恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
酒吞童子から情報を手に入れてからしばらく経った頃。討魔学園は学園祭の準備期間を迎えていた。この学園祭で東京校と京都校の対抗戦もやるわけだが……本当に気だるくて仕方がない。何が好きで報酬も美味しいわけではないクソみたいなイベントに参加しないといけないのだ。
しかし、参加するメリットはあるにはあった。参加者全員に、討魔2から実装されたジョブシステムのお試しができるジョブカードが配られたのである。
討魔2では、アムリタを使ったステータス強化の他に、ジョブシステムと呼ばれるものが存在する。これは加護を持たない戦士であっても戦力を大幅に強化して、最低でも精霊の加護を貰っている戦士並みに戦力を底上げする。そんでもってダンジョン攻略や百鬼夜行の防衛を優位に進めるために研究されてきたシステムだ。
戦い続け、データが蓄積されていくと、当然ジョブシステムの恩恵は強くなっていく。アムリタでのステータス強化と同じように、戦い続けることで成長していくジョブシステムはいつしか限界を突破し、上級ジョブというものを解放する。このシステムがあるからこそ、京都校の生徒の強さは結構高い。なお、ジョブシステムに頼りすぎてそれが無くなった時に無力になったり、ジョブシステムでの強化でも勝てない相手に対してステータス強化を忘れてしまうなんて愚行を犯す人もいるにはいるので、一長一短……いや、意識の問題だからこれは間違いなく神システムだ。俺も京都校に入学すれば良かったかなぁ────なんて、思ったけれど。現状ジョブシステムを利用するためのジョブカードは凄く貴重なので量産できる段階にはない。討魔2になってようやく主人公含めた主力メンバーや、ある一定の実力を示した人達に配られる状態なのだ。しかもジョブを変更するためには少なくないお金とアムリタを消費することになるので、今回配られた分も凄く貴重なものなので、大事にしなくては。
「模歩、お前はジョブ、というのを選んだか?」
あまり利用しない食堂で、どでかい唐揚げ定食を注文して食べていると、正面で特盛────デカいすり鉢のうどんとか初めて見た────のとり天うどんを食べていた三野治水先輩が声をかけてきた。
「もちろんっす。俺は占い師ってやつを選びました」
「占い師……後衛ジョブとしてリストに載っていたな。しかし、良かったのか? 前衛ジョブも魅力的なものが多くあったが……」
「バフデバフ専門みたいな面してましたけど、占いってことは極めたらワンチャン未来予知とかできそうなんで」
「……なるほどな。読みの強化か……お前の反応速度に予知と考えると、末恐ろしいな」
あの五家の会合から、三野先輩とはちょくちょく交流をするようになった。俺のことあれこれ言ってきた連中の沙汰の報告とか、近況報告とか、俺と翡翠先輩の恋人関係が偽装であること────これはバレてた────とか。師匠や両親を馬鹿にしやがった連中は、財産を全て五家の本家が吸収、分家含めて貢献度も鑑みながら分配。加護を与えていた精霊や守護獣などからも加護を断ち切られて、その後五家が共同で管理している地下労働施設に一族郎党全員放り込まれたらしい。東京校、京都校にも在籍していた人がいたそうだが、そういう人達も一緒に地下労働施設行きになったそうだ。地下労働施設の労働の詳細は知らないが、基本的に肉体労働。戦闘ができる人達はダンジョンに向かわされて、アムリタ結晶や怪魔の素材をかき集めては納品して低価格で買い叩かれる毎日を過ごすそうだ。
もちろん、地下労働施設を抜け出すことはできる。抜け出すためには地下労働施設で使うことができる通貨を貯めて、恩赦を得なくてはいけないそうだが……まぁ、貯まる前に消費してしまって結局労働生活。通貨を貯めなくても、地下労働施設で真面目に働いて更生を果たした人は別の施設に移送だと言って釈放されるのだとか。釈放された人はフリーの戦士として活躍したり、戦士をサポートする職に就いたりすることが多いそう。
まぁ、それはそれとして。俺がジョブカードを貰ってすぐに選択したのは後衛ジョブ【占い師】。占いによって戦闘前にバフをかけたり、占いに使う術を応用して呪いを作ってデバフをかけたりするジョブ────というのが送付されていた資料の説明。だが、俺がこの占い師というジョブを選んだ理由はバフデバフには存在しない。俺が自前でバフとデバフをばら撒けるということもあるが、占い師は育っていくと攻撃を確率で回避するという『予知』というスキルを獲得できるようになるのだ。これだけでも強いのだが……占い師を限界まで育てた先で条件を満たすと解放される上級ジョブ【
このジョブは使えるタロットカードを一枚引き、出たカードによってステータスに補正がかかるというスキルを使える。戦車であれば技量と耐久が上がり、星であれば呪術と神秘が上がる……といった感じでステータスの底上げができるのだ。しかも他のバフと共存してくれる。占い師とは後衛ジョブとは名ばかりの前衛ジョブなのだ。
「三野先輩はどうするつもりです?」
「少し迷っているが……前衛ジョブになるだろうな。……いや、しかし、そうだな」
「?」
「模歩、お前なら玄武の加護をどう使う?」
おっと? 加護について考えて伸び悩んで色々と相談する、というイベントは主人公とのイベントのはずだが……大耀さんと三野先輩は交流が少ないし、このイベントが来なくても当然ではあるのか。そして俺にイベントが回ってきたと。
「ローズ先輩には相談したんすか?」
「ああ。だが、あいつと俺とではスタイルが全く違うからな」
まぁ、それはそう。なんか酒吞童子のところから帰ってきてから、鬼気迫る勢いで鍛錬してる茶菓子同好会メンバーの一人であるローズ先輩は、自衛で近接もできなくはないが基本的には後ろでバフをばら撒いたり、回復をしたりするのが得意な人だ。前衛で殴り合いをする三野先輩は、どちらかと言えば俺に近い戦闘スタイル。一発一発の火力とか、耐久は三野先輩の方に軍配が上がるけれど。
しかし玄武の加護の運用方法かぁ……玄武の加護と言えば原作だと悲しきやわらか戦車だった亀公だが、この世界ではしっかり硬い。そんでもって重い。激流をエンチャントしたり、玄武の重さを武器に乗せたり、玄武の甲羅を一瞬顕現させて攻防一体の盾を作ったりと三野先輩の積み上げてきた努力が窺える。うーん……遠距離武器を持つっていうのもアリだけど、三野先輩の持ち味を活かす方向で考えてみるか。
重さ=ダメージのデカさ……筋力と、大剣を正確に振り回す姿……一瞬の判断を可能とする判断力……カタパルトタートル……射出ッ……お?
「三野先輩って、重量がある武器は全部使えたり?」
「? ああ。大剣一筋ではあるが、他の大型武器もある程度使えるようにしているが」
「ならぶん投げません?」
「……何?」
玄武の加護スキルに激流を纏って敵を両断するスキルがあるが、あれは確か玄武の重量と、発生させた激流を推進力にして加速させることで威力を上げているものだ。それを斬ることではなく、ぶん投げた時の推進力に変えることができるなら……三野先輩は人間の姿をした重戦車と化す。
外伝作品及び本編DLCで登場する初代三野家当主の戦い方もそんな感じだったので、思い付いたことを三野先輩に話すと、彼は何かを考える素振りを見せてから頷いた。
「なるほどな。確かに玄武の力を宿した武器を投擲するだけで、間違いなく威力は出る……試す価値は間違いなくある」
「問題は威力がありすぎて制御が難しそうってところですが」
「何、初めて大剣を振るった時に大剣に振り回された。それと同じようなものだろう」
過去のミスを思い出して小さく笑う三野先輩。うーん、イケメンは何をやっても似合うからずるいよなぁ。俺がそんな仕草してみろ? 翡翠先輩から「何か悪いことを考えているでしょ」と言われること間違いなしだ。
「参考になった。礼を言う」
「どういたしまして」
「……ところで模歩」
「なんでしょう?」
「翡翠達が鬼気迫る勢いで模擬戦やダンジョン攻略をしていると聞いたが、何か知っているか?」
「俺も正直理由は知らねぇっす」
酒吞童子のところから帰ってきてから、翡翠先輩、ローズ先輩、大耀さん、虎成さんが文字通り修羅となってダンジョン攻略や模擬戦に勤しんでいる。禍津日様のところに行って過去の英雄との大連戦もいつも以上に熟しているようだし……オーバーワークにならなければいいんだけど。
まぁ、原因は俺の発言か、酒吞童子の発言か。それかどっちもか。万が一俺が大嶽丸になってしまった時、今の実力では対処することができないと考えたのだろう。それに巻き込まれて辰巻さんも連行されたりしているみたいで、連絡先を交換していた連絡用アプリで死ぬほど愚痴られた。万莱君とパリピイケメンボーイズは俺のマラソンに連れ回されたことがあるせいか、そこまで苦にはなっていなかったようだが。
「まぁ、学園祭くらいは息抜きさせますよ。一応茶菓子同好会のリーダーは俺ですし、三野先輩に頼まれてますしね」
「ああ。俺と辰巻も見ておくようにはするが、一番距離が近いお前も見てやってくれ」
「もちろんです。……それはそうと、お見合いの方はどうです?」
「ああ、それは大学卒業まで先送りにすることになった」
学業と戦士業に専念したいので、縁談とかを大学卒業までシャットアウトすることにしたらしい三野先輩はどこかスッキリした表情をしている。いいなぁ、縁談シャットアウト。俺の縁談お手紙もシャットアウトしてくれないかなぁ。
「お前にも色々と来ているかもしれないが、時間指定をして先送りにするのも手だぞ」
「参考にします」
「それに比べ、辰巻は羨ましいところがあるな」
「私がどうかしましたか」
ついさっき料理を手に入れたのか、お盆に特盛の親子丼と一羽丸ごと使った特盛ラーメン、山盛りのサラダを持ってやってきた辰巻さんが三野先輩を見下ろしている。
「ああ。縁談の全てを断って、とやかく言われていないのが羨ましいと思ってな」
「? ……ああ、そういうことでしたか」
三野先輩の隣に座って昼食を食べ始める辰巻さん。小柄────いや、そもそも五家と主人公の身長がそこそこ高いせいで小柄に見える彼女は、サラダを瞬時に片付けて親子丼とラーメンに手を付け始める。現役のモデルさんではあるが、戦士でもある彼女は他の人達と同じくらいかそれ以上に食べる。デートイベントで激辛の大食いチャレンジラーメンをぺろりと完食してみせたシーンが実は、辰巻さんの声優を務めていた声優さんがやってみせたことがモデルになっていて、当時のゲーマーを沸かせた。
「私の場合、モデル、デザイン業と戦士業を両立するために縁談を断っています」
「実績もあるし、とやかく言われないってことか」
「あと、どちらかと言ったら私は男の人よりも女の人の方が好きです」
「へー。ま、性的嗜好はそれぞれだわな」
一応、どちらもイケる口であったとは思う。彼女との恋人ルート……というか、辰巻さんの本格的な交流は「仕事で恋人コーデ、というものの撮影があるので」と言って主人公と付き合い始めるイベントからスタートだったし。
「ところで、学園祭の出し物は決まりましたか?」
「知らね。なんか、仮装して喫茶店だかやるみたいだけど」
「仮装で、喫茶店……となると、メイド喫茶や執事喫茶とかでしょうか?」
「俗的なの知ってんだな」
「インスピレーションはどこにあるか分からないので、雑誌にSNS、自身でのリサーチは欠かせません」
さすがプロ。一流は自分の常識を疑ってかかるというが、彼女もまたそういう一流の片鱗を見せてくれる。
「私のクラスでは演劇をやる予定ですが、三野先輩は?」
「……確か、社交ダンスの体験会だったはずだ。途中、茶会もあるようだが」
こうやって学園祭の準備をしたり、何をやるのか話をしている時間が一番楽しいまであるよな、学園祭って。
初代三野家当主
「私の手から離れても戻ってくる武器が手に入りました。しかし、振るうだけでは数体を巻き込むのみ……ではどうするか。投げればいいのです。特大武器が投擲できないなど、誰が決めましたか?」
玄武
「いや、その理屈はおかしい。でも人間面白いからこれはこれでいいや」