恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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ボス前でバフをかけたことがない者のみが、気狂いを笑いなさい。

 我らが気狂いを含めて、現在のパーティーメンバーは蛮蜘の晶洞宮を攻略するには十分すぎるレベルとスキルを持ち合わせている。治水が大剣を振るえば一撃で消し飛び、玻璃が二刀を振るえば怪魔が細切れになる。さらに言えば、ちゃっかり横バフ*1をばら撒きながら前線に飛び込む気狂いと我らが主人公がいるのだから、普通なら厄介な鉱石を纏う甲殻類や節足動物の姿をした怪魔が面白いように消し飛んでいく。

 

 初めてこのダンジョンを攻略した時、五家のメンバーが全員苦い顔をしていたことを記憶している玄武と青龍は、加護を与えている者の成長を感じ取ると共に、学園内外で気狂いだ何だと言われている巡と、気狂い式戦闘術が染み込み始めている明日夢の評価を高めていた。

 

 バフが途切れる時間を把握しているようにバフが切れる寸前でバフをばら撒きつつも、周囲への警戒を怠ることはないし、むしろ率先して擬態している怪魔に喧嘩を売って粉砕している。スキルによる攻撃や、魔法に依存しているようにも感じず、何でも使って敵を殺す姿にれっきとした『技』を感じさせる練度。治水や玻璃の攻撃を邪魔しない間合いを把握して、投擲物でキルスコアを稼いでいるところも高評価。人類への愛が少々歪んではいるものの、玄武と青龍もまた、人間を愛していることには変わりない。性癖が少々歪んではいるが、できるだけ長く繁栄してほしいという気持ちは本物だ。趣味に走ることはままあるし、面が良い男女を愛でるのが好きだったりはするが────それでも人類の味方であることには違いない神獣である。

 

 そんな神獣だからこそ、宇迦の加護を得た少女を見た時に「ああ、此度はこの子が」と憐憫を向けたし、加護を持たずに最前線を駆け抜けている気狂いを見た時には「なんとも生き急いだ子供がいたものだ」と思わざるを得なかった。麒麟、鳳凰、玄武、白虎、青龍は長い間人間を見てきた。その中で、宇迦の加護を得た者と、その近くにいた者が様々な苦行に飲み込まれていった姿を見ている。五家の人間が全員、理由はどうあれ明日夢のパーティー申請を断った裏には、ゲーム本編とは違ってこういった神獣の意図も若干は混じっていたりする。

 

 何の覚悟もできていない子供を戦いから遠ざけることができれば御の字、それでも進むというのなら力を貸す。精神が擦り切れ、摩耗してでも戦い続ける覚悟があるのならば、余すことなく力を貸そうじゃないか。明日夢にとってはいい迷惑な気がしないでもない神獣の考えである。それはそれとして。

 

「この鉱石をな、剥いでな、素材にしょうと思うたんじゃ」

 

「羅生門の老婆戦士説止めなよ」

 

『羅生門の老婆ァ? ああ、不動明王の加護持ってた尼僧兵な。羅生門は当時の百鬼夜行を迎え撃つ前線基地みてぇなもんだったぞ』

 

「「えっ」」

 

 巡と明日夢がまるで散歩をしているようなテンションでこのダンジョンにいるのが中々シュールである。気狂いはともかく、ちょっと見ないうちに宇迦の加護を得た子の肝の据わり方がとんでもないことになっていて、玄武と青龍は思わず笑いそうになってしまった。麒麟や鳳凰、白虎と話をするのが楽しみになってくるくらいには、明日夢の肝の据わり方が凄いし、巡の戦い方はいつぞやの怪物染みた強さの青年を思わせる戦い方に近付いている。どんな時代でもバグは生まれるものだ。

 

 そんな感じでサクサクと蛮蜘の晶洞宮を攻略していく面々は、あっという間にこのダンジョンの主がいる広間の手前まで到着した。

 

「レベル差があるのもあってかサクサク行けたね。これならソロでも大丈夫だったかも」

 

「アンブッシュ警戒を怠っていたのを俺は知っているぞ」

 

「うっ……模歩君が索敵してたし大丈夫かなーって……油断してました」

 

 ボス前に用意された簡易キャンプでボス戦に挑むための準備をしながらも、雑談を欠かさない巡。気難しい人間であれば鬱陶しいだの、やかましいだのと言うかもしれないが、こうして精神を平時と変わらぬ状態にし続けてくれる人間というのは貴重なのだ。特に戦場においては。

 

「……見事な手際だった、模歩も、大耀も」

 

「戦い方も、強化も見事の一言でした。決闘の時も思いましたが、周囲の過小評価もいいところです。大耀先輩も、この五か月で凄まじい成長ぶりですし」

 

 自身の得物の調子を確かめていた治水と玻璃がそう言って、巡と明日夢を評価する。周囲の評判など当てにならないものだ。

 ちなみにドロップした素材は琥珀と巡の決闘の際に伝えた通り、巡に譲っている。巡的にはほぼ確定でドロップするアムリタ結晶はいらないので、アムリタ結晶は貰っていない。治水と玻璃はアムリタ結晶で自身を強化できるし、巡は素材が手に入る。結構ウィンウィンな関係である。

 

「あざす。…………そういえば、三野先輩は遠距離武器とか使わないんで?」

 

 ボス戦前の栄養補給のつもりなのか、おにぎりや菓子パンを霊薬で流し込んでいた巡が治水に問いかける。ちなみに霊薬は安心と信頼のエンチャント強化の呪血と火力用の狂撃だ。

 

「いや、使わないな。大剣一本で鍛えてきたのもあるが……なぜだ?」

 

「それだけの筋力と体幹があるなら、どでかい遠距離武器とか使っても強いんじゃないかなと思いましてね」

 

「……考えたこともなかったな。しかし……そうか。玄武の力は守りの力だからな。援護にも使えるか」

 

 あまり関わりがない巡からの提案を聞いて突っぱねるのではなく、そういう道もあるのかと知見を広げる治水。どんな場所でも流れる水のような柔軟性は間違いなく、彼の美徳だろう。その柔軟さを家の人間に対してもできれば言うことはないのだが、それは本人が気付くべきことであって、そこまで世話をしてやる義理はない。最悪の場合敵対することになる人間に対して、あれやこれやと世話を焼くのは主人公に対してだけで十分だというのが巡のスタンスであった。

 

 なお、身内になればあれやこれやと世話を焼いてしまうのが巡である。そこ、ダメ人間製造機とか言わない。

 

「……それにしても、模歩先輩も大耀先輩も化粧やファッションにもっと気を配るべきです」

 

「興味ないです」

 

「うーん……私も利便性重視かな」

 

「素材がいいのに、もったいないと言わざるを得ません。見た目の良さとは武器ですよ」

 

 今度良さげな化粧品や服をいくつか持ってきます、とプロのファッションモデル兼デザイナーの血が騒いでいるらしい玻璃。翡翠とはまた違った綺麗系美少女であり、近寄りがたい雰囲気がある玻璃ではあるが、話してみれば気難しい人間というわけでもない。だからこそ一年クラスで孤立していないのだ。コミュニケーション能力という点においては、下手をすれば明日夢よりも高い。陽キャの皮を被った陰キャ王子様明日夢と、コミュニケーション能力が悪くないクール系美少女。この差はどこで生まれたのだろうか。

 

「現役ファッションモデルのプロデュースは気になるが……そろそろ行きますか。霊薬飲んだし」

 

「だね。資料では見たけど、あんまり想像付かないなあ」

 

「そうですね。私もここの主を見た時、驚きましたから」

 

「そうだな……あれは衝撃的だった」

 

 準備を整えて、このダンジョンの主がいるであろう大広間へと足を踏み入れた四人。曇った水晶で覆われた闘技場めいた大広間には何もおらず、油断したくなるが、ボス部屋であることは変わりない。

 警戒を怠ることなく周囲を見回している四人は不意に、強い瘴気と闘気を感じ取る。その気配はこの大広間の丁度真下から伝わってきており────

 

「来るぞ!」

 

 ガシャアアアアアアアアアアアンッ!!

 巡の声とほぼ同時に、水晶の床を粉砕しながら巨大な怪魔が現れた。

 

「…………は?」

 

「……いつ見ても妙な見た目だ」

 

「中々インパクトある見た目ですよね」

 

 水晶をぶち抜いて現れたその怪魔の胴体は、人間のような姿をしている。長い髪によって恥部を隠されてはいるが、それが無くなれば間違いなく全裸の女性に目を向けることなく、その女性の姿の奥にあるそれに四人は視線を向けていた。

 

「……チョウチンアンコウ?」

 

 明日夢が呟く。

 

「……そうだな。チョウチンアンコウだ」

 

 それにしては見た目が凶悪過ぎるが、と治水が続けて呟く。

 

「でも鰓はないですし、ヒレの部分は蜘蛛のそれですけどね」

 

 全体像は完全にチョウチンアンコウですが、と玻璃が頷く。

 

「頭いいよなあ。性欲が強い戦士とか、女に飢えてる男を狙って食うならこの上ない餌だもん」

 

 そういった行為をするために武装を解除して無防備にして、精力を搾り取って力を得た後、確実に仕留めるという点においても硬度の高い誉れを感じている巡。こいつだけ視点がおかしいとか言ってはいけない。

 

 さて、この奇怪な姿をしている蛮蜘の晶洞宮のボスの名は【蛮晶の怪魚 蜘鯰(ちなめ)】。古くは様々な触媒として利用されていた水晶を採掘して栄えた鉱山村の奥地に存在していたこのダンジョンの主であり、その村があった頃から行方不明者を発生させたり、生きて見つかったとしても精魂尽き果てて干乾びた状態で人間が発見されたりと存在だけは言い伝えられていた怪魔である。よく見ると、アンコウで言うところの疑似餌(エスカ)の部分である女性には蜘蛛や鯰の特徴があったりする。蜘蛛のように赤い瞳と、鯰の体のように艶のある体。女に飢えた男には堪らないものがあったりするのだろう。

 

 本体は大型トラックくらいのサイズ感。攻撃は質量に物を言わせた突進、ジタバタしての圧し潰し、よく分からない身体能力に物を言わせた跳躍からの飛鳥文化アタック、巨大な口で頬張った水晶を噛み砕いて吐き出す超広範囲ショットガン、蜘蛛の脚のようなヒレでの刺突攻撃と多彩である。

 

 なお、これは本体の攻撃パターンであって、疑似餌が攻撃しないとは言っていない。なんと疑似餌も攻撃してくるのだ。疑似餌の攻撃パターンは蜘蛛の糸を吐いたり、地面を沼にしたり、地面をぬめりで滑りやすくしたりするという嫌がらせ特化のような攻撃。斬り落とせば一時的に嫌がらせは終わるが、そのうちまた生えてくるという誉れ高い再生能力も兼ね備えている。

 

 こんな面倒なボスではあるが、攻撃速度はそこまで速いわけではなく、見てから回避することが可能な速度。欲張らなければ無被弾撃破も可能であるし、水属性や風属性の魔法は効く。疑似餌がばら撒く地形妨害も、魔法や地形に作用するスキルで消すことができる。このダンジョンに挑む前に挑戦できるダンジョンのボス【愚鈍なる蛇】の素材で作る武器が特攻である理由は、打撃属性というだけではなく、MP消費して地面に叩き付けることでダメージ床を発生させるギミック持ちの武器であるからだ。なお────

 

「玄武、結界を張る」

 

『おうさ。我が結界によって疑似餌の攻撃は封じたも同然だが……油断はするなよ』

 

「青龍、三野先輩の結界がありますが、何かされる前に切り落としますよ」

 

『ええ! ええ! いいわ! 嵐のように、全てを薙ぎ倒してしまいましょう!!』

 

 特攻キャラと言っても過言ではない二人がいるため、今回はそんな武器を使う必要もない。

 

「んじゃ、狙いますか……ボス撃破TA新記録」

 

「記録取ってる人いるのかな?」

 

「とりあえず3分切り行ってみようか。禍津日様、カップ麺」

 

『五分のやつしかねぇぞ。猛龍激辛担々麵しかねぇし』

 

「チーズと温泉卵を用意しといてください」

 

『あいよ。全員分入れとくから5分でケリつけろよ』

 

 グダグダしているような気がしないでもないが、ボス戦タイムアタックが今始まった。

 ちなみに巡は霊薬とパッシブスキルとアクティブスキルと強化魔法などでバフをガン積みしている。

*1
自分を含めたパーティー全員にかかるバフのこと。討魔は全体、個人の両方があるぞ!! 




玻璃(辛党の姿)
「猛龍激辛担々麵……!? あの販売停止になった伝説級の辛いカップ麵ですか……」

治水
「カップ麵か……小さい頃食べて以来食べていないな……」
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