恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
討魔の終盤のクエストの中に、そのクエストは存在している。終盤のクエストなのに難易度はそこまで高いわけではないし、報酬もうま味。しかしながら描写がちょっとばかし重いということで、耐性が無い人がそのクエストを受注して進行していくと体調不良になるプレイヤーがわりといた。俺は素敵なご友人と共に「メイケイオス! テイク! ザ・ワールド!!」って叫びながらやってたからそんなことはなかったが。ちなみにご友人はこのクエストのボスに対して怯みハメループを叩き込んでいた。なお、怯み値は馬鹿みたいに高いし、状態異常耐性も高い。体力ももちろんあるが、攻撃力はそこまで。ちゃんとゲームを遊んでいれば普通に倒せる程度のボスだ。
まぁ、そんな昔話はともかく。天照大御神様から受注したこのクエストのボスは、神を名乗るただの怪魔である。生け贄を捧げられるほどの信仰を得ているとはいえ、ゲリュオンとクリュサオルのような感じで強化されているわけでもなく、私腹を肥やすだけの雑魚怪魔だ。では、クエストの舞台となる村は、そんな怪魔をなぜ信仰しているのだという話になるのだが……簡単な話だ。怪魔によって引き起こされた飢饉と疫病と干ばつを、その怪魔がどうにかしたのである。以来、その怪魔は土地神のように村から信仰を集め、数年に一度、若い女を捧げることを条件にして、今でも繁栄と豊穣を与え続けている────という怪魔である。
女性のことを除けば、わりといいやつ感がある怪魔を殺していいのかという疑問が出るかもしれないが、殺していいのだ。飢饉も疫病も干ばつも、繫栄と豊穣を与えている怪魔が引き起こしたことなのだから。つまるところはマッチポンプ。瘴気を撒き散らして村に飢饉、疫病、干ばつを引き起こし、自分の分身のようなものを自分で倒すことで村を救ってくれた存在に見せかける。村を救ってくれた存在として信仰を集め、私腹と性欲を満たす────なんというマッチポンプ。
そんな怪魔だが、そもそもの体型や耐性値など含めて戦闘に向いていないというのもあるのか、捨て置いても問題ないレベルの怪魔だ。その怪魔が落とすアムリタ結晶のフレーバーテキストでも、「迷宮に生息しているこの怪魔は、基本的に他の怪魔の餌となる定めである」という記載があるくらいには弱い。醜怪餓鬼と同じように、いつかの百鬼夜行に乗じて迷宮から逃げ出して現在まで生き残っている怪魔という感じだ。
では、そんな怪魔に対して討伐依頼が出た理由だが……生け贄の対象である若い女性────それが村の人間だけではなく、観光客も巻き込むようになったからだ。ここ数年で、この村を訪れた観光客の行方不明事件が多発するようになり、今までは「まぁ、村の風習で、村の人間がそれを受け入れているならいいか。ゲリュオンみたいなやつもいるし」のスタンスで静観していた神様や神獣、守護獣達も看過できないと判断したのだろう。
行方不明者が出てるのに国は何してんじゃという話だが、学生が戦ったりする世界において偉い人を信用してはいけない。一部例外はいるが、基本的には仰々しい肩書を持っている大人を信用も信頼もしてはならないのがこの世界。なんだこれは地獄かね? 老後はもう地元の山にでも籠ろうかしら……アラハバキがいたところに小さい家でも建てて暮らそうかな……それか黒い靄が出てきた開けた場所にでも。
「何か考え事?」
「ああ、老後について考えてた」
「気が早くない?」
学生のうちから老後について考えておくのは大事だぞ大耀さん。
「それにしても……村っていうよりも小さな町だよね」
「まぁ、それだけ栄えてんだろ。怪魔によって」
禍津日様のダンジョンから空間を繋いでもらって訪れている、小さな町と言ってもいいくらいの村────
……そう、この村は討魔プレイヤーにとっての聖地の一つ。断末魔が長い、消滅までの時間が長い、殺したかったけど死んでほしいわけじゃなかった等々言われた楽しい玩具がいる村である!! そしてその楽しい玩具が今回の標的なのだ!! 裏ボスと呼ばれているのは、二周目以降限定のクエストであるため。裏ボスでも何でもないはずなのだが、プレイヤーが裏ボスと呼ぶようになっていつしか裏ボスの名が定着してしまった怪魔である。
「ゲリュオンとクリュサオルみたいに、信仰を集めて神様になった怪魔ってことだよね」
「あいつらとは違うけどな」
ゲリュオンとクリュサオルは信仰が欲しいと思ったことは一切なく、ただ戦いに明け暮れた先で信仰を得て神になった。なりたくてなった存在ではないのだ。だが、この村にいる怪魔は自分が快楽に浸り続けたいがため、奪われる側から奪う側になるために信仰を求めた。人間にもそういった感情があるから分からんでもない話だが、ゲリュオンとクリュサオルとは全くの別物なのだ。
「それで……どうするの?」
「祭が始まるのは確か夜だったな」
「うん。夜に始まって、三日目の夜まで続くって話だったかな」
祭は今日の夜に始まり、その際に生け贄となる若い女性が選ばれる。それに観光客であっても抵抗しないのは、祭が始まる前日から村全体で焚かれるお香が原因だと思われる。
ゲームでは探索を進めていくと毒の状態異常が蓄積される感じではあったが、漂ってくるこの麝香っぽい匂いに混ざって香る妙な香り……裏ボスの素材を使った催淫効果がある香なのだろう。俺や大耀さんといった状態異常耐性をしっかり積んでいる戦士であれば、問題なく行動できる程度のものだが……これが一般人であればしっかり催淫効果で思考能力が奪われて、そのまま生け贄にされても抵抗はできないだろう。
「疱瘡神がいれば一発でレジれるんだよなぁ」
「疱瘡神?」
「病気の神様。転じて健康の神様だな」
いやはや、日本人の「よく分からないものはとりあえず祀っとけ」の精神は凄いよな。トッポみたいに色々たっぷり祀ってるせいで何をしてても何かの神様への信仰に派生するのだ。そのおかげなのか、日本の神様は戦ってみるとよく分からない強さを誇っていたりする。ところで他の文化圏の神様も日本人から信仰受け取って強化されてるってどういうことなの……
「へー……私はそういう神様とか調べたことないや」
「調べといた方がいいぞー。大耀さんはきっと色んな神様とか神獣とか守護獣に出会うから」
「はは、確かに。もう色んな神様とかに会ってるしね」
「あと否が応でもお偉いさんと話す機会が増えるだろうからな。宇迦様の加護ってのはそれだけ特別らしいからな」
「うわぁ、聞きたくなかった……」
お偉いさんとのお話はやっぱり苦手かい、大耀さん。安心しろ、瑞騎先輩もローズ先輩も三野先輩も辰巻さんも虎成さんも万莱君もパリピイケメンボーイズもお偉いさんとの交流は苦手だ。仲間がたくさんいるから心強いな! マナー講習とかあるから頑張ろうな! あれ受けるだけで技量にポイント入るから! まぁ、俺はもう中等部の時点で全部受け切ってるから参加しねぇんだけどな。頑張ろうなァ!!
「というか宇迦様の加護の何が特別なんだい?」
「厳密に言えば豊穣の女神の加護が特別らしいぞ。激動の時代、その中心に必ず豊穣の女神の加護を持つやつがいたらしい」
宇迦様の他にも、ペルセポネ、デメテル、ヘカテー、ラクシュミー、イドゥン、フレイア、ハイヌウェレなど……豊穣の女神の加護を与えられた人間が激動の時代の中心となっていたそうな。そういうわけもあって、お偉いさんや長い間続いている名家の連中は宇迦様の加護を特別視して自分の手中に収めたいと考えているやつが多いわけだ。そういう人間の悪意と欲望に触れ過ぎた結果闇落ちして世界滅亡ルートに向かうなんてことは良くある話。良くある話じゃねぇんだわぶっ飛ばすぞ。全く話にならない。
「鈴鹿っていう人も?」
「鈴鹿……ああ、鈴鹿御前な。ですよね、宇迦様」
『ええ。あの子も激動の時代の中心でした。卓越した武威と、息を呑むような美貌は多くの誘いが昼夜問わず来るほどで……時の帝も鈴鹿に魅了されました』
うーむ、ゲームでも語られていたがやはり凄まじいな鈴鹿御前。でもゲームで見てきたから俺知ってる。鈴鹿御前は一人の男しか愛さなかった。もうその人以外はアウトオブ眼中だったようだが、それでもアタックして玉砕した男女は数知れず。ちなみに坂上田村麻呂も玉砕した。なんてこった傷は深いぞ征夷大将軍。
祭の準備が着々と進んでいる村を歩きながらそんな話をしていると、ふと、大耀さんの表情が若干強張っていることに気付いた。
「大耀さん、どしたよ?」
「いや……なんか、見られてる気がして」
「見られ……あー…………」
『確かに見てんなぁ……ここに住んでる人間が』
よく考えなくても大耀さん美人だもんなぁ。祭の生け贄にしようと考える輩が現れてもおかしくはねぇ。これで強硬手段に出てきたのであればこちらとしては村人ごとぶちのめすことになるわけだが……大耀さんは対人戦が少々苦手っぽいきらいがあるんだよな。英雄の皆様との戦いは別に問題ないんだが、俺や瑞騎先輩、ローズ先輩、虎成さんとの模擬戦をやると鈍るっぽい。人を傷つけることに忌避感があるのは別にいいんだけど、それが仇となって自分を傷付けてしまう可能性があって俺は心配だよ……
「怪魔との戦いは慣れてきたんだけど……この視線は気持ち悪い……」
今にも吐きそうになっている大耀さんをどうするべきかと考えていたその時であった。
「あーららぁ……? 具合悪そうな女の子発見! 大丈夫? 疫病キメる?」
突然、俺達の背後から響いたお調子者な声。振り向いた先には薬箱っぽい巨大な箱を背負って笑っている少女がいた。…………まさかこんなところでお会いできるとは思わなんだ。
「いやさぁ、なーんかマガッチャンとウッカチャンの気配するなって歩いてったらこんなところに来ちゃったのがこのホッチャンなんだよね。で、大丈夫? 疫病キメる?」
「大丈夫、疫病キメない」
「じゃあ呪いキメる?」
「あ、呪いはいただけるのであれば」
「お、いーねー。君くらい気狂い極めてる子は好感度高いよ。特別に疫病もあげちゃう」
「それは勘弁────うぼぁぇ゛ッ!?」
「模歩君!!?」
俺の霊薬と劇毒がぶ飲みによる状態異常耐性を普通に貫通してきやがった……!! あ、でも手加減してくれてるのかそこまで吐き気とか来ないわ。
「え、何その呪いと疫病弾く免疫力……知らん……こわ……」
「えっ」
「えっ」
十数秒の沈黙後、俺と薬箱を背負った少女は固い握手を交わして笑った。
「「…………何だかよく分からんがヨシ!!」」
仲良くなれそうだぜ、疱瘡神様!!
疱瘡神
ガワは美少女。中身はダブルピースorダブルサムズアップをしながら光の速さで近付き、疫病をばら撒いていく神。
「光の速さでパンデミックにされたことはあるかい?」