恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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前話の補足みたいなもんなので短いです。


誰だこうなるまで放っておいたやつ

 我らが気狂い、模歩巡が危機的状況から離脱して風呂上がりのアイスを楽しんでいる頃。白濁とした温泉に入る前からいくつも温泉を巡ってきたからなのか、顔が赤い少女達は口元まで湯船に浸かってぶくぶくと泡を生成していた。

 

「…………まさかあんなこと考えてるなんて」

 

「ま、まぁ、模歩君もちゃんと男の子だったんだなぁって思うというか……」

 

 残念ながら危機的状況から離脱することができたと思い込んでいる巡は気付いていないが、『茶菓子同好会』の紅二点である明日夢と翡翠は彼とゲリュオンの猥談を聞いていた。悲しいかな、本人は聞かれていないと思っている。哀れ模歩巡。仲の良い女の子二人が聞いていると分かっていれば猥談なんてしなかったというのに。

 

 救いがあるとすれば、猥談を聞いていた少女二人が羞恥心を覚えつつも不快感を感じていないことだろうか。聞いていたことがバレたら気狂いは、そっと自害用の劇薬を用意して飲み込んで死ぬだろう。それだけ少女二人に対して劣情を抱くことを良くないものとしている巡。妄想(フィクション)だからまだ良しとしているが、現実でそんなことを考えるかと言えばそうではないのが不思議なところ。推しが幸せであることが第一であり、不快感を抱かせるのはNGという思考なあたり、推し活をしている人間の鑑であると言えるだろう。

 

「まぁ、でも先輩、脈ありますよあれ。押せばコロッと行けますって」

 

「それ、あなたにも言えることなの理解してる?」

 

「うーん……私は模歩君のこと恋愛的な方で好きなわけじゃないですから……」

 

 多分、とは口にしなかった明日夢。だって、分からないのだ。模歩巡という少年に自分が向けている好意が恋愛的なものではないとは確信できなくもない。そもそも、生まれてからずっと、恋愛的な面で人を好きになったことがない明日夢にとって、コイバナは好きでも恋愛とは何ぞやというのが本音である。校舎裏に呼び出されて告白されたこともあったが、全く知らない人に好意を向けられても怖いとしか感じなかった。なのにコイバナは好きな辺り、恋に恋するお年頃というやつなのだろうか。

 

 だからこの先、自分が人を恋愛的な感情で好きになることはあるのだろうか……そんなことも考えてしまう。考えてしまうからこそ、明日夢は翡翠が羨ましいと感じることもある。人を好きになるということは、悪いことではない。むしろ素敵なことのはずだから。

 

 そんな先輩である翡翠が長年片想いしている少年、我らが気狂い巡について明日夢は考えを巡らせてみる。自分と同じ一般家庭出身の戦士ではあるが、自分と違って加護を持っているわけではない。けれど、技も力も、間違いなく自分よりも上にいる人だ。色んなアイテムを融通してくれたり、施設の使い方や申請の出し方なども教えてくれたし、霊薬限定ではあるものの、アイテム合成のための釜を使わずともアイテムを作れる方法を教えてくれたりもする。戦いについては自分が無理をしていないか逐一確認してくれたり、メンタルがマイナス方向に行かないようにするためか、ギャーギャー騒ぎながら探索に付き合ってくれる。この騒がしさが明日夢にとっては結構嬉しいもので、鬱屈としたダンジョンで気持ちが後ろ向きになりにくい。

 

 プライベートでもたまに遊びに行ったりはするが、基本的には『茶菓子同好会』のメンバーか、少し前から交流するようになった千茶万莱という優男風イケメンや、パリピな感じの後輩と合流する。全員いい人である。だが、学園に来てから最も交流があるのは巡であると言っていいだろう。こちらからコンタクトを試みずとも、向こうからやってくるのだ。凄い人達ばかりの学園で、同じ一般家庭出身の人が何の下心もなく気にかけて声をかけてくれる────それにどれだけ救われることか。

 

 昔から王子様系と言われていた明日夢ではあるが、正直初対面の人に声をかけるのは結構勇気がいるし、交流がある人に声をかけるのだって少々勇気が必要な行為である。善人、王子様系、若干のコミュ障は共存する。どちらかと言えば陰キャに近い性質を持っている明日夢が今の性格になったのは、こういった生来の気質が関係しているのかもしれない。

 

 それはそれとして。尊敬する先輩が片想いし続けている少年がさっき話していた性癖。性癖(じゅつしき)の開示は聞いたが、肝心の彼がどんな恋愛観を持っているのかを知らないとふと思う。

 

「そういえば模歩君ってどんな恋愛観してるんだろう?」

 

「……そういえば、そうね。聞いたことないかも」

 

 男子高校生なら女子と恋人同士になってみたいと考えるのは当然の欲求と言えるし、妄想や猥談の類とはいえ、目麗しい少女二人の魅力について真面目な顔で語っていたところを目撃している。性欲はあるし、ちゃんと男の子らしいところもあるのは理解したが────そもそも、巡の恋愛観を知らない。趣味やカラオケで必ず歌う曲は知っているし、禍津日の迷宮にて死生観も聞いたことがあったので知っている。だが、恋愛観だけは知らなかった。仮に翡翠が巡と恋仲になれたとしても、恋愛観が噛み合わなければ破局する可能性がある。二人がうんうん唸っていると、翡翠と共に温泉に浸かっていた麒麟が口を開いた。

 

『二次元になってしまうけれど、ルフレ? とクライヴ? だったかしら。あと、ネロ?』

 

「『え゛ッ』」

 

「?」

 

 とんでもない恋愛観を持ってやがったあの気狂い。両親が漫画やアニメ、ゲームなどを好んでいるため、サブカルチャーに触れる機会が多かった明日夢や、それを記憶として見たことがある宇迦はそう思ってしまった。冗談で言っていることであってくれと思う程、恋愛観としてその男達を理想と設定してしまうと恐ろしい。

 

 ルートによっては愛する人が安心して生きていけるようにラスボスを道づれにしてしまう主人公と、愛する人────正確には人のためではあるが────のためなら文字通り命を放り投げてでも世界の理を破壊してしまう男。そして恋人のためなら神の如き力を持った悪魔だろうがぶっ殺してしまう男を理想にしてはならない。いや、本当に。置いていかれる人間のことなんて考えていない────否、考えた末でその選択をできてしまう人間を理想形にしたら絶対にろくなことにならない。

 

 そんな文字通り運命を変えてしまう男達を理想にしてしまうようになるまで放っておいたやつは誰だと叫びたい。ゲームのキャラクターとはいえ、その男達を理想とした恋愛観など確実に拗らせている。今からでも遅くないから誰かが矯正してやらねばなるまい。

 

「瑞騎先輩────いえ、翡翠先輩」

 

「な、何? 明日夢さん、目がちょっと怖いんだけど……」

 

「もう模歩君がこれ以上拗らせる前にアタックしてください。いや本当に。もう既成事実でもなんでもいいです」

 

「きっ……!? いきなり何を言い出すのあなたは!?」

 

「既成事実じゃなくても、もう水着とか浴衣とか色んなもの使って悩殺しましょ。いやもう本当に」

 

『そんなに良くないの? その三人』

 

『ううん……間違いなくいい男、と言うべき三人ではありますが……』

 

 女二人で姦しくしている横で、宇迦と麒麟が巡が挙げた男達について話をする。宇迦が触りだけ説明すると、麒麟は思わずと言ったように天を見上げてとても深い溜め息を零した。誰だそんな男達を理想とするまで放っておいたやつは。

 

『誰よそんな男達を理想とするようになるまで放っておいたのは』

 

『もうこれ以上拗らせたら一生独身宣言みたいなものですよ、彼』

 

 それだけ身内への愛情が強く義理堅いという証拠でもあるのだが、これ以上拗らせてしまえば親愛と恋愛を同じものであると勘違いしてしまう悲しきモンスターが生まれてしまう。そしてそんな状態で女の子に接し続けた末に勘違いさせて、いつか刺されてしまう未来が見える。というかその可能性がもう見え隠れしている。友人への贈り物として指輪を選んだり、推し活と称して腕輪を贈ったりしている時点でもうお察しである。

 

 しかも現状、「あ? 俺があんな美少女に恋愛的な面で好かれてるわけねえだろ目ん玉腐ってんのか。花粉症か?」という状態。誰だここまで拗らせた男を放っておいたやつ。

 

 翡翠の恋心を知っている側としては、このままでは翡翠が涙の海に沈んでしまう。もう徹底的に好意を持たれていると自覚させるべきである。前途多難どころか出航前轟沈になる前に拗らせている恋愛観をどうにかしなくてはならない。何度でも繰り返そう。誰だここまで拗らせた男を放っておいたやつは。

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