恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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侵略とか禁断とかファイナル革命とか、ガチャレンジとかでオレガ・オーラで時代が止まっている男です通ります。


普通の女の子の情緒を粉砕するデッキ

 村の因習が終わった日の深夜。宿で再会した者達が抱き合って涙を流しているのを遠目で眺めた後、早朝、誰にも見つかることなく村を出ることにした巡と明日夢は、借りていた部屋で就寝していた。

 

 そんな部屋でガバッ、と勢いよく起き上がった影があった。明日夢だ。

 

「はっ……はっ…………夢?」

 

 時刻はまだ深夜2時を回ったところであり、起きるにはまだ早すぎる。現に隣り合って用意された布団で寝ている巡は「図書館とコアラが重なり最強に見える」とか、「侵略ッ、侵略ッ、禁断解放ッ」とか、「あ、じゃあ最果てのゴーティスで」とか、「チェンジザファイナル革命ミラクルミラダンテ」とか、「モルトNEXTドギラゴン剣流星カイザーボルシャックドギラゴン」とか、「水闇ハンデスオレガ・オーラ」とか理解したくはないが盤面が見えて吐き気を催す言語を寝言で呟いている。そんな巡を少しだけ恨みがましい目で見ている明日夢は、悪夢の不快感から飛び起きてしまった。夢にしては鮮明で、一度も見たくもない、気持ち悪くて、悍ましい夢を見たのだ。

 

 夢の中で明日夢は、巡と一旦別行動をとって村を散策しており、土地勘がない場所ゆえに迷ってしまっていた。そんな中、村人の一人が道案内を買って出てくれたため、それについていき────複数人に襲われた。

 

 下卑た笑い声や視線、気持ち悪い息遣い、体を(まさぐ)られる不快感……どれも夢にしてはリアルで、明日夢は夢の中で叫んだ。だが、誰も助けに来てくれなかった。巡も、宇迦も、誰も。誰も助けに来てくれず、泣き叫びながら村の男にその身を穢される寸前に目が覚めたのである。

 

「ッ……」

 

 飛び起きた明日夢の目尻には涙が滲み、自分が無事であることを確かめながらも、不快感で体を震わせている。宇迦はあの必殺技を使ったことで疲れたのか、顕現することなく眠っているために、小さな声で声をかけても現れることはない。恐らく叫べば飛び起きてくれるのだろうが、疲れている相棒を叩き起こすほど、明日夢の人間性はできていなかった。

 

「……霊薬とか、飲んだら落ち着くかな」

 

戦士(ンハンドラー)大耀、霊薬の乱用は止めておけ」

 

「……!?」

 

 ビクンッ! と布団の上で体を跳ねさせた明日夢は、声が聞えた方向を見る。そこには、さっきまで吐き気を催す単語を吐き出していた巡が音もなく起き上がっていた。しかも片手には良い香りがするハーブティーらしきものがある。

 

「とりあえずジャスミンティーだ。ジャスミンティーをキメるんだ大耀さん」

 

「あ、ありがとう……?」

 

「ちなみにここは夢じゃないぞ」

 

 ほら、と手を出してきた巡からジャスミンティーを受け取りつつ、彼の手にも少しだけ触れてみる。さっき見た夢よりも感触はリアルで、巡の春の陽気にも似た体温も感じる。間違いなく現実だ。ここは現実で、あの悍ましい悪夢はただの夢だったのだとはっきりと理解したことで、明日夢の震えは少しだけ落ち着いた。

 

「夢の内容は聞いた方がいい感じ?」

 

「聞いてくれると、嬉しいかな」

 

「よし来たかかってこい」

 

 巡が火属性と光属性の複合魔法でも使ったのか、灯篭のようなぼんやりとした明かりが灯った部屋の中で、飲み物を口にしながら明日夢は自分が見た夢を巡に話した。この村の人間に犯される夢を見たこと、夢の中で何をされそうになったのかなど────言葉を選ぶ余裕もなく、明日夢は吐き出した。人が不安になると口が軽くなるというのは本当のことなんだ、と変に冴えている思考が片隅にいた明日夢が夢の内容を話し終えると、巡は少し考える素振りを見せた。

 

「んー………………闇落ちか? 闇落ちなのか? いやそんなスメルはしないスルメ最近食ってねぇな……でもなぁ……突拍子もない方向からのアンブッシュが怖いのもまた事実……

 

「……?」

 

 うーん、うーん……と唸りながら何かを呟いている巡に、明日夢は首をかしげる。

 

「よし、大耀さん」

 

「何?」

 

「今からやること一切に下心はなく、悪意もないことを宣言しておく」

 

「え? 何を────……????????????」

 

 巡の行動により明日夢、バグる。

 

「はーい軽く目を閉じて、深く息をする」

 

「????????????????????????」

 

 流れるように、柔らかく抱き留められつつ布団に寝かされ、優しく、一定の速度で背中を叩かれている明日夢はスペースキャット並みにバグっている。

 

「吸ってー」

 

「──────」

 

 バグってしまったがゆえに、巡の指示に従って軽く目を閉じて呼吸を開始する明日夢。鼻から息を吸い込めば、なぜかほのかに桜の香りがした。時期ではないはずなのに、と思ってすぐにまた囁くような巡の声が耳朶を優しく叩く。

 

「そのままゆっくり吐いて」

 

「───────────────」

 

「そう、上手。もう一回吸って────また吐いて」

 

 耳に優しく響いてくる声音はくすぐったいし、普通なら困惑や赤面した状態で巡を突き飛ばすくらいはしかねないはずなのだが────まだバグから復帰できない明日夢は、泣きじゃくる子供をあやすように背中を優しく一定のテンポで叩かれながら、ただ呼吸するだけで褒められているこの状況がとても心地良いものであると感じていた。

 

 ちなみにこんなことをしている巡だが、バグってコアラのようにしがみついてくる明日夢に対して全く下心を出さないどころか、好感度上昇を狙っているわけでもない。

 

 例えば「このまま放置してメンタルが下落し続けて闇落ちとかあり得るし、メンタルケアしておくかー」とか。

 

 例えば「前世最も熟睡できた方法と言えば何か、そう、抱き枕とASMRまたは環境音……!」とか。

 

 例えば「睡眠エンチャはどの程度効果があるのか……試してみよう、エンチャの力(^U^)」とか。

 

 この気狂いにとってその程度の認識でこのアクションが行われている。なんだこいつ。どこぞで『我が性欲を、ここに捨てる』とかしていてもおかしくない。

 

 なお、本気で下心一切なく、大耀明日夢というちょっと誉れある戦の素質がある普通の女の子が悪夢に魘されるのは良くないし、あとで自ら追加した黒歴史に自分が悶えるだけならヨシッ! とかも考えていたりする。

 

 もうこいつ誰かに刺された方がいいのではなかろうか。聖女ジャンヌダルクすらもトミーガンでハチの巣にするレベルで女心というものを理解していない。素敵なご友人達と共にアクション、シミュレーション、FPS、恋愛、ギャルゲー、エロゲー、ゴアゲー、クソゲー、あらゆるゲームをトロコン、隠し要素コンプリートするまで喰い荒らしてきたくせに、致命的なまでに女心と女の子の情緒と自分が現在何をやらかしているのか理解していない。

 

 猥談で明日夢のことを普通にありと言ったくせに、そういった素振りも考えも一切出さずにメンタルケアに徹しているこの気狂い、そろそろ誰かに刺される頃合いではなかろうか。

 

「よしよし、呼吸は落ち着いてきたな」

 

「……んむ」

 

「じゃあ、今度は連想ゲーム。俺が何秒かごとに言う単語から直感的に連想をしてくれ。呟くでもいいし、心の中で思い浮かべるだけでもいい」

 

 なんでもいいからな、と囁く巡の声を、明日夢はふわふわとした微睡みの中でぼんやりと聞いていた。ふわふわと、夏のうだるような暑さではなく、春の陽気の中でぼんやりしているような気持ちの良い感覚。部屋の中で回る、少し寒いくらいの風が体を冷やしてくれるのもまた丁度良い。

 

「んじゃ、最初は……りんごだな」

 

「りんご……アップルパイ……紅茶……お菓子……甘い……」

 

「そうそう、上手だな。じゃ、次は……本────」

 

 何秒かの時間を空けて次々と挙げられる単語に対し、様々な連想をしていくうちに、微睡みが少しずつ、本当に少しずつ優しい睡魔になっていく。その睡魔は明日夢の意識の外からやってきて、優しく、甘く、蕩かすように明日夢を暖かな眠りへと誘うが、まだ足りない。バグっている思考の片隅で、悪夢に追われて泣いている小さな明日夢がいる。

 

 僅かな、しかし大きな不安が眠りを妨げている。

 僅かで、本当にか弱い安心感が眠りへ誘っている。

 僅かな、しかし強い恐怖が起きていろと言っている。

 僅かで、本当に小さな平穏が眠っていいのだと言っている。

 

「……怖い」

 

 ふと、明日夢の口から小さく弱音が零れた。

 

「ん。そうだな」

 

 巡は肯定した。

 

「怖い夢……また見るかもしれなくて、怖い」

 

 明日夢が小さく吐き出した。

 

「うん。大丈夫、おかしくないことだ」

 

 ゲリュオンとクリュサオルとの戦いの記憶で飛び起きることがややある巡は、自身と重ねて肯定した。何もおかしいことではないと。悪夢が怖いことは、恥ずかしいことではない。

 

「戦いも、怖い」

 

「当たり前だ。怖いに決まってる」

 

 死に戻り前提で命を砲弾として装填し、刹那であろうとも勝利を掴むための一手を投じる気狂いと違って、少し前まで普通の女の子だった明日夢にとって、戦いはいつまで経っても怖いもの。これからどれだけ戦いを重ね、死に戻りを重ねたとしても、戦いが怖いと感じる心が消えることはないだろう。

 

「死にたくない」

 

「うん」

 

「痛いのは、いや」

 

「うん」

 

「辛いのも、いやだ」

 

「……うん」

 

「怖いのも、いやだ」

 

 ぎゅっ、と明日夢の手に力が籠る。誰に言うでもなく、宇迦にすら言わずに押し殺していた感情が、ゲーム本編であれば、世界滅亡ルート────しかも、親友も、恋人もいない、天涯孤独の状態でのエンディングでしか発されなかった言葉の一つ一つが、ゆるゆると漏れ出している。

 

「どうして、私だったのかな」

 

「……そう、だな」

 

 巡は少しだけ、本当に、ほんの少しだけ顔を顰めて、肯定した。なぜ、大耀明日夢という普通の女の子が戦場に放り込まれなくてはならないのか。ゲームであればそういうゲームだから、と流せた。しかし、この世界は現実だ。普通に家族と一緒にご飯を食べて、普通に学校へ行って、普通に友達と遊んで、普通に誰かと恋をして、普通に誰かと結ばれて────そんな普通の平穏の中で、普通の女の子でいれたはずなのに。

 

 根っからの善人であるからこそ、明日夢は戦士として戦うことを選択した。両親や祖父母を含め、戦えない人の代わりに戦い、自分で自分を肯定できるように。自分の理想を押し通すために手を尽くす────明日夢はそんな女の子ではあるが、普通の女の子なのだ。普通の女の子が死に戻り前提でダンジョンを攻略しようとしていたのは、正直やけになっていたからな気がしないでもない。戦士になると決めて、普通の女の子であることを止めたのもまた、明日夢自身なのかもしれないが……それでも、明日夢は心の奥底に押し込んでいた言葉を呟いてしまう。

 

 どうして自分が。

 どうして他の人じゃなかったのか。

 自分で望んだ力じゃないのに、どうして皆に拒絶されるのか。

 特別だから。凄い力だから。それだけで疎まれ、言葉を浴びせられ、奇異の眼を向けられるのが苦しい。

 

「逃げてもいいんだぞ」

 

「……ぇ」

 

「……俺はさ、逃げてもいいと、思うよ」

 

 優しく背中を叩く巡の言葉が、染み込んでくる。

 

「辛いのも、苦しいのも……全部嫌なら、逃げていいと思う」

 

 何もかも放り出して、逃げ出してもいいと、巡は言う。

 

「神様達も、それを許してくれると思う。許さないやつは多分、いないし……いたら俺が殺す」

 

 怖い夢を見た人間に対して言う言葉ではない、とても物騒な言葉が飛び出したが、バグから回復しつつある明日夢の思考や心に、その言葉が傷薬のように染み込んでいく。

 

「逃げたいなら、俺はそれを手伝うけど……どうする?」

 

「…………………………いい」

 

「……そっか。強いなぁ、大耀さんは」

 

「…………………………………………ありがとう」

 

 そう言って、明日夢は巡を抱き枕にするようにして夢の世界へと旅立った。朝、自分が何をしたのか、何をされたのかを思い出して悶える未来が待っているとは思いもせずに。

 

 原因はこの気狂いなのだ。全て気狂いのせいにしてしまえば全て丸く収まる。この場にメイケイオス遥斗やインテリ蛮族麗良がいたとしても、きっとそう言うだろう。




豊穣の女神の加護のもたらす、永遠の戦いの中で
明日夢は、気狂いの言葉を聞いた

「逃げてもいいんだぞ」

それは、呪いの言葉であった
※のろい なのか まじない なのかは あなた次第


悪夢に よって 明日夢の ストレスが グーンと 上がった !
悪夢に よって 明日夢の コンディションが がくんと 下がった !

気狂い の メンタルケア !

明日夢の ストレスが がくんと 下がった !
明日夢の コンディションが ググーンと 上がった !
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