恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
そして別世界と繋がった場合、「お前が羨ましい!」、「なんでお前だけ!」と自分殺しが起こりかねないのがこの世界の大耀明日夢ちゃんです。そしてその余波で刺される可能性がある男、それが気狂いです。もしくは拉致られる可能性もある。それが気狂いです。
「ヨコセェエエエエエエエエ!!」
ぬっぺふほふの攻撃パターンは触手で叩き付ける、触手で薙ぎ払う、触手を使って拘束する、触手を使ってパチンコの弾のように飛ぶなど、ほとんど脊髄反射で回避できるようなものばかりで構成されている。動けるデブというわけでもなく、攻撃速度も遅いので、見てから回避余裕である。ただ、捕まっている女性を目隠しにして死角から攻撃してくる時があるので注意が必要。
なお、死角からの一撃は女性アバターにのみ行われるため、大耀さんの背中を俺が守れば問題なし。ちなみに死角からの一撃を回避した後、とんでもない隙を晒すので、死角からの一撃を誘発するのも攻略法の一つとして確立されている。
「模歩君、血!」
「あいあい」
喰い裂き丸の刃で少し腕に傷を付けて、流れた血を大耀さんの武器に纏わせる。自分以外にエンチャントすると出力が安定しないのがエンチャントの難点だったが、エンチャントを付与した後、制御を武器の持ち主に一任すれば出力が安定することが判明したので、俺は俺で別のエンチャントを喰い裂き丸に付与する。ぬっぺふほふの弱点は無い────というわけではないが、物理及び魔法属性耐性、状態異常耐性がとにかく高いせいで、弱点属性も弱点なのか分からないくらい効きが悪い。しかも再生もするというクソボスっぷり。だが、それでも我々プレイヤーからレア素材をたくさん落としてくれるサンドバッグとして扱われていたのには理由がある。
「まずは一発!」
喰い裂き丸の変形機構を起動し、ぬっぺふほふの肉を引き裂く。うん、想定していた以上に傷が浅いな。ただ、血は出た。血以上に脂肪なのかよく分からない液体が噴き出た。うーむ、正直気持ち悪いんだよなぁ……
「無駄ダ! 傷ナンテ、スグ治ル!」
「ああ、リアルタイムで見てる」
そして予想通り再生した。うん、そうだな。そういうボスだからな、お前は。だが、お前を攻撃すればするほど、俺達にメリットがあるんだよ。てめぇがどう変化しようと、根本は被捕食者側の怪魔なんだってことをてめぇは忘れてるんだろうがな。
喰い裂き丸の斬撃に潜り込むように切り込んだ大耀さんの死角になっている場所に注意しつつ、切り裂いて切り取った肉片を何の迷いもなく飲み込んだ。
「味の薄いビーフジャーキーみてぇな味」
『恐れを知らんな貴様』
『ヒヒッ、怪魔の肉を躊躇いなく行くとかイカれてんなぁ』
「じゃかあしい」
ぬっぺふほふが周回されていた理由は、やつが素材をたくさん落とすということもそうだが、運営が用意してくれた超便利な攻略方法が存在しているのが大きい。ぬっぺふほふを殴り続けていると、『ぬっぺふほふの肉片』という、使うと攻撃する度に攻撃力がどんどん上昇していくという効果が付与されるアイテムを一定確率でドロップするのだ。なお、これを使わなくても、再生が追い付かない速度で攻撃ができるなら殺せるし、怯みハメループも確立されている。再生が追い付く前に殺せばいいというビルドをやっていたのは素敵なご友人、麗良である。もうあいつが現代のヘラクレスでいいよ。
ちなみにスリップダメージと防御割合貫通魔法を撒き散らすビルドと状態異常ガン積みビルドで再生を食い止めるとさらにキルタイムが縮まる。禍津日ビルドか一人ロックバンド音ゲービルド一人でやったら大体5分で終わるところが、三人でやると大体1分半で終わる。偉大なるメイケイオス遥斗とインテリ蛮族麗良を崇めよ。そして、パリピイケメンボーイズが防具や喰い裂き丸などの他に作ってくれた新武器を崇めよ。
「大耀さん、交代」
「任せた!」
曲剣と棍棒の二刀流でぬっぺふほふを切り刻み、ぶん殴り続けていた大耀さんと入れ替わり、ぬっぺふほふの懐に潜り込む。
「お披露目と行こうか! 妖蜂砕花!!」
「ブゲェッ!?」
「オラオラオラオラオラオラァ!!」
分厚い脂肪が固まったような肉塊の奥にある、怪魔の心臓部分に当たるアムリタ結晶に攻撃を浸透させるように、一発一発に全体重を乗せて拳を放つ。もちろん素手ではなく、肘くらいまで装着されているガントレット付きの拳だ。パリピイケメンボーイズが防具作成と並行して造ってくれていた格闘武器、
「ドリームコンボはできねぇが、色々混ぜてぶん殴ってやるよォ!!」
「アアアアアアアアッッ!! 鬱陶シイゴミガァアアアアアア!!」
「そんな眠っちまいそうな攻撃が当たるわきゃねぇだろうが!」
刹那無心流の拳術、格ゲーの技各種に、戦士になってから身に着けた喧嘩殺法など、様々な動きを混ぜ合わせて攻撃を叩き込んでいく。内部に、深く、重く、浸透させるように打ち込み続ける。そして、ヘイトを買い続けている俺ばっかりに注意しているとだ。
「我が器に宿りし神なる力……集うは麒麟、鳳凰、勇魚、白鰐、黒鰐────束ねるは我が女神、宇迦之御魂神……!!」
後方で大技の準備をしている大耀さんのいい的になってしまうわけだ。まぁ、こいつは体が肥大化し過ぎて動けやしないので、外れるなんてことは考えなくていいんだけどな。誤射? 人質? させねぇよ。そのためのデュオだよ。
「全加護並列解放!!」
そして大耀さんが準備していたそれは、ゲームじゃ地雷技の一つとして誰にも使われなかった悲しき必殺技。だが、この世界においては、格上殺しすら成し遂げる可能性のある超必殺技。
『空間事象固定、因果律、収束』
宇迦様が、大耀さんの背後に顕現し、眼前の敵を滅するための力を解放する。
この必殺技は、豊穣の女神の加護を得た人間のみが、主人公だけが許された、神の喉笛にすら手が届くかもしれない、絶対破壊の一撃。どのような因果があったとしても、その因果を捻じ曲げて、必ず当たる。ただし、ゲーム本編の威力は(貰っている加護の数×1.25)×レベルの威力だった。
「これが私の、全力だぁああああ!!」
気合の籠った叫びと共に現れた神聖な力を帯びた剣を、大耀さんがまるで投げ槍のようにぶん投げる。その剣は真っ直ぐ、ただひたすら真っ直ぐぬっぺふほふの心臓がある場所に飛んでいき────深々と突き刺さった。
「女ァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
「ッ! 核に届いてない!?」
深々と突き刺さった剣から放たれる力が、やつの内部で荒れ狂う中でも、再生しながら大耀さんに向けて大量の触手を伸ばす。ゲームでもそうだったが、やはりしぶといというか、無駄に生きることに特化している怪魔なように感じる。ワンチャン養殖場とかあるんじゃねぇのか、迷宮のどこかにさ。
まぁ、それはともかくとして、だ。俺のラッシュ後にあの必殺技を喰らったせいなのか、あの必殺技自体にそういう効果があるのか……ぬっぺふほふの再生が非常に遅くなっている。それにぬっぺふほふ自身が気付いているからなのか、加護を全部使ったことで戦士としての力が全て封印状態となった大耀さんを捕らえて力を得ようとしているらしい。女性を犯すことで力を増すというのは、エロゲーの敵としては悪くないコンセプトなのだろうが、不愉快なのでさっさと死んでもらおう。そして素材をよこせ。
「フィニッシュ行くぞオラァ!!」
妖蜂砕花を装備した両手の指を組み、変形機構を起動────右腕にガントレットが纏まり、巨大な蜂の針を模したパイルバンカーが姿を現した。物理法則がどうなっているとか、そういうのは考えてはいけない。ロマンはロマンなのだ。
「終わりだR18禁野郎!! パイルバンカーを喰らいやがれぇええええええッッ!!」
深々と突き刺さった剣の石突きに極太の針を突き立て、極太の針が凄まじい勢いで射出されると共に剣が、さらにぬっぺふほふの内部に食い込み────バキンッッ! と何かが砕ける鈍い音を響かせ。
「ヒ、ィギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!??」
ぬっぺふほふが醜い断末魔を響かせながら爆散した。こういう女性を犯すタイプの怪魔っていうのは爆散するのがトレンドなのだろうか? お、レア素材だ。うーん……しかし、あんまり美味しくねぇな、ぬっぺふほふ。ゲームならもっと美味しいボスだったんだが……美味しいのは強化個体の方だったか? 正直この世界で強化個体は出てきてほしくないから、迷宮で家畜になってどうぞ。
「えーと、お包み用の布が一枚、二枚、三枚……」
「多い。多いよ模歩君」
「こんなんいくらあってもいいですからね!」
「いや流石にこの量は多いって!?」
甘いぞ大耀さん! 若さも健康も保たれていたとはいえ、怪魔に捕まって苗床にされていたのだ。肉は消滅したし、本体が絶命したことで腹の中にいた怪魔も、地下にいた怪魔も消滅しているはずだ。しかし、心に傷を負った女性を包む布は何枚あっても足りねぇ! そして心を癒すための薬湯もいくらあっても足りねぇ!!
「ポーションに、薬湯に……あ、記憶抹消霊薬で記憶消せば……いや、期間が長すぎて消し切れねぇな」
「模歩君、そもそも記憶抹消の霊薬ってどんな霊薬よりも劇薬だよね? 一般人に使っていいの?」
「何千倍に薄めねぇと使えねぇ」
記憶抹消霊薬は、霊薬の中でもマジもんの劇薬であり、取り扱うための資格が存在しているレベルの代物だ。一応俺は取りました……戦士は霊薬などの資格取得のための年齢制限が緩和されているので、死ぬほど猛勉強して資格を取った。老後に役立つかと聞かれたら怪しいが。
「だからこそこの人達の心のケアってやつが難しいんだよ」
「……だろうね」
か細い声を発している人や、小さい声で誰かの名前を呼んでいる人、声を出す気力もなくなって虚ろな目で虚空を見ている人……数にして26人……この村の歴史と、レジスタンスの人達の数を考えれば、もっとたくさんの女性がいてもおかしくはないが……ぬっぺふほふの気に触れたのか、それとも出産の負担に耐えることができずに死んでしまったのか、それとも精神崩壊を起こして死んでしまったか……とにかく、惨く、悍ましいことが起こっていたのは間違いないだろう。
「とりあえずぬっぺが落としたドロップアイテムは、あのお宿の人達に渡そうか」
「そうだね。きっとあの人達はこの村を出ていくだろうし……」
この村を出て、新天地でこの女性達を養療しながら暮らしていくことになるだろうから、市場に売れば間違いなく大金になるこのレア素材の数々はお宿の人達に譲ろう。譲るというか、押し付けよう。この先、新天地に行くことになれば何かとお金は必要だろうからな……家を建てるのにも、どこかで仕事を始めるのにも、資金は多い方がいい。
「とりあえず終わったことを伝えに行かないとな。この女性達をどうやって運ぶかだが……」
「ゲリュオンとクリュサオルの戦車に乗せたら?」
「その手があったか。頼めるか?」
『無論だ。彼女らをあの宿まで運ぼう』
『ブルッ』
ゲリュオンとクリュサオルが実体化し、戦車を召喚したところで、俺達は女性達を何名かに分けて戦車に乗せていく。
「帰、れるの……?」
「ええ、帰れますよ。あなたの帰りを待ってる人がいます」
「生きてる……? どうして……?」
「ごめんなさい、助けに来るのが遅くなってしまって」
「ぁ……ぁ……ぁぁ……」
「大丈夫ですよ。ゆっくり、そう、落ち着いて。大丈夫です」
生け贄にされた女性達に声をかけながら、少しずつ戦車に乗せては宿に送る。ちなみに建物は先程ゲリュオンが「邪魔だな」と言って建物を全て豆腐でも斬るかのようにぶった切った。なんだこいつ。
運搬を繰り返すこと5回。女性を全員宿に送り終えて、廃虚となった建物の外に出た俺は、未だ病気で気絶している村人を一瞥した後、大耀さんに声をかける。
「大耀さん、加護は?」
「まだもう少し時間がかかる、かな。ステータスのロックも、あと数分かかりそうだし」
「そか。なら俺が運ぶわ」
「うん、お願いしてもいいかな」
恐らく大耀さんを探していた村人は全員疱瘡神様とパズズ様によって気絶しているのだろうが、万が一ということもある。宿まで俺が運ぶのが一番いいだろう。
百鬼夜行でそうしたように、大耀さんを抱えながら屋根の上を早足で移動する。走ると多分大耀さんが酔う。
「……ね、模歩君」
「ん?」
「もし、もしもだよ。私とか、翡翠先輩とか、琥珀ちゃんとか……誰かが、さ」
そこまで言った大耀さんは言い淀んだ後、口を開く。
「さっきの人達みたいになって、殺してほしいって言ったら……君はどうする?」
「あ? 殺さねぇよ。殺したくねぇよ、俺は」
「どうして?」
どうしてってそりゃ、お前……
「大切な人達を殺したいなんて思うわけないだろ。死なせないし、殺さない」
「……そっか」
「舌噛んで死のうとしたら何かで口塞いででも止めるし、四六時中ずっと一緒にいて死なないか見るからな」
「重いよ」
「まぁ、殺してくれじゃなくて、一緒に死んでくれだったら……」
「……どうするの?」
「まぁ、時と場合にもよるけど、死んでやるくらいの覚悟はあるぞ」
なお人類滅亡ルート限定のお話である。でも……どうだろうな。本当にそういう状況に陥ったら……もしかしたら、億万が一の確率で、心中を受け入れてしまうかもしれない。俺は心が弱い男だ……美人のお願いには滅法弱いんだ……でも生きていてほしいから、みっともなく泣き喚きながら縋って生きてほしいと懇願する確率の方が高い気がする。
大事な人が死を選ぼうとしたら恥も外聞も捨てて縋りついて泣き喚いて「頼むから生きてくれ」と懇願する男、それが気狂い巡。