恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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黙らせろ

 悲鳴のような声が聞えた方を見ると、臙脂のスーツに身を包んだ三野先輩と、ワナワナと震えている三野家の人間らしき人達がいた。

 

「ああ。正気も正気だ。俺は、瑞騎翡翠との婚約を破棄する」

 

 ……風向き、変わりそうね。

 

「なぜ今になってそのようなことを!?」

 

「俺は彼女に相応しくない。それを痛感した……それだけだ」

 

 あらやだ確固たる意志。しかし……三野先輩が婚約破棄ねぇ。いや、面倒事が減る分には俺としては助かるんだが、翡翠先輩が初恋の相手な三野先輩的には翡翠先輩と婚約していることをこの会合で強調することが大事だと思うんだ。どういう風の吹き回しだろう? ……いや、玄武だし、どういう水の流れ方? まぁどちらでもいいんだけどさ。

 

「俺は、あの怪魔────八束爬戯と対面した時、立っているだけでやっとだった」

 

「な────」

 

 ん? ……ああ、俺が押し付けたもんな。俺は八束爬戯に即殺されて、三野先輩や辰巻さん、大耀さんはどうにか八束爬戯を撃退した……みたいな感じに。禍津日様の加護を持っているとはいえ、俺が戦ったというシナリオよりも、三野先輩達が戦ったっていうシナリオの方が聞こえがいい。なお、大耀さんからは「君のせいで余計な羨望とか向けられるようになったんだけど」と恨み節をぶつけられた。今度なんかスイーツとか奢るので許してください。

 

 とにかく、そのシナリオを事実確認────神獣から聞き出すとかもせず、真に受けたからこそ、三野家の人達や、五家の皆さんも驚いているのだろう。……一部例外はいるけど。ローズ先輩とか翡翠先輩とか虎成さんとか。おや? 茶菓子同好会のメンバーしかいねぇな。辰巻さんはあの時のことを思い出しているのか苦い顔。鳳凰と青龍は……まだレスバしてんのかよ。お前ら自由か?

 

「だが……」

 

「……あ?」

 

 何故こちらを見るのだ三野先輩。というか俺が来たの気付いてたんか三野先輩。……気付くよな。凄い視線感じたもん。

 

「模歩だけは違った。彼だけが、八束爬戯に真っ向から挑んでみせた」

 

 バッ、とたくさんの視線が俺に集まる。何見てんだ見せものじゃねぇぞ。でも俺は沈黙する。俺は空気が読める刹那無心流の門下生。

 

「真っ向から挑み、死の間際であっても勝利を諦めなかった。臆病な俺とは違ってな」

 

「……あの男が」

 

「一般の出の……」

 

 一般家庭出身だからなんだぶっ飛ばすぞ。今ここでゲリュオンとクリュサオルを呼び出して蹂躙してやろうかてめぇら。つか、んなこと言ったら大耀さんだって一般家庭出身だろうが。ゲーム本編でてめぇらが厄介事に巻き込んだ事例どんだけあると思ってんだ。報酬はしょっぱいわ、集めてくる素材は面倒くせぇわ、闇堕ちルートの気配をちらつかせてくるわ……あ、思い出したらイライラしてきた。落ち着け……こういう時はアイテムを数えるんだ……幽鬼の仙骨……ぬっぺふほふの肉片……醜怪餓鬼の欠け刃……妖幻魔宵蛾の鱗粉……蝗魔の筋線……鬼種の尖角……穢れた薬草……素材は俺の命綱であり生きがい……俺の心の栄養……

 

「強者に対して立ち向かうことができなかった俺よりも、彼の方が、余程翡翠の相手に相応しい……そう思ったのだ」

 

「しかし……! 瑞騎家との婚約は、瑞騎家の救済という面もあります! それを破棄するなど……」

 

「婚約を破棄した程度で潰れるような家でもない。仮にも五家だ。お前は瑞騎家がそれほど弱く見えているのか?」

 

 何か言いたげな人の言葉を封殺────封殺でいいのか? まぁ、とにかく封殺するように言葉を吐き、三野先輩はこちらに歩いてくる。彼の歩く先を邪魔する者はおらず、まるでモーセの海割りみたいな感じに人の群れが二つに分かれていく。

 

「模歩巡」

 

「はい」

 

 堂々とした歩みで俺の目の前までやってきた三野先輩は、強い意志が宿った瞳を俺に向けてきた。ここから先、噓偽りを許さないと言わんばかりの強い目だ。基本的に馬鹿真面目なのが苦手な俺ではあるが、ここはしっかり真面目に対応させてもらおうじゃないか。

 

「翡翠から聞いている。お前が、翡翠の恋人であると」

 

「あー……まぁ、そういうことになってますね。はい、一応」

 

「…………お前は、翡翠という一人の女性を守ることができるか?」

 

「守るゥ? なーに寝ぼけたこと言ってんすか。翡翠先輩は守られる人じゃねぇっすよ」

 

 少しだけ、三野先輩が驚いたような気配がした。でも顔には出てない。凄いポーカーフェイスだ。

 

「翡翠先輩は守られる人じゃない。隣に立って戦ってくれる人です」

 

 いや、本当に。雷の槍投げるわ、雷の槍突き立てるわ、ラヴーシュカするわ……インファイト適性バチボコに高いから後ろで守られているお姫様じゃないんだよ翡翠先輩は。皆と一緒に戦場に出て戦うお姫様なんだよ。お姫様はお姫様でも戦姫なんだよ。戦士なんだよ。俺が尊敬するカッコいい先輩だよ、翡翠先輩は。

 

「弓より槍が得意で、魔法を撃つよりも叩き込む方が得意で……ジャンクフードとか、甘いものが好きな、俺の大事な先輩です」

 

「…………そうか」

 

 あら憑き物が落ちたような表情ですね。そっちの方がイケメン度高いんで是非ともデフォルトがそれでお願いします。

 それと翡翠先輩はさっきから何も話してないんですけど大丈夫ですか? 意識保ってますか? 霊薬キメますか? あ、痛い。静電気が来た。てことは起きてますね。というか俺の思考を読んでます?

 

「俺は彼女を────翡翠を守ることしか考えていなかった。だが……違ったんだな」

 

「いや、間違いではないと思いますよ。誰かを守りたいと思うのは絶対間違いじゃないです」

 

 大切な人を守りたいという思いで戦士になった人は数多くいる。誰かを守りたいと思い、そのために強くなるのは絶対に間違いではない。三野先輩の場合、その誰かが翡翠先輩だったというだけで。

 

「……模歩巡」

 

「はい」

 

「頼んだぞ」

 

「言われなくても」

 

 これ以上の言葉は不要だった。三野先輩は満足そうに頷き、このやり取りを見ていた周囲の人間に対して叫ぶ。

 

「俺は、瑞騎翡翠との婚約を破棄すること、そして模歩巡と瑞騎翡翠を祝福することをここに宣言する! そして、これまで通り、瑞騎家を支援することも止めぬと! ただし────」

 

「ただし?」

 

「支援は、瑞騎家が完全に立て直されるまで。三野家次期当主、三野治水の宣言に異がある者は力を示せ!!」

 

 ……そういえば、文句があるなら実力で示せって感じなムービーあったな。五家の皆さんと連戦するイベントも、そういう感じだったし。対人スキルが確定で獲得できるイベントなので、滅亡ルートを踏むならあれを経由するのがお得。にしてもニヤついてる玄武を除けば最高にカッコいい一枚絵だな、三野先輩の宣言。玄武、上辺だけでも真面目な顔をしてくれ。

 

 それはそれとして、三野先輩の宣言に対して異を唱える者はいない。まぁ、この世界の三野先輩は間違いなく強いし……異論があって挑んだ結果敗北して、陰口を叩かれる可能性があるともなれば声を上げる人間は中々いないだろう。何にせよ、三野先輩が思いっきりぶった切ってくれたお蔭で面倒事が無くなりそう────

 

「認めん……認められるものか!!」

 

 面倒事増やそうとするんじゃあないよ、三野家の人らしき人。……ってあれ? なーんか見覚えあるような……三野先輩のキャラストーリーで出てきたことあるかもしれん。ただ、三野先輩に味方してくれる側での登場じゃないはず。

 

「瑞騎家の支援にどれだけの時間と、労力をかけたと思っている!?」

 

「それを台無しにするなど認められるものか!」

 

「しかも、どこの馬の骨とも知らぬ人間のせいで台無しになるなど!!」

 

 爆発的に溢れ出す三野先輩の宣言への異論。まぁ、使ったお金とか人材とか、労力を考えると気持ちは分からんでもないけどさ。あと俺がどこの馬の骨とも分からないというのも……うーん、分からん。俺が加護を手に入れたのは精霊とかから聞いてんだろ? どこの馬の骨って言葉の使い方間違ってない?

 

「聞けばそこの男は呪われているというではないか! 神から呪詛を与えられた人間がまともであるものか!」

 

「どうしよう、ちょっと正論で笑う」

 

「笑っている場合ではないだろう……」

 

 いやでも笑っちゃうでしょ。加護の他に呪いも貰ってるようなやつがまともなわけないっていうのは正論なんだし。呪われているやつを五家の人間に寄せ付けるとか良くないよね的な考えも分からんでもない。でも、俺のこと色々言ってる皆様、あなた方の周囲の視線に気付いてないの? なんか腫物に触れるような視線を向けられてますよ。優雅たれよ。

 

 ギャーギャーと騒ぐ反面教師な大人達を眺めていると、その中の一人が声を荒らげた。

 

「……ああ、そういえば、威厳も尊厳もない、あの老いぼれの流派の人間だったな! 師が師なら、弟子も弟子というわけだ!!」

 

「全く親の顔が見てみたいものだ! 実に醜いに違いない!」

 

 ────なるほど。

 

「………………………………」

 

 そこまで言われたのなら、俺もヘラヘラと笑っているわけにはいかんよ。

 俺のことを馬鹿にするんなら別にいいんだよ。俺は気狂いだって自覚があるし。「お、そうだな」って感じで流すさ。腫れ物みたいに扱われるのも別にいいよ。知らない人に何言われても「なーに言ってんだこいつ」とか「全く話にならない」って流すから。

 

 ああ、ごめんなさい翡翠先輩。ごめんなさい、虎成さん、ローズ先輩。止まれと言わんばかりに手を掴んでくれたのに。偽装とはいえ、揶揄されただけで暴力に転じるような粗暴なやつが彼氏なんだって思われると思います。俺みたいな野蛮人と関わっていると揶揄されると思います。すみません。あとでご両親に土下座でもケジメでもなんでもしますから許してください。俺は今怒っております。本気で。

 

 師匠を────俺のことを鍛えてくれた師匠や、俺のことを育ててくれた両親を侮辱された。それに怒らずにいれるのは、よっぽどの聖人か、両親にDVされていた人ぐらいじゃねぇかな。ごめんなさい、ホテルの人。なんか凄いびっくりしてますよね。ごめんなさい、何年かかっても弁償するので、今から何が壊れても許してください。

 

 一歩、また一歩と歩みを重ねるごとに、俺の中の怒りが膨張していく。ふつふつと湧き上がる怒りが、一歩進むたびに増幅していく。禍津日様は……ああ、なんか笑ってますね。荒神らしいや。

 

 なんて、沸き起こる怒りを止めることをせず、さっきまでギャーギャー叫んでいた連中の前まで歩いてきた俺は、近くにいた男へと一気に距離を詰め────

 

「■■■■■■■■■■■■■────ッッ!!!!」

 

 もはや言葉にもなっていない叫び声と共に拳を叩き込んだ。その拳は男の顔面にめり込み、そのまま吹っ飛ばした。もちろん死なない程度の手加減はしている。不本意だけど。

 

「…………次」

 

 しん、と静まり返った会場の中に、俺自身もびっくりするくらい低い声が響く。

 右手に付着した返り血を振るい落としながら、次の標的に目を向ける。安心しろ、俺は女が相手だろうが顔面にアポロウーサを叩き込むことを躊躇わない男。顔面が崩壊しても気にするんじゃねぇ。先に喧嘩を売ったのはお前らの方だ。

 

「き、貴様──―ぶぴっ!?」

 

 顔面に放つ、永倉新八直伝ヤクザキック。相手は吹っ飛ぶ。そしてその近くで呆然としていた、金切り声を放っていた女性に対しては────

 

「シベリアンエクスプレスッッ!!」

 

「ごげぇえええっ!!?」

 

 なんか骨がへし折れた音が聞えたが、ローズ先輩含めて優秀な回復役がこの会場にはたくさんいるので問題ねえだろ。俺の師匠と家族を馬鹿にした罪は重い。ただのシベリアンなだけまだ温情だと思え。

 

 殴る。

 蹴る。

 叩き付ける。

 逃げようとするやつの髪を掴んで引きちぎる。

 後ろから羽交い締めにしようとしてきたやつの玉を蹴り上げる。

 

 これだけ暴力を振りかざしてもなお、俺の中にある怒りが止まらない。俺みたいなやつがここまで生きてられたのは師匠や兄弟子、両親やお婆ちゃん、お爺ちゃん、地域の人達がいたからだ。そんな人達を馬鹿にされた。俺なんかよりもずっと凄い人達を、侮辱された。そんな怒りが際限なく溢れてくる。この怒りを消し去るなんて、不可能だろう。多分、こいつら全員ぶっ殺すまで消えない怒りだ。けど、殺さない。殺したら色々と面倒くさい。だがこの怒り、どうすればいい。

 

「巡君」

 

 真っ赤に染まった視界が、少しだけ色を取り戻した。

 

「帰りましょ。色々と、疲れたでしょう?」

 

「……」

 

「さっきからずっと、泣いてるわよ、あなた。泣くのって疲れるでしょ?」

 

 ……どうりで視界がぼやけているわけだ。たまに床をぶん殴ったのも多分それが原因。でも床は砕けてない。怒りに身を任せていたせいで技がなかったんだろう。

 

「手も裂けてる。治療もしなくちゃ」

 

「……これくらいならすぐ治るんで」

 

「ホテルをこれ以上汚すつもり? ほら、帰るわよ」

 

 手の皮が裂けて血が流れている俺の手を握って、俺を立ち上がらせた翡翠先輩はまるで迷子の子供の手を引くように優しく出口に連れて行ってくれる。

 

「三野、後は頼んだわよ」

 

「……ああ。任せろ」

 

 翡翠先輩と俺が会場を出ていくまで、畏怖のような視線は向けられなかった。むしろ、同情とか、称賛とか、そういう類の感情が込められた視線が向けられていた気がする。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

「……あの、先輩」

 

「なぁに?」

 

「ごめんなさい」

 

 寮の部屋で治療してもらいながら、翡翠先輩に謝る。寮母さんは少しだけ驚きつつも「ま、今日ぐらいは許してやらぁ。さっさと行きな」と言ってくれた。ホテルから離れたからなのか、霊薬でも抑えられないくらいに湧き上がっていた怒りが落ち着いてきた。さっきからずっと、翡翠先輩が手を握ってくれていることもあるのかもしれない。

 

「謝らなくていいわ。あなたが動かなかったらきっと、私とか、ローズとか、琥珀が飛び出しただろうから」

 

 もしかしたら三野と玻璃もかしら、と微笑む翡翠先輩。

 

「でも、俺みたいなのが先輩と関わってるってのは……」

 

「今更じゃない?」

 

「まぁ、そうなんですけど……」

 

「じゃ、この話はこれで終わり。あ、でも今度はうちに来てもらわなきゃ」

 

「まだ偽装作戦は続いているのか……」

 

「当たり前じゃない。ああいう狸どもの付け入る隙はできるだけ潰さないと」

 

 クスクスと笑う翡翠先輩につられて、俺も少しだけ笑みが零れる。湧き上がっていた怒りが完全に消えたわけではないけれど、ギリギリ眠れそうな気がしないでもない。だが、どうだろうか。

 

「ま、作戦会議はまた今度にして、今日はもう休みましょうか」

 

「っす」

 

「とはいえ……ちゃんと眠れる?」

 

「多分」

 

 いざとなればとんでもなく効く睡眠薬もある。まさか白澤の先生の霊薬がここで輝く日が来るとは────!

 

「……眠れそうにないわね、その感じ」

 

「分かります?」

 

「分かるわよ。経験したことあるし」

 

 感情が高ぶりすぎると眠れなくなる……あると思うんだ。まさか翡翠先輩もその経験がおありだとは思わなんだ。

 

「私の場合、死ぬことが怖くて引き篭もったんだけどね」

 

「そうなんですか。まぁ、怖いでしょうよ」

 

 ……あの。ところで、なんですけど。

 

「どうして俺は翡翠先輩と共に布団にいるのでしょうか」

 

「こうした方が眠れると思うわよ」

 

「かもしれないですが」

 

「あんまり動かないでくれる? くすぐったいから」

 

 耳が! 耳が溶ける! 耳が幸せで溶ける!! あ、いい匂いする! ひんやりして気持ちいい! あっ、あっ、あっ……ああああああ~…………………………




キレた巡
アウトレイジアマゾーンしてる時のバーサーカーみたいな表情
多分クウガだったら目が黒い。

三野先輩(普通にキレてた)
「とりあえずこの者達は治療するとして…全員追放だな。…いや、地下労働施設にでも放り込むか」

ホテルの人
「本当はダメなんだろうけど、ああして誰かのために怒れる人って、憧れますよね」
「分かる」

五家の神獣
「あーあ…ああいう手合いを怒らせると怖ぇぞー」
「鈴鹿御前とかはあんな感じだったか」
「鈴鹿御前は家族を馬鹿にされたら普通に首刎ねてたな。温情だろうよ」
「何が始まってるのかしら」
「大惨事大戦ね」

観戦してたケルトの戦士
「「「そのまま殺れ!!あ?殺らねぇのかよ甘ちゃんだな」」」

翡翠
羞恥心より庇護欲が勝った。普段からそうしろ。
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