恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
俺の記憶が正しければ、というのが枕詞に付くが。一つ目のダンジョンである『亜人の洞穴』をクリアする、またはボスのHPを半分まで削る、もしくは15回以上死亡するなど――――特定の条件を満たすと、学園の施設が色々と解放されていくのが『討魔』というゲームである。せめて10回にしてくれ、というプレイヤーの声に応えて次回作では10回死亡でも施設がアンロックされる仕様となった。それでも10回かよ、とは言ってはいけない。初代から10回死亡でアンロックされるスキルなんかもあるのだ。いわゆるガッツというやつである。体力調整にガッツを使う人もいた。俺を含めた気狂いだ。
最初のダンジョンを攻略することでアンロックされるのは、パーティーメンバーを選ぶことができるシステムや、仲間の強化システム。ソロに慣れると一部例外を除いてNPCが邪魔になったりするがそれはそれ。そもそもNPCを連れずにダンジョンを攻略するのは、俺を含めた一部の気狂い達だけであって、一般プレイヤーの多くはNPCを連れてダンジョンを攻略するし、好感度を稼いでスチル解放とかを行う。というかそういうゲームなのだ。死にゲー要素が強すぎるだけで、恋愛要素がメインのゲームなのである。死にゲー要素が多すぎるだけで。
さて、この同行者というシステム、どんな属性にはどんな技がある、というのをある程度確認することができたり、スキルを見たことでスキルツリーが解放されたりするというメリットがあるのだ。周回を重ねた場合にのみ出現する高位のスキルや神様や神獣も存在するため、一周目だけ遊んで終わり、というのは本当にもったいないプレイの仕方である。実際、俺が愛用していた加護や武器や防具、スキルなどは二周目以降にしかアンロックされない。この世界だとそんなことは無さそうではあるが……ちょっと心配である。ループ物ではなかったはずなのだが。
「それで……彼女はどうだった?」
学園の近くにあるジャンクフードショップで注文したオレンジジュースを飲みながら、ゲームのシステムとかストーリーを思い出していると、向かいの席に座っている女性にそう問いかけられた。彼女、というのは間違いなく我らが誉れ高い主人公ちゃんたる大耀明日夢のことだろう。
「誉れ高い戦いぶりでした」
「なるほどね。いい子みたいで安心したわ」
「おや、瑞騎先輩も外道戦法肯定派でしたか」
「勝てばいいのよ、勝てば」
そう言ってにっこりと笑う翡翠のように綺麗な瞳を持つ女性。彼女こそ我らが聖人キャラ、瑞騎翡翠先輩である。加護を与えているのは麒麟。首の長いあいつではなく、神獣の方である。属性は光属性で、回復よりも攻撃が得意な先輩だ。初見でこんないいとこのお嬢様然とした人が、雷をぶん投げているのを見て驚いたのは俺だけじゃないだろう。雷をぶん投げるってなんだよ。
『翡翠の言う通り勝った方が正義よ』
瑞騎先輩の横に現れた馬のような、竜のようなよく分からない姿の生き物が笑う。彼女────彼女? が瑞騎先輩に加護を与えている神獣の麒麟だ。某ビールのせいで金色なイメージがあるんだが、この世界の麒麟は銀色である。銀色……鋼色……とにかくそういう感じの色。
「麒麟様もそっち側かい」
「『そういうあなたは?』」
「毒も呪いも罠も使いますが何か?」
ロックオンできるのが悪いを地で行く俺だぞ。何でも使ってミンチにするくらいするわ。
「君はステータスも上げないとダメよ」
「それはそう。でもズレが気になるんですよねぇ……ズレの修正ってどうやってるとかあります?」
「基本的には迷宮かしら。それか自分と同じくらいのレベルの人に修正を手伝ってもらうとか」
「なるほど……」
となると、レベルを上げた後すぐに高難易度ダンジョンに飛び込んで、ズレを修正するって動きはアリかもしれない。正直な話、現状の俺が高難易度ダンジョンに突っ込んだら一瞬で爆散する。そんなことになったらレベリングなんてできたものではない。スキルの熟練度だけが上がって、俺の経験にはならないのではレベリングもクソも無いだろう。
「ところで、新しい鉈を買ったって聞いたけど」
「あ、はい。いい買い物でした」
武器を手に入れる方法は大きく分けて3つ。学園の購買で売っているものを購入する、学園の外にある鍛冶場で武器を作ってもらう、ダンジョンに転がっている朽ちた武器を持ち帰ってアムリタぶち込んで復活させること、の3つだ。朽ちた武器はダンジョンの袋小路に落ちていたり、ボスがドロップアイテムとして落としたりすることが多いが────まぁ、中々手に入るものでもない。復活させた朽ちた武器はかつての英雄が持っていたとされる武器と似たり寄ったりな力を持っているものが多く、ぶっ壊れ装備だったりするのもあって中々手に入らないのだ。
今回俺が購入した鉈は、鍛冶場で作ってもらったものだ。所持していたアムリタの半分以上を持っていかれたが、その分の働きが期待できるというものだ。
「どんな鉈?」
「炎刃の鉈です」
「あら素敵な名前」
『炎の力が仕込まれてる……ってわけではなさそうね』
「こう……刃が波打つようになっていて、傷が治りにくいってやつですね。フランベルジュみたいな」
だったらフランベルジュ買えよって話かもしれないが、フランベルジュは高いし鉈より重い。大剣はロマンだから使ってみたい気持ちはあるんだが……鉈に慣れてしまった俺では持て余してしまうだろう、というのが本音だ。
「それと遠距離武器買いました」
「へぇ? 近接攻撃一辺倒の君が?」
「ええ。火縄銃とフックショットって言うんですけど」
『それを遠距離武器と言う勇気』
火縄銃は『銃』なんだから遠距離武器でしょうが。そんでもってフックショットはワイヤーを『飛ばす』んだから遠距離武器でしょうが。この二つがあるだけで攻略の幅がグッと広がる。痒い所に手が届く、というやつだ。クロスボウにも惹かれはしたが、やはりこちらの方がいい。
『しかし、火縄銃とは古風なものを選んだわね?』
「今回、そこが肝でしてね。放つ系の魔法スキルとは相性がいいでしょ?」
「……ああ、そういうこと」
銃というものは弾丸が飛び出る。フックショットはワイヤーが飛び出る。どちらも何かが飛んでいくのだ。そして、そういったものは放つタイプの魔法スキルの触媒として優秀なのだ。ゲームをプレイしていた時はなぜ魔法スキルの触媒として銃や弓が使えるのか疑問だったが、実際に触れて、使ってみて納得した。銃であれば『銃弾』として魔法が飛んでいくし、弓であれば『矢』として魔法が飛んでいくのだ。フックショット? まだ未検証ですね。
火縄銃を選んだ理由としては一発一発装填しないといけない、というブラフを仕掛けることができないかと思ってのこと。できなかったら? 変わらずゼロ距離で撃ちますが何か。
「まぁ、ちゃんと使えるまで慣らします────っと?」
珍しいことに俺のスマホから電話のコールが鳴る。連絡先を交換してしているのは目の前の瑞騎先輩と、大耀さんと────あ。
「すいません瑞騎先輩。電話出ていいっすか」
「ええ、どうぞ?」
「あざす。──────はい、もしもし」
『ちょっとメグちゃんヘルプいいかしらぁ!?』
「へいへい
『あらやだごめんなさいね? それと、あたしのことは?』
「ローズ先輩」
『そ♡覚えててくれて嬉しいわ!』
中々癖が強そうな、男性とも女性とも取れる声がスピーカーモードにしているスマホ越しに聞えてくる。電話をしてきたのは、
詳細は語らないが、自分の因縁とかに主人公を巻き込みたくないからと主人公を突き放したタイプの人で、突き放したと言ってもやんわりお断りして、何度も関わるとパーティーを組んでくれるし、恋人&親友スチルももらえる。正直瑞騎先輩とローズ先輩が最適解なんじゃないかなってくらい性能も優秀。
「それで、ヘルプってのは?」
『そう! それ! メグちゃんのお友達、申請書とかアイテム合成についても知らないみたいじゃない!』
「…………学園説明不足ェ……」
主人公の恩恵がそこまでないなって思っていたが、申請書とかについての説明が全くされていないから入室許可が下りてなかっただけかよ!! てか、優遇するならそれくらいは教えとけよ!? 学費全額負担とかだけじゃ足りねぇよ!? これだから人類滅亡ルートが存在するゲームの学園ってのは!!
『そこら辺おざなりよね、うちの学園。というわけで来てくれるかしら?』
「うす。……てことで瑞騎先輩、せっかく飯に誘ってくれたのにすみません。大事な用事ができちゃいました」
「気にしないで。また誘うから」
「あざーっす!」
『あら、スイちゃんとデート中だったの? 悪いことしちゃったわね』
「気にしないで、ローズ。あなたも今度、一緒にご飯食べましょうね」
『あらやだ嬉しい♡予定空けておかなくちゃ!』
このバーガーショップから全力疾走で学園に戻って……大体13時くらいか。ハンバーガーは食べ終わっているし、いざとなったら持ち帰りもできるお店だから助かる。
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「……………………はぁ」
我らが気狂い、模歩巡が大耀明日夢にあれこれと申請書やらアイテム合成やらのチュートリアルを行いに向かった後、バーガーショップには珍しい個室に残された麒麟の加護を与えられた少女、瑞騎翡翠は小さく瑞々しい唇から悩ましげな溜め息を零してテーブルに突っ伏した。
『もっと押せ押せじゃないと絶対ダメよ、翡翠』
「それは、分かってるわ」
『じゃあ今度はもっと意識させるようなデートにすることね』
「それは私が死んじゃうわ」
『恋は戦争なのよ? 死ぬくらい何よ。死に戻りは何度も経験しているでしょうに』
それとこれとは話が別なのだ、と言わんばかりに銀色の神獣を睨む翡翠に対し、麒麟は堪えた素振りもなく、むしろ呆れたような視線を少女に向ける。
翡翠がこうして巡と食事をするのは今回が初めてではない。脳内を
それは、瑞騎翡翠が麒麟の加護を与えられてからまだ間もない頃。学園に入学し、戦士としてダンジョンを攻略していたとある日。彼女は初めて死に戻りを経験した。神々や神獣などが力を合わせて施した措置によって死んでも蘇る、と分かっていたとしても、やはり『死』というものは触れてはならないもの。彼女の心は「死にたくない」という負の感情に飲み込まれた。
食事が喉を通らない日々が続き、周囲の人間や麒麟も気が気でなかった────そんな時である。戦士として下地を作るために全力で遊びまくっていた少年、幼い頃の巡に出会った。身も心もボロボロになっている翡翠を目撃した巡は驚き、彼女が何者なのかを知らずとも手を差し伸べ────────なぜかバーガーショップに入った。呆然としている翡翠を尻目に、巡は決して多くはないお小遣いでパテが二枚挟まったボリューミーなハンバーガーセットを購入。一緒に食べようと翡翠に差し出したのだ。そのハンバーガーセットや、巡の行動に翡翠は救われた。
そしてなぜか我らが気狂い巡に惚れた。
なお、その時よりも翡翠は背が伸びたし、髪型や髪の長さなんかも変わったせいで巡は気付いていない。そして悲しいかな、翡翠は当時のことを話そうとしないので、巡の好感度アップイベントとして使えない。
『うだうだしてると、盗られてしまうかもしれないわよ?』
「や」
『や、って……幼女じゃあるまいし。あの鈍チンに意識させるならもっと押せ押せで行きなさいよ』
「それは私の心臓が潰れる」
『先が思いやられるわね……』
頑張れ瑞騎翡翠。負けるな瑞騎翡翠。意識させてしまえば肉体年齢やら、彼女いない歴=年齢+前世やらその他諸々に引っ張られてコロッと落ちる可能性が高いぞ瑞騎翡翠。でもそれは色んな人に言えることだからやっぱり勇気の前進が必須だぞ瑞騎翡翠。