恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
酒吞童子。かつて頼光四天王が撃退した怪魔であり、鈴鹿という女性に一目惚れして思いっきりフラれたというのに諦めない鬼。大耀さんを鈴鹿という女性と勘違いして女になれとか言ってきたが、思い切りフラれた悲しき怪魔。まぁ、人違いなのに迫ってくるやつを受け入れるような人は中々いないだろう。
「大耀さん、雑魚狩りよろしく」
「それはいいけど……多くない?」
鈴鹿に間違われている大耀さんが指差す先には、たくさんの怪魔。最前線はどうしたって話になってくるが、最前線(最前線じゃなくなった)は最前線で戦いが起こっていると見ていい。ゲームでも援軍が遅れたのが怪魔を倒すのに手間取ったからだったしな。
「行けんだろ。加護全部使えば」
「あれやるの……? あれ疲れるんだけど……」
「やらなきゃ死ぬだけだぞ」
「言っただけ! やってやるさ!」
俺謹製の霊薬を一つ口にした大耀さんが飛び降りて、宇迦様の力が宿っている剣────彼女が使っていたブロードソードに亜人の狂戦士の素材やアムリタ結晶を使って強化した新たな武器、『狂戦士の曲剣』を片手に怪魔の軍勢に突っ込んでいく。
「なんだぁ? 女が突っ込んできたぜ!」
「特攻か? 馬鹿な女もいたもんだぜ!! 酒吞童子の親分には悪いが────!?」
残念ながら馬鹿じゃないのだ、大耀さんは。
「最初から最後まで全力で────駆け抜けるッ!!」
大耀さん────主人公には攻略可能キャラと同じように必殺技が用意されている。この必殺技はゲームの仕様では加護の数によって威力や属性が変動するというものだったが、この世界では違う。
「麒麟ッ!!」
「「「────ギャアアアアアア!!?」」」
雷鳴が轟き、大耀さんの体に紫電が纏わりつく。まさに電光石火と言わんばかりの速度で怪魔の軍勢と正面から激突し、凄まじい速度の斬撃と雷で蹴散らしていく。このまま全て消し炭にするか、と思いきや雷は少しずつ弱くなっていき、ガス欠を起こしたように動きが止まる。
「やっぱりまだ慣れない……!」
「女ァアアアアアッッ!!」
「ッ! 鳳凰!!」
大耀さんの背中に紅蓮の炎で形成された翼が現れ、背後から金棒を振り下ろしてきた怪魔の射程範囲から一気に離脱する。しかも置き土産として爆炎の渦を生み出し、怪魔が断末魔を上げる暇を与えることなく焼き尽くした。
これが、この世界においての主人公にのみ許された必殺技。与えられた加護の力を引き出し、敵対する存在を一切合切悉く殲滅する技。技名は覚えていないが、初めて見せてもらった時に思ったのはFF16の主人公、クライヴみたい……であった。これがさらに増えていくんだろ? 無敵じゃん────なんてことはなく、この必殺技の際に使った加護の力は一定時間オーバーヒートを引き起こしてしまい、連鎖するように加護スキル、通常スキルなどが使えなくなるなどのデメリットが生じる。だからこそゲームでは必殺技なのに地雷技として扱われてしまっていたが、この世界では違う。必殺技に使う加護は大耀さんが選べるため、全部注ぎ込んでオーバーヒートするなんてことが起こらないのだ。というか常世の穢れ内部でオーバーヒートを起こしたら流石の大耀さんでも死に戻り確定だよ。
「余所見してんじゃねぇ!!」
「あ? 余所見してもいいからしてんだよ察しろ酔っ払い」
「俺はまだ酔ってねぇ!!」
「そう言ってる奴ほど酔ってんだよ酔っ払い」
話を聞かずに俺にロックオンしやがった車輪の回転を利用した回し蹴りを浴びせると、声の主────酒吞童子の金棒と車輪&踵が激突する。便利だなこの車輪。さすがはギリシャの大英雄達の攻撃を浴びせられても壊れなかった戦車の車輪だ。ただし俺の脚が無事であるとは言ってない。ゲリュオンと同等の硬さを得ている脚じゃなかったら砕けてた。俺の耐久力は高いとは言えねぇんだ、もっと攻撃を軽くしろ。
「ああん……? てめぇ、ただの人間じゃねぇな? なんで怪魔と混ざってやがる」
お、酔っ払いとはいえ平安屈指の強者の一角。俺の見た目と気配で人魔一戴を感じ取りやがった。こういう野性の嗅覚と、敵対しつつもどうにも嫌いになれない快活さが滲むのが、このワイルド系酔っ払いイケオジが種族別人気投票で9位を獲得している理由なのだろう。1位? 玩具に決まってんだろ素材寄こせ。
「知らんのか、今の人間の流行りはこれだ」
「んなわけあるかよ。てめぇ酔っ払ってんのか?」
「俺はまだ成人してねぇが」
「てめぇいくつだ?」
「16」
「元服してんじゃねぇか」
「今の時代は20で成人だヴァカめ」
世間話をしているようなテンポで会話をしているが、お互いの武器をぶつけ合いながらの会話だ。金棒ばっかりに気を取られていると、長く伸びた金色の髪を硬質化させて振り回す攻撃や、ヤクザキック、拳など様々な喧嘩殺法が飛び出してくる。
対する俺は鉈やゲリュオンの戦車の車輪、クリュサオルの剣、毒爆弾などを使って応戦している。毒、効いてるはずなんだけど、あいつが定期的に飲んでいる酒の影響なのかすぐに治りやがる。元々酒吞童子を含めた鬼という種族が毒への耐性が強いタイプの怪魔ということもあるのだが、こりゃ毒に頼るのは止めた方がいいな。だが状態異常に頼らないとは言ってない。そろそろインターバルを挟まないと自滅する時間なので、一度人魔一戴を解除。喰い裂き丸に血の呪刃をエンチャントする。
「へぇ、血の刃か。その手の纏い術は邪道だなんだと言って、使うやつは綱の野郎しかいなかったが……面白れぇ」
「綱……? あ、渡辺綱か。……その綱さんに斬られたであろうそこの隻腕の女がガックガク震えてんだが」
主に足腰が。どうした?
「斬られたやつが悪いだろ。あとあいつは、綱の野郎を喰ってやろうと閨に誘って、逆に抱き潰されやがった鬼の恥晒しだ」
「えーとつまり……持病とかではなく……」
「綱とヤった時のことでも思い出して腰砕けになってんだろ。あいつ、十回以上ヤって全部負けてんだ」
「なんてこった、綱さんは性豪だった」
というか茨木童子、ゲームでも思っていたが女なのか。……まぁ、老婆だか母親だかに化けて腕を取り戻しに来たっていう逸話があるくらいだし、女の素振りができるなら女という可能性は高いのか。でも隻腕ってことは取り返せなかったんだな。ローズ先輩? あれは例外だろ。
それはそれとして、恍惚とした表情で身震いしつつ腰砕けになっている茨木童子と、それを見て引いている幹部級であろう鬼達を見て思ったことがある。
「ところで、多勢に無勢な戦いしなくていいのか? 数の暴力なんて怪魔の得意分野だろ」
「あ? 何言ってやがる。女を巡る戦いはタイマンだって昔っから決まってんだよ」
数の暴力何て無粋な真似が許されるわけねえだろうが、と剛力を以って金棒を振り回す酒吞童子。うーん、こういうところが人気の秘訣なのだろう。他のやつらも美男美女揃いだし。そして心もイケメンな連中が多い。なんかこう……あんまりあれこれ考えないようなやつらもいるが、酒吞童子の側近とかそういう連中は道理を理解してるやつらが多い印象だ。
「つか大耀さんは鈴鹿じゃないぞ」
「あ? んなわけねぇだろ。あいつから鈴鹿の匂いがする。宇迦が憑いてるし、鈴鹿に決まってんだろ」
「基準が匂いと宇迦様かよ」
『結構いるぜ、そういう
『そうだな。そういうやつは少なくない』
いるんだ…………いるか。いたわ確かに。ゲームにも何回か出てくるわ、そういうやつら。面影があるとか何とか言って襲ってくる怪魔が何体かいた記憶がある。
「んでもっててめぇからは忌々しいやつの臭いがすんなァ……」
「あ?」
「やつ、よりもやつらってのが正しいのか? てめぇ、何だ? ただの人間じゃねぇだろ」
忌々しいやつの臭い……やつ、ではなくやつら? 山神のアラハバキの知り合いだったりは……しそうにねぇわな。そもそも酒吞童子とその愉快な鬼共の記録は学園にもあるが、アラハバキと戦ったなんて記録は存在しない。存在していたら頼光四天王の皆さんがアラハバキのことを知っていてもおかしくない。
「呪いに加護はどうでもいい。そういうやつも人間にゃいる。望月とかがそうだろ。だが……てめぇから■■■■の臭いがしやがんのはどういうこった?」
「なんて???????」
■■■■。誰だって? ■■■■って名前、聞いたことがあるはずなのに思い出せねぇ……!! というか、思い出せないどころか、名前にノイズが奔りやがる……!!
「てめぇ、あのくそったれに遭って生きてるたぁ、災難なこったな」
『■■■■……へぇ、あの野郎、まだ生きてやがったか。こいつの記憶にゃ無かったはずだがなぁ』
「あいつが記憶に残すようなヘマするわきゃねぇだろ。臭いだって鬼である俺だから分かるレベルだ」
ぐあああああああああ!!? 何で聞こえねぇ!? いや、聞こえてるんだけど聞こえねえ!! ノイズのせいでなんて言ってるのかが分からん! 読唇術なんてものも覚えてないから何を言ってるのか分からん!! 野郎、っていうことは男なんだろうけど、誰のことを言っているのだ。
あと酒吞童子とその幹部共、その同情したような憐れんだような視線はなんだぶっ殺すぞ。いや、それだけその■■■■とやらがクソ野郎なせいなのだろうが。だからと言って同情と憐みを向けるんじゃねえぶっ飛ばすぞ。
「ケッ、くそったれな野郎の臭いであの野郎のことを思い出しちまった。はぁ……白けた。おい、帰んぞ」
そう言った酒吞童子が瓢箪の口を開けて酒を飲んだ瞬間、常世の穢れが晴れていつもの世界が俺達を出迎える。マラソンで全力疾走した後のような息苦しさもなくなっている中、側近の老紳士────『翁』という印象が強い怪魔が口を開く。
「酒吞様、よろしいので?」
「あ?
「ふむ……確かに、言われてみればそうでございますな」
「だろ。おい、熊童子。そこで腰砕けになってやがる馬鹿を運べ」
「うす」
熊童子と呼ばれた怪魔がグワシッ! と茨木童子の頭を掴んで持ち上げる。それでも復帰しない茨木童子はもうあれだ。変態だ。もう変態という認識でいいんじゃなかろうか。
背を向けて本当に帰ろうとする酒吞童子達を斬らなくていいのか、という疑問が出るかもしれないが、帰ってくれるならそれはそれでよし。ゲーマーとしての一番はこいつらを殺して人魔一戴と素材をゲットすることだが、戦士としての一番はこいつらの被害を最小限に抑えることだ。もし今後ろから斬りかかって、酒吞童子を含めた全員がブチギレたら目も当てられない。死に戻りにだって限度はあるし、帰ってくれるならそれはそれでありがたいのだ。
「……そうだ、忘れてた。てめぇ、名前は?」
見送りの態勢になっていた俺に向かって酒吞童子が振り向いて問いかける。……まぁ、呪いを振りまいてくるようなやつじゃないし、名前を言ってもいいだろ。
「模歩巡」
「よし、名前と顔は覚えた。模歩巡、久方ぶりに楽しめたぜ。いつの世も、戦士との喧嘩ってのはいいもんだ」
「女の取り合いとか言ってなかったか?」
「それも喧嘩だろ。次会う時はてめぇを殺して、鈴鹿を俺の女にする。それまでにもっと強くなるのと、その辛気臭ぇ顔をどうにかしな」
「あ? 誰が貧乏くさいって?」
「んなこと言ってねぇよ。とにかく、もっと強くなりやがれ! 俺が全力出せるくらいにはな!」
うーん、まだ全力じゃなかったんですね酒吞童子。……まぁ、そりゃそうか。全力なら俺がどんだけ頑張ろうと大耀さん達の助けなしに死に戻りゼロは難しいだろ。
そんなことを考えていると、酒吞童子達は呵々大笑しながら風の如く去っていった。怪魔の中には天災と称される存在もいるくらいだし、ああいう風のような速さで去っていく姿もそう例えられる由縁だったんだろうな。……まぁ何にせよ……大規模百鬼夜行突破……で、いいのかね。
「──────────だー……疲れたぁ……人魔一戴使っていたとはいえ常世の穢れ内部での活動厳しいって……」
べちゃ、と広場で大の字になって倒れた俺は、太陽が天辺に来たばかりの空に目を細める。百鬼夜行が始まってから1時間も経ってないが……ゲリュオンとクリュサオルと戦った百鬼夜行並みに疲れた……マジで強いわ酒吞童子。頑張れば勝てるなんてナマ言ってすみませんでした。ゲリュオンとクリュサオルとはまた違ったベクトルの強さだわ。
大合戦で大分強くなったかなって思ってたけど、まだまだ足りねぇわこりゃ。学園内の大会なんて参加してる暇ないんじゃねぇかなこれ……
「模歩君無事!?」
「おー、大耀さん。素材と経験値どうよ」
「あ、うん、素材は結構手に入ったけど………………模歩君、大丈夫?」
「何が?」
「右目、ずっと涙出てるよ?」
…………あ、本当だ。
「なーんで泣いてんだ、俺」
あのノイズが奔るやつが原因なのかねぇ……アラハバキといい、俺、こういうことに縁ありすぎじゃね?
酒吞童子
ワイルド系イケオジ。強い。
茨木童子
渡辺綱を喰おうとして逆に抱き潰されたせいで屈服癖(綱限定)が芽生えた変態。強い。
血鬼翁
天狗っぽい感じの鬼。強い。
熊童子
熊の鬼。強い。
■■■■
クソ野郎。