恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
高難易度DLCダンジョンとして配信されたのは、禍津日様のダンジョンだけではない。レアモブ、レアボスの素材、そのフレーバーテキストや、学園内で閲覧可能な怪魔図録に記述がある『この怪魔は本来、この迷宮に生息している怪魔ではないようだ』という一文。この一文の伏線を回収するための一つとして配信されたのが────ここ、城型ダンジョン『
百鬼夜行終了後の次の日に禍津日様のダンジョンではなく、疲労困憊と言った感じの『茶菓子同好会』メンバーを巡が引き摺って訪れたこのダンジョン。プレイヤー評価としてはとても面白く、敵をガン無視すれば低レベルであっても城の中にある素材を集めることくらいはできるという、中々調整が仕上がっているダンジョンである。
ここに現れる怪魔は全部昆虫、節足動物など────蟲の特徴を持った人型である。異形系もいるが、大体が人型怪魔で構成されており、大ボス含めて言葉を話せるやつらで占められている。そして全員とても強い。通常ダンジョンに現れるレア怪魔である妖幻魔宵蛾もここにはおり、通常ダンジョンで出くわす個体よりも大きく強く、羽の艶などが段違いなのが特徴。
ドロップアイテムの羽や、その辺に落ちている鱗粉の品質も高い。ここの妖幻魔宵蛾の素材を使った霊薬を知ってしまったら、レア出現の妖幻魔宵蛾の素材を使った霊薬には戻れない。さらにここにいる怪魔は意思疎通が可能であり、戦っていて楽しいということもあって、巡はもうこの城の虜であった。死にゲーにどっぷり浸されて生きてきた気狂いにとって、高難易度とは垂涎ものと言ってもいい。
「あら、あの子がまた来たわね」
そんな城の最上階で美酒を舐めるように飲んでいた城主、『蝦夷之蜈蚣姫』が巡の気配を感じ取り、近くで控えていた甲冑武者のような姿の怪魔に声をかける。
「鍬牙、行ってきなさいな」
「は。あの少年がどれだけの力を得たか────この目で確かめに行って参ります」
「ええ。それに、他の人間の気配もする。……楽しみね」
色んな意味で。
微笑みを浮かべて杯に満たされた酒を口にする蜈蚣姫は、ふと、巡が連れてきた人間の気配の中に豊穣の女神や四象の神獣達の気配がすることに気付く。彼らを伴って城攻めを敢行するつもりなのか、それとも妖幻魔宵蛾達を愛でに来たのか────どちらにせよ、来訪者をもてなしてやるのが城主の器というもの。背から生えている本物の蜈蚣のような尾を揺らし、蜈蚣姫は城に住まう愛すべき臣下、愛でるべき蟲達に号令をかける。
「私達の素敵な客人が来たわ。もてなしてやりなさい」
その声に対し、凄まじい声量の鬨の声と妖気が爆発した。数年前から何度も何度も城攻めを敢行したり、妖幻魔宵蛾を含めた蜈蚣姫が愛でている蟲達の素材を求めて突撃をかましてきたり、なぜか貢物と言わんばかりにスイカやらメロンやらを大量に担いでやってくる気狂いがまたやってきたのだ。
蜈蚣姫が自身のアムリタと霊気を利用して生み出した水鏡のようなもので確認してみると、今回は縞模様がない真っ黒なスイカを水属性と風属性のエンチャントで冷やしながら突撃している。共するのは怖気をどうにか振り払おうと試みつつも「ィイイイヤァーハァ!!」と叫んで笑う気狂いの精神性に引っ張られ始めている斧槍を持った少女と、「もうどうとでもなーれ」と言わんばかりの笑みを浮かべた双剣(剣×棍棒)持ちの少女。その後ろには槍と弓を持った少女と、聖印が吊るされた刀を携えた漢女、バカでかい杖を担いだ茶の香りを放つ少年。ふざけているようで、全くふざけてはいない。
相手にもよるが、エンチャントされた大量のスイカというよく分からない質量の塊をぶつけられた場合、並の怪魔ならスイカ割りを敢行されたように脳髄をぶちまけるだろう。手土産であり、武器でもあるようだ。
「今日はどれくらい頑張るかしらね」
高みの見物と洒落こませてもらおう────そう思った瞬間。金属同士が激しく打ち合う音が響き渡った。水鏡を見ると、先程部屋を出たクワガタムシの特徴を持った怪魔、甲虫武者の鍬牙がスイカを受け取りつつ激突したところだった。
『待ち焦がれたぞ少年!!』
『相ッ変わらず乙女座の男みてぇだなお前』
受け取ったスイカは近くで城の改装工事を行っていた蟻の怪魔に預けられており、今丁度献上品として運ばれてきた。
「は……ん…………よく熟れてるわね」
真っ赤に熟れているスイカは甘い香りを漂わせており、一口齧ってみれば、シャリシャリとした果肉がぎっしりと詰まっている。溢れ出る甘い果汁と食感は見事と言わざるを得ず、昔と比べて人間社会は大分進歩していることが実感できる代物だ。
「鍬牙の戦いが終わるまで時間があるだろうし、皆で食べて待ちなさい」
「「「はっ」」」
よく冷やされた一玉分のスイカを蜈蚣姫の部屋に置いて下がる怪魔達。水鏡を見ながらスイカを齧り続ける蜈蚣姫は、ふと、巡の後ろに荒神の気配を感じ取った。なるほど、かの荒神はあの少年に加護を与えたらしい。加護というには禍々しく悍ましい呪いの気配もしなくもないが、それはそれ。千年以上生きる怪魔である蜈蚣姫にとって、加護も呪いも些事である。
加護を持っていようが呪いがかけられていようが、殺せば死ぬのだ。死んでも神々や神獣、守護獣達の作り上げた術式とダンジョンの仕様で死に戻りするだけではあるが、それでも殺せば死ぬ。心折れるまで殺し続ければ、人間は勝手に諦めてやってこなくなるどころか供物と言わんばかりに生け贄を捧げもする。生け贄文化などくだらんし、諦観に満ちた人間は喰っても不味いだけなので酒に溶かすか、常世の穢れで満たして怪魔に変えるだけ。喰らうならばやはり、今鍬牙と戦っている気狂いのように「まずは死ね。話はそれからだ」と言わんばかりの殺意と闘志に満ちた人間に限る。
人間が発する恐怖などの感情を餌として強くなる怪魔は多いが、自身に向けられたどす黒い殺意や、鮮血や太陽のような真っ赤な闘志を餌とする怪魔は少ない。強いものから手に入れるよりも、ただの弱者や自分が強いと思っている弱者から手に入れた方が楽なのだから当然だろう。だが、強者たる人間の血肉や臓物、感情を喰らう時ほど昂ることはないと、蜈蚣姫は思う。まぁ、巡は感情を喰わせてはくれるが、血肉を喰らわせるような愚行はしない。肉片すら残らないレベルの自爆をするのだから。
「ああ、楽しみね」
首を獲るか獲られるか。殺るか殺られるかの戦い。昂らずにはいられない。
『我、薄刃陰鳴!! いざ尋常に────』
『ぜあああっ!!』
『名乗りは悪くないが、遅い!!』
鍬牙と巡の戦いに感化されて、巡と共に走ってきた人間に喧嘩を売りに行ったまだ若い────と言っても百年近くは生きているが────怪魔が豊穣の女神の加護を受けた少女に棍棒で脳天をかち割られ、斧槍を持った少女の螺旋のような土石流の槍に貫かれた。名乗り中に攻撃は挨拶を中断したアンブッシュ並みにシツレイでルールで禁止されているかもしれないが、怪魔と戦士の戦いにルールは無用である。カゲロウの怪魔がナレ死したが、そのうち復活するだろう。
とにかく開戦の火蓋は切って落とされた。気狂い率いる人間VS蝦夷之蜈蚣姫率いる鎧蟲武者────素材マラソン、開始である!!
* * *
「素材マラソン! 素材マラソンだ!!」
乙女座の男みてぇな鍬牙────ミヤマクワガタの特徴を持った怪魔、鍬牙との戦いは奴が待つ大部屋までお預け。さっきの襲撃は、俺がどれくらい強くなったかを確かめるための戯れアンブッシュ。あいつもいいよなぁ……なんかぶっ殺しても復活してくるが。怪魔の復活というのは怪魔の魂が屈服していない場合、ダンジョンが勝手に復活させると聞く。人魔一戴は倒した怪魔の力を使うものだが、そいつ自身を使っているわけではないので怪魔が復活するわけだ────とか、色々説明されたがよく分からん。とにかく、怪魔を倒せば倒すほど、俺は怪魔の力を使えるようになる。それだけ覚えていれば良し!!
「模歩巡、さっきも聞いたが、このダンジョンは国が認知していない場所じゃないのか?」
ウスバカゲロウの怪魔を大耀さんと共に瞬殺した虎成さんが声をかけてきた。
「そうだが?」
「そうだが!?!? 未確認のダンジョンを発見した場合、報告が義務付けられていると授業でも聞かされているだろうが!!」
「報告したら自由にマラソンできなくなるだろうが!!」
茶の湯への招待もされなくなってしまったらどうしてくれる!? 貴様にシベリアンを叩き込まねばならなくなるだろうが!!
「ははは、やはり君は面白いですね巡君」
「千茶、お前も何か言ってやれ」
「ふむ……この城には見事な茶を出す方がいらっしゃるご様子。是非ともお相手させていただきたいところですね」
「そういうことではない!!」
今日は特別ゲストが『茶菓子同好会』に合流している。そう、我らが魔法アタッカー、茶華道部の千茶万莱君だ。彼のメインウェポンはバカでかい杖。近付かれたらこの杖でぶん殴るし、ぶん殴ると同時に魔法を使うバーサーカーである。
「ところで巡君」
「何か」
「彼ら、虫の特徴を持っているようですが……火属性の魔法が効いている感じがしませんでしたね」
城型ダンジョンの最初の門を突破しつつ、万莱君が問いかける。確かに火属性の魔法が効きにくい怪魔だよなぁ、このダンジョンの怪魔共。そもそも魔法自体をエンチャント以外使わないのもあって、魔法耐性についてはそこまで分からないが……
「昆虫の装甲が魔法耐性になってんじゃねぇかな」
「なるほど。では、色々と試したい魔法を試すには絶好の機会ということですね」
うーん、頭バーサーカー。嫌いじゃないしむしろ好きよ。ちなみに万莱君はストファの持ちキャラがJP。瑞騎先輩も持ちキャラがJP。JPミラーで泥仕合。いつかはやりたい学園ストファ大合戦。
「ところでここに来た目的は?」
「素材マラソンですよ瑞騎先輩」
「ああ、どうりで目がギラギラしていると思ったら」
出るまで回そう素材マラソン。おかわり来るまで別の素材マラソンも開始すれば、レベルやスキル獲得のために使うアムリタやスキル熟練度上げもできるので一石三鳥。死んだとしても素材が手に入るし、スタート地点に戻されて最初から素材マラソンができてお得。落としたアムリタ? 回収すれば±プラス。回収できなくても素材マラソンとアムリタ稼ぎは別々のものなのだから気にしてはならない。
「今回の目的は妖幻魔宵蛾の素材と……鏖斑紫の素材と……まぁ、とにかくたくさんの素材が欲しいっすね」
「あなたが抱えてる素材、戦士の市場に流したら大暴落起きそうね」
品質が全く違うからね、仕方ないね。
怪魔から手に入れた素材やアムリタ結晶は装備の作成に使われることが基本的な使用用途だが、国が管理している市場で素材やアムリタ結晶を換金することもできる。だからこそ、学園を卒業した人がそのままプロになってダンジョンに潜って生計を立てる人がいたり、一財産を築いたりする人が出てくるわけだ。実際、俺もアムリタ結晶を換金して実家の口座に振り込んだり、お中元とかお歳暮とかを買ったりする。ただ、大金持ちになりたいとかは考えていないので、素材もアムリタ結晶も大半を装備や霊薬に溶かしているわけだが。
ゲームが進行すると解放されるシステムや、禍津日様のところでやれる魔改造にも素材やアムリタ結晶がたくさん欲しいので、素材マラソンは終わらない!! 別ゲーにはなってしまうが再現したい武器も、リアルで使ってみたいと思っていた討魔の武器もたくさんあるのだ。剣の才能は全くないので剣じゃないもの……いや、『茶菓子同好会』の皆に使ってもらえばいいのでは? そうだ、皆に使ってもらおう。その姿を俺が脳内CPUに焼き付ければいいじゃないか。うーん、我ながら名案。不本意ながら水着姿も脳内CPUに焼き付け済みだ。主に禍津日様が。記憶共有とかできるんすね。
(俺達は男だろうが女だろうが喰っちまうのさ。いやはや、巡の周りは上玉揃いだなぁ?)
(わぁ、いらない情報助かるいらない)
まぁ、雑念はこのくらいにして────そろそろ到着する真の第一の関門に備えよう。入口はさして問題はないやつら……鍬牙はともかくとして、有象無象ばかりで問題はなかった。だが、この先に待っている輩はとても強いのだ。戦っていて楽しいボスではあるが、そこを突破しない限り、俺の目的である場所にはたどり着けない。
「……強い妖気。この先に強敵がいるね」
「大丈夫だ。殴れば死ぬ。血が出るから殺せる」
「分かりやすくて大変よろしいですね。では、巡君とのゲームプレイでインスピレーションを得た出血魔法を使ってみましょう」
よぉし、うちの魔法職DPSがやる気に満ち溢れている。この勝負貰ったァ!!
「ねぇスイちゃん、メグちゃんが増えた感じがするのは気のせいかしら?」
「気のせいじゃないかしら」
「そうよねぇ。疲れてるのかしら」
疲れてるなら無心でマラソンすると気が晴れますよ、ローズ先輩。あと、なぜか最近とても調子がよくて禍津日様のダンジョンで斎藤一氏にいいところまで行った瑞騎先輩もやる気のようだし、勝てるだろう。この面子で勝てなかったら師匠に殺されるわ。
そんなことを思いながら、目の前にある稲の絵が描かれた扉を前にした俺は全力の助走でダイナミックエントリーをかます。
「
「ギギギ。ヤレルモノナラ、ヤッテミロ、ニンゲン!!」
『明日夢、確実に殺しなさい』
「模歩君、宇迦様が何か凄い殺気出してるんだけど」
飛蝗だもんなぁ、あいつの容姿。
蟲がメインテーマになっているダンジョン。巡の素材マラソン会場その2。その1は仙骨マラソン会場。高難易度ダンジョンとして実装されているが、禍津日のダンジョンよりも前に配信されたDLCで、本編序盤後半~中盤で挑戦できるようになるくらいには参加条件が緩いダンジョン。実際にプレイしたプレイヤーからも、「最高難易度からが本番」、「序盤中盤なら高難易度だけど、そこまで難しい感じはしない」など、難しいが難しくないという感想が出る。
運営からも『本編序盤後半~中盤で挑戦すれば高難易度』という想定で実装する、という発言を配信前からしていた。
ただしこの世界のこの城は1000年以上昔からあるというフレーバーテキストのせいでバチクソ強化されている。そんなところに突撃かます気狂いがいるらしいですよ奥さん。