恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
真っ赤な瞳に真っ赤な羽織。水たまりに雨が落ちて生まれた波紋のようなまだら模様がある黒髪に、灯篭のような形をした大きい薬箱を背負った神様、疱瘡神。彼女は初代討魔から存在しており、状態異常系ビルドを使うプレイヤーは絶対に彼女の加護を使っていたほどに強力な状態異常系スキルを持っている。なお2、3では軽くナーフを喰らったが、それでもビルドをしっかり組めば環境に食い込めるほどだった。かく言う俺も、疱瘡神様と禍津日様の加護を使ったビルドで遊んでいた人間である。
「んじゃあ改めて自己紹介ね。私は疱瘡神。疫病の神兼健康の神。加護は誰にもあげたことないよ。よろしくね」
そんな美少女姿の疱瘡神様は、この村で唯一香が焚かれていない茶屋兼宿屋の一室で笑う。そういえば、ここのクエストのスタート地点であり、休息できる拠点はここだけだったな。どこにあるのか、そもそもあるのかも分からなかったが、大耀さんのことを考えるならまずはここを探すべきだったか……ちょっとばかし反省。
「大耀明日夢です。えっと、宇迦様から加護を貰ってます。他にも色々と」
「お、さすがウッカチャンの子。麒麟に鳳凰、白虎に……ありゃ、白鰐と黒鰐に勇魚からも分霊してもらってるんだ」
因果をこねこねして病気を与えたり、大一番の日に病気から人を守ったりする力を持つからなのか、それとも神様や神獣、守護獣達の基本技能なのか、疱瘡神様は大耀さんが貰っている加護を全て言い当ててみせた。気配でもあったりするのだろうか……
「ありがたいことですけど、ちょっと恐れ多いというか、まだまだ未熟な私に加護をくれるなんてって思ったりはしますけどね」
「あーらら。今回のウッカチャンの子は謙遜しいだね。スズちゃんとかトモちゃんとかとは大違いだ」
ま、頑張りたまえー! と大耀さんの肩を叩く疱瘡神様は、続いて俺の方に視線を向けた。
「それで……なんだかとても仲良くできそうな気狂い極めてそうな君は?」
「模歩巡です。禍津日様から加護と呪いを貰ってる現人神です」
「へぇ~、現人神。
「アラハバキです」
天照大御神様から伝えられたアラハバキの漢字は荒覇岐。中々カッコいい名前だが、筆で書くとなると苦労しそうだ。
「アラハバキ……そっかぁ。あの子、ようやく眠れたんだ」
「知り合いで?」
「名前だけしか知らないよ。ただ、怪我や病によって滅んだ村についてアマチャンから話は聞いてたんだ」
……この神様は光の速さでダブルサムズアップしながら疫病をばら撒いたりするが、それよりも病気になった人を助けてあげたいという思いが強い女神様だ。医療が進歩して細菌、ウイルスなどについて知見が広がったことで、彼女の力が振るわれることは現代において少なくなったが、受験生やら大きなビジネス前の社会人やら、新生児がいる家族やらからの信仰があるお蔭で今でも全盛期である。ゲームで神様からの依頼を熟すと聞けるのだが、疱瘡神様は、疫病で滅んだ村を全て記憶してあり、そこに住んでいた者の名前を全部覚えているらしい。
なお、加護を与えた人間に対しては死ぬほど厳しいというか、拗らせた愛し方をしちゃうせいなのか、病気になったら症状を和らげることはすれど、治すことはしない。それどころか病気を重症化させて、その病気を抽出してスキルの効果量UPみたいなことをしてくる。病気で苦しんでる契約者をハートマークが出ていそうな目で見つつも、慈愛と恍惚の表情で抱きしめて寝かしつけるスチルがあるほど、疱瘡神様は、加護を与えた人間に対して拗らせた愛情を示す。そして宇迦様と喧嘩する。主人公を挟んで喧嘩するスチルは変身解除したダディが恐怖の叫びをあげるレベルだ。……でも加護欲しい……加護貰えなくても呪いは欲しい……
だってその拗らせた愛情を除けば耐性無視の状態異常付与やら、状態異常効果量UP、状態異常蓄積値UP、状態異常持続時間UP、被状態異常耐性爆増などの爆アドスキル祭りなのだ。誰だって欲しい。俺だって欲しい。でも体が爆散する可能性があるので呪いだけください。呪いだけでも俺の誉れある戦がさらに加速するというものである。寄こしたまえ……呪いを寄こしたまえ……ユルサレヨ、ユルサレヨ、我らの罪をユルサレヨ。寄こしなさい、寄こしなさい、お前の呪いを寄こすノス。
「ま、君があの子達を継いだってことならいいか。それで? YOURはどうしてこの村に?」
「天照大御神様からの依頼です」
「依頼? ……あ、あの意見箱の。そっか、ウッカチャンの子とか現人神がいるから色々依頼が入ってるんだっけ」
依頼が入るご意見箱は神様や神獣、守護獣達であれば誰でも使えるらしい。どこにあるんだろうか、そのご意見箱。人間には触れられないような領域にあるものなのだろうか。というかどうしてご意見箱に依頼を入れてるんだろうか。
「依頼内容はこの村の怪魔の討伐です。なんか、観光客にまで被害が出るようになったらしくて」
「あー……そっかぁ、それじゃあ仕方ないね! 村の人が納得して、村の人達だけで完結させるならともかく、それは殺すしかないなあ」
疱瘡神様は笑っているが、目が全く笑ってない。いやぁ、これは怖いわ。
「とりあえず滅ぼす? 疫病行っとく?」
「どうせ怪魔殺したら勝手に過疎ると思うんでやんなくていいっす」
村の人間で完結させず、観光客すら巻き込んで甘い汁を吸っているやつらなんて、根本にいる怪魔を殺したら勝手に破滅してくれるだろ。秘密を暴露できればいいんだけど、そんなことしてもでたらめだなんだと言って面倒が起こるだけだろうしなぁ。そもそも何で催淫効果がある香を焚いてんだアアン? って凄んでもいいんだが、面倒だからやらん。
「でもどうするんだい? 怪魔を殺すチャンスは多分夜だと思うんだけど……人が集まるよね?」
「ああ、それは問題ない。そのための俺だ」
「? 模歩君って何かあったっけ」
「俺が誰から加護を貰ってるか忘れたのかよ」
「……あ、そうか。醜怪餓鬼」
合点がいった大耀さんに頷く。
呪い版ではなく、加護版の人魔一戴で醜怪餓鬼を使えば霧を発生させることができる。認識をズラす霧はステルスを要求される状況にて最強。覚えておけ。ソロならぬらりひょんとかいうやべぇやつが最強なんですけどね。でもあいつどこにいるのか分からねぇんだよなぁ。……まぁ、それはそれとして。醜怪餓鬼の霧で周囲を覆い、怪魔がいる本堂へと突撃をかまし、怪魔を滅殺。可能であれば慰み者として捧げられた女性を救出。女性が死なないようにするためなのか、怪魔が女性を犯す時に栄養や回復も注ぎ込むらしく、慰み者にされている人は生きてはいるはずだ。
……最悪の場合救済することになるが。死は救済であるとはよく言ったものだ。化け物に犯され続けた記憶も心の傷も消えない。そんな中で生きていられるような人は中々いない────ともすれば、救済するしかないだろう。ゲームでは生かすか殺すかを選択したが……俺としては……どれだけ苦しんでたとしても、苦しんだ分幸せになってほしいし、生きていてほしいと思ってしまうのは傲慢でエゴイストで、押しつけがましいことなんだろうなぁ。
もし、大耀さんとか、瑞騎先輩とか、虎成さんとかがそうなったとして、殺してほしいと懇願されたとしても、俺は生きていてほしいと言い続けて追い詰めて、最後に自殺に追い込んでしまいそうだ。俺も一緒に死んでやるくらい言えよという話だが、俺が死んでやれるのは人類滅亡ルートの時だけだ。一族郎党及びご友人全員皆殺しにしてから自刃してやるくらいはするが、それ以外じゃ死んでやれん。その覚悟は俺にない。俺と一緒に素敵なご友人達もこの世界に転生していたら、覚悟決まっていたかもしれないけど。
ま、そもそも大耀さんがそうなったら宇迦様がバチクソにキレて世界の法則が乱れるんだけどな! きっと大飢饉とか引き起こされるぞぉ……くわばらくわばら。
「醜怪餓鬼の霧は効果時間が短い。発動して仙妖ゲージ全部使ったとして5分ってところか」
「十分すぎると思うよ」
「どうにもできなかったら私がパンデミックすればいいだけだし」
……そういえば。
「疱瘡神様は権能振り回して大丈夫なんです?」
「ん? ああ、うん。そもそもこれ、今まで起こった病気を私が貯め込んでるのが漏れ出てるだけだし」
ほら、と言って細腕に巻き付けていた包帯を緩めた疱瘡神様。その包帯の中から現れたのは眩しい白い肌ではなく────病によってグズグズに爛れた肌だった。……いや、グズグズというのは生易しすぎる。グズグズを超えた、腐っていないのが不思議なほど爛れた肌だ。
「ッ……」
「人間が誕生してからずっと、疫病で滅んだ村とか、疫病で滅んだ家とかに溜まりに溜まった疫病の因果。それを全部私が貯め込んでるんだ」
「……辛くないんですか?」
「全然。ちょっと痛い時はあるけど」
大耀さんが絶句している。そりゃそうだ。天然痘に結核に赤痢に麻疹にコレラ……疫病として恐れられ続けた病気の因果なるものを、疱瘡神様が全て背負っているというのだから。もう痛々しいを通り越している肌の爛れ具合は、もう痛覚が消し飛んでいるとしか思えないレベルだ。
「もちろん因果を私が持ったとしても、ウイルスとか細菌がいなくなったわけじゃないよ。ただ、因果を私がもらうことで、感染っていう因果を私に集めて、他に伝播しないようにしてるだけ」
つまり、疱瘡神様が耐えることができずに全て解放した場合……世界は未曾有のパンデミックに襲われるということだ。サンキュー疱瘡神様。でもちょっと溜め込みすぎは良くないと思うぜ疱瘡神様。
「まぁ、私だけじゃないよ、そういう役目を負ってる神様とかは。苦にしたこともないし。あ、ごめんね、見苦しいの見せちゃった」
気持ち悪いよね────そう言ってケラケラ笑う疱瘡神様を見て、俺は、再び包帯で隠されようとしている腕を掴んだ。
「うべごぁ゛っ!?」
まぁ、案の定というか俺の積み上げた状態異常耐性を貫通して劇毒が付与されたよね。解毒ポーションがぶ飲みで解除されるけど、中々凄まじいなこれは。
「え、何してんの……こわ……」
「げほっ……気持ち悪くないです」
「……へ?」
「全然気持ち悪くないですよ、疱瘡神様」
呆けている疱瘡神様の腕にもう一度手を伸ばそうとした瞬間、疱瘡神様がハッとした表情を浮かべて俺の手を弾いた。
「またお触りしようとしたでしょ!? ダメダメ! お触り禁止!」
「くっ……状態異常耐性を限界まで高めるチャンスが……!」
「気でも狂ってる??」
ダブルピースorダブルサムズアップで疫病ばら撒くあんたに言われたくないです。
「気持ち悪くないどころかむしろ凄いって思いましたよ」
「凄い?」
「誰にでもできるもんじゃねぇでしょうよ、病気をずっと背負い続けるなんて」
いや、本当にマジで。俺が疱瘡神様の立場だったら、もう初回で耐え切れずに殺してくれと泣き叫んで狂ってしまうところだ。だが、疱瘡神様はそんなことをせずに役目を果たし続けている。疫病の神だ何だと人間から恐れられ続けても、腐ることなく役目を全うしている。俺からすればスタンディングオベーションものの偉業だよ。
「だから俺は疱瘡神様を尊敬します。いやマジで。なので呪いください」
「明け透けだなぁ君」
「神様相手には本音しか話さないようにしてるんで」
なお、真実は隠していたりするものとする。転生のことを知ってるのは禍津日様とゲリュオンとクリュサオルだけ。……おいそこの王子様系主人公とその女神と俺に加護くれてる女神様、「うわぁ、女たらしだ」みたいなことをこそこそ言うの止めろや。聞こえてんぞ。
『ヒヒッ、聞こえるように言ってるからなぁ?』
「模歩君ってもしかして、女の子相手にいっつもそんな感じなの?」
「女の子には優しくするもんだろ」
「ボルシチダイナマイト」
「ODじゃないから優しくしてるだろうが」
「優しくないからね!?」
『先が思いやられますね』
喧嘩か? 喧嘩だな? 買ってやるぞ低価格で。
「……凄い、かあ……久しぶりに言われたな、それ」
「あん? 何か言いました?」
「何でもないよ。……よし、このホッチャン、やる気出しちゃるぞー! 目指せ一族郎党パンデミックで生き地獄!」
それはおやめください。やる気があるのは結構ですが、鎮まり給え鎮まり給え。さぞ名のある神と見受けられるが、何故そこまでやる気に満ちて荒ぶるのか。
疱瘡神様に凄いやつと言ったのは神様の他にも人間にいます。源為朝って言うんですけど。