恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
「アイテム合成の時間だオラァ!!」
「模歩君、なんだか目がギラギラしているけどどうしたんだい……?」
「大丈夫よムーちゃん。あの子たまにおかしくなるの」
外野が何か言っているが、気にしていられるか。アイテム合成。『討魔』において結構重要な要素である。
怪魔から手に入れたドロップアイテムや、ダンジョンで採取したアイテム、アムリタなどを回復アイテムやエンチャントアイテムに変換したり、アムリタ結晶に変換したりすることができるのだ。最初は作れるものが初級回復アイテムと防御力アップの霊薬のみと限られているが、今回、大耀さんは学園から優遇されているということで作れるものが初期よりも多い。一定時間スタミナの回復速度を上昇させる霊薬や、アムリタ獲得量を上昇させるアイテムなんかも作れてしまう……!!
「しかし、それだけではないんだ……」
アイテム合成を行うための謎の釜にアイテムを放り込みながら、俺は呟いた。
「追加儀式によるアイテム効果上昇なんかも、大耀さんは許可されている。つまり、どういうことか分かるか、大耀さん」
「えーと……いつもより強くなれるってこと?」
「そう、誉れポイントが手に入るチャンスということだ」
「会話できてるようでできてないわよメグちゃん」
『相変わらず、妙なタイミングで気が狂うなこの小僧』
背丈が2メートル近いローズ先輩の横に現れた赤と金色の鳥公。四象の神獣鳳凰だ。朱雀? この世界において朱雀は鳳凰になる前の姿だ。ポケットなモンスターで言うところの進化前である。海外にもそういうタイプの神獣がいる。フェニックスって言うんだけどな?
「本当ならそこにいる鳥の心臓とかも使いたい……どうせ心臓もぎ取っても再生するだろうし」
『蘆屋道満のような罰当たり極まりない発想は止めろ小僧』
蘆屋道満様とは旨い酒が飲めそうだ。いつか話ができないものか……DLCで平将門とかいう日本三大怨霊が追加されて、力を示すと加護くれるんだから、稀代の陰陽師である蘆屋道満だって加護くれるキャラとして出てきてくれてもいいのにな。葛葉とか安倍晴明とかいるのに、道満様いねぇのなんで?
「まぁ、羽はそのうち毟り取るとして……真面目な話、大耀さんに許可されてるアイテム合成は、通常のアイテム合成とはちょっと違うんだな」
「具体的には?」
「本来なら試験を受けて許可が出るようなやつも作れる」
例えば、と俺は釜を何度かかき混ぜた後、少量のアムリタを放り込む。すると釜の中でドロドロに溶けあったアイテム達がまとまり、半固形物となった。そんな半固形物を軽くて頑丈な────ぶん投げたら壊れる強度────壺に詰め込んで蓋をする。
「これとか」
「……これは?」
「猛毒爆弾」
「猛毒爆弾!?」
中級合成試験、というものを受けて合格しないと作ることが許可されないアイテムの一つ、猛毒爆弾。ゲームだと毒耐性を持っているボスを除いた大体のボスに通用する毒属性の誉れ高い投擲アイテムだ。何が誉れ高いって、当たらなくてもその場にある程度毒霧が滞留するため、戦っている間にいつの間にか毒になっていた、なんてことができる。そしてこの毒霧を利用してセルフ状態異常自作自演逆恨みビルドなんかでやるようなムーブもできるのが誉れ高い。あと、スキルが必要にはなるが、毒霧を武器にエンチャントすることもできる。ちなみに蓋を開けても地面や壁にぶつからない限り気化しないため、ナイフを漬けておけば、二日で猛毒ナイフの出来上がりだ。
「メグちゃん、いきなりアクセル全開で駆け抜け過ぎじゃない?」
「そうですかね? 正直まだまだ序の口なんですけど」
本当なら上級合成試験に合格した後じゃないと許可が下りない合成アイテムとか教えたいところなんだけど。ただでさえこの世界は人間に────特に大耀明日夢という主人公に優しくない。女性ルートはどんな道筋を進むかにもよるが、裏切りからの強姦未遂とか、どっかの名家の孕み袋にされそうになるとか、そういうブラックな感じの描写があったりする。恋人、親友などがいないと自力でそこから脱出しないとゲームオーバーになってしまうことが多々ある。ゲームオーバー後の世界は恐らく主人公に力を貸していた神様や神獣がブチギレて世界を滅ぼしちゃうと思う。頭バーサーカーな節がある宇迦之御魂様が加護与えてる子に同意も無しに手を出すのは、命知らずを通り越して命要らずではなかろうか。討魔の同人誌の四割がそういった鬱凌辱NTR系であるということを知った時の絶望感よ。残り六割は普通に純愛。そんなことやるから人類滅亡ルートなんてものがご用意されてるんだと思うんですけど。
正直とんでもないガバをやらかさない限り、そういうことは起こらないのだが、あり得ないなんてことはあり得ないというのが現実というもの。大耀さんが一般家庭出身だからと下心で近付くような下種がいないとも言えない。死に戻りできるとはいえ死ぬかもしれない戦いに身を投じているせいで昂ぶった頭海綿体の猿がいるかもしれない。
実際いたし。でもローズ先輩が隣にいる状況で瑞騎先輩を襲おうとするのは命知らずにも程があると思いました。そいつは地下労働施設に放り込まれたという噂だ。ざわざわしてそう。
まぁ、とにかくだ。大耀さんにはそういう頭のおかしいやつらが手出しできないくらい強くなってほしいのだ。そのためなら俺はどんなことにも協力する腹積もりだし、誉れ高い戦い方だって叩き込む。弱い奴は死に方も選べない、なんて修羅みたいなことを言うつもりはないが、知り合いがそんなことになったら俺は許せない。誰だってそうだろう。俺がそういうやつらから守る、なんて傲慢なことは言えない。俺がいつも一緒にいるわけではないのだから。
「というわけでこれから大耀さんにはアイテム合成を飽きるまでやってもらいます」
「えーと……説明書とかあったりは?」
「ある。けど今日は使いません」
「ムーちゃんの感覚を掴むのが大事だから、まずは何も見ずにやってみましょ?」
「うーん……よし、やってみます!」
やる気十分、といった感じで釜に手に入れたアイテムを放り込んでいく大耀さん。迷いなく大量のアイテムを放り込んでいく向こう見ずな感じ、嫌いじゃないしむしろ好ましいとすら感じる。
「……それで? あなた、どこまで仕上げるつもりなの?」
「それ聞いちゃいます?」
「当たり前じゃない。百鬼夜行、参加させるつもりなんでしょ?」
大耀さんが釜の中や火加減などをガチャガチャ弄っているのを眺めていると、ローズ先輩が小さな声で問いかけてきた。
百鬼夜行。討魔においては定期的に起こるイベントで、特定のダンジョンで怪魔が異常増殖を起こして人間の血肉やアムリタを求めて大行進を開始するという、いわゆる襲撃イベントの類である。俺の記憶と、この世界の記録として残っているものに限るが、百鬼夜行自体は何度も起こっているが、超大規模な侵攻はごく稀にしか起こっていないという話だったはず。一例として挙げるとすれば、戦国時代、大阪夏の陣は人間同士の戦いではなく、城を占拠した怪魔共VS徳川豊臣大連合の戦いだったそうな。
海外の話だと、アーサー王率いる円卓の騎士達は強靭な肉体で騎士達の盾となった勇猛なピクト人達と共に怪魔の大群と戦ったが、勝利した時には多くの犠牲者が出ており、アーサー王は息子モードレッドを含めた多くの円卓の騎士を喪ったと共に深手を負って聖剣を湖の乙女に返還した────とか、トロイア戦争はアキレウスとヘクトールが手を組み、オデュッセウスの策で怪魔に支配されたトロイアに侵入し死ぬまで戦い抜いてトロイアを奪還したとか、アレキサンダー大王の東方遠征は実は怪魔の大侵攻の天啓を得たアレキサンダー大王が挙兵し戦った────など、俺の前世とは違う歴史や神話なのだ。
まあ、そのレベルの大行進は序盤は起こらない。生きていれば何度かお目にかかるくらいには定期的に起こっている百鬼夜行。俺も幼い頃や学園に入学してから何度か経験している。
「強くなるには絶好のタイミングでしょ。それに、大耀さんの実績を多くの人に見てもらえるチャンスだ」
「そうねぇ……彼女への反感を持ってる子達も、百鬼夜行で彼女が活躍すれば納得してくれるかもしれないわね」
「人間は手のひらがドリルみてぇなもんですからね。コロッと手のひら返しするでしょうよ」
『そんな人間ばかりではないだろうが……完全には否定できんな』
「なので、大耀さんを百鬼夜行に連れていけるくらいには仕上げたいっすね」
レベリングにもなるし、百鬼夜行でしか出てこないレアエネミーとかもいるので、そいつのドロップアイテムを徴収したい。そんな慣れてくると美味しい大イベント(当社比)、百鬼夜行が始まる何日か前に神様や神獣がそれを感じ取って加護持ちに通達したり、ダンジョンに出現する怪魔の量が多くなったり、怪魔を封じ込めている大結界が大増殖によって綻びが生じたりと色々前兆があるので、前兆があったらすぐに通達、一般市民は万が一に備えて結界が何重にもかけられた避難所に移動してもらうという手筈になっている。
ちなみに。この百鬼夜行が起こった時だけ、陰と陽のバランスが崩れて神様や神獣の面倒な制約やら何やらが緩むらしく、ダンジョンの外でも死に戻りが可能となる。なお、何度も死に戻りができるというわけではないらしいので、そこは注意が必要だ。
「何、俺が近くでフォローしますよ。少なくとも死にはしないと思います。いざとなったら俺が自爆覚悟の誉れ高い戦いってやつを見せてやりますとも」
「それを見た参加者のほとんどが記憶を消す霊薬を飲んだって話、忘れてない?」
「やだなぁローズ先輩。俺だってやりたくないですよ? 万が一、億万が一の場合ですって」
「ダウト。嬉々としてスキル試しと言わんばかりに突っ込むのが目に見えるわ。いざとなったらリジェネとか回復とかかけたげるわ」
「っしゃあ、言質取りましたよローズ先輩!」
「あらやだ、藪蛇だったかしら?」
そんな会話を続けること十数分。大耀さんがぐつぐつと音を立てる釜をかき混ぜていると、混沌とした黒い煙が立ち上り始めた。失敗か、と思うかもしれないが、このゲームのアイテム合成は失敗というものがない。失敗と言えるものがあるとするなら、自分が望んでいたアイテムが合成できなかった時ぐらいだろうか。
ボンッ、と爆発音が鳴った後、大耀さんが釜の中に手を突っ込む。取り出された手に握られていたのは────くすんだ銀色の蛇を模した腕輪だった。
「…………神アイテム引きやがったよこの子」
「あら、とってもいいもの手に入ったわね」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、そうよ♡それを付けてるとね? 怪魔を倒した時に手に入るアムリタの獲得量が増えるのよ♡」
「……つまり、もっと強くなれるってことですか?」
「端的に言えばそうね」
ちなみに俺は持ってない。正確には持っていたが、それを装備するより他のアクセサリーを装備した方がいいということで他の人にあげてしまった。あげた人? 瑞騎先輩ですが何か。推しに貢ぐドルオタってこんな気持ちなんだろうなぁって思いました。