恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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齟齬があったら切り替えようね!


ゲームと現実が同じわけがあるまいて

「残暑厳しい8月下旬、皆様いかがお過ごしでしょうか。我々は特別ゲストを引き摺ってダンジョンに来ています」

 

「自覚あったんですか」

 

「目の前で呑気に準備をしていた貴様が悪い」

 

 そんなんじゃマラソンについていけねぇよ。そして俺は貴様らから何かあったら協力すると言質を取っている男……この程度は許容範囲として受け取ってくれ。受け取れ。

 

「というわけで、俺が有無を言わさず引き摺ってきた特別ゲストの紹介です。自己紹介頼みます」

 

 俺が首根っこ掴んで引き摺ってきた二人────三野先輩と辰巻さんのことを紹介するのは俺にはできない。そもそも関わりが無いから紹介できるわけでもないし、茶菓子同好会の人間というわけでもないし。

 

「玄武の加護を与えられている三野治水だ、よろしく頼む。使う武器はこの大剣だ」

 

「辰巻玻璃です。青龍から加護を貰っています。武器は二刀です」

 

「はい、自己紹介ありがとうございます。で、俺が模歩巡で」

 

「私が大耀明日夢です」

 

 互いの軽い自己紹介が終わったところで、蛮蜘の晶洞宮の入口に待機している俺は、三野先輩と辰巻さんの装備を軽く見る。

 

 三野先輩はゲーム本編と同じような急所を守る最低限の鎧と着物に、よく手入れされている一本の大剣という装備構成だ。盾くらいは持てよと言いたいところだが、大剣を使う時に盾が邪魔になってしまうのでそこは仕方がない。でもせめて大弓を持ってほしいところだ。欲を言うならデカい銃とかそういうやつ。パーティーメンバーのステータス確認画面でステータスを確認してみると、筋力と持久力が多めに振り分けられているパワーアタッカー系。ゲーム本編とは違ってHPの方にもある程度振り分けられているのが嬉しい。ゲーム本編とは違う活躍をしてくれるかもしれない。

 

 辰巻さんもゲーム本編と同じような軽装に、よく手入れされている刃渡り60センチくらいの二刀。大耀さんと似たような構成に見えるが、大耀さんはどちらかと言えばカスダメをリジェネで補う上質戦士であり、辰巻さんは手数で押し込む耐久力低めの技量戦士。ただ持久力がちょっと足りないので息切れしやすいのが欠点というところか。持久力を鍛えろ持久力を。あと紙耐久。

 

 ……おや? 大耀さん以外紙耐久の人間しかいなくねぇかここ。俺は自爆前提の戦いをしているせいで空気になっていることが多い食い縛り霊薬とか、食い縛りスキルとかでどうにかなるけど、三野先輩と辰巻さんはそういうの持ってなかったような……うん、ボス前の準備で食い縛り霊薬渡しておくか。保険は大事。万葉集にもそう書かれている。

 

「で、このダンジョンに出てくる怪魔について……はい、大耀さん答えて」

 

「鉱石と甲殻類がくっついたような怪魔が主だったかな。あとは節足動物とか」

 

「正解。ほぼ一面が結晶で覆われている洞窟みたいなダンジョンだからこその姿だわな」

 

 俺が大耀さんにこのダンジョンの怪魔はどんなやつがいるのかと聞けば、ノータイムで答えが返ってきた。知識が染み付いている証拠である。戦いを有利に進めるために座学を行うこともまた、重要なのだ。

 

 知識とは、第二の導きである。第三が霊薬。

 

「推奨される攻撃属性は?」

 

「基本的に物理なら打撃、魔法属性は水と風が効きやすくて、エンチャントしてるなら斬撃と刺突も有効」

 

「つまり?」

 

「水か風をエンチャして殴る」

 

「完璧だぁ……」

 

 英雄的殴打を繰り返すか、エンチャントしてインテリ蛮族するか、炭鉱夫をするかすれば良し。このダンジョンが解放される一つ前のダンジョンのボス、【愚鈍なる岩蛇】の素材を使った武器が攻略において凄く有効なのだが、大耀さんはそれ以上に有効な棍棒と、パリピイケメンボーイズに改造してもらった散弾クロスボウ(魔法触媒)を用意している。狂戦士の曲剣は現在、強化のためにパリピイケメンボーイズに預けているそうで、今回は鬼角の棍棒とクロスボウの二刀流スタイルだ。棍棒がグレートなクラブ並みのリーチがあったら、対人勢が吐くような姿になっていそうだ。そこにHPの最大値を上昇させるアクセサリーを付けてだな……

 

「てなわけで、水属性と風属性と言えばな二人、今回はよろしくお願いしますね」

 

「ああ。玄武の加護を得た戦士の名が飾りではないと証明しよう」

 

「ええ、辰巻の戦士として、相応しい戦いを見せましょう」

 

 うん、まぁ、やる気はあるようで何よりだ。やる気がなかったら霊薬を捻じ込んでハイにして連れ回すところだったぜ。

 ……そういえば、三野先輩が大耀さんとパーティーを組まなかった理由は知っているが、辰巻さんはどうしてだ? ゲーム本編の理由なら、モデル業と戦士としての務めを果たすのがいっぱいいっぱいで、初心者をキャリーしている暇がないという理由だった気がするが。大耀さんも気にしてる素振りはないし、聞かなくてもいいか。

 

 辰巻さんはファッションモデルでもあるのだ。男だった世界線でもモデルをやっているし、この世界でもモデルをやっている。ファッション雑誌の表紙を飾っているのをよく見るし、クラスではクラスメイトや同級生の化粧品などの相談を聞いたりしているそうだ。そもそも辰巻家自体がそういったファッション系の大企業だったりするし。元々は呉服屋兼化粧屋とかそういう店だった気がする。

 

「模歩君はこのダンジョンも突破してるんだよね?」

 

「素材欲しさに定期的に通ってます」

 

 ここに出現する紅晶サソリという怪魔からドロップする【紅の毒針】という素材が強化素材として入用なのだ。毒針を正しい手順で砕いてからドリップ式で抽出した毒液を、現在使っている装飾された短剣に浸すことで、通常の毒が効かない怪魔に対して有効な毒を付与できるようになる。例えば酒吞童子とか、毒は効くがすぐに治ってしまうような怪魔に対しても有効な毒だ。まぁ、俺達討魔プレイヤーからすればそれはついで。この毒は肉体を持たない怪魔────ゴースト系怪魔や、無機物系怪魔────ゴーレムなどに通用する毒なのだ。大量に手に入れておきたいところである。

 

「参考程度に聞きますけど、どれくらい集めてるんですか?」

 

「ようやく890個」

 

「それは多すぎないか?」

 

「いや全然足りねぇっすよ? 消耗品ですし」

 

 三野先輩と辰巻さんが俺の発言にちょっと引いてる気配がするが、そんなの関係ねぇ! 俺からすれば、素材マラソンをしないあんたらの方が神経を疑うよ。いざという時に素材が無くて装備の更新ができませんでしたで怪魔に負けたら情けないにも程があるだろうに。

 

「……翡翠が言っていた通り、凄まじいな」

 

「欲しいものを手に入れるために、やれることは全部やるのは当たり前のことでしょうに」

 

「そうだな。…………ああ、その通りだ」

 

 ? ああ、そういえば昨日、食堂で思いっきりフラれたらしいですね三野先輩。パリピイケメンボーイズからの情報提供助かる。三野先輩的には案外ショックだったのかもしれない。本当に三野家の人間か? と思うくらいには善人な三野先輩的には、翡翠先輩の家が没落するのは見ていられないのも、翡翠先輩を助けたいのも本心だっただろうからな。三野先輩の親友ルート+翡翠先輩恋人ルートでは翡翠先輩が初恋だったとか、今でも惚れているが彼女を幸せにできるのは主人公しかいないという話をしてくれるし。

 ……今の俺と三野先輩の関係性って、そう考えるとちょいとばかし複雑だな?

 

「ま、とりあえずはこのダンジョン攻略していきましょ」

 

「ああ」

 

 物静かなイケメンである三野先輩が返事をしたところで、俺達はダンジョンに侵入する。結界が張られている入口からも見えていたが、本当に水晶だらけな場所だな、このダンジョン。透明度が低いからなのかそこまで透き通っていないし、俺達の姿が映るようなこともないので平衡感覚がおかしくなることはないのが救いだ。しかし明るい。

 

 怪魔達は水晶に擬態してこちらが油断する瞬間を虎視眈々狙うタイプしかいないが……たまに超攻撃的なやつがいたりする。例えば────ちょうど水晶をぶち抜いて現れた鉱石とシャコが合体したような外見の怪魔、拳晶(けんしょう)シャコとか、その取り巻きの水晶蟹とかな。いやはや、ダンジョンに踏み込んで数分でエンカウントとは、幸先がいいな。

 

「玄武……!」

 

『おうさ』

 

「「「ギュッ!?」」」

 

 なお、怪魔的には運が悪かった。エンカウントした瞬間に三野先輩が飛び出していき、玄武の水を纏った大剣で一筆書きのように蹴散らされてしまった。うーん、一撃とは恐れ入った。レベル差もあるとはいえ、やわらか戦車とは馬鹿にできない火力をお持ちのようだ。

 

 一応シャコもパンチを放っていたし、蟹は壁になって攻撃を防ごうとしていたが、一瞬だけ顕現した玄武の甲羅を利用して防御&防御崩しからのカウンターを繰り出していた。なるほど、玄武の甲羅を盾代わりにしているから盾を持つ必要がないと。……ゲーム本編でもそういうオートガード的なスキル欲しかったなぁ!! 玄武の甲羅を使ったガードベントして欲しかったなぁ! ゲーム本編とは違ってずっと悲しいままな感じはしねぇな!!

 

「相変わらずお見事ですね、三野先輩。三野大剣術免許皆伝は伊達ではありませんか」

 

「いや……辰巻の風によってまとめられていたのも大きい。よく合わせられたな」

 

「このくらいは当然です。風はどこであろうと吹くのですから」

 

 ああ、何か妙に怪魔が集まったなって思っていたが辰巻さんのスキルか。青龍の風によって敵を怯ませたり、一か所に集めたりすることができるスキルを持っている辰巻さんは、三野先輩が飛び出した瞬間にそのスキルを発動したらしい。

 

 うーむ、ゲーム本編とは全く違ってスキルをちゃんと使ってくれるのは素敵だ……ゲーム本編じゃスキルを使うことがないし、使うとしても「今じゃないだろ」というタイミングで使ってしまうことが多かった。もちろん運営が想定していたものではないので、すぐに修正されたが。

 

 ただ、アプデが入る前に初期バージョンで走り抜けたプレイヤーの一人としては、初期バージョンのNPCの記憶に引っ張られてしまう。この世界は現実であってゲームではないし、目の前にいる二人も生きているのだ。ゲームと違って当たり前なのだ。意識を切り替えていこうじゃないか、俺。

 

「凄いね」

 

「だな。負けてられん」

 

 正直性能が悲しい状態だった二人が、初っ端から魅せてくれたのだ。こちらもやる気を漲らせなくては……無作法というもの……

 

 そんなやる気を胸に、広く、大きなダンジョンの奥へと進んでいく。……にしてもこのダンジョン、若干の闇を感じさせるダンジョンだ。現在、無属性スキルの中で音を利用した【エコーロケーション*1】というスキルを使って索敵しながら進んでいるのだが、曇って奥が見えない水晶、その奥底に人工物っぽい反応がある。古い建物っぽいんだよなぁ、この反応。だが、白骨死体とかがある感じはしない。感じるのは怪魔の反応と、水晶と、明らかに建造物っぽい……神社? 寺? と小さな家が複数。考察要素を放り込んでくるんじゃあないよ。

 

 油断しなければ問題ない程度の怪魔の反応しかないし、レア怪魔の反応もない。ごく稀に現れるレア中のレア怪魔の気配もないから、今回はボス攻略がメインになりそうだなあ。

*1
本来なら視界が頼りにならないダンジョンで使うスキル

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