恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
海水浴場として利用はされているが、比較的冷たいということで有名な海水浴場とは違ってあまり人がいない────恐らくまだ多くの観光客がホテルにいる時間帯だからだ────海水浴場にて、俺はパラソルを設置して海を眺めていた。
晴れ渡る青空に白い雲と白い砂浜、前世よりも綺麗な気がしないでもない青い海。潮の香りを運んでくる海風を浴びつつ、ぼんやりと海を眺めているこの瞬間、とても贅沢な時間に思える。日焼け止めも塗ったし、状態異常耐性のお蔭で日焼けに苦しむこともなく海を楽しめるというのは中々いいものだ。
「黄昏時には程遠いのに、黄昏てるわね」
「ぼんやりしてるんですよ」
「それを黄昏てるって言うんじゃないのかしら」
真っ黒なサングラスをかけて海を眺めていた俺を覗き込むようにしつつ声をかけてきた少女は、そのまま俺の隣にあった椅子に腰かける。
「結局水着、着たのね」
「季節感云々とローズ先輩に言われまして」
「そ。そのローズは?」
「海の家に買い物しに行きましたよ」
濡れてもいいように撥水加工という名の水属性耐性が施されているパーカーと、肌触りのいい質感の水着という何とも海らしい姿の俺。ちなみにパリピイケメンボーイズが俺の武器のついでに作ったものである。ついでに作っていったものはこの水着だけではないのだが、それはこの場では割愛。スポーツドリンク×精神安定化霊薬という体にいいのか悪いのか分からない飲み物を口にしつつ、横に座った少女────瑞騎先輩をチラッと見る。……うん、水着だ。薄いカーディガンを着ている下はビキニタイプの黒い水着だ。霊薬飲んでよかった。ところでその紐なんですか絶対水着と関係ない紐な気がしないでもないんですけど。
ちなみに大耀さんと虎成さんは少し離れたところでキャイキャイ騒ぎながら水遊び中。水着? どっちもビキニタイプの水着で目に毒だよ。申し訳程度のパレオが逆に心臓を潰しに来る。そんな彼女らの手にはゴツイ水鉄砲。討魔2でネタ武器と見せかけてのガチ武器にあったなぁ、水鉄砲。純水属性の武器のはずなのに、威力が技量参照の化け物火力武器。何がヤバいって、一発一発はそこまでだが、シャボン玉のように放たれるせいで多段ヒットするのだ。武器の名前は『水徹泡』。
「水着着てるのに、泳がないの?」
「知ってますか、先輩。この海域、百鬼夜行で討ち漏らした怪魔喰って育ったやべぇタコがいるんですよ」
「なんでそんなのを放置してるの?」
この辺のことを知らない都会の人達ならば当然の疑問だろうことを、クーラーボックスに入っていたスポーツドリンクを片手に瑞騎先輩が問う。あの、動き一つ一つに色気があるの止めません? 何? 俺のこと殺そうとしてる?
「俺の兄弟子ですし」
「そう、兄弟子なのね。…………兄弟子?」
「はい」
「誰が?」
「タコが」
いや、あれはタコなのだろうか……? 実はタコの姿をしただけの怪魔だったりしないだろうか? よく分からないけど意思疎通できるし、なんか刹那無心流の槍術使えるし。タコは賢いと言うが、あれはもう賢いの領域から宇宙の彼方まで飛び出してないか? 怪魔だとしたら、海の中にもダンジョンがあるってことになるんだが…………実際、海上戦というか、船上戦が討魔3にあったから油断ならねぇ……海にあるなら空にもあるよね理論でダンジョンが隠されていたら俺はもうどうしたらいい。
「兄弟子なら面倒事にならないんじゃないの?」
「数年ぶりに会うわけですし、始まるのは『水中の刹那無心流交流戦』ですよ」
物理法則を完全無視したノックアップストリーム突進突き、タコ墨からのガンガゼ投擲、カサゴ投擲、エイの尻尾投擲などなど、悪辣極まりない攻撃をしまくる兄弟子である。近付いたら近付いたで8本の足を駆使した攻撃を繰り出され、地上に引きずり出したとしても普通に強いの何なんだろう。あと、どうして師匠はタコに刹那無心流を修めさせたんだろう。
あ、ちなみにイケメンです。人外だけど絶対モテるだろうなって感じのイケメン具合のタコだ。タコにイケメンの概念があるのかはさておき、俺の兄弟子はイケメンである。クソッ! 俺の周りがイケメンか美少女しかいねぇの何だバグだろ! 眼福だけど。
「ちょっと興味で聞くのだけれど、刹那無心流の門下生ってあなたとそのタコ? 以外にいるの?」
「いますよ、と言いたいところですが……残念ながらいないんですよねぇ。俺とタコの兄弟子以外」
師匠くらい凄い人なんだから、もっと弟子がいてもおかしくないんだけどいないんだよな。弟子を取らない主義ってわけでもないだろうし、120歳なんだから俺より年上の兄弟子とか姉弟子とかいてもおかしくないはずなんだけどなあ。まぁ、師匠の修行って凄くキツいし、耐えることが出来なくて離脱した人が多かったりするのかもしれない。生傷が絶えない流派だしなぁ、うちの流派。基本的に師匠が直々に鍛えてくれるから死ぬほどボコボコにされるのだ。あとは滝行とかきついのなんの。なんだあの滝。年がら年中冬の井戸水並みに冷たいし、流れがあんまり見えないから勢い無いのかなと思ったら滅茶苦茶あるし。ただ、あそこで滝行やると雑念が全部晴れてスッキリするんだよな。城攻めする前に行っとくか、師匠の屋敷の近くの滝。
「まぁ、そんな兄弟子にエンカウントする可能性があるなら入らず眺めますよ」
「そう。……そういえば、琥珀との決闘で使ってた鉈だけど」
「ああ、喰い裂き丸ですか?」
「そんな名前なのね」
「はい。なお刀ではなく鉈カテゴリです」
峰の部分で打撃、刃の部分で斬撃、剣先の部分で刺突という近接属性詰め込みハッピーセットのような鉈、喰い裂き丸。命名はパリピイケメンボーイズの一人、テツ。案としては『切り裂き鉈』、『肉断ち丸』、『蛇骨丸』と挙げられたが、折衷案で喰い裂き丸となった。
「重厚な鉈と炎刃の鉈、フックショットを合成して生まれたのがあれです」
「ああ、変形した瞬間のあのワイヤーみたいなものはフックショットなのね」
「ちなみに一部分だけを伸ばして釣り針みたいにして引き寄せもできます」
ついでに火縄銃とフックショットを改造してもらい、銛銃みたいなものにしてもらった。お陰様で火縄銃が某果物戦国ライダーのカチドキな感じの銃っぽくなってしまったが誤差だよ誤差。もちろんフックショット単品もあるので立体的な動きに事欠かないぜ。
「戦い方が技巧派になっていくわね」
「何だかんだ、小手先の小賢しさが俺の強みなもんで」
「地力もちゃんとあるじゃない」
「それ以上に小賢しい戦いの方が勝率が高いのが俺です」
死に戻りする回数もそっちの方が少ないし。大耀さんとばかりダンジョンに行っているわけではなく、ソロでダンジョンを潜ったりしている方が多いのもあって、アンブッシュとか小賢しいと言われるような戦法を取ることが多い。もちろんボス級とか、俺よりも格上の連中相手なら真正面から戦うが、その際も状態異常祭にしたり、確実に殺すための準備をして殺す。なぜ正々堂々戦う必要があるのか。戦いに卑怯もクソもあるかよ。
そう思うと、醜怪餓鬼の人魔一戴は俺と相性がいいんだな。加護版の人魔一戴で醜怪餓鬼の力を使うと霧を発生させて、敵対しているやつらの認識をズラすことでステルスできるようになるのだ。格上相手や、視覚情報で物事を認識していないやつらには通用しないものではあるが、あれはいいものだ。呪い版で使える『呪装』も中々使いやすくていい。だが出血属性はどこに行った。
「ま、勝てるなら文句は言わないけれど。……ところで巡君」
「はい」
「どう?」
「……どう、とは」
「とぼける必要ないわよ」
赦されなかったよバーニィ。
「とても似合っていると思います」
「そ。具体的には?」
禍津日様助けてください、瑞騎先輩が俺を殺しに来ています。
『役得じゃねぇか。ほれ、答えてやれよヒヒヒヒッ』
「クソ味方がいねぇ!!」
てかそのワインとチーズはどこから持ってきやがった貴様。神様はいつもそうだが、どこから持ってきたのか分からない食べ物やお酒を持っている。ニタニタと笑って俺を見ているが、貴様愉悦神か? 愉悦神だろうなあ……
「それで? 言わないなら明日夢さんと琥珀連れて囲むわよ」
「………………………………引かないでくださいよ」
「引かないわ」
「…………死ぬほど目に毒で綺麗だと思います」
もう、本当に。マジで目に毒。霊薬飲んでなかったら心臓止まって死んでたレベルで。真っ白な肌と黒い水着のコントラストが俺を殺しに来ていると言っても過言ではない。グッズで買ったタペストリーの水着イラストよりも刺激的すぎる……麗良と遥斗がいたら昇天してんぞ。助けてご友人、俺この人好きになってしまう。
「具体性無いわね」
「具体性を上げたら俺が死にますのでご勘弁を」
「ふぅん………………ま、今回はこのくらいで許してあげるわ」
許されたよバーニィ。俺の命が繋がったよご友人……!
「じゃ、泳ぎに行きましょ」
「え、兄弟子にエンカウントする気がするのでパス────力つよ!? いや違う柔術か合気!」
「瑞騎家って弓もだけどこういった体術系の技が多いのよね」
わぁ、俺より非力なはずの瑞騎先輩に引きずられていくやー……じゃねぇ! まずい、いい匂いがする! 肌めっちゃ綺麗! すべすべ! あとひんやりしてる! 俺の心臓が死ぬ!!
「あら、スイちゃんとメグちゃん、これから泳ぎに行くの?」
救世主現る。
「ええ。あ、ローズ、浮き輪くれる?」
「ええ、もちろん♡いってらっしゃい」
悲報、救世主は俺をお救いにならない。助けてくださいローズ先輩、俺はもう耐えられないかもしれません。もう兄弟子にエンカウントした方がマシな気がしないでもない。
「メグちゃん」
「はい」
「スイちゃんは泳げないから、ちゃあんとエスコートしてあげてね?」
「人命にかかわる情報ぶん投げてくるのやめてくれません?」
ええい、もうこうなれば自棄よ。というか瑞騎先輩泳げないんだ……泳げないならまずはアトラクションプールの方がよかったかしら……
兄弟子
「弟弟子がいるな……ん? 雌の気配がする。…………色を知るか年齢か!」
「ならば手合わせはまた今度。俺は空気が読める兄弟子」