恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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サクサク進めていきましょう。戦闘はカロリー消費が激しくてな


こいつに対人戦をさせてはいけない

 やりづらい。やりづらいというか、死ぬほど面倒くさい。

 討魔学園京都校2年、薔薇苑暮奈は心の中で舌打ちするくらいには対面している少年の戦い方に苛立ちを覚えていた。

 

(……ッ、次々と飛び道具が飛んでくる!)

 

 初撃の竹槍もそうだったが、さっきから少年────我らが気狂い模歩巡は自分の武器を振るうでもなく、ひたすらに飛び道具を投擲してくる。

 竹槍、投げナイフ、ククリ、手斧など……どれだけ投擲物を持っているのか問いかけたくなるくらい、巡の飛び道具のレパートリーは豊富だ。そして何より、投擲物に塗りたくられているものがあるから、装備している鎧で受けたり、防御に活用できるスキルを使った防御を許さない。そもそもの話、どれだけの膂力で投擲物を投げているのか。弾き続けるだけで腕が痺れる。防御は考えてはいけないだろう。

 

「流石というか何というか……全部叩き落すか躱すとは」

 

「弾くか避けるかしないといけないものだろう、それ……!」

 

「まぁ、そうなんだけど。えーと、これが確かコレラ茸とマムシで、こっちが妖幻魔宵蛾の鱗粉で……あとこれが何だっけ……あ、カエンタケとベニテングダケと鈴蘭のブレンド。もちろんダンジョンで作ったから全部少なからず毒が変質してるぞ」

 

 確実に相手を死に至らしめるための毒物が塗りたくられた投擲物の数々。しかもその一つ一つがわざわざダンジョン内で製作したもの。つまり、状態異常耐性によって毒物に耐性を持っていることが多い戦士や、毒に耐性がある怪魔であっても通用する、悪辣で効果的な道具だ。

 

『投擲物の雨が暮奈さんに降り注ぐ!! いやぁ、ここまで毒を重用しているのは見事と言わざるを得ませんね! 我々戦士は小手先の技術一つで生き残るか否か、怪魔を倒せるか否かが決まる業界ですから』

 

『近年の戦士は攻撃スキルや魔法スキルによる派手さや、真正面からの戦いを求める傾向がありますが、やはりこういった状態異常使いがいると前線維持が容易です』

 

『それにしても彼、あれだけの毒物をよく使いこなしていますね』

 

『彼は少し前まで加護を持っていませんでしたから。加護を持っていない戦士として効率的に怪魔を斃す手段として手っ取り早かったのが毒などの状態異常だった────ということでしょう』

 

『なるほど! ですが暮奈さんも負けていません! 投擲物の全てを弾く!! 躱す!! 薔薇苑流居合術免許皆伝の名は伊達ではありません!!』

 

 実況解説が話す通り、暮奈は居合によって全ての投擲物を弾き落としている。納刀状態から抜刀、抜刀から納刀────ではなく、納刀状態から抜刀、抜刀状態でありながら結界を鞘に見立てることでどのような姿勢、どのような体勢からでも居合術を行うことに成功している。この居合術の凄まじい点はこれだけではなく、結界術を利用した居合であるため、間合いに入ったものを自動迎撃できることや、抜刀の際に刀自体を異物として判定して弾き出すことで恐ろしい速度での抜刀を可能としているのだ。

 

 もちろん鞘に戻せる時は戻してからまた抜刀しているが、切り上げた状態から居合が発生したのを見て巡は正直なところ、度肝を抜かれていた。結界術だけではなく、剣術と、弾き出される刀に振り回されないようにする技量と膂力。暮奈が積み上げてきた研鑽に、巡だけではなく、武を修めている者達は無言の称賛を送っていた。

 

(凄いな。初代もそういう感じでどんな状態でも居合が成立したらしいけど……この人自力でそこに到達しかけてんの?)

 

「紅梟覚の力を借りてようやくこの段階だよ」

 

「? ああ、読心か。便利だな」

 

 話をせずとも会話が成立するということは、打ち合わせをせずともぶっつけ本番で連携がある程度形になるということでもある。紅梟覚の力によって心を読めるが故に、どんなバトルスタイルの人間と組んだとしても、暮奈は相応の戦果を挙げることができるだろう。ソロでの戦闘も、敵の心を読めばある程度攻撃のタイミングを掴める。敵に回せば恐ろしく、味方になれば心強い。

 

「お、背後投擲にも反応すんのか。結界術って便利だよなぁ。俺も練習しようかな」

 

(……今、どうして背後から投擲物が?)

 

 違和感。

 回転斬りで前方と背後、ほぼ同時に投擲されたナイフを弾いた暮奈の中に芽生えた違和感。後の先を取るために、相手が次にしてくる行動を紅梟覚の力で読み取ったというのに、巡から読み取れたのは「後ろからの攻撃には反応するのか?」という実験に使う物体を見て考えるような思考。スキルを使うとか、そういった考えは全く無かった。

 

「ん? あー……もしかしてあれか。スキルを使ってる素振りがないから困惑してる感じ?」

 

「……気付くんだ」

 

「戦士同士の戦闘じゃ、スキルの応酬になるのが基本だからな」

 

 会話の中であっても投擲物が飛んでくることは変わりない。

 一つ、二つ。三つ、四つ。飛んでくる投擲物を悉く弾き、躱す。狙ってくる部位が爪先や踵、手首や肩などと的確なものだからこそそこまで体力の消耗はないが、これがどこを狙っているのか分からない状態だったらと思うとゾッとしない。

 

 高速で飛んでくる投擲物の数々を叩き落としているうちに、暮奈と紅梟覚は強化された聴覚で微かにピン……と何かをつま弾くような、甲高い音を聞き取った。

 

「っ……?」

 

『む……これは?』

 

 巡が投擲物を投げる。暮奈が弾く。耳を澄まさねば分からない程に小さな音とほぼ同時に、後方から投擲物が飛来する。暮奈がそれを躱す。

 投げる。

 弾く。

 投げる。

 躱す。

 その応酬が繰り返される中で、耳を澄ませると聞こえてくる高音。そして、集中力が高まったことでさらに研ぎ澄まされた視界が、結界術の研鑽を積むことで鍛えられた霊気の感知能力が、太陽の光を浴びてキラリと光る何かを見つけた。

 

「……糸?」

 

「んお、マジか。風属性のエンチャントで隠してたんだけど気付くか」

 

 まぁ、バレたものは仕方がない。そう言ってエンチャントを解く────いや、時間切れとなったというのが正解か────巡。その手に握られていたのは、細い糸。

 

『模歩巡の手に現れたのはギターの弦だ!! しかも背中に背負っている楽器と繋がって────おや? 楽器にしては何やら物騒な刃物があるような……?』

 

『ああ、あれが彼の新しい武器ですね。鉄花荒轟という、楽器と鉈が融合した奇妙な武器です』

 

『なるほど! 予め配布されていた資料に書いてある武器ですね! 確かにギターと鉈が……鉈ですかね、これ? 鉄の塊にしか見えないんですが……』

 

 巡が背負っていたのは、楽器と鉈が融合した、奇妙な外見の武器。その弦が巡の手に収まっており、その弦にくっついているのは……先程まで暮奈が弾いたり躱したりしていた投擲物だ。

 

「まぁ、ぶっちゃけ絡繰りは簡単だ。予め風属性のエンチャントで武器を見えなくして、投げながら馬鹿みたいに伸びる弦に投擲物をくっつける」

 

「それを投げることで投擲物が弾かれたり、避けられたりしても罠として使えるってことかな? 引っ張ったり、弦をつま弾くと巻き戻る……そんな感じ?」

 

Exactly(そのとおりでございます)

 

 言われていることは分かる。弾いたり躱したりした投擲物の数々が後ろから飛んできた理由も、分かりはする。思い返してみれば、後方から飛んでくる投擲物は巡が投げる行動の後、指を動かしたりした時に飛んできた。よく見ると巡の靴にも弦が巻き付いている。投擲しながら足を動かせば巻き取りが始まって、後方投擲が成立するのだろう。だが、言うは易く行うは難し。これだけの技、どれだけの研鑽を積み重ねたのか。だが。

 

「解せないのは、僕が弾いた時に弦が切れなかったことや、ぶつかった感じがしなかったこと……あれは?」

 

「ああ、それか。この武器、対人戦じゃ機能してくれないんだよ」

 

「……どういうこと?」

 

「こういうこと」

 

 鉄花荒轟を持った巡が取った行動は、脳が理解を拒む行動だった。

 

「ほい」

 

「………………は?」

 

 間違いなく重たい武器を軽々と持ち上げて、自分の首を刎ねるように────というか、間違いなく刎ねるように振り回した巡。だが、巡の首が飛ぶことはなく、すり抜ける。その行動に闘技場は騒然となるどころか、沈黙で満たされた。

 

「まぁ、使った素材が素材だからか、こうやってすり抜けるんだよ。人間相手だと」

 

「……気は確かかい?」

 

「食い縛りで死なないからいいだろ」

 

 禍津日の授業でスキルの段階を下げるということも覚えてしまった気狂いは、もはや無敵の人一歩手前みたいな精神性を獲得していた。自分の攻撃で死にかけたとしてもガッツで耐え切るという、人間の精神構造とは思えない思考である。

 加護を得ていなかった頃は、自傷行為で体力調整を施し、低体力火力ビルドなんてものを使っていたこともあった。このビルドは状態異常が通用しない相手への対策であり、今でも装備を更新することで最前線でその実力を発揮できるようにしている。長期戦であれば状態異常で削り、状態異常が効かない怪魔が相手であれば低体力で火力を爆発的に伸ばす装備を使い、倒し切れないと判断したら自爆前提で戦いつつ、百鬼夜行における制限付きの死に戻りの限界ギリギリまで死に戻りしてでも殺し切るバトルスタイル。自分の命すら敵の命を削り取るための道具の一つとしか認識していない狂気。少し前に翡翠がわざわざ瑞騎家の息がかかっている病院で精神や脳などの検査をしたが、病院側から「類を見ないレベルで正常、そして最高に健康です」と言われて、翡翠がそんな馬鹿なという表情を浮かべていたのは茶菓子同好会のメンバーの記憶に新しい。そして巡が残像が見える屈伸をしていたことにちょっとイラっときて、翡翠が雷を叩き込んだのも記憶に新しい。その時に光属性魔法耐性がカンストへと到達したことに小躍り(ゲッダン)して、また雷を落とされた。気狂いが気狂いしている由縁である。

 

「だから投擲物をぶん投げても弦はすり抜けていく。これが怪魔相手なら拘束具としても使える」

 

「人を傷つけることはできなくても、怪魔には効果的な武器か……作った人は相当の職人だね」

 

「頼りになる本物のプロだよ」

 

「はは、そんな人がいるなら是非とも会ってみたいな」

 

 話が噛み合っていないかもしれないが、巡はパリピイケメンボーイズのことを本気でプロだと思っているし、暮奈は鉄花荒轟を作った職人をプロであると認識しているので話が噛み合っている。この会話の違和感に気付けるのは、巡が装備を誰に任せているのかを知っている茶菓子同好会のメンバーや、担任教師、京谷などの一部だ。

 

「けど、見えるなら対応も簡単……だけど、そこら辺の対策もしてはいるんだろうね」

 

「そらそうよ。というかもう準備できたし」

 

「準備って何を────ッ!!?」

 

 ここまで言われて、暮奈はようやく気付いた。狡猾な戦い方をしてくる相手が怪魔くらいしかいなかったから、戦士との戦いは本当に正々堂々とした正面からの立ち合いしかほとんど経験が無かったからこそ、気付くのに遅れた。心が読める紅梟覚も、当たり前に染み付いていることに対しては読心で読み取りにくい。体に染み込ませた動きは、考えなくてもできてしまうのだから。

 

「小手先、姑息、騙して悪いがは戦いの基本よ」

 

(やられた! 投擲物の絡繰りはブラフ! 本当の目的は────投擲物を特定の場所に設置しておくこと!!)

 

 設置された────というか、突き刺さっている投擲物の一つ一つから感じ取れるアムリタ結晶特有の霊気と、今にも爆発する寸前の雷の音。暮奈には見えていなかったが、投擲物の全てに知識がないと読み取れない文字が刻まれている。その文字はルーンでも、ギリシャ文字でもない。それに気付いたのは、この闘技場に来て安酒と共に学生が作ったジャンクな食事を楽しんでいる神の一人。

 

「ふ────はははははは!! 不遜! あまりにも不遜で不敬かつ傲慢!!!」

 

 唐突に笑いだした神の一人に、観客席だけではなく、戦っている最中の二人も思わず耳を傾けた。

 その神の頬には、巡が投げた投擲物と同じ文字らしきものが刺青のように刻まれており……その文字は、サンスクリット語。意味する言葉は、『金剛』、『慈雨』、『雷霆』。

 

「だが、面白い!! だからこそ人間というのは面白い!! いいだろう、赦す!! 俺のことは禍津日が教えたのだろう!! どの程度再現できたか、魅せてみろ!!!!」

 

 呵々大笑して、巡が何をしようとしているのかをワクワクして叫ぶその神に思わず吹き出しそうになりながらも、巡は、人を殺せそうな笑みを浮かべて投擲物に向けて弦を飛ばす。

 

「させるか!!」

 

「ブラフだヴァカめ。もう繋げてあんだよ!!」

 

「なら────!!」

 

 何をしようとしているか分からずとも、止めに入る暮奈は巡が詠唱を開始しようとしていることを霊気の流れで感じ取る。詠唱中に喉を潰されたのなら、魔法は成立しないどころか暴発して大ダメージを受けかねない。一か八か。暮奈はそれを狙おうと試みる。

 

「これなるは、人の身には使いこなせぬ、聖仙の骨」

 

(まるで踊るみたいに躱される……!?)

 

 神速の抜刀の連続に、巡はまるで舞でも披露するかのように悉く回避してみせる。飛んで、跳ねて、回って。千年以上生きている怪魔や、人間の歴史を見てきた神々がその舞を見て懐かしさで笑う中で、詠唱が完成へと近づいていく。

 

「かの者は天。かの者は雷霆。かの者は蛇を殺す者。山の翼を断ち切り、世界に安寧をもたらす者」

 

 もはや詠唱の阻止は不可能と判断した暮奈。結界術の応用でどうにかダメージを最小限のものにして、カウンターで巡を切り伏せる方向にシフトする。結界の広さは度外視で、自分の身を守ることを最優先。一撃で全てを終わらせるための力も残した状態の、最大出力で最も狭い結界を自分を中心に展開して完全防御の体勢。

 

「これは偽りなれど、光を齎す雷。帝王(シャクラ)よ、ご照覧あれ────『偽典・神雷(ヴァジュラ)』!!」

 

 世界から色が消えるほどの極光と轟音。観客席にいた人々や神々、実況解説席にいた村田と京谷の視界が回復したことで見えたのは、黒焦げになりながらも、一矢報いようとしたであろう抜刀状態で気絶している暮奈と、どこか晴れやかな表情を浮かべて、切り落とされたらしい右腕をくっつけて無理矢理再生させている巡の姿。

 

 

「天晴れって言うしかねぇわ、暮奈さん。あんた、凄ぇぜ」

 

 

 その言葉の後、討魔学園東京校の闘技場の上空に大歓声が響き渡った。決着を告げる銅鑼の音と、この戦いを見ていた者達の惜しみない大喝采。

 

『せ、戦闘終了ォオオオオオオオオオオッッ!!! 第一試合とは思えないとんでもない技と技の応酬の果て、その勝者は、模歩巡!!!』

 

『医療チーム、お願いします。それと模歩君、治すならちゃんと治療を受けてください。ここは百鬼夜行じゃあありません』

 

「やはりポーション……ポーションが全てを解決する……!! あとリジェネ」

 

『聞いてませんねこれ』

 

 討魔学園東京校・京都校対抗戦第一試合、勝者模歩巡。決まり手、『偽典・神雷(ヴァジュラ)』!!




インドラ
ゲラゲラ笑ってた。今回は缶ビールと角ハイボールを呷っている。

海外の二人及び茶菓子同好会のメンバー
「「やりやがった!やりやがったあいつ!!本当にやりやがった!!」」
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