恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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手が塞がる。塞がったら武器が握れない。


気狂いと戦う時、己の無事を祈るな

 討魔学園東京校の敷地内にある、巨大な闘技場。訓練場としても使われる他、式典にも使われている施設は熱気に包まれていた。その熱気の理由はもちろん、これから行われる戦士同士の決闘だ。

 

 百鬼夜行は基本的に避難所に避難して、百鬼夜行が終わるまで過ごすことになっており、戦士と怪魔の戦いは中継されない。一昔前まではヘリに乗ったニュースキャスターや、装甲車に乗っている戦場カメラマン的な人々が百鬼夜行の様子を中継していたのだが、大規模百鬼夜行によって彼らが犠牲になったことで中継することがなくなった。そもそもの話、彼らを守るために戦士を何名か割く=戦力が減って不利的状況が起こり得るのだから、当然だろう。百鬼夜行は娯楽ではなく、大規模な自然災害のようなものなのだ。それを理解していない馬鹿共が避難せずに百鬼夜行の様子を野次馬して、未だに病院から出てこれずにいる現状も、怪魔の恐怖を知らない世代による社会問題として提唱されている。

 

 まあ、そういう問題もある中でも民衆というのは不思議なもので、自分達を守ってくれている人達がどんな戦いをするのかを見たがる。そういった問題があるが故の話なのかもしれないが。とにかく民衆は自分達を守ってくれている戦士の力を見たがっているのだ。

 

 そんな人々の要望に応えるために行われるようになったのが、討魔学園の東京校と京都校の対抗戦だ。四日間行われる討魔学園の学園祭、その前半二日は学年別のトーナメント戦。後半二日が学年無差別及びフリー、プロ交えての無差別トーナメント戦。最も盛り上がるのはやはり後半二日間のトーナメント戦ではあるが、前半二日間のトーナメント戦も盛り上がることには変わりない。

 

 今日から四日間、基本的に47都道府県の飲食店────特にお酒を提供している飲食店は嬉しい悲鳴が上がる盛況を見せる。対抗戦を見ながら酒を飲み、飯をかっ食らうという中々できない行為を昼間から行えるのだ。この日のために有休を取る社会人も少なくない。

 

『あー、あー、マイクテストマイクテスト……はい、皆様こんにちは!! 今年も始まりました討魔学園東京校、京都校対抗戦!! 実況は私、プロ戦士兼ラジオパーソナリティ村田紬(むらたつむぎ)が務めさせていただきます!!』

 

『解説は私、討魔学園東京校、錬金術及び数学教師、京谷清雅です。よろしくお願いします』

 

 実況解説の席にはプロの戦士として活躍する傍ら、ラジオパーソナリティとしても活躍している元気系の女性、村田紬。その隣には我らが気狂いからの依頼を徹夜して仕上げた京谷清雅がいた。

 

 対抗戦は興行としての立ち位置もある。飲食店を中心に、様々な業界にとんでもない経済効果があるがゆえに、毎年行われるようになったという歴史もある対抗戦。闘技場には討魔学園に寄付、投資を行っている企業や団体の看板が所狭しと並んでいる。

 

 そして何よりも。

 

「今年も始まったなぁ」

 

「おー、盛り上がってる盛り上がってる」

 

「誰に賭ける? 俺宇迦んとこの子」

 

「京都んとこの連中の誰かだな。一本だたらのやつがお熱なやついただろ? あれ良くねぇ?」

 

 神が少なからず持っている神気、カリスマなどを極限まで抑え込んで現世に遊びに来ている神々が毎年楽しみにしているイベントでもある。姿を見せずに神獣や守護獣、精霊なども観戦しに来ていることもしばしば。

 

「にしても、お前も来るなんてな」

 

「ああ、ちょいと気に入った戦士がいるんでな。間近で見るのも悪くない」

 

 そんな神々の会話を他所に、実況解説が進んでいく。

 

『改めて説明を! 対抗戦はトーナメント戦! 闘技場全体を使ったガチバトルです! 対戦相手を完膚なきまでに叩き潰しても問題なし!! だって、怪魔との戦いってそういうものでしょう?』

 

『もちろんプロの医療チームがいつでも動けるようにしているからという話ではあります』

 

 そんな実況解説から説明が続けられる中、闘技場のモニターにはトーナメント表と併せてオッズ比のようなものが表示されていた。

 

「そろそろいいかぁ!? 賭けを締め切るぞ!!」

 

 前述の通り、対抗戦は興行。様々な企業や団体主導で賭博の対象にもなっている。対抗戦の優勝者が東京校と京都校のどちらか、トーナメントの勝ち進み具合など────多様な視点から賭けが行われるのだ。

 賭博に参加するのは勝負師やギャンブラー、賭博をやったことがない者まで多くいるが、大金をつぎ込む者は少なからずいる。大金を積んだ者の多くが飲み物や料理を楽しみつつ賭博券を握りしめ、今か今かと始まりを待っている。日本で賭博をしてはいけないように思うだろうが、忘れてはいけない。この世界の原型はゲームである。現代日本っぽいファンタジー日本なのだ。法律があれこれ違ってもおかしくはない。

 

「やっぱり五家と、それに連なるやつらに賭けるやつが多いな」

 

「まぁ、有名どころに賭けるのが無難だしな」

 

「……で、誰だよ模歩巡って」

 

 第一試合の内容は東京校2年模歩巡VS京都校2年薔薇苑暮奈(くれな)。かの五家────分家ではあるが、由緒正しい戦士の家系の生まれの少女と、民衆からすれば無名の少年。はたから見れば話にならない、勝負が見えた試合に対して、少年に賭ける者はほとんどいなかった。いるとすれば、少年の地元の人間か、少年────気狂いの本性を知っている人間くらいだろう。

 

「出来レースとはいえ、誰もボーイに賭けるやつがいねぇな」

 

 海外でも中継されている学園祭。とある酒場で賭けの胴元を務めている男がつまらなそうに呟いていると、彼の前に二人の少年少女が歩み出て、少なくないお金の束を叩きつけた。

 

「「大馬鹿野郎に10万!!」」

 

「ははははは!! マジかよ!!」

 

「ヒューッ! 攻めるねぇお二人さん!!」

 

「ジャパンにもギャンブラーってのはいるんだなぁ!!」

 

「他にあのボーイに賭けるやつはいねぇか!!?」

 

 名乗り出た少年少女に酒場が湧き上がる中、巡という気狂いに賭けた少年少女は、不敵な笑みを浮かべながら────酒場に集まった人々に言う。

 

「「悪いね、二人勝ちになりそうだ」」

 

 そんな言葉にも湧き上がる酒場。その熱気が最高潮へと到達した頃────戦士達が入場した。

 

 

 

 * * * 

 

 

 

 分家ねぇ……薔薇苑家の分家ってあんまりいい印象がないんだけど……こう、人間性が終わってるようなやつに加護を与える神獣、守護獣、精霊はあんまりいない。人間の尺度と同じような善悪の尺度を持っていないやつらは吐き気を催す邪悪みたいなやつにも加護を与える。弱い奴が悪い、騙される奴が悪い……つまるところ弱肉強食の思想を持ってるやつが特にその傾向がある気がする。それだけに、一度敗北を喫すると加護を打ち切られたりするデメリットがあったりするんだけどな。

 

「君が模歩巡か。伯父さんや伯母さんの手紙を読んでから、一度会ってみたいと思っていたんだ」

 

 加護について考えていると、同時に入場して来た京都校の戦士、薔薇苑暮奈さんがにこやかに話しかけてきた。……そういえばパーティーには参加してなかったか? 分家の人達とかも来てたと思ったんだが……てか伯父さんと伯母さん?

 

「もしかして、ローズ先輩の従妹か何か?」

 

「ローズ……ああ、遠志兄さんのことか。ああ、そうだよ。僕は彼の従妹に当たる人間だ」

 

「へぇ。それで、そんな従妹が何用で?」

 

「姫艶姉さんのことでお礼がしたかった。それだけさ」

 

 ああ、そういう。姫艶さんって本当に慕われてた……って、お礼!? 性格が悪い薔薇苑家の分家の人が!?

 

「その様子だと、薔薇苑家の分家があまりよろしくない態度を取ってる人間が多いことは知っていそうだね」

 

「まぁ、ローズ先輩によぉく言い聞かされてたし」

 

「ははは……まぁ、粛清があってそこそこ減ったんだけれどね」

 

 粛清祭りがあったのか。……まぁ、善治さん含めて本家の人達が姫艶さんの件から解放されたわけだし、元気になって膿出しに勤しむようになったのかもしれない。醜怪餓鬼による薔薇苑家の分家ほとんどが全滅したという話を、こうして辻褄合わせしたということなんだろうか?

 

「とにかく、姫艶姉さんのこと、本当にありがとう。ようやく僕もお墓参りに行ける」

 

「どういたしまして」

 

「うん。まぁ、それはそれとして、手加減はしないからそのつもりでね」

 

「テスカトリポカ様が見に来てる状況で手加減が許されると思っていらっしゃる……?」

 

「テス……?」

 

 ああ、知らんのか。……まぁ、日本じゃマイナーでもおかしくない神様だしな。控室で霊薬がぶ飲みしてたら突然現れて天井に頭ぶつけそうになったが……まさかこの催しを見に来ているとは思わなんだ。

 ちなみに怪魔共は試合がよぉく見える一階席の一番前に纏めて座らせている。それをプロが囲うっていう寸法よ。てめぇらの案内のせいで翡翠先輩含めた茶菓子同好会と一緒に学園祭回るってイベントができなかったの許してないからな?

 

「よく分からないけれど、凄い神様が僕達の戦いを見ているってことでいいのかな?」

 

「それでいいんじゃねぇっすかね」

 

『……それ以上にお主の加護に驚かされているがな……』

 

 薔薇苑家暮奈さんの後ろからふわりと現れたのは、真っ赤な翼に真っ赤な瞳の大きなフクロウ。神獣────いや、鳳凰の格を考えると、鳳凰の眷獣の守護獣? でも神獣の中でも格の高さに差があるようだし、フクロウの神獣という可能性もある。

 

『禍津日神……忘れられた神の加護に呪いの気配……加護と呪いを得ておる。さらには疱瘡神か?』

 

「分かるもんなのね、それ」

 

『普通なら一目では分からぬだろう。だが、私の目はそういうものが見える。見えてしまう、とも言えるな』

 

「すまない、紅梟覚(こうろうかく)は人の内面を少し読み取ってしまうんだ。気に障ったのなら謝罪させてほしい」

 

「いや別に。便利な能力だなとは思うけど、不快にはならん」

 

 読み合いが不利になるなぁ、とは思うけどな!! 思い出したぞ、紅梟覚。神獣サトリの親戚みたいな立ち位置で、鳳凰にボコボコにされて眷族になったという悲しき過去がある神獣だ。こいつのビルド組んだことはないが、案外強かったはず。ただ、ほとんどのビルドが盾使ってカウンターを狙うタイプのビルドのせいで使わなかっただけで。

 

「怪魔の思考もある程度読めるんだろ? 後の先を絶対取れるって考えたら強いだろ」

 

「…………君もそう言ってくれるんだね」

 

「?」

 

「いや、なんでもない。……そろそろ始めようか。観客も退屈してる」

 

 まぁ、無駄話はそこそこにして戦った方が良さそうだな。大衆に見られながら戦うっていうのは、俺のバトルスタイルのこともあってあんまり好きじゃないんだけど。

 

「────薔薇苑流居合術、薔薇苑暮奈が我が身に加護を与えし神獣、紅梟覚に誓う」

 

「またこれか。…………刹那無心流、模歩巡が加護と呪いを与えし荒神、禍津日神に誓う」

 

 ついでにアラハバキ様と疱瘡神様にも誓っとけ。先代アラハバキ様は成仏して俺がアラハバキな訳だけど。ところで、刹那無心流って流派を名乗った瞬間に観客席で気でも狂ったような悲鳴が聞こえた気がしたけど気のせいか? ……気のせいだな。

 

「正々堂々、誉れある決闘を行うことを誓う」

 

「セイセイドウドウ、誉れある決闘を行うことを誓う」

 

(正々堂々がカタコトだったような……?)

 

 お互いに口上を終えて、武器を構える。薔薇苑暮奈さんは刀────しかもまぁまぁ長めの、大太刀一歩手前くらいのリーチがある刀を鞘に納めて構えていた。なるほど薔薇苑流居合術。ローズ先輩も使っているのを見たことがあるが、それよりも研ぎ澄まされているように感じる。カウンター系なら居合でも活用可能か。

 間違いなく猛者……こんな猛者がいるなら、中等部の頃から参加しても良かったかもな。加護無しだからちょっと面倒があったかもだけど。まぁ、それはそれとして……こんなにも研ぎ澄まされている技を全力でぶつけてくれるというのならば。

 

「此方もいつも通りやらねば……無作法というもの……」

 

 師匠ならそうする。兄弟子だってそうする。というわけで俺もそうする。

 お互いの集中力が最高潮に達する、その瞬間。試合開始を告げる銅鑼が鳴り響いた。

 

「オルルァッッ!!!!」

 

「はぁッ!?」

 

 模擬刀の先制攻撃ならぬ、竹槍による先制攻撃だ!! ジャベリンとはこう使う!! ちなみにこの竹槍は凱蟲百足城対策で作っていた試作品投擲槍、その最後の一本。なので。

 

「下手に属性乗せて斬ると爆発するんで気を付けてな」

 

「ッ!!」

 

 俺の言葉が聞えたのかそうではないのか定かではなかったが、飛来する竹槍が爆発しないように、見事な神速の抜刀術を披露してくれた薔薇苑さん。エンチャント無しでもいい威力だぁ……

 

「君、性格悪いって言われない?」

 

「ありがとう」

 

「褒めてないよ」

 

 勝利こそ至上の流派にとって性格悪いは褒め言葉なんだよなぁ……

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