人を見て判断するのが得意なんだよ息子は、とチューハイを口にしながら笑う父さん。そんなに俺、ドライな人間に見えてるか? ある程度はちゃんと接するぞ? 声かけられたら反応するくらいはするし、あいさつされたら会釈くらいはする。そんでもってなんかマウントされたら「へー、凄いっすねぇ」程度の反応はする。決闘? お祈りメールだがそれがどうした。
「まぁ何にせよ、巡が元気にしてるんだったらよかった。……っと、そうだ巡」
「うん?」
「うち、風呂壊れたから銭湯行っといで」
「うっそだろお前」
「事実だよ。ほら、金やるから行っておいで」
うーむ……まぁ、銭湯(温泉)だしな、ここの銭湯。やりはしないが泳いでもいいくらいには広いのだ。なんでもこの町ができるよりもずっと昔、山には神様がいらっしゃると言って山を信仰していた人達が掘り当てた温泉が今でも湧き上がっているそうで、なんか凄くたくさんの効能がある温泉だそうだ。肌が綺麗になるとか、傷が治りやすくなるとか、そういう感じの効能。ちなみに色は白。めっちゃ白濁してるアルカリ性の温泉である。