恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
────巧い。その一言に尽きる。
巡の攻撃は刹那無心流の拳術────つまり、確実に人間を殺すための格闘術であり、怪魔相手にも通用するバカげた流派である。そこに格闘ゲームをプレイすることで手に入れたインスピレーションを昇華、再現してきた。ちゃんとした武術から突然喧嘩殺法へと切り替わったり、喧嘩殺法からインチキ格闘術が飛び出したりと、変幻自在、手札の多さが巡の強みである。
手札の多さは強みではあるが、弱みでもある。技に昇華させたとはいえ、再現度が低ければ付け焼き刃にすら劣る。だからこそ積み重ねを怠ったことはないが……やはり己の流派の技よりも精度が劣っている。
とはいえ、素人目に見ればそこまで変わりがないのだが、羽津はそれを見極めて受けていい技と受けてはならない技を区別して防御と回避を使い分けていた。元々の才覚と、怪魔戦や対人戦の経験、ステータスやスキル、加護、そしてジョブ。それらを上手く使い、羽津はガードを固めている。
羽津のジョブは下級ではなく、中級を超えた数少ない上級ジョブに到達している実力者だ。そのジョブの名は【スパルタ】。槍をメインに使いつつ、自身の防御、味方の補助も行える防御面が優秀なジョブである。そこに騙し合い、化かし合いにおいて神すら騙すかもしれない狐達の一匹、管狐の狡猾な技が加わることで、相手の消耗が激しくなる。
加速による打撃と斬撃、そして刺突。反撃の隙を与えるつもりのない技の連打をしつつ、現状難攻不落と言わざるを得ないガードの硬さを見せる羽津の隙が生まれる瞬間を、虎視眈々と狙い続けていた。
それと対面している羽津はというと。
(だぁ、クソがッ!? 琥珀ちゃんとは別ベクトルに暴力の化身じゃねぇか!? 防げてはいるが、着々と逃げ道が潰されてる感じも拭えねぇ!!)
迫りくる拳や脚、時折挟み込まれる、暮奈戦で使っていたものと同じか、それ以上の劇毒が塗られているであろう短剣や短時間の目潰し用であろう唐辛子を中心とした刺激物の煙幕。味方であれば相当に心強い卑しくも厭らしい小手先の道具の数々に、あれ? こいつ俺のこと殺すつもりじゃねぇか? と思うほど殺意に満ちた格闘術を、培ってきた技の集大成で受け流し続けていた。
(言うなれば、業の暴力!! 引き出しがとんでもない量!! 受けないと次に来る技を見極められねえやつも混ざってやがる!! あと唐突に飛び出るその格ゲークソコンボは何だ!?)
迫りくる暴力の数々を受け流し、回避し続ける。それに合わせてカウンターの突きや斬撃、メリケンサックでの打撃も放ってはいるが、その悉くを野生の勘で回避されるか耐性スキルと防御スキルを利用した馬鹿みたいなカット率と強靭度で受け止められてしまう。もちろんこの反撃、ダメージを主目的としたものではない。
(毒が効かねぇ!!
羽津が扱っている武器、十文字槍【
通常ならば、掠めただけであとはフラフラと時間を稼ぐだけで相手が勝手に戦闘不能になる。だが、今羽津が相手にしているのは新撰組初代筆頭局長芹沢鴨から、「沖田君とは別方向での理外の怪物」と太鼓判を押された気狂い。普段から毒物を摂取して多くの毒物に耐性を持ち、疱瘡神の呪いや、呪いを際限なく取り込む呪詛の器によってほとんどの状態異常をレジストしてしまう化け物である。
だが、最低限の動きで回避と受け流しを行っている羽津の方が、スタミナに余裕がある。リジェネで治してはいるものの、流れた血は戻せないため、掠めた傷から流れた血によって貧血になって巡が倒れる可能性もあるにはある。
しかし、確実にダメージが蓄積されているのは羽津も同じだ。受け流しや回避が上手くできなかった際に喰らった攻撃が、間違いなく重くのしかかっている。巡よりも少々劣るが、耐性スキルやリジェネなど、継戦能力を高めるスキルを高水準に備えている羽津であっても、このまま続ければダメージは無視できない。
このままでは千日手。お互いにまだまだ選択肢がある中で、どれが自分有利に戦えるかを選択する────その時だった。
「────ッ!!」
巡の顔を覆う鮫を連想させるマスクの下から、とんでもない量の血が溢れ出た。
「シャアッ!!」
「ゲエッ……!」
その隙を逃すような甘い思考を、羽津は持ち合わせていない。
『一転攻勢だァアア!! 先程までのラッシュから一転! 凄まじい量の血を吐き出した模歩巡君を、菰成羽津君が追い詰めていく!!』
『あれだけの加速です。気付かないうちに内臓への負荷が凄まじいものになっていたのでしょう』
暴力の台風から解放された羽津が攻勢に転じる。打撃はあまり通用しないと考え────というか掴まれたら終わる確信があった────槍による刺突と斬撃を矢継ぎ早に叩き込む。普段の巡であればすぐに息を整えるところではあるのだろう。だが、慣れない武器に慣れない超加速が加わったことで、心身への負担がいつも以上のものとなっていた。
放たれる斬撃と刺突。螺旋を描いた攻撃は巡の耐性の上から抉り、削り取っていく。
十文字槍の攻撃を防いでも、ドリルのように回転する一撃は防ぎきることが至難の業と言える。さらに、管狐の力によって足元や後方からの攻撃もやってくる。一度防げば、二度、三度と油断も隙もない的確な攻撃が叩き込まれる。正面、左右、上、下、後方────様々な方向から叩き込まれる槍の雨。
嫌でも防戦を強いられる。反撃の隙を与えない四方八方からの攻撃。
防いだ攻撃の一つ一つが研鑽を感じさせる一撃であり、防御をすれば受けた部位に痺れが生じる重い一撃の数々。
激しくぶつかり合う槍と拳と脚。常に格上相手にソロで挑み続けている巡だからこそ、なんとか凌げている────強者との戦いを繰り返し続けている茶菓子同好会のメンバー全員がそう確信できるほどに、正確で、無慈悲な攻撃の嵐。ダメ押しで懐から取り出された霊薬、武器に属性エンチャントを付与する【塗岩の霊薬】によって付与された土属性攻撃が巡の体力を着実に削っていく。
(チィッ!! これだけ攻撃しても落とし切れる確信が持てねぇ!! こいつの目が死んでねぇ……!! 死んでも
体がズタボロのボロ雑巾のような状態になろうが、だるま状態になろうが、自分が負けることを赦さないその意志の強さ。人間────否、生物としてあってはならない生存本能をかなぐり捨てるどころかねじ伏せた、死を恐れぬ怪物の如き不退転の意志。ギラギラと、爛々と輝く瞳から伝わってくる意志に対して。
「気に入らねぇなァ……!」
「あ゛?」
「ああ、気に入らねェ、気に入らねェ!!
羽津、キレた。
演技でも何でもなく、キレた。
マジでキレた。
菰成家は元々医学薬学に精通した家だ。ゆえに物心ついた時からずっと医学や薬学について叩き込まれてきた。吐き気を催すような目に遭った人間に対して処方する霊薬も、幾度となく作ってきた。様々な場面で心を閉ざしてしまった人間へのメンタルケアを幾度となく行ってきた。そんな羽津は心優しい人間だった。様々な人々に会って、戦うだけでは抱えたものが零れていくのを知っている。だから、抱えたものを取りこぼさないように、何か自分にできないかと考えて、起業してみせた戦士である。
「てめぇの
「何を言ってんだお前?」
「自覚なしと来たか!? それを放置してやがったやつらは屑もいいとこだな!!?」
「お? 喧嘩か? 俺の尊敬する人達を侮辱するのは戦争だぞ?」
軽口を叩いているようで、巡の全身から殺意が滲み出ている。心なしか、殺意が膨れ上がるのに呼応するようにして鬼の角のようなものが薄らぼんやりと見えるような気がしないでもないが、それでも羽津は止まらない。例えここで自分が殺されるとしても、伝えなくては。その思考から、少しでも抜け出せるように手を差し伸べてやらなくてはならない。でないと、この模歩巡という男は────
(大事な人の手が届かない……そんな場所に一人で行っちまう!!)
自分の命度外視で、自分から欠けていく、抜け落ちていく何かにも気付かないで、どこまでも、どこまでも先に行ってしまうだろう。誰の手も届かない、そんな場所に。繋ぎ止めようとする人の手を全て振り払うどころか、誰なのかも認識することもしなくなって、自分が死ぬことで多くを助けられるならば死ぬ……そんな生物にはあり得ない存在となってしまう。会って10分かそこらであっても、そんな確信が、羽津の中にあった。
「ああ、放置した連中についてはこの際どうでもいい! 何がお前をそうさせた!?」
「………………………………分からん。あとこの涙の理由も分からん」
(こいつ、まさか……あれを原液で飲みやがったのか!?)
ゾッ、と何か冷たいものが羽津の体を通過する。何を忘れてしまったのか、何を封じ込めてしまっているのかを思い出せない。脳が正常に忘却機能を果たしているのであれば、問題ではあるがどうにか治療できる問題だった。
だが、この男は……模歩巡は違う。戦士が服用する際であっても千倍希釈をした状態で飲むはずの霊薬を飲んだせいで、中途半端に何かを忘れてしまっている。いや、忘れることができずに奥底深くに封じ込めてしまっている。記憶抹消霊薬は、希釈して服用しなければ廃人になるか、忘れたいことを一生忘れられずに狂ってしまうのだ。だからこそ、何倍も希釈して利用する。それを知らずにこの気狂いは服用していた。それも、恐らく相当昔、幼い頃に。それだけのトラウマだったのだろう。苦しくて、苦しくて。何が何でも忘れたかったのだろう。だが、忘れられずに封じ込めてしまった。
「まぁ、何でもいいんだけどさ……考え事してる暇あんのか?」
「────が、ぁ……!?」
医者としての側面が顔を出して、攻撃を緩めてしまったことで、巡に回復させる隙を与えてしまった。その結果がこれである。
(やばい……! この一撃で骨と、内臓のどっかが傷付いた……!!)
「あんたが、俺のこと心配してくれるのは分かるんだけどさ」
羽津の側頭部に踵が突き刺さる。脳が揺れる中、顔、鳩尾、脇腹、腕、足、腰────様々な部位に殺意が籠った連打が叩き込まれる。容赦のない攻撃の数々に、脳震盪を起こしてしまった羽津は反応することができない。
「戦いやってんだぞ? 敵を心配して、誰かを守れんのかよ」
叩き込まれる一撃で、腕の骨がへし折れる。続く一撃で膝の円盤を砕かれて崩れ落ちる。体勢が崩れて、地面に倒れ伏すことしかできずに倒れていく羽津の顎に、フィニッシュと言わんばかりにクリーンヒットさせた廻し蹴りが────羽津の意識を確実に刈り取った。
「なんだかなぁ……楽しい戦いになりそうだと思ったのに、何かこう……水を差された気分だよ」
つまらなそうに呟いた巡は、回復薬の中で最も高価なエリクサーと呼ばれるアイテムの口を開けて、羽津にぶっかける。
「お医者様の菰成さんよりも、俺は戦士の菰成羽津さんと戦いたかったよ」
先程まで滲ませていた殺意はどこへやら。第一試合よりも確実に人を殺すための技が飛び出したことに唖然とする会場を他所に、巡は闘技場の控え室へと足を運んでいく。
『大丈夫かよ?』
「大丈夫ではありますけど、ちょっと情けない話しますね。萎えました」
『ヒヒッ、まぁ、いいんじゃねぇか? 怪魔共とかにどう説明するかはさておきなぁ』
「白けた。その一言でいいでしょ。あいつらそれで分かるでしょうし」
問題は学園の関係者だ、と面倒くさそうに呟いた巡は、京谷先生に相談しておけば問題ないかと考えることを止めた。そもそも、学園側からの印象とか、一般人からの印象とかはそこまで気にしていない。
「大耀さんと虎成さんには悪いけど、俺は一抜けってことで。どっかでサボろうかねぇ」
『案内人を請け負ったのではなかったか?』
「残念なことに俺は学園祭の案内人は請け負ったけど、対抗戦の案内人は請け負ってねぇんだ」
『屁理屈だな』
「残念、ちゃんと契約内容に含まれてるんだなァ、これが!」
気狂い
萎え落ちした。何を忘れているのか、何を封じ込めているのか、全然分からないのに話を振られると苦しいし悲しい。でも何が苦しいのか、何が悲しいのか、どうして苦しくなるのか、どうして悲しくなるのか分からない。可哀そうに、可哀そうにねぇ……
勘定に自分が含まれていない節がある。
羽津
誉れある戦いで誉れポイント+100点!
毒を使っているので誉れポイント+1000点!
隙を見逃さない誉れポイント+1000点!
敵のことを心配した。誉れポイント-100000000000点。俺は戦士の菰成さんと戦いたかったよ。
巡のご両親及び地元の人達
観戦してたら屑呼ばわりされた。否定できなくて泣いた。
師匠
ラジオで戦況を聞いていたら屑呼ばわりされた。否定できなくて顔を顰めた。