恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
五家の会合が大惨事大戦になった次の週。
9月になったというのにまだまだ残暑が厳しい時期でもダンジョンは一定の温度を保っているため、避暑地として利用できる。電気代の節約でダンジョンに突撃するのが戦士の節約術というものよな。まぁ、今はダンジョンにいないんだけど。
「このダンジョンは何だかんだでソロが気楽なんだよなぁ……」
マルチも嫌いじゃないんだけど、と呟きながら、俺は中盤の山場となるダンジョンの一つ、【
第一階層に出現するのは獣系の怪魔達。動きは比較的緩慢だが一撃必殺級の攻撃を通常攻撃で放ってくる熊の怪魔【
「弱点属性は……記録されてねえな……」
出現する怪魔は記録されているし、地形もある程度図面にされているが、肝心の弱点属性が資料には記載されていない。出現する怪魔や地形はある程度調べることができたが、あれこれと検証するまでは辿り着けなかった、ということだろうか。昔からダンジョンでなら死に戻りできるんだから頑張れよ……
「調べようにも許可が下りてねぇからさらに下までは調べにいけねぇし……」
担任の先生は許可してもいいと言ってくれたが、上の連中がなんか色々理由を持ち出してソロでの探索は許可を出せないでいるらしい。うーん……そういえばゲームでもこの辺りからクエストを消化したり、キャラの好感度を一気に稼ぐパートだったな。上手くいけば9月末には恋人とか親友ができているし、遅くても10月の百鬼夜行がある。10月の百鬼夜行はいいぞ……何せボス怪魔がいないただの百鬼夜行だ。雑魚ラッシュ百鬼夜行はいいぞ……素材も山のように手に入る。でもボス怪魔の素材が手に入らないのはマイナスポイント。だが、百鬼夜行で穢れ纏いが出始める頃合いだな。巨猛の大迷宮の階層主も常世の穢れを使ってくるが……まぁ、ちゃんと強くなっていれば問題ない。常世の穢れを使えるボスは強いけど、結界を展開すればある程度相殺できるなど対策が無いわけでもないからな。
「とはいえ……面倒くさいことには変わりないよなぁ……」
馬鹿正直に接近戦を仕掛ければ、ではあるが。遠距離から一方的に撃たれる痛さと怖さを教えてやれば普通に勝てる。そろそろしっかりと遠距離武器を育てる日が来たようだな……俺が使える遠距離武器は今のところゼロ距離でしか使っていない銃と、投げ槍。投げナイフは牽制用にしか使えないから、使うなら投擲用のククリを持ってこないとな。あとは……人魔一戴で遠距離武器を使う怪魔を持ってくるとかかね。
「んー……しかしなぁ……」
タブレットを開いて、ステータス確認画面の近くにある『加護・呪い』の項目を確認する。表示されるのは、俺が貰っている加護と呪いの一覧だ。禍津日様自体が秘匿されていた神様なせいでところどころ文字化けしているが、読めんことはない。……ワンチャン呪い自体がイレギュラーで文字化けしてる可能性があるな?
まぁ、文字化けは放っておくとして。禍津日様の加護の内容である人魔一戴の項目をタップすると、俺が現在使える人魔一戴の一覧が熟練度順に表示された。一番高いのは留骸、次に高いのは幽鬼、次点でゲリュオンとクリュサオルか。まぁ、あれだけ狩っていればそりゃあそうだ。ゲリュオンとクリュサオルは普段使いしているせいで、十回程度しか倒していないのに熟練度が高い。
「遠距離攻撃してくるやつの代表と言えば……こいつかねぇ」
タップして表示したのは、凶悪そうな顔をしている巨大なフクロウ型怪魔の【たたりもっけ】。攻撃手段はゆっくりではあるが追尾性能が高く、着弾地点で爆発する物理遠距離ミサイルを主軸にした引き撃ち型怪魔だ。なお、本当にゆっくりなので見てから何かを投擲すれば撃ち落とせるくらいのそこまで脅威にならないもの。これを実戦で使えていた理由はやはり、たたりもっけ自身がまぁまぁ強い怪魔だったことと、フィールドが暗くて視界不良だったというところが大きいだろう。これを俺が実戦で使うとなると中々難しいところがある。検証はするが、一旦保留だな。
「あとは……古籠火か?」
次に候補として挙げたのは、灯篭の怪魔である【古籠火】。こいつは火属性の遠距離手段を持った怪魔であり、飛ばしてくる火球は中々の速度を誇る。しかも古籠火自身も殴り込んでくるので、中々厄介極まりない怪魔だ。ただし、濡れている何かに触れるだけでノーダメージになって無効化されるし、古籠火自身も水に触れると怯んでしまうためそこまで強い怪魔という印象はない。
「んー……遠距離はやっぱり弓とか銃になるのかねぇ……」
あとは魔法か。攻撃に使える魔法も鍛えてはいるが、大耀さんと比べると魔法成長速度が馬鹿みたいに遅い。エンチャントとか、バフとか耐性系のスキルの熟練度は死ぬほど伸びているんだが、攻撃魔法の熟練度の伸びが悪い。魔法で攻撃するのは邪道とでも言いたいのか? 誉れある戦を忘れるな。遠距離での撃ち合いもまた誉れある戦の一つだろうに。俺には遠距離攻撃を使わずに近接攻撃オンリーで戦えとのお告げか? 誰がそんなもったいないことするかよ。
しかし、銃とフックショットが融合した『フックバスター』、片手が塞がるのが良くないかもしれない。討魔3になれば思考制御で操作するって設定のロボ系の装備が出てきて、遠距離武器をサブアームに持たせたりもできるんだけどなぁ……欲しいなぁ、サブアーム。いっそ昆虫系怪魔狩りまくって熟練度上げて呪装で使いまくるか? …………止めておこう。調子に乗って使い続けて戻れなくなって死亡とかあり得る。俺はやらかす自信がある。
とりあえず遠距離手段は人魔一戴での検証と、パリピイケメンボーイズに相談する感じで行くか。……でもなぁ、パリピイケメンボーイズってば忙しそうにしてるから相談しに行くのは気が引ける。どうしたものか……やることが……! やることが多い!! ……(ストレスを感じないやることが多くて)素敵だぁ……本当に心が踊ります。素敵なタスクです、ご友人!
『現実逃避は終わったか?』
「ッスゥウウウウウウウウウうううううううウウウ…………オナカガイタクナッテキタノデ、カエッテ、イイデスカ」
『おう、実家への御挨拶ってやつだな』
「もうさァッ無理だよ
『テーブルマナー全部叩き込まれてんだろ、お前』
前世で、が枕詞に付くけどな!! というかさぁ────
「偽装の恋人が相手のご実家に挨拶しに行くのはルールで禁止スよね」
『恋愛はルール無用だろ』
「教えはどうなってんだ教えは!!」
『なんの教えだよ』
誉れある戦の教えに決まってんだろ、何言ってんだこいつみたいな顔してんじゃねぇよ禍津日様。
『もう行くとこまで行けばいいんじゃねぇか?』
「それはダメだろ」
『お前のその色恋へのガードの硬さは何なんだよ』
いや、ダメだろ。だって偽物だぞ? 偽装だぞ? デコイなんだぞ? 知るか馬鹿めとか言われそうだが、ダメだろ。確かに三野先輩から翡翠先輩のことを頼まれたけど、俺はね……そういう偽装とかから始まって破滅した人達を前世で見ているんだァ……専門学校のインターンで、そういう修羅場をこの目で見ているんだ……いやね? 偽装が悪いって言ってるわけではないんだ。問題は偽装作戦中に別の人が好きになってしまった人と、偽装作戦中に偽装相手のことが好きになってしまったパターンや、偽装作戦中に相手のことが好きになった人と作戦が終わったら終わりの関係と割り切ってる人のパターンなどが存在すること。これが厄介なもので、BSS、WSSなどの感情が爆発して「自分のものにならないくらいなら」と刺しに来るやつがいる。それで危うく大惨事という現場を俺は見たことがある。
『参考程度に聞くがお前の恋愛観? ってどんなもんだよ。現実限定な』
「遥斗と麗良」
……おい、絶句してんじゃねぇぞ禍津日様。遥斗と麗良について引くような目で見るんじゃねえぶちのめすぞてめぇ。
遥斗と麗良のことを一番近くで見てきたのは俺だ。両者のご両親が共働きということで、俺の家に預けられることが多かった。なので俺が一番遥斗と麗良を近くで見てきた。だからこそ、俺の恋愛観の基準というのは遥斗と麗良だ。二次元を含めるともっとあるけど。
遥斗は麗良のことを心の底から愛して愛して愛しまくっている。信用も信頼もしている。溺れるくらいの愛情をドバドバと器に注ぎ込んでいる。かと言って自分の理想を押し付けるような感じではなく、麗良のことをちゃんと見て、理解して、欠点も全部把握して、その上で溺れ死ぬんじゃないかというレベルの愛情を麗良という女性に注ぎ込んでいる。
対する麗良もまた、遥斗のことを心の底から愛している。上辺では「はいはい分かったから」みたいな反応をしつつも、内心では溺れ死ぬほどの愛情を全部余すことなく受け取って、噛み締めている。そしてそれを返すために、遥斗と同等かそれ以上の愛情を遥斗という男性に向けて注ぎ込んでいるのだ。
文字通りの比翼の鳥、連理の枝。お互いの愛情を余すことなく受け入れて、恋人同士になる前から片時も信頼を途絶えさせることがなかった二人だ。あの二人こそが俺の恋愛観で見た時の理想よ……
『お前もしかして偽装云々以前に、誰が恋人になるとか想像できてねぇんじゃねぇのか? 猥談はできるくせに』
「恋愛と猥談を一緒くたにするんじゃねぇですよ」
猥談は猥談、恋愛は恋愛、友情は友情。それぞれ別の建物だ。一戸建ての建物じゃねぇんだ。
『巡』
「なんすか」
『お前、気付いてるんだろ』
「………………」
『偽装があれだ、恋愛観があれだ、なんて言い訳してるがよ、気付いてんだろ?』
……いや、まあ、うん。
「去り際にああ言われたら、気付きますよ」
翡翠先輩と一緒にこの部屋で一晩を過ごした翌日、俺が熟睡できたことを伝えた時に翡翠先輩がこの部屋を出る時に言ったのだ。「もしも巡君が本当に婚約してくれたら、またしてあげるけれどね」、と。
ちょっとだけ声が震えてたような気がしないでもないが、あそこまで言われて気付かないわけがない。気付かなかったらもはやシツレイ。ニンジャがやってきてインタビューされても文句は言えないレベルでシツレイ。
『それに気付いてんのに、お前は気付いてないふりすんのか』
「いや、そういうわけじゃないんですけど……なんか、こう……そういうのに対して拒否反応が起こるというか……」
『あ?』
「俺だって分からないんですよ! ゲリュオンとクリュサオルにも相談しましたけど、あいつらも唸るだけで……」
『そこんとこどうだ』
『事実だな。モフ・メグルは自分が誰かの恋人になる、ということに対する拒否感がある』
『ブル……』
俺だってこの拒否感というか、拒否反応というか、拒絶反応が何なのか知りたいわ。なんで人に好意を向けられていることに対して考えたり、誰かと恋人になるということに対して真剣に考えると吐き気とか眩暈とか動悸とか寒気がするのか知りたいわ。滅亡ルートか? 滅亡ルートが俺を呼んでいるのか? 呼ぶな、来るな、近寄るなの三拍子揃ってるから関わりたくないわ。
『うーん……そういうのは俺の専門じゃねぇなァ……専門家呼ぶか』
「呼べるんです?」
『巡、お前は生きてるか?』
「? 当たり前ですね」
『じゃあ死ぬよな?』
「まぁ、その時が来れば死にますよ」
何を言いたいんだろうか、この神様。そう思った矢先、禍津日様は懐から黒曜石の鏡を取り出して────
『今考えたが、呼ぶより行く方が早ぇ。行ってこい』
その声が聞えたと思った瞬間には俺が立っている場所は寮の部屋ではなくなっていた。
「は?」
霧────いや、これ、霧じゃない。雨だ。けど、冷たくないし、濡れている感じがしない。そんな霧雨が立ち込めている空間の先で、焚火がパチパチと音を立てて燃えている。
「ん?」
その焚火の近くにある木製の椅子に、誰かが座っていた。ゾッとするくらいのイケメンだ。黄色い髪に、何かの獣の皮を鞣して作られたのだろう外套を羽織って、片足が黒曜石でできている男性が…黒くなったり、赤くなったり、青くなったり、白くなったりしている瞳を俺に向けている。
「へえ、禍津日のやつが送ってきたのか。てことは、お前が模歩巡だな?」
「………………あんた、
「ははは! そうかお前、俺を知ってるのか! そりゃあ光栄なことだ」
一瞬で────俺には全く分からない速度で接近してきた男性は、まるでジャガーのように獰猛に笑いながら、俺の右手と自身の右手を合わせる。……握手の形だ。俺は握ってないけど、男性が握っている。振り払えねぇ……!!
「なるほど、いい戦士の手と目をしてやがる。反応も悪くない」
専門家って言ってたが、心の専門家じゃないのかよ禍津日様!!
「ま、ここに来たってことは何か迷いがあってのことだろう。歓迎するぜ、現代で最も戦士らしい戦士よ。何か飲むか?」
「ホットチョコでお願いします」
「いいぜ。アステカ流のホットチョコレートってやつを振舞ってやる」
まさかこの神様に会う機会があるとは思わなかったぜ……山の心臓、煙る鏡、ジャガーマン、全討魔プレイヤーのトラウマ代表イケメンゴッド……中南米、アステカ神話に登場する何だかよく分からんがとんでもなく凄い神様、テスカトリポカ様!!
テスカトリポカ
この世界では戦士の心の専門家でもある。戦士専門ではあるがお悩み相談はお手の物。
ハチャメチャなまでに強い。
作者が運命に引っ張られている節はあるが、姿は想像に任せます。