恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
討魔の序盤ってどういうストーリーだったかなぁ、と思い出しつつ、『亜人の洞穴』を突き進む。
洞穴というだけあって暗いが、持ってきたランタンだけで光源を十分に確保できるレベルであるこの洞穴にて現れるのは、犬とカラスを足して2で割らずに2で掛けてぶちまけたようなデザインの怪魔。名前は確か
「にしてもアコレード強いなぁ」
空刃の威力が初期スキルのくせに高いっていうのもあるのだろうが、アコレード使用後に空刃を放つだけで屍犬が蹴散らされていく。強化された空刃の威力は一体に直撃しただけでは止まらず、もう一体を切り裂いて怯ませる。そこを俺が後詰めするだけのお仕事がここ十分程度は続いている。
…………ああ、思い出したぞ。序盤は一般家庭出身の主人公が神様の加護とか、素質とかに目覚めて、否応なしに戦場に放り込まれてソロプレイが強制されて、助けを求めても誰からも相手にされずに突き放されて、主人公の精神が日に日に擦り切れていくような描写が入っていた。なお、会話ができるNPCで唯一、瑞騎先輩は最初からちゃんと相談に乗ってくれたりするので聖人。回復アイテムくれたりするし。人の心がないプレイヤー達であっても「瑞騎先輩だけは殺せない」と言うプレイヤーが多かった。聖人キャラが少なすぎて泣けてくる。
ちなみにゲームのストーリー上そうなっているというだけで、難易度緩和のためのオンラインマルチが実装されているので、疎外感よりも協力してくれたプレイヤーを見て「なんだその装備!?」となることが多いのでプレイヤーのメンタルはそこまですり減らない。
周回を重ねるごとにストーリーがスキップされることがままあるが、俺はスキップせずに何度もムービーを見て色々噛み締める派だった。その度に「もう一回血の終業式やってやろうかな?」と思ったことがあったりしたのもいい思い出である。
まぁ、それはそれとして。大耀さんの方向から、空刃以外にも遠距離攻撃が飛んでくるようになった。威力はそこまでではないものの、速度に優れたそのスキルは、空刃と同じ無属性のスキル『
「ふッ!!」
「ギャッ!?」
考え事をしつつも迫ってくる屍犬の膝を粉砕して、大耀さんの射線に蹴り飛ばすと彼女が放った魔法の矢────矢というよりも極太の針? が屍犬の頭に突き刺さる。まだまだ誤射はあるものの、耐性スキルを獲得したこともあって俺はカスダメだし、精度も結構高まってきた。
……まぁ、『幻影の再演』が獲得できたらインファイトキャラに転向する可能性が高いので、ノーコンでも構わない。どんだけクソエイムであってもゼロ距離なら関係ないのだ。というか空刃や空針は放つ時に武器を振ったり突いたりする特性上、近距離戦で使った方が強い。慣れるまでは中距離で撃った方がいいけど。
「────っし、そろそろ休憩しておこう。丁度簡易キャンプあるし」
「あ、本当だ。ありがたいね」
怪魔除けの炎が燃えるキャンプは、国が管理している場所であれば入口前とダンジョン内にそれぞれ一つずつ設置されている。国が管理していない────つまるところ、本編で探索していると発見できる未確認ダンジョンやDLCで追加されるダンジョンなどにはキャンプが存在しない。そういった場所で死に戻りすると、ダンジョンの出口にリスポーンする。良心的だ。
ちなみにダンジョンには荒神様が管理しているものもある。というか荒神様を封印するために作られたダンジョン。俺はそれらに用事があるので、そのうちお土産片手に赴くつもりだ。
「で、どうよ。幻影の再演取れそうなくらいアムリタ貯まったか?」
「もうちょっとかな。というか幻影の再演以外にも目移りしたくなるようなスキルが結構あるんだよね」
「例えば?」
「『血の
「そこで清楚なスキルに目移りしないの誉れ高い」
正々堂々を謳うやつらからは卑怯卑劣と罵られるようなスキル獲得に目移りするの誇らしくないの? でも血の呪刃とはお目が高い。
「詳細は分からないけど、模歩君は持ってるんだよね? どんな感じなの?」
「攻撃に出血を強いる呪いをエンチャントしつつ、自分の血を武器に纏わせてリーチを伸ばす感じ。使用する時に武器で自傷必須だけど誉れ高い卑劣なスキル」
「誉れ高いの? 卑劣なの?」
「どっちも」
「どっちもなんだ」
使ったらしばらくの間リーチが伸びるし、相手には出血を強いる。しかも自傷は手のひら軽く切って血を滲ませるだけでOK。その後回復して傷口を塞いでも効果は持続するし、傷口を塞がずに戦うことでさらにリーチを伸ばしたり、出血を強いる呪いを強めることも可能。なお、呪いを強める場合、相応の血を失うことになるので、傷口を塞いだ方が継戦能力が上がる。
「ただ、血が出るタイプの怪魔以外にはあんまり強くないのが難点だな」
「まあそうだよね」
「ただ、血が出るタイプの怪魔であれば大体刺さる。殴り続けてたら、相手が勝手に失血死することもあったりなかったり」
「どうしよう、凄く魅力的だ!」
この説明を魅力的と捉える辺り、この主人公ちゃん強い。間違いなく誉れ高い。俺以外の『討魔』プレイヤーがここにいたら褒め称えるくらいには誉れに満ち溢れている。
「どっちも同じ闇属性スキルだ。さあ、どっちを取る?」
「うーん………………とりあえず幻影の再演から取ろうかな。最初の目的はブレない方向で!」
それもまたよし。この感じなら、亜人の洞穴のボスを倒せば幻影の再演を獲得できるくらいのアムリタを獲得できるだろう。大耀さんには是非ともステータスも上げていってほしいが、それを決めるのは俺ではなく彼女本人だ。あれこれ指示するなんてゲームの醍醐味を潰すようなものだ。現実だけど。何でもかんでも俺が指示していたんじゃ絶対大耀さんが強くなることはないだろう。主人公補正があったとしても、やはり自主性がないと。
「じゃ、もう少し休憩したらボス部屋に突撃しますか」
「分かった。頑張って勝とう!」
やるからには勝つのが大正義よな。
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亜人の洞穴、その最奥の開けた場所にて粗雑な大斧を両手で握りしめて唸る怪魔がいる。そんな怪魔の前に、二人の戦士が得物を構えて現れた。
「さてさて……あそこにいるのが亜人の洞穴のボス、亜人の狂戦士だ」
「見るからに狂暴ですって感じだね」
病に侵されたように血走った瞳、唾液が零れるのを気にする素振りもなく、牙を剥き出しにして唸り声を上げる獣のように大きな口。手入れなどしていないのが一目で分かる全身を包む白と黒の毛や、申し訳程度に装着している胸鎧────どこを取っても狂暴性が剥き出しの『亜人の狂戦士』。
取り巻きはいない。しいて言えば屍犬が取り巻きだったのだろうが、ウロチョロしているのが気に入らなかったのか今さっき大斧で殺してしまったようだ。バーサーカーが過ぎる。
「じゃあ、キャンプでも話したけど……基本的に俺は手を出さない。出すとしても軽い援護くらいだな」
「うん。私の我が儘を聞いてくれてありがとう、模歩君」
「この程度の我が儘なら可愛いもんだろ。なんかあった時のリカバリーは俺がやる。ビビらず行ってこい!」
「行ってきます!!」
気合十分、と言った様子で飛び出した明日夢。両手に握りしめるのは、戦士になった時、初めて手に取ったロングソード。その刃には彼女に加護を与えた神、
しかし、最も弱いとされるダンジョンである『亜人の洞穴』ではあるものの、その主である亜人の狂戦士がその一撃をまともに喰らうはずもなく。大斧の柄を使った防御によって初撃が防がれてしまった。
(まぁ、目眩ましもしてないし、喰らうわけないよね。やっぱり模歩君にお願いしてでも目は潰した方が良かったかな?)
亜人の狂戦士が放つ大振りの一撃から逃れるように大きく後退しつつ、外道戦法と言われそうなことを採用した方が良かったかと思案する明日夢。ソロでゾンビアタックを敢行してダンジョンを攻略しようとしたり、幻影の再演や血の呪刃と言ったあまり硬派とは言えないスキルに心惹かれる辺り、彼女の誉れ高さが窺える。そんな少女に加護を与え、共に来ている宇迦之御魂はというと────
『油断してはいけませんよ、明日夢。相手の嫌がることを全力でやるのが戦いの基本です。今は余裕がないかもしれませんが』
「うん」
普通に(現代の人間社会においての)外道戦法肯定派の神様であった。勝てば官軍負ければ賊軍、カッコつけは勝ってから。慢心は絶対にしてはならない、という考え方だし、明日夢の勝利が最優先事項というスタンスの女神だった。この女神、本当に豊穣の女神なのだろうか。
ロングソードを下段で構えつつ、亜人の狂戦士の動きを観察するように立ち回る明日夢の心の中にあるのは、ちょっとだけの苛立ち。自分が望んだことではないのに、周囲の人間から突き放されたり、避けられたりされたことへの苛立ちだ。大耀明日夢は特別な力を持っていたとしても、特別な女の子ではない。神様から加護を貰った、ちょっと王道な戦いよりも邪道と言われそうな戦い方の方に魅力を感じるだけの、普通の女の子なのだ。苛立ちやモヤモヤとしたものを抱えるのは何らおかしくない。
だが、それ以上に明日夢の心の中を満たしていたのは感謝だった。右も左も分からない時に相談に乗ってくれた瑞騎翡翠や、自分の我が儘を了承してくれた巡、そして自分に力を貸してくれている宇迦之御魂への感謝が、明日夢の心の中を満たしている。新天地で苛立ちやモヤモヤといった負の感情よりも感謝などの正の感情で心を満たせる辺り、大耀明日夢は根っからの善人である。だからこそ闇堕ちした時の反動がヤバすぎるのだが。
闇堕ち云々はさておいて。根っからの善人であるからこそ、明日夢は戦士として戦うことを選択した。両親や祖父母を含め、戦えない人の代わりに戦い、自分で自分を肯定できるように。根本は自己肯定。自分の理想を押し通すために手を尽くす────そんな善性の持ち主である彼女だからこそ宇迦之御魂は力を貸したのだろう。これから出会う多くの神が、神獣が、彼女に力を貸すのだろう。
「あああああああぁあああああッ!!」
「ガルルウルルァアアアアッッ!!」
宇迦之御魂の力を纏う明日夢の剣と、亜人の狂戦士の持つ粗雑なしかし狂暴な大斧が激突する。力は亜人の狂戦士の方が上である。しかし、明日夢の諦めることを知らないド根性と気合いと付け焼刃の技術と宇迦之御魂の加護が、亜人の狂戦士と鍔迫り合いを行えるまでに明日夢の力を引き上げていた。
ぶつかる。
弾ける。
ぶつかる。
弾ける。
またぶつかる。
また弾ける。
少し前まで戦いなんて知らない、普通の女の子だったとは思えない明日夢の戦いぶりを見て、後方でいつでもリカバリーができるように待機している巡は驚きと呆れがありつつも、死んでも死なない? それなら死ぬまで殺せばいいじゃないの精神を宿す戦士の姿を見て笑っていた。宇迦之御魂も自分の選んだ勇士の勇ましい戦いぶりを見ることができて笑みが零れている。本当に豊穣の女神なのだろうか。
そんな激戦を繰り広げること数分。明日夢の体が限界を迎えたのか、剣を握る力が緩んだ。精神はまだまだ戦えると訴えているが、レベルがそこまで高いわけではない彼女のスタミナが先に尽きたのだ。
「ガルウウウラアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
「ッ────!!」
勝利を確信した亜人の狂戦士が勝利の咆哮にも聞こえる咆哮を上げ、大斧を振り上げる。確実に脳天を叩き切るための動き────限界を迎える一歩手前の明日夢の体は咄嗟に回避を選択することができない。ここで殺されたとしても稼いだアムリタを全てロストして最後に休んだキャンプにリスポーンするだけだが……そんな緩い思考を今の明日夢がするわけがなかった。
「まだだ────まだ、終わってないッ!!」
「ガァアッ!!?」
限界を迎えたと思っていた明日夢が取った選択に、亜人の狂戦士は驚愕の声を上げる。そのまま転んでしまうのではないかと思う程低い姿勢で、亜人の狂戦士の懐に潜り込んだのである! その動きに対応できなかった亜人の狂戦士は一瞬、本当に一瞬だけ動きを止めた。止めてしまった。その僅か数秒の隙に、明日夢はロングソードを握りしめ、スキルを発動させる。
「空ッ刃ッ!!」
「ガァアアアアアアアアアアッッ!!??」
無属性の魔法の刃がロングソードから放たれ、亜人の狂戦士の膝に直撃した!!
「うーん、見事な膝治療。誉れポイント10点」
『相手が嫌がることを行う……戦いとはそういうものです』
どこから取り出したのか分からない点数が書かれた棒を取り出した巡と、それと同じような点数が書かれた棒を取り出した宇迦之御魂。二人の言う通り、見事な部位破壊によって亜人の狂戦士の膝は粉砕された。しかし突撃と激突、鍔迫り合いを繰り返した結果耐久値が限界だったロングソードはスキル使用後にポッキリと折れてしまった。
膝を粉砕されたことにより、悶絶している亜人の狂戦士への攻撃手段は今の明日夢にはない────わけはない。先日購入した打撃武器が、明日夢の腰には吊るされている。
「フンッ!!」
「ガッ!?」
「せいッ!!」
「ギャッ!?」
ゴッ! ゴッ! と鈍い音を響かせて、亜人の狂戦士の頭蓋を粉砕するべく力の限り棍棒を振り下ろす明日夢。この光景が猟奇的に見えているのならまだ真面である。敵を倒すための見事な英雄的殴打に見えているのであれば既にこちら側である。ちなみに巡の目には感動的とすら思える英雄的殴打に見えている。気狂いは手遅れだから気狂いと呼ばれるのだ。
そんな光景がしばらくの間続き、亜人の狂戦士が消滅する。残ったのは膨大なアムリタが結晶となったものと、亜人の狂戦士のドロップアイテム、『亜人の牙』。それを見つめた後、明日夢は仰向けに倒れた。
「か、勝て、たぁ……!!」
「お疲れ。カッコよかったよ」
「はは……そう言われると、頑張った甲斐があったかな……」
「ボスを倒したから、強制転送が始まる。便利なもんだ」
超良心的、と笑う巡に釣られるように明日夢も笑う。ダンジョンのボスを倒したことによる強制転送────もとい強制退去の光に包まれて、二人の姿は見えなくなった。ダンジョンの外に放り出されたのである。
宇迦之御魂の加護を得た少女、大耀明日夢VS『亜人の洞穴』の主、亜人の狂戦士の勝負は、大耀明日夢の大金星となった。
誉れ高い主人公ちゃん、誇らしくないの?ちなみに巡君はもっと誉れ高い。