恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
討魔学園の学生に貸し出されている錬金窯がある部屋の、その奥。白澤から加護を与えられている教師
「アクセサリー、ですか」
「はい。ダンジョンで拾ってきた角ですけど、武器にするには少ないので……」
そう言ってドクン、ドクン、と妖しい光を放ちながら脈動する紫紺の角を差し出してきた少年、我らが気狂い模歩巡の提案に清雅は難しい表情を浮かべざるを得なかった。
見たことも聞いたこともない、巡の手に納まっている紫紺の角は間違いなく最上位の怪魔────記録が残っている範囲であれば酒吞童子や茨木童子、熊童子などの鬼に匹敵する怪魔の素材だ。霊薬にすれば間違いなく使用が禁じられるような効果を発揮するだろうし、触媒や武器の素材にすればプロが扱う武具に匹敵するものができあがるだろう。市場に流せば莫大な金が動くに違いない。
「拾った、というのはどういった経緯で?」
「屍吐涅っているじゃないですか。記憶がおぼろげで詳細はあれなんですけど、あいつを追い払った? 倒した? あとに気付いたら落ちてました」
「……」
白澤が何も言ってこないので、巡は嘘は言っていない。滅多に現れないレア怪魔である、あの名状しがたい怪物の幻術で記憶がおぼろげになることは何度も報告が挙げられているし、死に戻り後もしばらくの間後遺症で幻覚幻聴を訴える者がいたりもする。
だが、こんな角を屍吐涅がドロップするという報告はされていない。あの怪魔からドロップするのは眼球とアムリタ結晶だ。過去の記録────初代五家の時代から記録され続けた書にもそう書かれている。過去の資料を過信するべきではないが、名状しがたい姿のあの怪魔に角は生えていない。となれば、別の怪魔が乱入したことになるわけだが……当の本人は記憶がないので、どんな姿をした怪魔が現れたのかは分からない。
「……いいでしょう。しかし、相談する相手が私で良かったんですか?」
「え、はい。霊薬とか錬金とか、アクセサリーは京谷先生の専門分野ですし」
「霊薬のように私が没収するとは思わなかったんですか?」
「ははは、身の丈に合わないやつを没収することはあっても、問答無用じゃないでしょ、京谷先生は」
入学当初からダンジョンで素材をかき集めては様々な霊薬や錬金アイテムを調合して試してきた巡。その霊薬作成やアイテム合成を監修していた清雅が、理由もなく作った霊薬を没収することはなかった。隠れて作ろうとすれば、その素材や出来上がった霊薬を危険物として没収することはあっても、作るものを詳しく報告しておけば没収はしない。アイテム合成の際も、試したいものがあるけど何ができるか分からないと監督を頼めば出来上がったアイテムを没収することはないのだ。それを怠った生徒は例外なく霊薬やアイテムを没収されてしまう。
これはゲームで語られた話だが、京谷清雅は学生時代、霊薬の調合を誤って作った結果、顔半分を焼け爛れさせてしまった同級生を知っている。教師の許可なしにアイテム合成を行ってごちゃごちゃと錬金窯に素材を大量に放り込んだ結果大爆発を起こして右腕を消し飛ばした者を知っている。だからこそ、自分の目が黒いうちは生徒がそうならないように、そうなる可能性があるものを断つ。だからこそアイテムを没収したり霊薬を没収したりするわけだが……プレイヤーは全員「知るかそんなもんぶっ飛ばすぞてめえ」の精神である。
「信頼されている、と考えることにします。それで、アクセサリーでしたね」
「あ、はい。必要な素材があれば持ってきますけど」
「そうですね……これをアクセサリーにするとなれば……宝石の類が必要ですね。アムリタ結晶でもやれないことはないでしょうが」
「宝石、ですか」
「ええ。鬼の角に負けないくらいに頑丈なものであればあるほどいいです」
生徒に頼られて悪い気はしない。渡された二本の角を見て、すぐにどのようなアクセサリーにするかを考え始めた清雅が欲した素材は、宝石。宝石と言ってもダイヤモンドやアメジスト、ルビーなどのダンジョンの外で手に入るような宝石ではない。ダンジョンの中にある採掘可能なエリアで手に入るような宝石だ。採掘した直後はダンジョンの瘴気や怪魔の妖気で穢れを溜め込んでしまっているが、ちゃんとした手順を踏んで浄化してやれば、百貨店や宝石商が販売している指輪やネックレスに使っている通常の宝石よりも価値あるものに変貌する。一部の富豪などがダンジョンの宝石を求めて依頼を出したりするのも、そういった理由があるのだ。
「うーん……俺が持ってるものだと、竜の眼晶くらいしかないですね」
「竜……ああ、そういえば留骸の討伐報告が挙がっていましたね。あれは君でしたか」
「禍津日様の加護があってもやっかみがありそうなので、名前は伏せてもらってますけどね」
プロの戦士でもソロで戦えば苦戦を強いられるほどの実力を持ちながら、ダンジョンの主になろうとも、棲み付いている広間から出ようとする素振りもない怪魔、留骸。それが何度か討伐されているという報告が学園で挙がっていたが、誰が討伐したのかは分からないままだったが────なるほど、中等部で入学してから加護持ちよりも前線に立ち続け、暇があればダンジョンか霊薬作りかアイテム合成に勤しみ、片手間に嬉々として百鬼夜行に突っ込む血腥い学園生活を送り続けている巡であれば討伐していてもおかしくはない。
心無い人間、実力がないのに威張っているだけの人間からすれば耳が痛いどころか耳が削ぎ落されるような話ではあるが、鍛錬を続け、優秀な戦士を輩出してきた家の人間や、怪魔の記録をしている家の人間からの評価が高いのは巡だ。実際、教師陣からも信頼されているし、明日夢が巡と組んだと話を聞いた時、誰もが安堵の声を漏らした。それを巡が見たら「神輿にするなら最後まで支えろやぶちのめすぞてめぇら」と順番にエンフォルドを叩き込んでいるところだろう。エンフォルドを決めた後、起き上がりにエンフォルドを重ねることも忘れていない。エンフォルドからアポロウーサも決めるつもりである。それで生きていたらドリームコンボを叩き込むつもりである。対人戦においてこの気狂いに好き放題させてはいけない。格ゲーの技を封じても
「そのレベルであればどうにか形にすることは可能でしょうね。アムリタ結晶をいくつか繋ぎにする必要はあるでしょうが」
「んじゃあその方向でお願いします」
そう言って品質が高いアムリタ結晶をいくつかテーブルに置いた巡。ダンジョンボス級のアムリタ結晶、それも高品質のものばかり。それに加えて留骸の水晶玉のような眼球。これだけのお膳立てをされておいて失敗などできるわけがない。
『大役じゃのう、清雅よ』
山羊のような姿をした神獣────本獣は守護獣だと言っている────白澤は楽し気に言う。
「ええ。一人の職人として腕が鳴るというものです」
「じゃあ、あとはよろしくお願いします、京谷先生」
頭を下げて退室した巡を見送った清雅は小さく息を吐いて、預かった素材と向き合う。討魔学園教師京谷清雅、担当学科は錬金。教師である前に、一人のアクセサリー職人でもある男は久しく作っていない傑作の予感に心を躍らせていた。
* * *
アクセサリーが出来上がるまでに時間がかかるだろうことは予想している。素人のアイテム合成でランダムに何かを生み出すのもアリだが、やっぱりいいものを手にしたいなら職人に任せるのが一番だろう。パリピイケメンボーイズに武器や防具を頼んでいるように、アクセサリーのことは霊薬没収先生こと京谷先生に頼むのが一番だ。ゲームなら全部鍛冶師のところでやれたんだけどなぁ……村正お爺ちゃんがおかしいだけだったんだなって……
「ま、出来るまで心を躍らせながら待つとしますか────っと?」
学園祭の準備期間ということもあって、授業の時間が短縮されている討魔学園の一角、学園に所属している人間なら誰でも使える訓練場で訓練に勤しむ少女を見つけた。最近鬼気迫る勢いでダンジョン攻略をしているうちの茶菓子同好会メンバー、大耀さんと虎成さんだ。手にしているのは木刀と木槍。しかし普通の組手をしているわけではなく、お互い黒い布を用いた目隠し状態で組手をしている。
よくある修行のやり方だけど、刹那無心流の修行でもやることがある。感覚を一つ潰すと他の感覚が鋭くなるので、目隠しをしたり、耳栓をしたり、鼻を臭気で潰したり、触覚を霊薬で潰したり……色々やりながら組手をするのだ。これが意外と難しいんだな。
先手を取ったのは大耀さんだ。片手に持った木刀で斬りかかる────と見せかけて、最低限の動きで最大ダメージを出せる突きを容赦なく虎成さんの喉に放った。目隠しをしているせいなのか動きは遅いが、その分威力を霊気やエンチャントで補っているな……対人戦が苦手な大耀さんがそんな容赦のない一撃を出せるようになって俺は嬉しいぞ。
対する虎成さんは槍の持ち手に霊気を溜めていたようで、槍を回転させることで突きを見事に弾き飛ばした。それだけでは終わらず、持ち手に溜めていた霊気を穂先に移動、土属性のエンチャントをドリルのように回転。威力底上げした突きと斬撃で大耀さんに攻めかかる。お、よく見たらドリルが二つだ。しかも回転方向が二つ。右と左で回転が逆で、同時回転か……ありゃ普通に盾受けしたり受け流そうとしたら間違いなくミンチだな。ワムウかよ。
だが、そんな技に臆することなく一歩前に踏み出した大耀さんは、空針の進化系スキル、空槍によって神砂嵐擬きの威力を弱め、瞬時に別のスキルを発動。一つしかないはずの空槍が二つに増えて、神砂嵐擬きを完全に弾き飛ばした。なるほど、幻影の再演。俺もよく使っているスキルだが、傍から見ていても便利だな。
動きは遅いが、それでも見応えがある見事な組手は数分に亘って続き、二人の組手に一区切りついた頃には学園指定のジャージがびしょびしょになるくらいの汗を流していた。
「お疲れぇい」
「! なんだ巡君か……」
「……見ていたのか?」
「途中からだけどな。中々見応えがあったぞ」
俺が放り投げたスポーツドリンクを受け取って口にする大耀さんと虎成さん。距離がちょっと離れているのは………………まぁ、あれか。女の子だし、汗の臭いとか気にするわな。懐かしいなぁ……フルマラソン完走した麗良を胴上げしようと遥斗と一緒に突撃したら、「ぶっ飛ばしますよ」って言いながらファミパン喰らったっけ……もうぶっ飛ばしてんじゃねぇかって噎せながら笑った記憶がある。
「お前とお前の師……禅明氏の速度にはまだ届かないがな」
「そりゃあ俺は一日の長があるし、師匠は武の極致だしな。簡単に届いちゃ困るわ」
そのうち届くどころか追い越していくだろうけど、まだそのレベルには到達していない。最終決戦の頃には俺より遥かに実力者になっているだろうし……うん。万が一俺が大嶽丸になっても殺せるだろ。というかなるのはほぼ確定だよなぁ……じゃないとラスボス不在で物語が進むことになるし。ワンチャンあるのは大嶽丸の枠に■■■■が入ってくることだが……■■■■がラスボス枠かと言われると微妙なラインだ。話を聞いている限り黒幕にはなれるが、ラスボスにはなれないタイプのやつ。となると、大嶽丸は確実に現れる。そうなった時、俺が死んでいるのは確定だが……回避する方法は探すつもりだ。どうやって回避するかは分からないが、何かしらの方法で俺と大嶽丸の魂を分離させることとかできるだろ。できなくても俺が大嶽丸に塗り潰されなければ問題なし。できなきゃ死ぬだけだから……なんだ、いつもと変わらねぇな。
「オーバーワークにならないようにしてくれよ? 学園祭、熱出してお休みですとか洒落にならん」
「素材を求めて毎日のようにダンジョンに潜っているお前が言うな」
「素材は命よりも重い……!!」
「絶対命の方が重いからね?」
死に戻りできるなら命なんて軽いだろ何言ってんだ。最近進化した食い縛りスキルの『死戦臨界』が起動した状態で超新星を使うと、爆発で全身が消し飛んでも死なないっていう謎の挙動をすることが判明したので、これで何か悪さできないか考え中である。色々悪いことできそうなんだけどなぁ……用途が中々見つからないものだ。やはり死戦臨界の効果時間が終わるタイミングで自爆するのがマストか?
「ところで虎成さんのクラスは学園祭何するんだ?」
「ああ、茶を出す予定だ。万莱がいるからな」
「なーるほど。茶華道部エースがいるならお茶の指導は完璧だ」
「そちらは確か……喫茶店だったか?」
「らしいぞ。メイド服と執事服の採寸やったし」
ま、俺は参加するつもりないけどな。参加するにしても俺は裏でパンを焼くくらいだ。クラスの話し合いでそれはもう伝えてあるので、表で参加することはない。俺がやりたいのは喫茶店じゃねぇ、定食屋かパン屋だ。老後は山奥で隠居生活を送るんだ。
「玻璃が言っていた……コンカフェ? というやつか?」
「分からん。俺は裏方で表には出ないし」
「え、模歩君出ないの? 出ると思ってたんだけど」
「出ないって伝えたはずだぞ?」
なんだ? 耳聞こえてねぇのか? 全員ボルシチダイナマイトで犬神家にしてやってもいいんだぞ? あと女装コンテストに出そうとしてた連中、今度の授業でやる模擬戦の時覚えとけよ。再現技の精度高めるための実験台にしてやる。
「なんだ、残念。メイド服見たかったな」
「……そういや男がメイド服だっけか」
「なんでそうなったんだ……!?」
まぁ、ネタに走ったよね。エロゲー、ギャルゲーだったこともあって学園の人達の顔は悪くないし、男がメイド服を着てもそこまで滅茶苦茶違和感って感じは出ないだろう。でもどうして男がメイド服になったんですかね? しかもクラシックスタイルじゃなくて、スカートが短いタイプのやつ。ガタイのいい人が着てみろ、ピッチピチだわ。
「……にしても、案外大丈夫そうだな?」
「何が?」
「鬼気迫る勢いで色々やってたからさ。息抜きしてんのかちょっと心配だったんだよな」
頑張りすぎて闇堕ちしましたとか洒落にならないからね。しかも五家の3分の1が闇堕ちしたら俺は何人の人間を手に掛けないといけなくなるのか。主人公が闇堕ちしたら世界滅亡ルートまっしぐら、覚えておけ。心にいつでも滅亡ルート、輝き続ける滅亡ルートの道筋。確かに存在する滅亡ルートの手招き。
心の中で叫ぼう14の言葉。
「原因の君が言えたことじゃないよ?」
「最悪の想定はいつでもするのが刹那無心流の妙よ……」
最悪の状況でも勝たないといけないのが刹那無心流。最悪を想定し続けるのは基本だぞ。想定した上でどこまで食らい付けるかなと考えることが結構あるけど、最悪の想定をしておけばそれ以外は全て幸運であると言えるのだ。
「私は嫌だよ。巡君のこと殺すの」
「私もだ。誰が好きでお前を殺さなければならんのだ」
「じゃあ是非とも強くなってもろて。そもそも、目隠しをした状態であの速度じゃ俺を殺すなんて無理だし」
ローズ先輩と翡翠先輩もそうだが、五感の一つを潰しただけで動きが鈍るのはどうにかした方がいいと思う。初代を見ろ、あの人達五感潰れても普通に動いてるから。なんだあの面白生物共。面白生物過ぎて戦闘スタイルとかが正しく継承されなかった面白生物だぞ。初代三野は手元に戻ってくる特大武器を大量にぶん投げて怪魔の群れを消し飛ばしていたし、初代辰巻は蹴りで台風起こすし、初代薔薇苑は馬鹿みたいな範囲の結界を展開して居合切りしながら回復ばら撒いてたし、初代虎成は凄い速度で槍を振動させて周囲の水分消し飛ばして砂漠を作ったり沼地を作って怪魔を埋め立ててたし、初代瑞騎は一帯が更地になるような落雷を指先一つでぶっ放してたんだぞ。
「ちなみに毒とかで殺すのは無理だぞ。最近ほとんどの状態異常耐性の熟練度カンストしたし」
「何をどうすればそうなるの……」
「毒はコレラ茸とか食べてれば勝手に耐性できるぞ。毒物食べろ。火傷と凍傷は親友のとこ行けばいいし」
「親友? 万莱か?」
「いや、黒焔羅刹と白澪羅刹っていうやつ────あ」
こいつらって確か強すぎるが故に歴史から抹消されたダンジョンに住んでるって設定だったような気がする。DLCダンジョンだし、表の歴史に残っていないダンジョンだったな。
「おい、まさかあの城の他にも何か隠しているのではないだろうな?」
「……ナニモカクシテナイヨ!!」
「嘘を吐くな!? 吐け!! でないとローズ先輩と翡翠先輩も連れてくるぞ!!」
「虎成さん、それは“アリ”だ」
「巡君、ふざける場面じゃないよ?」
「いや、真面目に。強くなりたいならあいつらと殴り合うのが手っ取り早い。……あー、でも留骸ソロで倒せる実力は欲しいか……」
「「うっ……」」
何度か挑んでボコボコにされたと聞いているが、今のところ茶菓子同好会のメンバーで留骸に勝利したのは俺と翡翠先輩くらいだ。俺は真正面から殴り合いが成立するスキルを持っているし、翡翠先輩は留骸の弱点である光属性の魔法────雷を際限なく撃てる。相性勝ちしているところはあるが、勝ちは勝ち。前提条件をクリアしている翡翠先輩を連れて行ってもいいな。学園祭終わったら誘ってみるか。