恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
飛蝗の姿をしたインファイト特化ボス、
「ヨケラレルカ、ニンゲン!!」
「避ける必要もねぇよ!!」
飛蝗の脚力を用いた跳躍による距離詰めから放たれる拳を、パッシブ、アクティブスキルそれぞれを起動した状態で武器を構え、受け止める。
「ギギ、ヤルナ」
「これだけ分かりやすいなら、止められるわな」
変形機構が起動していない喰い裂き丸で受け止めた蝗拳の拳は、よく見れば蟲特有の鉤爪のようなものが生えており、少しでも躱すタイミングを誤れば皮膚どころか肉を削がれる打撃と斬撃の両方の性質を兼ね備えた一撃。受けて殴るが最適解、というわけではないが、避けられないなら受けた方が安全に戦える。
そして、俺が受け止めれば、蝗拳の動きが一瞬だけ止まる。それを逃すような仲間はここにいない。
「雷霆来たりて閃光昇る。我が声は雷鳴、天翔ける神獣の嘶き────」
「それは故知らぬどこかの御伽。虚空より降り注ぐ流れる血の贋作────」
うちの魔法属性DPSキャラが全力で蝗拳を殺しに行くため、詠唱を開始する。あの二人の魔法の腕で巻き込まれるなんてことは考えなくていい。近接攻撃が基本の俺達は、全力で蝗拳を殴りに行けばいいのだ。蝗拳は片言でしか話ができないが、一つの大部屋で俺達を待ち構えるボスである実力者。どうせ避けるか腕が無くなる程度で終わるだろ。それくらいの信頼が俺の中に芽生えている。
「ヨケル、ムズカシイ。ナラ、アタラナイヨウニウゴク────!?」
まぁ、それは避けられるならという前提の話であってだな。
ゲリュオンと禍津日様曰く、俺は踊ることで結界を生み出せるらしい。結界術の才能は全くないと思っていたが、まさか舞が結界を発生させるスキルとして昇華するとは思わなかった。
「結界の舞……安直だけど分かりやすいよな!」
「そこにあたしの炎の結界と」
「私の土の結界で閉じ込める! ……さらに────」
「仮影縫い!」
麒麟の加護を使った必殺技を移動手段として利用して蝗拳の背後に回り込んだ大耀さんが、無属性のスキル空針と闇属性魔法を取得していることで解放されるスキルを発動。灰色の光が灯った狂戦士の曲剣が、蝗拳の影へと突き立てられた。……あ、そういえば大耀さんの棍棒、鬼の素材とアムリタ結晶を使った『
まぁ、それはそれとして。『
「あの二人に3秒は十分すぎるわな」
「天より来る麒麟の雷よ、眼前の敵を焼き焦がせ!! 『麒角雷槍』!!」
「数えること三度。
結界に閉じ込められた蝗拳の真下から雷の槍が一振り昇り、同時に血の雨が降り注ぐ。雷を強くするためのものだと思ったら大間違い。ゲームキャラとしての万莱君は、おとぎ話を魔法とする特殊な魔法DPSキャラだ。もちろん通常の魔法も使えるには使えるが、万莱君固有の────というよりも万莱君に加護を与えている鯨、勇魚の固有スキルがそういうもの。通常の魔法と違い、詠唱が長い代わりに火力が尋常じゃない。遠距離での魔法DPS理論値は万莱君、遠距離での物理DPS理論値は三野先輩と言われるくらいには、火力が馬鹿。ただし、魔法一個一個が強力な代わりにMP消費量が多いのと、リキャストタイムが設けられている。
そんなキャラクターだったのだが、この世界では自分でおとぎ話からインスピレーションを得て魔法を作っちゃったりする天才だったりする。だからこそ、魔法の神童とか呼ばれてたりするんだよね彼。そんな万莱君、俺とゲームをしてインスピレーションを得ちゃったらしく────『
なお、モデルと違って水属性と闇属性の複合出血デバフ魔法である『御伽:見えざる血雨』。そんな魔法をじかに浴びた蝗拳はというと……
「ギギギギギギギギ!!?」
感電しながら血の雨で溺れるという哀れな姿を晒している。体内の血が噴き出ているというのに、まだまだ元気そうなのが流石タフな昆虫系怪魔と言えるだろう。
「「「うわぁ……」」」
「うーん、滲み出る誉れ」
「本来なら燃やして出血を強いるんですけどねぇ」
これで勝負が着いたと油断してはいけないのが、このダンジョン。昔、油断してアンブッシュ喰らって死に戻りという情けないやらかしをこのダンジョンでしたのが俺なんだよね。鍬牙といい、蝗拳といい、タフネスが過ぎる怪魔しかいねぇんだよなこのダンジョン。俺の癒しは素材マラソンだけだよ……
「シナバ、モロトモ!!」
「ほら油断ならねぇ! ゲリュオン、クリュサオル!!」
『見事なものだ。最後まで勝ちの目を捨てぬとは』
人魔一戴で鎧と剣を召喚し、決死の力でライダーキックならぬライダーパンチを放ってきた蝗拳を迎え撃つ。剣の才能は全くないが、ゲリュオンは違う。そしてこの世界においての人魔一戴は、眷族、式神にしている怪魔を使う時のみ────
「体の操作を、怪魔に委ねることもできる!!」
『「全く、正気とは思えんがな!!」』
俺の体の主導権を一時的に受け取ったゲリュオンが、クリュサオルの剣によって蝗拳のパンチを迎撃するどころか、拳ごとやつの首を刎ねた。
「ギギ……ツギハ、オレガ、カツ」
「はっ、また俺達が勝つに決まってんだろ」
なので素材とアムリタ結晶をよこせ。
蝗拳が完全に死に、素材とアムリタ結晶を残して消える。他のダンジョンの連中もそうだが、怪魔は復活する。これくらいの強さを持っている怪魔であれば、恐らく数日で復活するだろう。多分。ボスの素材マラソンは数日かけないといけないんだよなぁ……雑魚(雑魚ではない)はすぐに復活してくるのに。
「よし、次行くぞ次!!」
「本当に、素材のことになると元気ね、君」
「素材とアムリタ結晶は命よりも重い」
「命の方が重いわよ?」
死に戻りできるなら素材とアムリタ結晶の方が重いでしょうよ、命より。その軽い命を重くするために素材マラソンをしているのだ。そして素材マラソンをするためには命が軽くなくてはならない。命が軽いから、素材マラソンが捗るのだ。素材マラソンに飽きたら城攻めを敢行してどこまでいけるかを確認して帰ればいい。素材は手に入り、自分の実力がどの辺りにあるのかを確認できる────ここでの素材マラソンが素晴らしい理由はそこにある。
蝗拳のアムリタ結晶と、素材を回収した俺は呆れているメンバーを背にして目当ての怪魔がいる場所目掛けて走り出す。素材マラソンは終わらぬ……俺の中の素材マラソン欲が消えるまで!!
* * *
「ほう、少年。この城をたった一人で攻め落とすつもりか?」
「いや別に。どこまで行けるかなで走ってるだけだが?」
「…………少年、君はあれか? 気狂いの類か?」
「初対面のやつに失礼なミヤマクワガタだな貴様」
これは数年前、巡が初めて凱蟲百足城に訪れ、素材マラソンついでにどこまで行けるかなで城攻めを敢行した時のこと。当時中等部一年だった巡のレベルやスキルは、このダンジョンを攻略するには恐ろしく厳しいものだった。だが、それでも素材のためなら命を容易く放り投げて殺す
なお、この部屋に辿り着いた時点で弓矢やら槍やらが体を貫いてハリネズミになっているが、霊薬を大量に服用しているせいもあってか巡は全く痛がる素振りもなく武器を握っている。気狂いの類と言われるのも無理はないだろう。
「その傷では私と一合すら打ち合えな────ッ!!?」
「ごっちゃごっちゃうるせぇんだよミヤマクワガタが」
鍬牙が感じ取ったのは、悍ましい程の殺気。少年の背に大量の屍が積み上げられているのを幻視する、背筋が凍るような威圧感。1000年前すら中々感じることのなかった、全身から冷や汗が吹き上がるような感覚。この城の状況を逐一見ている蜈蚣姫が対面していないのに、首を刈り取られてしまうと錯覚し、頬を染め、己の腕で己を抱き締めて身悶えするようなどす黒い殺意の塊をぶつけられた鍬牙は、少しでも小突けば死んでしまう巡を久しく見ていない天敵であると認識する。
かつて天を突くほど巨大な大百足────蜈蚣姫の父を撃滅した男と同じように、この男は己の主である蜈蚣姫の喉笛を噛み千切る戦士であると。
「非礼を詫びよう、少年。君は間違いなく、この城の天敵だ。その天敵たる君を、ここで殺す」
「やってみろやミヤマクワガタ」
クワガタムシの顎のような形状の刀────
「この城において最も恐ろしい天敵よ、その名を聞きたい」
「模歩巡」
「良い名だ。この鍬牙、天敵たる君を確実に殺すため────全身全霊で、挑ませてもらおう!!」
放たれる神速の斬撃に対し、巡が取った行動は前進。その前進と同時に、貫通していた槍を掴み、血を噴き出させながら鍬牙の腹を貫く。
死を恐れず、肉も骨も斬らせて敵の命を絶つと言わんばかりの行動に鍬牙は驚きつつも、昆虫と同じく凄まじい生命力を持つ鍬牙をその程度で殺せるわけもなく、彼は巡へと刀を振り下ろして頭を潰して首を切り裂いた────その時だった。
「な────!!?」
頭が潰れて首が飛び、絶命したはずの巡が、死に戻りを開始しながら殴りかかってきたのだ。しかもその拳や鉈には、「死んでも怪魔は絶対ぶっ殺してやる」と言わんばかりのどす黒い何者かの呪いが宿っており、その気配に回避を選択した鍬牙の角を捉える。
「ぐ、あ……!?」
呪いがこびりついた拳に捕まれ、鉈によって角が叩き折られるのと同時に巡の姿が完全に掻き消えた。死に戻りによってダンジョンの入口に吐き出されたようだ。
「……ははは。なんだ、あれは。少年に比べれば、俵藤太など可愛いものではないか」
べちゃり、と尻もちをついて部屋の中心に座り込んだ鍬牙から、彼の声とは思えないか細い声が漏れる。これが、蜈蚣姫率いる鎧蟲武者達と、巡の初エンカウントであった。
なお、この後すぐに死に戻りから復帰した巡が再度突撃してくるのを見て、蜈蚣姫は思わず自ら出向き、茶の湯に誘った。呪いについては伏せたまま、こんな気狂いを放置している人間側の気が知れないと思いながら。