恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
いやはや、ぬっぺふほふは強敵でしたね。(様式美)
素材はあんまり美味しくなかったが、思い返してみると、強化個体のぬっぺふほふは各地のダンジョンで喰われまくったぬっぺふほふの魂やら肉塊やらが、あの村に染み付いていたぬっぺふほふの魂の残滓と何かの因果で結びついた結果、堅い、しぶとい、怯まないの三重苦のボスとなっていた。ムービーでそういう描写があったはずだし、多分そうだと思う。
じゃあ今回ぶっ殺したぬっぺふほふはというと……まぁ、逃げてマッチポンプしていただけの家畜怪魔である。それならそんなに強くもないし、素材も美味しくないのも納得だ。
ちなみに、大耀さんと相談した通り、ぬっぺふほふから手に入れたいくつかの素材はレジスタンスの皆さんに押し付けてきた。最初は「何もできず、指を咥えて見ているだけだった我々には無用の長物だから受け取れない」と受け取り拒否されたが、俺と大耀さんがぬっぺふほふの被害にあった人達を引き合いに出して、「あの人達が立ち直れるように居場所を作ってあげてほしい」と伝えに伝えて、どうにか素材を受け取ってもらった。
正直言って換金専用素材が多かったから、もらってもそこまでなぁ、という感じだったし。ぬっぺふほふの素材は大体換金素材なんだよ……強化個体の方は色んなダンジョンのレア素材を落とすんだけどな。全部売った際の価格? ……まぁ、無駄遣いしなかったら村一つくらいは作れるんじゃねえの? そのくらいの価格を溶かしてくる強化価格なんなん? ゲーム本編では朱雀、玄武、青龍、白虎、麒麟の家の誰かと恋人になると、その家お抱え鍛冶屋を安く利用できる仕様があったが……マジで高いんだよな……DLC追加要素の村正のお爺様が来るまで五家の誰かと恋人になるのが節約の一つであった。
「それで、村はどうなった?」
「まぁ、そのうち滅ぶかなと」
頭の中でどうでもいいことを考えつつ、天照大御神様への報告をしている。うん、多分そのうち滅ぶだろう。疱瘡神様とパズズ様が色々やったみたいだし。なんだっけ? 村でやった業を病の因果に結び付けて、その業が清算されるまで病────特に性病────に脅かされ続けるとかなんとか。しかも重症化しても死なない死ねない自殺もできない。脳に病気が行かないようにして、狂うことも許されないそうだ。むらびとよ! なにゆえ もがき いきるのか? 神様がそうしたからですね。頑張ってください応援はしません。ただ、一言だけ。この言葉を贈ります────
耐えてください。
あ、大耀さんはあの村のことを極力思い出したくないみたいだったので、先に禍津日様のダンジョンに戻ってもらっている。戦いで心を癒す……大耀さんも中々染まってきたな! まぁ、昨晩のことを考えると、何もしない方が色々フラッシュバックして辛いという感じだろう。今日のローテは……あ、利休さんの茶の湯の席ではなかろうか。いいな……万莱君のご先祖様なだけあって、お茶の腕が凄まじいのだ。もちろん魔法の実力も化物だぞ!
「そう。内輪のみに済ませるのであれば、こうはならなかった。ゲリュとクリュみたいな例もあるし」
「……あの、天照大御神様……あの女性の皆さんがもう二度とああいう目に遭わないようにって、できたりします? 報酬それでもいいので」
いや、本当にマジで。戦士であれば怪魔相手にして何があっても自業自得で済むことが多いが、ああいう一般人が怪魔とか、人の悪意に晒されてしまうのは何か、違うだろう。
「のっとタダ働き、のっと残業、のっとやりがい搾取。これは常識。菊理が切ったから、大丈夫」
「菊理? …………あ、伊邪那美様と伊邪那岐様の?」
「そう。その菊理姫。……詳しいね」
「昔、調べたことありまして」
伊邪那美様と伊邪那岐様の縁を結ぶ仲人をしたという菊理姫。その物語を前世で調べたことはなかったが、この世界に転生してから調べてみたのだ。
この世界ではそんな逸話が残っている菊理姫様の力は、縁結びと縁切り。縁結びが転じて縁切りの神としての信仰も集めた、というところだろう。俺も一度だけ菊理姫様が祀られている神社にお参りしに行ったことがあったが……なんというかこう……縁切りの方が重要視されているような気がしてならなかったな。安井金毘羅神社みたいな感じで、縁切りの話だけ大きくなったような感じで。
「あの子が切ったから、大丈夫。…………そういえば、菊理が君のこと話してた」
「お会いしたことないです」
「知ってる。神社に来て、挨拶とお礼だけしてく人は久しぶりだったって」
「あー……」
良くも悪くも、神様とかが実在している世界だからなぁ……お願いとかしまくる人が多いのだろう。俺も前世では挨拶とお礼した後に、「それでちょっとご相談なんですけど……」みたいな感じで参拝していたことがあったし。今世ではそういうことをしたことはない。そんなことをしてろくでもない縁を結ばれたらどうするんだ。■■■■とかな! ……誰だよこの■■■■って。いや、知ってるってことは、ゲームで戦ったことがあるか、登場しているやつなんだ。だが、名前にノイズが走って名前が聞き取れないし思い出せない。まぁ、会えば思い出すだろ。ただ、酒吞童子とか、禍津日様の話を聞く限りクソ野郎だろうし、会ったら殺そう。素材寄こせ。
「それはそれとして……呪い、増えた?」
「はい。疱瘡神様の呪い貰いました。大耀さんは加護を」
そう言って、俺は右腕を外気に晒す。禍津日様の呪いからチャンネルを切り替えるような意識をすると、禍津日様の呪いによる刻印が消えて、黒い斑点のような刻印と牛の頭蓋のような刻印が滲み出てきた。これこそが疱瘡神様の呪いが与えられている状態である。効果は自分の状態異常耐性激減+被状態異常持続時間増加+魔法属性ダメージ増加の代わりに、状態異常効果量激増+状態異常蓄積値爆増させるという感じ。某エルデンなリングで例えるなら、自動で発狂ゲージが溜まっていってメイケイオスしやすくなったりカット率が減ったりする代わりに、毒、劇毒、腐敗、出血の状態異常蓄積値が伸びて、そのダメージが上がるという無法。加護の場合、状態異常耐性を高める効果もあるが、自爆前提のDPS担当が装甲値を高める必要性は感じないので、ソンナモノフヨウラ!
状態異常ビルドを組むに当たって何が何でも欲しかった理由がここにある。紙装甲がさらに加速するので超新星の有用性も高まる。誉れはさらに加速する────!! 誉れあるアクセルシンクロによる超新星を見るがいい。見た時には多分死んでるかもだが。
「そう。体の調子は?」
「特には」
「ならよし。上手く使ってあげるように」
「うす」
「よろしい」
疱瘡神様の呪いから禍津日様の呪いに切り替える。禍津日様の加護を貰っているからなのか、禍津日様の呪いに切り替えるのは簡単なんだよな。疱瘡神様の呪いは切り替えに十秒くらい時間がかかる。どっちも普段使い強敵相手もできるので使いこなしていきたいところだ。
「さて、そろそろお楽しみの報酬たいむ」
「待ってました」
「とはいえ、神の尺度からの報酬。凄いものを期待し過ぎるのはえぬじー」
「うす」
「よろしい。じゃあ、はい」
ごとん、と少々重い音を立てて置かれた、鉄製? 青銅製? の丸い……何かよく分からない見た目のオブジェクトに俺は思わず首をかしげる。太陽と月、狼と兎の意匠が施されていること以外は別段派手な装飾もなく、お洒落だが主役になるインテリアというわけではなく、部屋のどこに飾っても違和感を感じさせないインテリアな印象を感じさせる。三本の脚で自立しているオブジェクトだが、これは何だろうか。
「あの、これは?」
「……そっか。君達はこういうのをあんまり使わないんだっけ」
「? 使うものなんですね」
「そう。これは香炉。香木を焚き、香りを楽しむと同時に邪気を払うためのもの」
香炉……あ、よくお寺とか神社にあるようなあれか。それとは違って上に蓋みたいなものがないし、サイズも違ったから気付かなかったが、言われてみれば見たことがある。使ったことはないが。
「私と妹の月読お手製。香木は
「……これ、神器というやつなのでは」
「神器ではない。……まぁ、これを使って香を焚けば勝手に結界ができなくは……ない、かも」
「神器じゃねぇか!!?」
自動結界発生装置なんて、今の技術でも作られてねぇぞ!? ダンジョンの入口に張られてる結界だって、百鬼夜行が起った後、起こる前関係なく定期的にマジの神職と結界に秀でた戦士とかが共同で何日もかけてメンテナンスしてるもんだぞ? なんてものをポンと渡してきやがったこの太陽神!
「そもそも、香は邪気払いのためのもの。結界が張れたとしてもおかしくはない。のーぷろぶれむ」
「本当ですか……」
「大丈夫。規約も確認した。ちょっと顔出しに来てた執行者にも確認した。大丈夫」
「執行者については触れないでおきますね」
「今度君を見定めに行くって言ってたから覚悟はしておくべき」
「目を付けられてんの笑えない」
まぁ、見定めると言っても面接だったり戦闘だったりお使いだったり色々ランダム多種多様で、RTA走者の悩みの種だっただけの執行者。話せばわかる人? だし、そこまで大規模なボス戦には……ならないと、嬉しいなぁ。正直あの人と戦えるイベント少なすぎてモーション全く覚えてないんだよ。次元斬とサイコクラッシャーとラダーンフェスティバルしてくるのは知ってる。してくるのは知ってる。知ってるけど避けられる気がしない。俺は彼の大技を全てガッツで乗り切った男です。それか安全距離まで離脱して難を逃れた後、タゲ変されてダウンして戦犯かます男です。あいつのジツもカラテもワザマエな威力だからね……仕方ないね。
何だよ一撃一撃が全部必殺って。全盛期平和の象徴かよ。……項羽とか呂布がその類だったわ。クソッ! 異常火力愛者しかいねぇのかこの世界には!! ………………まぁ、俺もハクスラと導きに脳を焼かれた異常者だし、同じ穴の狢か。
「とにかく、報酬はそれ。宇迦の子にも渡しておくこと」
「うす」
「それとあんぱんとカレーパンを所望する」
「あんバタークロワッサンと揚げパンしか持ってねぇ……!!」
「それもまたよし」
ではこちらお供え物としてお納めください。
「…………そういえば、今日は君の地元のお祭りだね」
「え? ああ、はい。毎年参加してますけど、それが何か?」
「善いこと。特に
あれか。あれなぁ……戦士の身体能力前提かと思いきや、やろうと思えば一般人でもできてしまうとんでもない舞。なおしっかり鍛えないとやってる最中で体力無くなって気絶するくらいの時間ずっと舞うことになる。それが戦舞。
ずっと昔、百鬼夜行が起こった際、現れた怪魔を全て真正面から斬り捨て、民衆を守り抜いた戦士がいた。その戦いはまるで舞のようで、その舞をずっと忘れることがないようにと毎年、夏に開かれる祭で踊ることになっている舞だ。その前に地元の伝統芸能やら山の民が伝えた山の神に捧げる神楽もあるんだけどな。この祭を見に来る人達は大抵、その神楽か戦舞が見たくて来ている。神楽は保存団体が毎年やるが、戦舞は……確か師匠が毎年踊っていた気がするが、今年もそうなのだろうか。
「今年は君が踊ると禅明が言っていたよ」
「えっ」
「振り付けは?」
「全部覚えてますが」
地元じゃ戦舞を踊れないやつはほとんどいない。いたとしても引っ越してきた人達ぐらいか? 近所付き合いとかで気付いたら踊れるようになってる人が多いけど。小さい子供なんかは学校行事で軽く踊りに触れることになるし。小さい頃からずっと見たり踊ったりしていれば、勝手に覚えるものだ。
だが今年は俺が踊るなんて、師匠は一言も言っていなかった。聞いてない。聞いてませんよ師匠。やりたくないです……逢魔が時から丑三つ時までぶっ通しで踊るあの戦舞をやりたくないです……でも俺は戦士……戦士が舞ったから戦舞……戦舞は戦士が踊ったもの……でも俺は一般通過気狂い戦士……民衆を守り抜いた戦士とは違う……だが逃げたら師匠に斬られる……逃げ道がねぇや。仕方ない。
「頑張って」
「頑張ります」
死なない程度に。死ぬのは死に戻り前提のダンジョン攻略やハクスラだけでいいんだよ。あとマラソン。
日月の香炉
天照大御神と月読命が手ずから作り上げた香炉
太陽と月、狼と兎の意匠が施されている
香を焚くことで、光と闇の魔法属性を高める
太陽と月は多くのものを見てきた
その光は、何者であったとしても平等に世界を照らす
その誰かが、世界を滅ぼすものだったとしても