恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
そして我らが気狂いの防具イメージはちょっと金属部分が増えて牙狼味が追加されたアンスバッハ一式
夜。村の祭りが始まる頃、俺達は借りている部屋の中で、茶屋の店主であるお爺さんとお婆さんが用意してくれた料理に舌鼓を打っていた。何とも落ち着く味わいだが、滋味があり、腹の奥底から力が湧いてくるような料理だ。
「こんなに美味しい料理、本当に無料でいいんですか?」
「構わないよ。この祭を終わらせてくれるというなら、儂らは何でもするとも」
「厨房にいる衆も同じ気持ちさね。遠慮せず食べんしゃい」
そう言って好々爺じみた笑みを崩さないお爺さんとお婆さん。装備の整備をしている時に差し入れで団子やお茶を持ってきてくれた時に話を聞いたのだが、この茶屋兼お宿は、この村の因習によって家族や恋人を奪われた男衆、その姉や妹、父母、祖父母などが集まっている場所だったようだ。
ここを下宿先や職場としている人々は表立って反抗しているわけではないが、祭をどうにか妨害できないかなどを考えたりしていたレジスタンスのような集まりだったらしい。それと、ここに泊まりに来た見目麗しく、年若い女性やカップルに睡眠薬を盛ってこの村から逃がしたりするなどをしているとか。なるほど、だからこの場所だけ香が焚かれていないどころか、臭い消しや厄除けみたいな盛り塩が色んな場所においてあり、こうして俺達に協力してくれるわけだ。
「お嬢ちゃんをあの場に送るのは気が引けるが……あんたらは行くんだろう?」
「はい。この村に住む怪魔を討伐するのが、私達の為すべきことなので」
大耀さんの心にやる気スイッチが入っている。昼間、この茶屋で働いている人達から話を聞いて、怒りに震えていただけのことはある。娘を守れなかった、恋人を守れなかった、姉や妹、可愛い孫娘を守れなかったなどといった境遇の人達の言葉を聞けば、誰だってそうなる。俺だってそうなる。
「そうかい。……お兄さん、あんた、お嬢ちゃんを守ってやってな」
「言われるまでもなくです。大耀さんは俺の大事な友達で、仲間ですから」
正直大耀さん単騎で殺せる気がしなくはないが……守るというか背中は任せろ的な感じの意気込みはしっかりと持っている。それ以上に裏ボスからドロップするであろうたくさんの素材が楽しみで仕方がないところはあるが。
「それと、生け贄にされた人達のことなんですが……」
「どんなことになっていても、儂らは受け入れるよ。……ああ、受け入れるとも」
「……分かりました」
これで救済の必要は無くなったと見ていいだろう。正確には、俺か大耀さんの手で救済する必要が無くなったと言うべきか。俺の予想が正しければ、生け贄に捧げられた女性は大体生きているはずだ。裏ボスは自分の欲望を満たすために世界征服を目論んで、そのために捧げられた若い女性を苗床にして怪魔を増やしていた。増やし続けても場所がなくなるだけでは、という話なのだが、裏ボスは生まれた怪魔に穴を掘らせて地下の洞穴を作っていたはずだ。なお、共食いしまくって数が激減し続けており、裏ボスはそれに気付いていない。生まれた怪魔を洞穴に送っては、共食いが始まり、増えるよりも減る方が早い。何してんだこいつら……しかも共食いして一体だけになったとしても雑魚である。何をどう考えたら世界征服できると思ったんですか?
まぁ、そういうゲームで見てきたメタ観点から考えて、生け贄にされた女性が死んでいる可能性は限りなく低いと見ていいだろう。ゆえに、救済が必要な可能性もあるわけだが……もしも救済を乞われても、それをやるのはこの宿の人達の役目となった。……正直、この人達が救済することも、生け贄にされた人達が救済されるのもあんまりよくないと思ってるんだけど、この人達がそれを選択するなら、部外者である俺が何か言えるわけもない。俺個人としては、生きていてほしいと思うんだけどなぁ……生け贄によって失った時間を取り戻していくのも、幸せの一つだと思うんだけど……これは俺の押し付けだし。
料理と共にエゴを飲み込み、装備を手にした俺は、少し遅れて食べ終えた大耀さんが頷いたのを見て、この祭りを終わらせるために行動を開始する。
「じゃあ、行ってきます。自称神の怪魔をぶっ殺しに」
「よろしくお願いします……どうか、この村の因習に終止符を……」
見送りを背に受けつつ、開け放った窓から昔ながらの屋根へと飛び移った俺は、祭りの会場であり、生け贄が運ばれる場所なのであろう華美な装飾が施されているのが遠目でも分かる神社────いや、あれは寺か? ……まぁ、どっちでもいいが、とにかく豪華な建物を見据えて加護版の人魔一戴を発動する。使うのはゲリュオンとクリュサオルではなく、醜怪餓鬼。香が焚かれて変な匂いがする村を、俺の体から放たれる霧が飲み込んでいく。さすがボス級怪魔の人魔一戴。香すら飲み込んで換気したかのように新鮮な空気が俺達の肺を満たしてくれる。
「ヘエ、換気デキンノナ、コノ人魔一戴」
「模歩君、なんか言葉変じゃない?」
「アー……うん、声帯がまぁまぁクソ過ぎて出しにくいわ、声」
やっぱ呪い版運用メインだな、醜怪餓鬼は。その点ゲリュオンとクリュサオルはすげぇよな。呪い版と加護版どっちも使い勝手がいい。
『私の力とクリュサオルの力を分けて使えるようになれば、貴様はさらに強くなるだろうよ』
「そういやお前らってセットだけどセットじゃねぇのか」
ということは、ゲリュオン単品とクリュサオル単品でもまた人魔一戴の姿が違うし、使い勝手が違うということか。これはまたタスクが増えたと言っても過言ではないな。どうやって分けて使うのかは……後で色々検証必須。
「まぁ、検証はまた今度だ。行くぞ、大耀さん。霧が晴れるまで5分くらいだ」
「十分過ぎるよ」
格上相手には通用しない霧だが、この村に住む人間は戦士でもなんでもないただの人間だ。見ろ、距離感やら平衡感覚やら認識がバグったりズレたりした結果、ぶつかって小競り合いが起きている。お互いに謝って気を付ければいいだけだというのに、それができない民度の低さ……これが人の醜さかぁ……人の業さんが見たらスンッ、ってなってそう。
「ま、この醜さが今は救いだな。誰にもバレずに堂々と走れる」
「模歩君、目が怖いよ」
大耀さんが取り出した手鏡を確認。……ふむ。
「ストファ中こんなだろ、俺」
「そんな虚無顔は見たことないけど!?」
「100先やってる時はこんなんだぞ。俺もローズ先輩も瑞騎先輩も」
「10先しかやったことないから分からないよ、私は……」
大丈夫だ、そのうち大耀さんもこういう表情でストファをやる日が来るからさ……100先やるとな、雑念が消えていく感じがするんだよ。そしてあと少しで勝てるというタイミングで負けた瞬間、もしくは勝った時の何もかもが抜け落ちていくあの感覚が忘れられなくなる。それを味わいたくて100先やってるところがある。
まぁ、大耀さんを100先の沼に引きずり込むのは後にして、今はもう目前まで近付いている豪華な建物にどうやって入るかだが────祭りの会場なだけあって人が多い。距離感がバグっていたりしてちょっとした小競り合いは起こっているが……それでもあそこを突っ切るのは中々勇気が必要というか…………ん?
「おい、昼に見た娘はまだ見つからないのか!」
「総出で探してるが見当たらねえ!」
「あれだけの上玉だ。きっと例年よりも恩恵を下さるぞ。さっさと探して捕まえてこんか!」
「もしかしたら、もう捕まえて、お楽しみ中かもしれねぇな。俺も探す役に参加すりゃよかったぜ」
「ああ、あの体を好きにできたら最高だろうなぁ。胸もデカかったしよ」
……なんか小競り合いの理由が醜怪餓鬼の霧じゃねぇなこれ。十中八九大耀さんを探してやがるなこれ。霧が発生していることなんて気にすることなく、大耀さんを見つけることも捕まえることもできていない現状に苛立ちを覚えている……という感じか。見ろ、大耀さんの表情を。気持ち悪いものを見たような表情をしていらっしゃる。
「大耀さん、顔。顔が虚無虚無してる」
「いや……だって……そうならない……? 気持ち悪いし」
「直球で笑っちゃうわ。分かるけど。とりあえず精神安定用の霊薬飲むか?」
「ありがとう」
闇堕ちの気配……は無いな! ヨシ! でも大耀さんを不快にさせたことに対してはオニイサンユルサナイヨ。とりあえず去勢行っとくか? どうする? 処す? 処す?
見ろ、大耀さんだけではなく、宇迦様も表情が無である。怒る気にもなれないという感じか? 存在してはいけない生き物を見た時みたいな表情になっていますよ宇迦様。ゲーム本編でもこんな表情する宇迦様はいただろうか?
さて……どうやってこの醜悪極まりない人の欲望のごった煮みたいなエリアを突破しようかな、と考えていたその時だった。
「────え?」
突然、ギャーギャーと騒いで大耀さんを探していた村人が、全員吐瀉物を撒き散らしながら気絶したではないか。死んではいないようだが……中々エグい気絶の仕方である。常人よりも五感が優れている戦士の視界で連中を見てみると、何やらポツポツとニキビのようなできものが浮き上がっていた。
「……天然痘か、あれ」
「ご名答! ま、凄く弱いものだから死にはしないよ」
そう言って天から降ってきたのは、真っ赤な着物を着た真っ赤な瞳の美少女。腕の包帯が緩んでおり、隙間から爛れ切った肌が露出している彼女は────
「疱瘡神様!」
「弱めの天然痘って……そんなことできるんですか?」
「ちょっとアマチャンに許可貰いに行ったら珍しい神が来ててさー。ちょっと協力してもらってんの。私は出力操作できないからねい」
「珍しい神?」
はて、疱瘡神様が珍しいと言うような神なんていただろうか? 性格的な面や、どこにでも現れるという観点から色んな神に会う機会がある彼女が珍しいと言う神……もしかして、日本の神様じゃないのか?
「……汝らが、疱瘡神の言う友人か」
「「!?」」
突如として背後に凄まじい気配を放つ存在が現れ、思わず武器を構えて振り向いてしまった。そこにいたのは、異形のイケメン。立派な鬣を持つライオンの頭と腕、大きな四枚の翼に、サソリと蛇の尾を持った異形だ。だが、怪魔特有の気配は感じず、むしろ神聖さと厳格さを感じさせる。この異形のイケメン、もしかしなくても神様だな?
「……豊穣の女神と、禊の女神の加護を持つ人の子よ、名を聞きたい」
「大耀明日夢」
「模歩巡」
「陽光に明日を夢見、模倣し、歩み、巡る……良い名だ。我が名はパズズ。アッシリア、バビロニアにて人を見続けた魔神である」
パズズ……聞いたことがない名前だ。あとで神話を調べてみるか。アッシリアとバビロニアがどこにあるのかは知らないが。というか俺達の名前への想像力というか表現力豊かだなこの神。
「同じ病気の神だからさ、ちょっと協力してもらってるんだ。私が発生させた病気を」
「……我が熱風にて巻き上げ、弱く、脆い因果を結び、操る」
うわ敵に回したくないコンボだ。だが、これはありがたい。見つかってもあいつらは天然痘に苦しめられているせいで上手く動けず、大半は吐瀉物にまみれて気絶している。……天然痘って、嘔吐の症状も出るもんなのか? 天然痘なんて根絶された病気らしいからどんな症状が出るのかなんて分からねぇ……これについても今度調べてみるか。
「ま、朝になる前には症状が治まって復活すると思うよ。というわけで、行っておいで」
「……行くがいい、人の子よ。為すべきことを為せ」
パズズ様が放った風が、俺達の体を巻き上げて、絢爛豪華な建物の扉まで運んでいく。しかも、病気になるどころかパズズ様の風が、状態異常耐性を引き上げてくれている。ここまでお膳立てされたら、もう目指すしかないでしょ、完全勝利。
「霊薬ブーストは問題なし、アクティブスキル、パッシブスキル各種も……よし。大耀さんはもう大丈夫か?」
「うん、大丈夫。行けるよ」
「よぉし、ボス戦だ。ぶっ殺してやるわ」
華美な装飾が施されている扉に対し、俺と大耀さんが行った行為はというと。
「「フッ────!!」」
全力全開の蹴りを叩き込んで開門することだった。なお、大耀さんが蹴り飛ばした扉は勢いよく開け放たれたが、俺が蹴り飛ばした扉は金属部分がピンポイントでぶっ飛び、大広間の中央にいた動く肉塊みたいな怪魔の顔面にぶち当たった。
「ちょっと模歩君、ここはカッコよく決めるところだったと思うんだけどな」
「悪い、ミスった。アコレード使うべきじゃなかったわ」
「まぁいいんだけどさ。……うわ、イメージより100倍は気持ち悪い。あと悪趣味」
ブフー、ブフー、と痛みに悶えている怪魔の周囲には、怪魔の肉で四肢を固定された状態で虚ろな表情を浮かべる若い女性がいた。……思っていた通り、若さは保たれているし、生かされていたか。エロ同人でもここまで悪趣味なものはない……と思うが、どうだろうか? 苗床界隈に詳しくないから、これが普通だったりするのか? 中々業の深いジャンルな気がするな、苗床界隈。
「とりあえずぶっ殺してやるよ、えーと……ぬっぺふほふだったか? 呼びにくい名前しやがって」
「ブフー、ブフーッ! ソ、ソソ、ソノ女、ヲ、ヨコセェエエエエ!!」
「誰が渡すか雑魚が」
「生理的に無理」
はっ、フラれてやんの。
ぬっぺ
なんだかよく分からない妖怪筆頭。この世界では裏ボス怪魔。耐性値が高い、怯み値も高い、体力も多いの三拍子揃っているだけではなく、再生能力も備えている。なお戦闘力はそこまで。迷宮にいたら他の怪魔の餌になってるレベル。なお、通常個体よりも巨大化しており、タフ。
大耀さん
茶菓子同好会のメンバーと一緒にいる時は王子様系な感じが薄れている。曰く、いつも王子様系は疲れる。
天然痘
人類史上初めてかつ、唯一根絶されたとされる病気。とにかくヤバイ病気。致死率脅威の20~50%。感染力も強く、罹患者から落ちたかさぶたであっても一年以上感染力を持つとされている。世界中で多くの死者を出したとんでもない病気。そりゃ疱瘡神などの信仰が生まれるわというレベルの病気。日本でも大流行したことがあったそうな。何度でも言うが、とにかくヤバイ病気。なお化学療法や対症療法も確立されている。種痘というワクチンも作られているし。
パズズ
アッシリアとバビロニアの栄枯盛衰を見届けた魔神。声のイメージは想像に任せた。最近は隠居して世界を歩き回っている。ちょうど日本に来ていて、疱瘡神のお願いを聞いて病気の出力調整をしている。終わったら奥方と熱海に行くつもり。
パズズと奥方どちらも人類に加護を与えることはないが、加護の内容は状態異常耐性と回復系。どちらかと言えばサポート系のスキルが充実している。