恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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これには怪魔をセロの旋律によって消し去ったとされているセロ弾きのゴーシュもにっこり。


ギター弾きの気狂い

「キレそう」

 

 開口一番がこれだった俺は悪くねぇ。俺は悪くねえんだ……!! ローズ先輩のクラスから出て、隣のクラスに入った途端、なぜか翡翠先輩に会う前に先輩方に連行されて演奏者として駆り出されている状況にキレないやつはいねぇ!! 案内人を演奏者にさせるんじゃあない!!

 

『まぁ、よいではありませんか。せっかくの催しです』

 

『客として参るだけでは面白みに欠けるってやつじゃないかい?』

 

「出たなネタ枠共」

 

 禍津日様のダンジョンにて登場する過去の英雄は、基本的に武勇に優れた英雄ばかりだ。一見ただの茶の湯の人と思ってしまう千利休も、ジェネリック万莱君な性能をしているし、新撰組は言わずもがな。天魔こと第六天魔王波旬の加護を得ていた信長公や、赤舌神の加護を得た豊臣秀吉、隠神刑部狸の加護を得た徳川家康など……とにかく強いのだ。

 

 そんな中で、さして強くはないが禍津日様のところにいる過去の英雄────英雄でいいのか? とにかく、そういう方がいる。それが今俺の横に立っている着物の女性の二人組、出雲と阿国。あの出雲阿国である。この世界では双子であり、使っている武器は刀……と見せかけて刀のような形状をしているだけの杖。どういうこったよ。この英雄? は準備をさせたら負けなタイプで、準備をさせることなくタコ殴りにしてしまえば簡単に勝てる。攻略の参考にインテリ蛮族麗良であれば爆速で突撃して、怯みハメループで叩き潰すスタイル。メイケイオス遥斗であれば踊り始めた瞬間を狙って絨毯爆撃みたいな魔法を連打。俺は留骸の人魔一戴で四方八方からぶん殴るか、ゲリュオンとクリュサオルで蹴散らす。準備させると本当に強いんだけどなぁ……

 

『それはそうと現代の琵琶は派手ですねぇ』

 

『音もいいじゃないか。こういう派手な音は好みさ』

 

「ギターを琵琶と呼ぶ勇気」

 

 せめて三味線とかじゃなかろうか。まぁ、それはいいんだけどさ……なんか、こう……社交ダンス的なところなのに情熱的なドレスに身を纏った人とフリルみたいなのがついてるタキシードの人が出てきたんだけど。お客さんも端の方に寄っているし……何? 何するつもり?

 

「模歩君、即興できるって聞いたからお願いね」

 

「は?」

 

「ぶっつけ本番だけどよろしく!」

 

「あ゛?」

 

 即興演奏をぶっつけ本番でやらせるとは余程死にたいと見える。楽器演奏とかで技量のポイント貰えたりするから練習はしているが────おいコラ三年共! 出てきた人達よく見たらプロダンサーとして活躍してるプロ戦士じゃねぇか!? その人達相手に素人が演奏とか舐め腐ってんのか!!?

 

「顰蹙買おうが責任は取らねえぞ……」

 

 ギリギリと歯軋りしたくなるのを耐えつつ、禍津日様の加護を起動。隣に立っている着物の女性とのリンクを繋ぐ。禍津日様曰く、あと一歩か二歩、三歩くらいで人魔一戴が人魔戴冠に至るらしい。まだまだ倒せていない英雄がいるんだが……禍津日様が言っているならそうなのだろう。

 

「人魔一戴────出雲阿国ッ!!」

 

『無論!! 祭りといえば舞! 舞と言えば囃子! 囃子と舞と言えばそう、歌舞伎!!』

 

『さぁさぁ、お立合い!!』

 

 二人で一組、歌舞伎の源流となったとされる双子の女性が俺の楽器に合わせてか、現代風の楽器を手にして顕現する。

 

『何の因果か、ここに集った戦士共!!』

 

『歌い、踊り、魅せる者!!』

 

『遠からん者は音に聴け!! 近くば寄って目にも見よ!!』

 

『我ら出雲阿国とその盟友の奏でる音を! 戦士の舞に酔い、湧き上がれ!!』

 

 人魔一戴の状態であっても出雲阿国だけはこうして俺の体に降ろすってことができず、顕現状態となるわけだが……まぁ周囲の目が凄いわ。霊薬飲んでなかったらメンチ切ってるところだ。……だがまあ、いいだろう。人魔一戴の影響なのか、テンションは馬鹿みたいに跳ね上がっている。人間に化けている怪魔共もこちらを見ているし、受付をしている翡翠先輩もこちらを見ている。俺ではなくダンサーを見ろ。

 

「好きにやらせてもらうんで、そっちも好きにやってどうぞ」

 

 誰に聞かせるでもなく、俺が呟くとプロダンサーの二人から放たれる圧が膨れ上がる。主役は自分達だと言わんばかりの圧と自信に満ち溢れている姿は、確かにプロとして活躍している人として相応しい風格が漂っている。

 

 ……おや? そういえばあの二人って加護持ってたな。何だっけ……確か海外の精霊だか守護獣だったはずだけど………………あ、思い出した。シルキーとブラウニーだ。男性の舞鍋涼太(まいなべりょうた)氏がシルキーで、女性の舞鍋霧江(まいなべきりえ)がブラウニー。後方支援系のプロだし、前線に向かう途中の補給拠点で何度か顔を合わせたことがある。予兆がほとんどなかった百鬼夜行で避難が遅れた結果、ご両親を目の前で怪魔に喰い殺された経歴持ちで、怪魔と対面するとトラウマが蘇って動けなくなると言っていたが……それでもプロとして活躍しているのだから御立派だ。冗談ではなく、本気で。

 

「僕らのダンスが勝つか」

 

「それとも貴方達の音楽が勝つか……いいえ、違うわね」

 

「「そっちがついて来い」」

 

 ……素敵だ……本当に心が踊ります。俺の心の大部分に遥斗と麗良がいなかったのなら────あなた達と同じ世代に生まれていたのなら……新しいご友人として迎えたいくらいには、二人の一挙手一投足に力を感じる。今日、飛び入り参加みたいな形にはなってしまったが、この二人と鎬を削ることができるこの瞬間に感謝を込めたい。

 

 まぁ、それはそれとして案内人に演奏者を任せてきやがった先輩方にお礼参りをしないわけではないが。演奏者としての俺は許そう。だが、普段の俺が許すと思ったら大間違いなんだな!! というわけで演奏が終わったらシベリアンエクスプレスかエンフォルドか選ばせてあげよう。獄門でもいいぞ。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 さて、学園祭で気狂いが発狂しかけていることは置いておいて。

 社交ダンスの体験コーナーで受付をしていた我らが気狂いがバグらせた第一被害者、瑞騎翡翠と我らが気狂いの出会いを語っておこう。

 

 彼女と気狂いの出会いはいつか語ったように、メンタルケアのために学園や五家など、戦士を連想させるものがあまり少ない田舎への傷心旅行での出来事だ。

 

(どうして皆、笑ってるの?)

 

 田舎町の人々は、笑っていた。平和を享受して、穏やかに、何事もなかったかのように皆笑っていた。その笑顔が、当時の翡翠には不愉快で、苦しくて、腹立たしくて、憎たらしくて。

 

(どうして、私だけ────!!)

 

 黒い感情によって引き出された黒い雷が小さく弾ける────その時だった。

 

「ねえ」

 

「……?」

 

 髪を整えることもせずボサボサのまま、溢れ出すどす黒い感情をむき出しにして、虚ろな目で何かをしようとしていた翡翠の手を掴んだのは、甘くて香ばしいパンの香りを纏っている、色んな箇所に包帯を巻きつけている少年だ。

 

 第一印象は心が荒んでいたこともあって「なんだこいつ」というものだった。パンの香りがするというのに、二分の一ミイラみたいな姿だったこともあって不審者を見るような目で巡を見ていた。

 

 そんな視線を向けられても怯むことなく────そもそも気付いていなかったのかもしれないが────巡(ミイラ の すがた)は、黒い雷が帯電する翡翠の手を火傷するかもしれないとも思っていないのか、強く掴んで、真っ直ぐ見ていた。表情は、凄くギョッとしているが。

 

「大丈夫?」

 

「……離して」

 

「それはちょっと……ボロボロになってる人放っておけるほど屑じゃないっていうか……」

 

 振り解こうとしても離れない手は、久しく感じていなかった温かさを感じた。包帯が焦げていることや、服が雷で焼けて袖が塵になり始めていることを気にしている素振りも見せない巡は、光を飲み込んでしまうような黒い瞳を真っ直ぐ翡翠に向けて、下手くそな笑みを浮かべる。

 

「うん…………とりあえず何か食べた方がいいと思うんだ」

 

「……は?」

 

 そう言って巡は翡翠の手を引いて、近くにあったハンバーガーショップに入店する。

 

「ん? 巡じゃないか……って、そっちの子は彼女か何かかい?」

 

「観光客の人。なんか迷子っぽいし、お腹空いてそうだから連れてきた」

 

「へぇ、こんな時期に観光! ならお嬢ちゃん、うちで食べるならダブルビーフバーガーセットをオススメするよ!」

 

「じゃあ俺もそれで」

 

「890円な」

 

「金取るってか!?」

 

「当たり前だろ? お嬢ちゃんの分はサービスしてやるよ」

 

「あざーす」

 

「しゃあっダブルビーフ・バーガー!!」

 

「語録の普段使いはルールで禁止スよね」

 

地元(ここ)じゃルール無用だろ」

 

 常連なのか、それとも地元の人間との繋がりが強いのか……巡はハンバーガーショップの店主らしき男性と冗談交じりの会話をしつつ、子供にとっては軽くない890円という大金を支払ってからソファ席に座った。向かい側には状況を把握しきれていない翡翠が座っている。

 

「ここのハンバーガー美味しいんだよ。チキンとポークもあるけど、断然ダブルビーフバーガーが最高」

 

「…………?」

 

「こう、師匠の扱きがキツイ時とかここに来て食べるんだけど、師匠が言った通り肉を食べれば元気になるね!」

 

 うははは、と笑っているようで笑っていない、心なしか震えている巡の言葉にも、行動にも疑問符しか浮かばない翡翠。自分が姿を見せればトラウマを蘇らせることになるため、姿を見せないでいる麒麟も巡の行動を不可解そうな目で見ていた。

 

「そぅら、お待ちどお!」

 

 時間にして五分と少し。キャッチボールにもなっていない会話を行っていた巡と翡翠の目の前に、巨大なハンバーガーと揚げたてのポテト、キンキンに冷えたコーラ(ジョッキ)が置かれる。

 

「……………………これは、何?」

 

 生まれてこの方食べたことはないが、目の前に置かれている料理がハンバーガーであることは何となく理解できる。だが、これはあまりにも大きすぎる。

 名前の通り、このハンバーガーにはパティが二枚あるわけだが、そのパティのサイズが異常だ。目測で直径15cm、縦幅は10cmというあまりにも大きすぎるハンバーグパティに、薄切りされたトマトとレタス、そして馬鹿が考えた料理の如き量のチーズ。それをピックで無理矢理バンズの中に封じ込めている状態のハンバーガーを見て理解を拒む翡翠に対して、巡と店主は。

 

「「質問される意味が分からない」」

 

「!?!?」

 

 答えを口にしないどころか、質問された理由が分からないと言い切ってみせた。蝶よ花よと育てられ、それと同時に五家の戦士として、麒麟の加護を得た人間として相応しい者になるように育てられてきた翡翠にとって、そんな返答は初めてのことだった。

 

「ま、人に聞くより食べた方が早いって。んじゃあ失礼して、手掴みで」

 

 オイルペーパーに包まれたハンバーガーのピックを引き抜き、潰すように掴んだ巡が顎が外れんばかりに口を大きく開いてハンバーガーにかぶりつく。

 

「ん、やっぱこれ凄……そしてポテトを食べてからコーラで油を────っはあ! キマる!!」

 

「言い方改めろ?」

 

「へへへ、これが止められねぇんだ……!」

 

「悪化してんじゃねぇか!?」

 

 お客が巡と翡翠しかいないこともあって、店主と雑談をする巡と、巨大なハンバーガーを交互に見た翡翠は、久しく感じていなかった空腹感を覚え────恐る恐るといった動きで巡がやっていたようにハンバーガーへとかぶりついた。

 

「──────────────―」

 

「ヴェ!? 何が何で何の何が何で何の!!? 俺何かした!?!? ケジメ案件!? 鉄板土下座!?」

 

 翡翠の瞳からボロボロと零れた涙を見て、巡が包帯が緩むレベルで激しく動揺して挙動不審な不審者と化す。店主はというと、何か茶化すでもなく厨房に備え付けている厚手のタオルをテーブルに置いてクールに去っていった。全て巡に丸投げしたとも言う。

 

「ちがう……ちがうの……!」

 

 錯乱して誰にも邪魔はさせないヘドバンをし始めるんじゃないかと思うほど動揺する巡と、ハンバーガーを食べながらボロボロと涙を流す翡翠という混沌めいた光景。

 

「ごめんなさい……! ひさしぶりに、こんなに美味しいもの食べたから……!!」

 

「あー………………うん。とりあえずコーラでキメな??」

 

 憔悴しきっていた翡翠が何をそこまで苦しんでいたのかを巡は全く察してはいなかったが、何やら自分は────このハンバーガーショップのハンバーガーが目の前の少女の闇堕ちを回避させたことだけは理解した。理解した上で、ミイラな巡は思う。

 

(こんな女の子が闇堕ち一歩手前とかやっぱり世の中クソだな? 大人としての責任と教えはどうなってんだ! 教えは!? というかこの子原作にいた??)

 

 転生者であり、精神年齢はこの時点でお酒が飲める歳まで行っている巡はそんなことを思っていた。この世界の頼れる大人は数少なく、頼れるようになった頃には手遅れなんてことがザラにあるクソみたいな社会。覚悟した者は幸福どころか絶望のどん底に叩き落されることが確定するクソッたれな灰色の世界。そんなエロゲーとギャルゲーの皮を被った死にゲーの世界を呪う巡は、憤りをハンバーガーとポテトとコーラでどうにか飲み込んで心を落ち着かせる。

 

「とりあえず……これ食べたら気晴らしに色々見て回らない? 心の栄養が足りてないと見えるから」

 

「ぅ゛ん゛……!」

 

「とりあえず泣くか食べるかのどっちかにしよう????」

 

 混沌としているが、これが始まり。実は原作始まる前に闇堕ちしかけていた翡翠と、我らが気狂いの初エンカウントの瞬間であった。




瑞騎翡翠(闇堕ち 一歩手前の すがた)
わたしはくるしくて、つらくて、かなしくて、こわいのに。いたくて、いたくて、いたくてたまらないのに。
どうしてみんな、わらっているんだろう。
どうしてみんな、きれいごとをくちにするんだろう。
どうして、わたしだけ、こんなに――――!!

「大丈夫?」

黒い目が、私を真っ直ぐ見ていた。
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