恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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親友(怪魔)

 中盤のダンジョンの一つ、『贋竜の墓迷宮』。ボスは竜の成り損ないであり、とある神に喧嘩を売って呆気なく敗北して捨て置かれた死にぞこないという設定の爬虫類、【逆恨む蜥蜴 嚥悔(えんげ)】という大型怪魔であり、登場する怪魔は爬虫類系と、その餌となる両生類。たまに二足歩行の両生類が四足歩行の爬虫類共に下剋上するが、それより強い爬虫類に喰われる弱肉強食、諸行無常を楽しめるダンジョンである。

 

 討魔をプレイしたプレイヤー達全員が、中盤の経験値稼ぎと言えばどこかと聞かれた際にこのダンジョンを挙げる。このダンジョンの怪魔は、中盤までしっかりゲームを遊んでいればそこまで苦戦することがなく、爬虫類が両生類をバクバク食べてアムリタを大量に蓄えていることもあって、中盤の経験値稼ぎと言えばこのダンジョンとされている────のもそうだが。このダンジョン、実は隠しエリアが存在しているのだ。

 

 隠しエリアは広い迷宮が広がっている、というわけではなく、ボスが一体鎮座しているだけ。そのボスと殴り合うことこそ、このダンジョンが中盤の経験値稼ぎとして使われている理由である。リス地から近いため死んでも経験値を回収しやすく、状態異常が有効で、攻撃が痛いわけではないのでリジェネ霊薬やスキルで十分賄える程度。卑しくて厭らしい攻撃も存在せず、状態異常を使わない純粋な物理ファイターなボス。なお、間違えて迷い込んだプレイヤーをボコボコにしてしまうこともあるため、ちゃんとボスはやっている。

 

「よぉ……数週間ぶりだな」

 

 そんな隠しエリアのボス、【乾いた竜骨 留骸(りゅうがい)】の耳────の役割をしているアムリタで形成された器官が、心地良い殺意が込められている声を感じ取った。

 

 肉の無い、アムリタと骨だけで構成された巨体をゆっくりと持ち上げると、アムリタで造られた六つの瞳に、そいつが映った。何度も何度も留骸と戦い、留骸の六つの腕を砕き、三つある首を断ち切っていく人間が、そこにいる。

 

「相変わらずここに誰か来た形跡は少ないな……俺以外挑んでる奴がいない、わけじゃねぇよな?」

 

 留骸は答えない。だが、蜂と蝶、それと花を思わせる大きめの籠手を両手に装備している男────巡は、留骸の少ない動きで何かを察して苦い顔を浮かべた。

 

「多分プロが来てないだけで学生は来てんのか。でもお前強いからなー……一度挑戦してボロクソに負けて挑戦を諦めたってとこか?」

 

 巨人の如き巨体を起こした留骸は肯定するように、骨を鳴らす。その音は笑っているようにも、これから始まる殺し合いへの気概にも感じられ、放たれる圧は中盤のダンジョンにいていいようなものではない。

 

 かつて遥か遠くの土地で打ち砕かれ、世界中に散らばった竜の亡骸の一つなのだから、当たり前ではあるが、留骸はこのダンジョンの主を叩き潰して新たな主になることくらい容易である。しかしそれはしない。それをやった時のメリットとデメリットを考えると、デメリットの方が大きいからだ。

 

「さぁて……無駄話もそこそこにして、やるか。────暗雲、神なる雷、昇る極光。刮目せよ。喝采せよ。これなるは、魔を滅する刃」

 

 肘まで覆い尽くすような籠手が纏ったのは、雷光。しかし、聞いたことが無い祝詞だと留骸は思う。しかし、その雷光から感じるのは己がこうなった理由となった何者かの気配。はて、目の前の男は何某かの加護を得たのだろうか。……否、そんな気配は感じない。感じるのは穢れを祓う禊の神と、病魔の化身、騎士と騎馬の神? 怪魔? ……それと、よく分からない神の気配。樹木なのか、金属なのか、蜘蛛なのか、蛇なのか、竜なのか、犀なのか、土偶なのかはっきりしてほしい。

 

 まぁ、とにかく開戦だ。この男は、己がこうなってから戦った戦士の中で最も恐ろしい強さを持つ男だ。油断なんてできるわけがない。ゆえに、得意を押し付ける短期決戦を選ぶ。

 

「いつも通りの肉弾戦か! いいぜ、そういうのも嫌いじゃない!!」

 

 迷い込んだ戦士や、怪魔から刈り取って蓄えたアムリタを体内で爆発させるように燃焼。放出することでジェット機のように飛び出した留骸は、六つの剛腕を次々に戦士────巡へと叩き込む。迫る拳に対して、巡は雷光を纏った籠手で迎撃を選択する。

 

「拳スキルも育ててるんでねぇ。殴り合おうぜ留骸(しんゆう)!! 【迅雷千撃】!!」

 

 留骸の拳と巡の拳が激突する。両者防御なんて無粋な真似を考えることをしない、どちらが先に倒れるかの我慢比べ染みた殴り合い。アムリタを一気に燃焼させることで可能とする魔力放出による威力と速度が増した拳と、雷光を纏った神速の拳が何度もぶつかり合い、時折額に、胴に、頬に直撃する。

 

 しかしどちらも折れない。怯んだら負けだと言わんばかりに、巡も、留骸も、死を恐れることなく前へ、前へと拳を突き出していく。

 

「ハハハハハッ!! 骨の関節が増えてやがる!! 器用だなおい!!」

 

「「「────ッッ!!」」」

 

 やはり気付くのがこの男であった。

 留骸は考えた。己の拳をさらに強く、さらに速くするにはどうしたら良いのか。誰にも追い付けぬ、加速と力を得るにはどうすれば良いのか。他の怪魔よりも記憶の引継ぎがはっきりとしている留骸は考えた。勝利と敗北、捕食と復活を繰り返す度に考えに考えた。全てはこの姿となっても消えることがないあの雷を、目の前で殴り合いに興じている強者を超えるがため。

 

 考えた結果、死してなお生きる己の体を改造した。関節の量を増やすことで関節という名の加速装置を増設。その加速に耐えるためにアムリタや魔力で補強。肉が存在しないため、肉の補強に回す分まで骨や関節の強度補強に使えるのは、この体の良い所だった。もちろん、腕だけを強化するだけでは腕の強化に振り回されるため、全身の関節という関節を増設、強化を施している。これによって、相手の攻撃を拳で受けた時のダメージまで軽減しているのだ。

 

 時折、巡が使う魔法の詠唱が原因で配信される────最近は禍津日のせいだが────巡のダンジョン内部での戦いの中で、この戦いだけは絶対に見逃さないとある神は、かつて殺した竜の亡骸の進化に涙が出るくらい笑った。笑いながら、神々でも手を付けるのを躊躇うような高級酒のコルクを開けて周囲の神々に振舞い始めている。

 

「けどなぁ、お前が強くなってるように! 俺も! 強くなってんだよ!! その程度で怯むか馬鹿が!!」

 

 巡が殴る。

 留骸が殴る。

 巡が殴る。

 留骸が殴る。

 

 一人と一頭を中心に、暴力の嵐が吹き荒れる。この場に下手な怪魔や人間がいたのなら、近付くこともできずに拳と拳が激突する衝撃で吹っ飛ばされているところだ。

 巡は血を、留骸は骨片とアムリタを吐き出しながら、殴り合い続ける。一発一発が全て、全力。一発一発が全て、必殺を込めた一撃。一人と一頭は止まらない。止まったら負ける。止まったのならば、目の前にいる好敵手(しんゆう)に応えたとは言えない。男と男の勝負に水を差す者がいれば、この一人と一頭は容赦なくその者を叩き潰してもう一度殴り合いを再開するだろう。ゲリュオンとクリュサオル並みに、巡と留骸は血に染まり切った長い付き合いである。

 

「関節を増やして、強化も施してるが……結局は強化だろ? 衝撃が全部無効化してるんじゃねぇならよぉ……!!」

 

「…………!!!!」

 

「“限度”ってのがあるんじゃあねぇかあ!!?」

 

 巡の拳がさらに加速した。巡の持っているスキルの一つ、【死戦臨界】が起動したのだ。

 

 このスキルはHPが残り僅かになった時にのみ、自動で発動するスキル。効果内容は、HPが残り僅かになった際、30秒間の無敵状態と、全ステータスの超強化。これだけ聞けば超強力なスキルのように感じるが、もちろんデメリットも存在する。このスキルが発動した時点で、スキルを発動した人間は全ての回復手段を無効化してしまう。食い縛り霊薬や、HPがゼロになった時に一度だけ回復するなどのアイテムや魔法、スキルも打ち消してしまう。しかも30秒間の無敵というのも、正確には無敵ではなく死なないだけ。この状態でダメージを喰らえば、スキルが切れた瞬間にそのダメージを受けて即死する。どう足掻いても死ぬことが確定する、常人では使うことすらしないスキルであるが────この戦いを見ている英雄達や、神々は感嘆を込めて唸る。まさか、このスキルを持っている人間をこの時代に見ることができるとは、と。

 

 本来であればこのスキルの一段階下のスキルで、HPがゼロになった瞬間にHPを半分まで回復させてステータスを強化する【死線打破】で打ち止めになるはずのスキルだったが、巡はあまりにも死に過ぎた。あまりにも尋常じゃない量の死線を潜り抜けて、戦い抜いてきた。それこそ神話の時代、12の試練を乗り越えたヘラクレスや、迫りくる怪魔の軍勢に対して殿を引き受けて死してもなお戦い抜いたクーフーリン、とある理由で怪魔と成りかけていた義経が兄と妻に別れを告げるまでの間、怪魔に与した賊を含めてアリ一匹通さなかった武蔵坊弁慶と同じくらいに。

 

「オラオラオラオラオラオラァッッ!!」

 

「──────────────ッッッ!!!??」

 

 次第に、留骸の拳が押されていく。次第に拳を動かしても攻撃が届かなくなる。六本の剛腕が、二本の剛腕に圧倒されていく。視界が揺らぐ。音が遅れてやってくる。無いはずの内臓が揺れる。無いはずの脳が震える。だが、それでも留骸は敗北を認めない。拳が押されているからなんだ。己にはまだ、三つの首がある。巨体を支える足がある。全てが砕け散るまで勝利することを諦めるなど、無粋の極み。

 

「オラァッ!!」

 

「!?」

 

 バゴンッ、と凄まじい衝撃が腰を襲う。腰、よりもさらに深く、届いてはいけない箇所に、内部に浸透するような衝撃が届く。その一撃を受けたことで、何かが砕けて体のバランスが崩れる。せめて一撃、その頭蓋を噛み砕いてやろうと首を伸ばすが────懐に潜り込まれた。これでは噛みつくよりも倒れ込む方が早い。

 

「これで、終わりッ! だぁああオラァアアアアアッッ!!」

 

 骨とアムリタと魔力の鎧で包まれている心臓があるはずの部分、そこに納まっている核に、極太の杭が叩き込まれた。突き刺さり、凄まじい衝撃と、何かをぶち抜いたような爆音が隠しエリア全体に響くと同時に、留骸の意識は消し飛んだ。

 

「っしゃあ俺の勝ちだ!! 素材及びアムリタ結晶回収ヨシ!! 溜め込んでたアムリタはほとんどなし! よし、いつでも────」

 

 その後すぐに、巡も糸が切れたマリオネットのようにぶっ倒れて灰となる。なんともまぁ呆気ない死に戻りである。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。確かに見事と言わざるを得ない益荒男よ」

 

 巡が死に戻りでリス地に吹っ飛ばされてすぐ。隠しエリアの端で先程の戦いを思い返して唸る男がいた。

 

「八束のや、蜈蚣のが高く買うのも分からんでもない」

 

 クツクツと笑うその偉丈夫の額には禍々しく捻じれた角が生えており、腰には複数本の業物であろう曲刀。間違いなくただ者ではない気配を放つその男の名は【捻赫行者(ねんかくぎょうじゃ)】。ダンジョンの主を務めることをせず、かと言って人を害することもなく、しかし人の味方をするわけでもなく────怪魔側についたり、人間側についたりとフラフラと浮世怪魔生を楽しんでいるエンジョイ勢怪魔である。

 

「聞けばあの益荒男は麒麟の娘や白虎の娘、さらには豊穣の娘に懸想されているらしいな。よいよい、英雄色を好む……女を侍らせるのもまた、才能よ」

 

 カラカラと笑い、酒を飲む捻赫行者。酒のつまみは戦いと行者ニンニクの醤油漬け。昔は難しかった口臭対策も人間側のアイテムでばっちり。

 

「しかしなぁ……あの畜生めの気配がするのがいただけん。やつめ、あの益荒男に何を植え付けたのやら……」

 

 酒を口にして、考えて呟く。

 

「……まぁ、因果応報という言葉もある。あの畜生めはそのうち死ぬだろうさ」

 

 此度は逃げられんだろうなぁ、と捻赫行者は考えつつ酒を呷る。この酒も怪魔狩りと同時に行っていたアルバイトで金を稼いで手に入れたもの。この怪魔、人間社会に馴染んでいやがる。

 

「さて……そういえば八束めも、蜈蚣めもだが……久しく現世を見ていないと来た。ぬらを含めた旧友を集め、少し戯れるのも良いかもしれんな」

 

 不穏なことを呟き、捻赫行者はその姿を消した。

 最初に断っておくが、今年の秋、巡はこの戯れによって白目を剥きかけることになる────!!




迅雷千撃
スタミナが続く限り拳を振り続ける技。ヒット数はスタミナ依存でどこまでも伸びるが、火力は筋力と技量依存。HDリマスター&リメイク版討魔で登場したスキル。使うと光属性エンチャント(雷)が乗るため、他のエンチャントをしていると塗り潰されてしまう。なお、雷のエンチャントをしている場合は塗り潰されない。
この世界では巡が瞬獄殺を再現しようとしている時に、偶然できちゃったスキル。できちゃったので使っているが、本人的には「出血エンチャを乗せられねぇ…!」と嘆いている。

拳を使ってる際の気狂い
IQが著しく低下している節がある。いつものことなので気にしていない。今回は明日の五家の集まりに行かなくてはならないことへの憂鬱を吹っ飛ばしに来た。




源義経物語
この世界において、源頼朝が晩年まで書き綴ったとされる物語
最期まで戦った戦士、源義経の武勇伝だけではなく
幼少期の義経、牛若丸についても触れられている

怪魔と、賊と、戦い続けた義経は
いつの日か民草に恐れられ、追放された

物語の最後には、頼朝の強い言葉が書かれている。

義経よ、何故(なにゆえ)兄を恨まなんだ
恨んでくれたのならば、呪ってくれたのならば、兄は弟殺しの外道として生きられた
牛若よ、何故(なにゆえ)兄を憂いて句を詠んだのだ
牛若よ、何故(なにゆえ)あの時、俺に笑みを向けたのだ
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