恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
突然だが、この世界の日本は海外からすると喉から手が出るほど欲しい人材────実力ある戦士の宝庫として、海外スカウトが色んな所に潜んでいる。大々的に動くことはなく、動いたとしても最終的に本人の意思表示が大事にされる。
無理矢理連れ去った際、日本人を拉致したことに対して日本三大怨霊が怒り狂って拉致を決行した人間の家族が不審死したり、命じた人間と、その配偶者を含めた一族郎党が10年間呪いで苦しめられた後に絶命したりと、それはもう恐ろしいことが起こったことが一つの理由とされているが────もう一つ、海外の国家が恐れている存在がいるのだ。
総理大臣である。
そう、あの総理大臣である。この討魔の世界において、政府の最高戦力は疑似的な公務員として雇っているプロの戦士なのだが、それを率いている総理大臣が最も強い。特に初代討魔、討魔2、討魔3に登場した総理大臣である『
まぁ、そんな彼の性格だが……某ミーム継承上院議員みたいな人である。上院議員よりかは話が通じる人ではあるが、国民は全員自分の家族みたいなものであり、それに手を出したやつは国が相手だろうが許さないという感じの人だ。……上院議員ではないか?
とにかく、日本人に手を出した瞬間、豪我総理大臣を敵に回すということで……え? そんな凄い人がいるのになんで大人が信用ならないのかって? 豪我総理大臣が政界という魔境にて目を光らせているから、今のところ実害がないんだ。豪我総理大臣が席を外した瞬間、豪我総理大臣が怖い大人達が暗躍し始めるから……討魔2、討魔3が暗黒人外魔境闇堕ち手招き大決戦になった理由の一つが、彼の長期海外出張のせいなんだ……一回滅べばどうにかなるか? やっぱり火が欲しい……全てを平等に焼き溶かす黄色い火が……
「考え事か、模歩巡」
くだらないことを考えていると、虎成さんが声をかけてきた。ぼーっとしているとでも思われたらしい。
「ああ、うん。何もかも焼き溶かす黄色い火を目から放出する方法があればなと」
「……目から出す必要はあるのか?」
「目に映るもの全てを焼き溶かすんだから、やっぱり目だろ」
世に平穏のあらんことを。しかし俺の老後を脅かすなら世に混沌あらんことを。できれば俺の素敵なご友人の平穏も脅かすなら世に混沌あらんことを。
「研鑽は構わないが、集中しろ。ダンジョン内だぞ」
「索敵スキルずっと使ってるから警戒はしてるぞ」
いつも通り全部起動している。最初にやった時はヤバかったなぁ。頭が破裂して耳から脳漿ぶちまけた後に目が爆散して穴という穴から出血して死ぬかと思った。……実際死んだけどな! 最初の30回くらい死んだ。しかし人間、慣れというものはやってくるもので……50回目の死を迎える頃には激しく動きながらも索敵スキルを同時に使えるようになっていた。
「ところでメグちゃん、腰に吊るしているその瓶は?」
「鬼共への手土産っす。残りの材料がこのダンジョンにあるんで」
敵対しているとはいえ、今回は戦うために出向くわけではない。聞きたいことがあるから鬼の本拠地に行く。アポを取っているわけでもないから、せめて土産くらいは持っていかないと失礼にあたるだろう。自我があって、格が高い連中はこういった礼儀に厳しい。蜈蚣姫がいるあの城に行く時に手土産担いでいるのも筋を通すという行為に近い。
今回の手土産は鬼が好むものの一つ、酒。その中でも、ダンジョンでしか手に入らない素材を使って作る酒だ。酒というか、霊薬に近いもので、作る分には未成年の俺でも資格を持っているなら問題なく作れる。特別許可を貰っている大耀さんも作れる。服用するのはご法度らしいが……残念だったな! 効果が凄まじいからアレンジ加えて他の霊薬と同時に何度も使ってるぜ! バレなきゃ犯罪じゃねぇのよ。
「えーと確かこの辺に……お、あった」
「……図鑑でも見たことない植物だね」
大耀さんが興味深そうに見つめる紫色の植物の名前は『
「旧迷宮植物大全に記載があるぞ。新の方には無いけど」
「旧バージョンもあるんだ、あれ……」
記述が多すぎて新旧で分けているだけ説、あると思います。
「でもこれ、どう使うの?」
「この瓶にな、入れてな……沸騰しない温度に保ちながら死ぬ気で振る」
というわけで右手に火属性、左手に水属性のエンチャントをかけて全力で振りまくる。振って振って振りまくれば、なぜか瓶の中でシュワシュワと炭酸が弾けるような音が聞こえ始め、続いてパチパチと静電気が発生しているような音が発生する。この音を発生させ続ける速度で撹拌し続けることで特殊アイテム、【妖冥酒】の完成だ。
効果は一瞬の酩酊感を感じた後、3分間の全属性60%ダメージカット。隠し効果で状態異常耐性もぶち上がるとんでもない霊薬だが、素材がまぁまぁ重いのであまり作ることもない。これ一つ作るのに使う素材は俺が使っている霊薬の狂シリーズと呪シリーズがそれぞれ4つは作ることができる。今回は手土産なので必要経費として割り切った。
「にしても、今日は一段と怪魔が少ないな」
「攻略っていう点においては助かるけれど……不自然なまでに少ないわね」
一応エンカウントはするが、普段よりも不自然なまでにエンカウントする回数が少ない。ゲームでもレア怪魔が現れる時、イレギュラーが発生する。そのイレギュラーの内容によって、そのレア怪魔が何者なのかがある程度把握できるわけだが……このダンジョンでこのイレギュラーは少々面倒なのが出てくるぞ。
「げっ、バレたかこれ」
「え?」
「あ゛ー……面倒くさいやつだこれぇ……やりたくねぇなぁ……でもなー、あいつ素材貴重だからなぁ……」
索敵スキルに引っ掛かった瞬間、逆探知でもしたのかという勢いでこちらに向かってくるデカい影。これは戦うしかないんだろうけど、やりたくねぇなぁ……あいつ強いし……予想以上に当たり判定デカいし。
「何、この地鳴り……!?」
「メグちゃん、何か知ってるようだったけど、何が来るの?」
「とても面倒くさいやつがいらっしゃいますよローズ先輩」
戦っていてつまらない怪魔ではないが、まともに戦うことはあんまりしたくない類の怪魔が凄い勢いでこちらに向かってきている。屈強な怪魔の動きに耐えることができる樹海や、激流をものともせず向かってくる。
「陣形はとりあえず対呂布奉先想定で」
「待って、本当に何が来るの?」
「もうすぐ見れるぞははははは」
酒吞童子に会いに行くのに近道を通ったのがダメだったのだろうか。遠回りこそが俺が取るべき選択だったのか? 遠回りこそが俺の最短の道だったってことなのか? 最短で駆け抜けないと地獄がやってくるかもしれないこの世界で遠回りしろとか死ねと言ってるのと同じなんだけど。
俺が現実逃避をしている間に地鳴りはさらに大きくなり────それは現れた。
「アァハハアッハハハハハァッ!! ヒィィィヒヒヒヒヒッッ!! ウアアアアアアアアアッッ!!」
ではSAN値チェックのお時間です。1d100でダイスを振ってください。
そんなGMのナレーションが聞えてくる見た目のとんでもないやつが現れた。口の中に口があってその中に目玉があって、目の瞳孔をよく見ると耳があるし……腐ってゴポゴポと音を立てている部分がから人間の腕が大量に生えてきているし、馬っぽい足は馬鹿みたいに生えているし、そこにも目玉やら口やらがある────どこのクトゥルフ産生物なのかと思うドデカい怪魔の名は【名状できぬ怪
「あっ……あっ……あっ……!?」
『明日夢!?』
「嫌だ……! やめろ……!?」
『お嬢!? どうなってやがる!?』
「くっ、うぅ……!?」
『幻術……! いや、しかしそれならばなぜ……』
「姉、さん……!?」
『ローズ、気をしっかり持て!! これはまやかしだ!!』
こいつの面倒くささは、この幻覚? 幻術? による錯乱攻撃にある。何というか……こう、あれなのだ。己が体験した一番の苦痛を再現すると同時に、根源的な恐怖によって人間の負の感情を引き出してその感情を喰らい、心を壊しながら人間本体を喰らうという習性があるところが面倒くさい。つまるところ、防御不可、耐性無視のデバフが付与できるフィジカルモンスターが醜吐涅という怪魔なのだ。
「しかしねぇ……俺はトラウマになっているものが封印されているわけで……最悪は基本的に乱数に敗北した時であって……」
というわけで、俺にはこのデバフは通用しないのだ。残念だったな醜吐涅!! 貴様の素材は超貴重な素材!! 酒吞童子に会いに行くついでに貰うぞ、その素材────
『『『巡』』』
「………………あ?」
俺の体から力が抜けた。
『逃げな。先生のところまで』
『逃げろ。あいつは俺達が止めたらぁ』
『老骨には、堪えるが……仕方あるまいて』
『死にぞこないの意地を見せてやろうかねぇ』
『お前が先生のところまで辿り着いたなら、俺達の勝ちだ。俺達は逃げねぇ』
体が震える。音が消えていく。色が、匂いが、何もかも薄れて消えていく。
『なぁクソ野郎。一つ言っておくぜ』
『あいつを手に入れてぇなら、まずは兄弟子の俺に話を通してもらおうか』
『通したとして、手に入れさせるつもりはないけれどね、ここにいる全員』
『構えろてめぇら!! 末弟逃がすまで死ぬのは許さん!! 死んでもあいつを守り抜けェ!!』
聞いたことがない声が、姿が、俺の目の前にあった。
『そぉら走れ巡!!』
一人倒れた。血に濡れて、腹から穴が開いて倒れた。
『泣いてる暇あるんなら走れ!!』
また一人倒れた。次は四肢が捥げて、物言わぬ肉塊になった。
『生きて走れ! 死んでも走れ!!』
『走って走って走りまくれ!!』
二人倒れた。お互いの得物を頭に突き立てて死んだ。
『振り向くな!! 黙って走れや末弟!!』
何人も、倒れた。死んでも、そいつを足止めするようにして。
『走れ!!』
『走れ!!』
『走れ!!』
『走れ!!』
聞いたことがないはずの声が消えていく。見たことが無いはずの姿が消えていく。知らない人達のはずなのに、誰なのか全く分からないはずなのに。
「ぎっ……ぎぃっ……ぎぃっ……!」
こんなにも苦しい。こんなにも悲しい。
「誰だ、てめえらあああああああああああああああああああああッッ!!!」
俺の心をこうも揺さぶるこの見知らぬはずの人達は何者なのか。分からないことへの怒り、苛立ち、苦しさ、悲しさを全部込めて叫ぶ。内側から溢れ出てくる何かを抑えることなく解き放つ。
『おい、巡!? てめぇその角は────』
「ウルセエエエエエエエエッッッ!!!!」
「ガァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!??」
巨大な害獣に拳を振るう。口の中にある目玉を引き千切って握り潰す。噛みつこうとしてくる害獣の口を両手両足で抑えつけて、無理矢理開かせることで口が機能しない状態まで裂ける。
害獣の痛みに悶える絶叫が聞えるが、気にすることはない。どうせ殺すやつの声なんて聞いてどうなるんだ。
殴る。殴る。ひたすら殴り続ける。返り血よりも赤く、黒く染まった拳をひたすらに化け物に叩き付ける。ただデカいだけのウドのくせに、無駄に硬い。打撃はそこまで効いてない? ならどうすればいいか。簡単だ。引き裂けばいい。何で? 簡単だ。湧き出てくる何かが教えてくれる。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ……ギャハハッハハハハッッ!!!」
「イィイイイイギィイガアアアアアアアアッッ!!?!?」
俺の腕を噛み千切ることで噴き出した血が、まるで回転ノコギリのように高速で回転する刃と化す。その刃が害獣を引き裂く度に、害獣の絶叫が耳障りなまでに響く。さっきまで耳障りだった絶叫がなぜか心地良い。
「死ニヤガレェエエエエェエアアハハッハハハハハハッッ!!!!」
害獣の血飛沫が土砂降りの雨のように降り注ぐ。生温かくて、生臭い血の雨を浴びた途端に、何かが俺の肩を掴んだ。
「ア゛ァ゛?」
「久しぶりにあの変なのがいると思って来てみりゃあ、なんだてめえ。あいつの気配がしやがる」
「酒テ────ガァッ!!?」
反応できない速度で地面に叩き付けられて、内側から溢れてくる何かが引っ込んで理性が戻ってくる……のと同時に意識が朦朧とする。
「ハッ、そうかよあの外道。そこまであいつにご執心か」
「誰の、話だよ……」
「ここじゃあ何だ。酒でも飲みながら話してやるよ、模歩巡」
鈴鹿含めたやつらにも、な。
そう言って笑う鬼の首魁に担がれたところで、俺の意識が消し飛んだ。
醜吐涅
相手が悪かった。地雷を踏まなければ普通に勝ててた。気狂いにSAN値チェックさせずに戦えばワンサイドゲームで勝てたまである。
気狂い
こいつの周囲だけアマゾンズフィルター。
角生えてた。
ずっと
禍津日&ゲリュオン&クリュサオル
いきなり弾かれた。今は大丈夫。
茶菓子同好会
醜吐涅の目が潰されたところで幻術が解けていた。気狂いの残虐ファイトを呆然と見ていた。
気狂いが笑って戦うのはいつものことですがどうかしたか。笑い過ぎて涙が出るのもよくあることだぞほら笑え。
酒吞童子
珍しいのがいるから酒のつまみにでもしようと狩りに来たら気狂いがいた。