恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
親友との戦いを超えた先で憂鬱。そんな人生もあると思います。……うん、無い方がいいよな、そんな人生は。人生は是非とも楽しいものであってくれ? 素材はいいものをゲットできたので俺は満足だし、押し付けられた臨時収入もある。まあ、貰えるものは貰っておくが……
「もう燃やしてしまおうか……呼べば来てくれると思うんだよなあ」
『何がだよ』
「スプンタ・マンユ様」
あの神様なら、吐き気を催す邪悪を浄化する火をくれると思うんだ。討魔には登場しなかったが、火の神様の中でも本当に最高位並みの格がある神様がいる、みたいな話があったし、スプンタ・マンユはいると思う。
『やめとけ。一緒にアンラ・マンユも来るぞ』
「それはそれで美味しいのでは?」
『……………………かもな』
ワンチャン呪いもらえんだろ、アンラ・マンユ様は悪の神様だし。……悪に基づいたものを作っただけってだけで、悪の神様というのは違うのか?
「っぱ狂い火よ」
『現実逃避はもういいか?』
「365日オールウェイズ現実逃避真っ最中ですが」
『気持ちは分からんでもねえが、しゃんとしな』
「うす」
面倒くさいな、本当に。いや、翡翠先輩の自由を確保するための作戦なんだから面倒くさいとか言っちゃダメなんだが。でもお偉いさんが集まる会合とか、面倒くさいの象徴みたいなところあるでしょ。平民的にはお偉いさんには関わることなく過ごしていたいと────いや、そんなこと言ったらローズ先輩とか翡翠先輩とか虎成さんとかとなんで関わってんだってなるわ。万莱君だっていいとこの跡継ぎだし。
ちなみに大耀さんは禍津日様のダンジョンで鍛えている。あそこなら碌な考えをしない連中の魔の手にかかることもないので、意外と安全地帯だったりするのだ。禍津日様の本体もいるし、英雄達もいる。そんな中で手を出すような輩はいないだろう。いたら俺はそいつを
「というか学生なんだから制服が礼服だろ。なんでドレスコードあんだよぶっ飛ばすぞ」
『ま、色々あんだろうよ』
「キレそう」
まさか今の俺がネタ装備を用意することになるとはな……ネタ装備はな、ちゃんとした実力があるやつしか使っちゃダメなんだ……性能が良くないからな、プレイヤースキルがないと使いこなせないから。クリティカル以外全てダメージが0になる代わりに、クリティカルダメージの上限が上がる装備とか、攻撃の一切が0ダメージになる代わりに、受けた攻撃のダメージを割合で反射する装備とかな。
俺が着ているこの礼服もその類である。この礼服は物理カット率脅威の0を超えたマイナス15%! 代わりに魔法属性カット率脅威の90%!! アクセサリー装備不可!! 装備重量上限低下!! 回復アイテムの効果を周囲の味方と共有! 物理攻撃を受けた時に周囲の味方を回復させるおまけ付き! ……誰相手を想定してるんですか??
「行儀のよいふりしたくねぇ……蛮地の王したい……せめて坩堝……」
『耐えろ』
「呪いの言葉止めてください」
劫罰の大剣とか再現できないかしら。ニーヒルを再現できているんだから、行ける気がするんだよなぁ……ギミックはMP流し込みで起動する感じにすればワンチャン……でも俺刀剣の類使えねえ……短剣は扱えるの何故? ……俺が使うべきは剣槍か? 剣槍なのか? 槍なら使えるぞ。主に兄弟子のせいで。でも鉈が一番使いやすくていいのだ。喰い裂き丸は俺の部屋で神棚に飾られることになった。崇めよ導きの鉈。
『つうか、原作じゃこういうイベント無かったのか?』
「あったけど無視してました。確定で獲得できるスキルがゴミなので」
『あ? ……あー……うん、確かに』
思い出したくもないゴミスキルの話はそこまでだ。あんなスキルを獲得するくらいなら、このイベントを潰した結果発生するイベントで五家の人達と戦うことで獲得できるスキルを獲得した方がお得。もしもの時に必要な対人スキルは貴重なのだ。だったら校内戦に出ればいいって? あんなスキル成長効率も素材も美味しくないイベントに誰が出ると?
ゲームと同じように、レベルが低い相手と戦ってもスキルは育ちにくい。ちょっとは育つのだが、同格や格上と戦った場合のスキルの伸び率と比べて段違いに低いのだ。雑魚狩りし続けてアムリタを得て、レベルを上げたとしても、技が無いから強くなれないってことだな。プロ曰く、学生やフリーの戦士はよく、自分のステータスやスキルに振り回されていることが多いそうだ。ステータスとスキルに振り回されるってなんだよ。
「はぁ……面倒くさいなァ……もう疲れちゃって」
どれだけ現実逃避しようが、ここに来てしまった時点でもう帰ることはできない。こういう格式高い場所に行く機会なんてないと思ってたんだけどな。前世今世含めても、こんな場所に来るのは専門学校のインターンとかでホテルのレストランにぶち込まれた時以来か。最初から最後まで場違い過ぎて帰りたいと思いつつ振り分けられた仕事してたし。っぱ定食屋かパン屋よ。
そんなことを考えながら、高級ホテルのパーティー会場に足を踏み入れる。うわぁ、場違い。帰りてぇ。馬鹿みたいな火力のエナジーボールが使えそうなシャンデリアに、清めの塩が使えそうな大理石の床に、絨毯────豪華絢爛という言葉がふさわしいくらいの場所である。ゴールデンウィークの代休で行った旅館は良かったなぁ……こう、温かみがあるというか、過ごしやすい感じがあって。ここは場違い感がすげぇ。
「おお、巡君じゃないか」
「あ、善治さん。いつもお世話になってます」
「それはこちらのセリフだ。息子が世話になっている」
場違いな高級感に気圧されていると、ローズ先輩のお父様であらせられる善治さんが声をかけてくれた。前回会った時は神事を行うための服だったが、今回は使い込まれているのに新品同様に整っている燕尾服を着こなしている。いやぁ、ローズ先輩のお父様なだけあって、凄いイケメンだよな善治さん。若い頃絶対モテたって分かる、滲み出る大人の男の風格。
「こんなところで会えるとはな。ローズは何も言っていなかったが……」
「あー……まぁ、翡翠先輩に招待してもらったと言いますか……翡翠先輩のお願いと言いますか……」
善治さんには話してもいいかもなぁ、と思いつつも、こちらに聞き耳と視線をさりげなく向けている連中がいるので止めておく。どうせ翡翠先輩が爆弾投下してくれるだろ。
「何やら訳ありのようだな」
「まぁ、色々あるんですよ。思春期なもんで」
「ははは! 私も若い頃はやんちゃしたものだよ」
元気に笑う善治さんの顔はどこかすっきりとしているし、あの時会った時よりも血色がいい。姫艶さんが死んでしまったことには変わりないが、重荷が下りて少しだけ楽になったのだろう。ローズ先輩もいつか、自分の名前を名乗れる日が来るといいのだけれど。……ま、ローズ先輩はローズ先輩だしいつかそういう日が来るだろ。
「それはそうと、奥様の調子は……」
「ああ。まだこういった場には出られないが、姫艶の部屋に訪れるようになった。……これも君のお蔭だ」
「そのうちローズ先輩がぶっ殺してそうでしたけどねぇ、あの怪魔」
本来ならローズ先輩と一緒にぶっ殺すはずだった怪魔だったしな、醜怪餓鬼。そもそもどこのダンジョンで生まれる怪魔なのだろうか。あいつの素材を使った武器が地味に優秀だから、全シリーズ揃えたいんだけど。
「あら、メグちゃん。お早い登場ね」
「こんばんは、模歩先輩」
「あ、ローズ先輩。辰巻さんもどうも」
俺と善治の話題になっていたローズ先輩が、辰巻さんと一緒にやってきた。ローズ先輩はスーツだし、辰巻さんは薄緑色のドレスを着ている。鳳凰と青龍は……ああ、なんかレスバしてる。議題までは分からないが、是非とも誉れあるレスバをしてくれ。取っ組み合いになったらシベリアンかボルシチダイナマイトか選ばせてやろう。それか炭火かガスかIHか選ばせてやろうじゃないか。
「何の話をしてたの?」
「醜怪餓鬼の武器を全シリーズ揃えたいって話をしてました」
「あの怪魔の武器、そんなに強いの?」
「呪装で使ってるやつと似たような能力持ってます」
「……確かに強いわね」
攻撃が後方から放たれるという不思議な性能をしているが、これがとても素晴らしい。バックアタックボーナスをいつでも叩き出せるのだ。ただし攻撃力は低めなので、そこは他の武器に軍配が上がる。なお女性特攻と出血。凄いよね。闇属性の出血エンチャすれば乗算されるんだぜ……加算じゃなくて乗算。流石だぁ……だから周回させてください。強化個体ぬっぺもなー、周回したいなー。楽しい玩具来てくれないかなー!!
「ただ他の素材もマラソンしなきゃなんで……」
「なんで……って、ああ。そういえば喰い裂き丸が壊れたって言ってたわね」
「そうなんですよ。妖蜂砕花があるんでまだいいんですけど、やっぱメインは欲しいもんで」
パリピイケメンボーイズに依頼はしているが、喰い裂き丸と同じものが出てくるとは思えない。あれは俺が使っていた重厚な鉈と炎刃の鉈を合成して造ってもらったものだから。あと、喰い裂き丸は神棚にいるので。新しい鉈が完成するまでは、妖蜂砕花がメインになるわけだ。ダンジョン探索中に風化した武器とか拾えたら話は変わってくるけど。未だに拾えていないダンジョン産武器。あれもまた癖つよだけど強いので欲しいなぁ。
「留骸の素材で色々作れないか模索中です」
「メグちゃん、あの骸骨ドラゴン倒せるのね」
「
「あなたマラソン対象多すぎないかしら?」
「素材は命よりも重い……!!」
「命の方が重いですよ」
死に戻りが可能な状態なら、命よりも素材の方が重いに決まってるだろうが。気は確かか、辰巻さん。
「ところでどうして模歩先輩がこの会場に? 五家の会合なのですが」
「あーっと、それは────」
「私が呼んだからよ」
凛とした声。いつも聞いている声が聞えたので振り向くと、薄い生地で作られている黒いドレスに身を包んだ翡翠先輩が立っていた。その隣には途中で合流したのか、琥珀色のドレスを身に着けている虎成さんもいらっしゃる。目が焼けないのかって? 安心するがいい、俺の精神よ。今回も霊薬服用済みだ。しかもいつもの倍量服用している。無いとは思うが、変な薬が盛られている可能性も加味して、状態異常対策の霊薬もがぶ飲みしてきた。なので俺の頭は結構晴れやかだ。
「こんばんは、翡翠先輩、虎成さん」
「ああ。……模歩巡、その顔は止めた方がいいぞ」
「?」
「さっさと帰りたいと言わんばかりのその表情だ。気持ちは分かるが、抑えろ」
ポーカーフェイスは鍛えている方なんだがなぁ……まさか俺のマリーザやザンギに勝てないどころか、翻弄され続けている虎成さんに見抜かれるとは思わなんだ。
「というか虎成さんもこの会合嫌いなのか」
「こんなところにいるくらいなら鍛錬に時間を使いたいところだ」
「ああ、脳筋。そのスタンスは嫌いじゃないしむしろ好きよ」
「お前もそうだろう?」
「マラソンしたい」
「やはりな」
くす、と笑った虎成さん。うーん、やはり可愛いなこの人。さすがは人間側の人気投票4位。当時のASMR売り上げランキング3位(月間)。快挙よね。
なんて思っていると、パチッ、と静電気が俺の指を貫いた。翡翠先輩痛いです。ナチュラルに魔法属性カット90%を貫通してこないでください。やめてください……いや、光属性の魔法耐性が伸びるか、耐性スキルとか獲得できそうなのでもっとやってください。
「耐性スキル獲得とか考えてるわね」
「思考が読めるのか……!?」
「あなたが考えることくらいは分かるわよ」
事実光属性の耐性スキルは貴重なのだ。闇属性とか無属性は手に入りやすいが、光属性の攻撃をしてくる怪魔が少ないのなんの……っと、そういえば。
「さっきから向こうで俺を見てる人は誰ですか」
「父と母よ」
「父上と母上だな」
「誰の」
「「私の」」
……なるほど、翡翠先輩と虎成さんのお父様とお母様であらせられましたか。翡翠先輩のお父様とお母様は何か見覚えがある。多分師匠に毎年新年の挨拶に来てた人。律儀な人もいたもんだなあ、と滝行をしながら眺めていた記憶がある。虎成さんのお父様とお母様は……知らん。ただ、何か興味深そうに見てる。
「挨拶よろしいか」
「いつも通りのは止めろよ」
「俺だって節度くらいはあるわ」
俺を何だと思ってるんだ虎成さんはよ。俺だってTPOくらいは知ってるよ。知っていてやらかす時もあるがな!!
とりあえず、翡翠先輩と虎成さんには本当にお世話になっているので、ちゃんとご挨拶しに行かねばと気合を入れたところで。
「正気ですか治水様!!?」
悲鳴染みた叫びがパーティー会場に響いた。……ああ、何か事態が加速するスメルを感じる。