恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
討魔の舞台となる学園の名前は討魔学園と凄くシンプルである。内情は少々面倒なことになっているようだが、至ってシンプルに広い学園である。どんだけ広いんだってレベルで広いが、それくらいの敷地がないと色々と不都合があるのだろう。資材置き場だけではなく、武具を作るための鍛冶場なんかもあるのだから、広いに越したことはない。
「ジェラートにウーロン茶という謎の組み合わせ、案外イケる……」
「ジェラート自体がほうじ茶味だからかもしれないわね。材料を厳選した甲斐があったわ」
そんなだだっ広い学園の中には使われていない空き教室なんかも結構存在する。幽霊が出るとか、怪魔がうろつくだとかそんなでたらめな噂が横行している空き教室なんかも存在しているが、俺達がいる空き教室はそんな噂がない。あったら嬉々として俺が飛び込んでる。ゲームに無かったであろうものが存在するかもしれないなんて、討魔ファンとして飛び込まないわけがないだろうが。没データの類かもしれないだろう。
そんなことを考えながら、俺はバットに入っているジェラートを水属性魔法で冷やしながらスプーンで混ぜる。まさかジェラートを作って食べるなんてことができるとは思っていなかったが、意外と家にあるようなもので作れるものなのだ、ジェラート。材料? ローズ先輩と瑞騎先輩が持ち寄ったお高いやつですが何か。
「うーん、美味しい……お店で食べるものより美味しい気がする……」
『見事なものですね。酪農もそうですが、人間の進歩は目覚ましいものがあります』
「原価度外視な材料だからなぁ……一般家庭出身の俺と大耀さんは肩身が狭いぜ……」
((一般家庭出身なのにどうしてあんな戦い方ができるのかしら……))
なんか妙な視線を向けられている気がしなくもないが、気にしなくていいだろう。気狂いが変な目で見られるなんていつものことだ。……おお、チョコレートも中々美味い。だがほうじ茶味が今のところティア1に輝いているぜ。
「ところで模歩君」
「ん?」
「幽鬼の将が亜人の狂戦士よりも弱く感じたんだけど、あれってもしかして……」
「アイテム合成で光属性のアイテム大量に作って持ち込んだからですね」
いやぁ、幽鬼の将は強敵でしたね。……なんて冗談はさておき。幽鬼の将はナレ死した。俺と大耀さんとでスキル上げしつつ突撃して、弱点属性である光属性のアイテムを投げまくって殺したのである。長々と語るような話ではないレベルでのナレ死であった。光属性の壺爆弾、光属性エンチャントが施された短剣、使うと一度だけ光属性の光波を放つ脆い短剣など……俺が用意したものと大耀さんが用意したもので全てを浄化する勢いでアイテムを投げ続けて倒した。卑怯とは言うまいな。
ちなみに光波ではないが光刃を放つ武器はいくつか存在しており、その一つはアンデッド系を殺すために存在していると言っても過言ではない。火属性と光属性の複合属性であり、浄化と火葬を同時に行うようなものだ。なお、この光刃、本来は回復用である。
「アイテム合成の重要さというか、属性相性の重要さをあれで理解したよ」
「それは良かった。……ところで、武器を新調したらしいけど、どんな感じよ」
「ああ、うん。ロングソードも良かったんだけど、ブロードソードも中々かな」
ロングソードが折れた大耀さんの新たな武器はブロードソードになったようだ。幅広の剣、という意味を持っているものの、そこまで幅広ではなく、刺突と斬撃どちらも使えるし頑丈な剣だ。空刃、空針を使う際にも使えるので、今の大耀さんには合っている武器と言って過言はないはず。
「リーチの長い武器も魅力的だったんだけどね……どうにも使い難くて……」
「そんなあなたに偃月刀」
「扱い難い武器代表格紹介するの止めなさいな」
「せめてハルバードとかを紹介した方がいいと思うわ」
強いんだけどな、偃月刀。使いこなせないなら槍を振り回した方が強いけど。槍が弱いって訳ではない。槍は槍で強みがある。俺は使わないが、どんな武器にも強みはしっかり存在するのだ。
『そういえば、巡は誰かの加護とか欲しいとか思わないの?』
「あったらあったで嬉しいですけどね、無くてもいいかなと」
『ふぅん……』
「てか前にも話したと思うんですけどね、麒麟様」
荒神様の加護は欲しいと思っているが、どうしても欲しいというわけでもない。もちろん加護があれば色々と幅が広がるんだが……意外と何とでもなっている現状、ないものねだりをするよりも、自己研鑽を重ねた方がお得だ。お、イチゴ味美味い。
『気が変わって、加護が欲しいって言ったらあげようかと思ったけど……ま、人それぞれ考え方はあるわよね』
「HAHAHA、せめて守護獣クラスになって出直してきてくださいませ」
『そう言われたの初めてでちょっと新鮮よ』
神獣レベルのやつに加護を貰いました! しかも瑞騎先輩と同じ麒麟様からです! なんてことが起きてみろ。俺の学園生活が狂うぞ。「どうしてお前が」みたいなことを考えて決闘とかを申し込んでくるやつが現れるぞ。膝治療してしまうのもやぶさかではないが、面倒事は避けたいのが人間というもの。分霊で主人公が色んな神様や神獣などから加護をもらうようになってくると、そういう面倒なイベントが発生するのだ。色々と道が定められているゲームでそうなら、現実だともっと面倒なイベントが発生する可能性がある。そんなのに付き合っていられるか。俺は荒神様のダンジョンに行かせてもらう!
「あれ? 加護って一人一つなら、神様や神獣たちも加護は一人にしか与えられないわけではないんですか?」
『やれないことはないぞ。ただ────』
「ただ?」
『普通の人間に複数の加護を与えると四肢が捥げて爆散する』
「四肢が!?」
『その点、お前は特異な性質を持っているようだ。複数の加護を持っても耐えられる器がある』
分霊による複数の加護取得……主人公が耐えられるのはどういう理屈だったか……ゲーム内で語られていたような気がするが、「へー、そうなんだ」程度に聞き流してしまった記憶しかないぞ……何度もストーリーを読み返して噛み締めるタイプだが、忘れているところはとことん忘れている。……まぁ、知識は知識。現実がゲームの通りにストーリーが進むわけがない。現に主人公である大耀さんは『茶菓子同好会』で俺、ローズ先輩、瑞騎先輩、宇迦様、麒麟様、鳳凰様と一緒にジェラートを食べているのだ。何が変わって、何が変わっていないのかなど誰にも分からん。
『まぁ、貰えるものは貰っておけ。損はないぞ』
「は、はあ……まぁ、セール品は買っちゃうし、それと同じだと考えれば……」
「そういえば今日は卵特売だったな」
「それは早く言おう?」
この学園、美味しいご飯が食べられる食堂もあるのだが、自炊したい人は自炊できるようになっている。大耀さんは色々優遇されているから食堂も無料で使える。特待生的なサムシングだ。この学園、いいとこの少年少女────青年淑女? しかいないので有料でも食堂を使ってる人が多い印象。俺は大抵のことを炊飯器とオーブンレンジに任せている。大耀さんは食堂を使わずに自炊するタイプのようだ。
「毎日よく作るわよね、メグちゃんも」
「全ては月一開催食べ歩き祭のために」
あと金銭感覚を麻痺させないために。安くて美味いは大正義。前世の専門学校生時代を思い出すぜ……バイト大量に掛け持ちしながら専門学校に通って色んなこと勉強したなぁ……ま、俺の前世の記憶は専門学校を卒業して、来週から就職先である地元の定食屋で働くぞ────ってとこで途切れているので、卒業式終わってからすぐ死んだと思われるわけだが。
せっかく雇ってくれるって言ってくれた定食屋の店主と女将さんには迷惑かけてしまったな……もちろん両親祖父母にも葬式やら何やらで多大なるご迷惑をおかけしてしまった。まぁ、バイト代はたくさん貯金してたし、奨学金は返さなくていいタイプのやつだったので、金銭面では問題ない……はずだ。墓仕舞いするかって話もしてたし、葬式も家族葬でお金もそこまでかからないはずだし。心残りは初任給で何かプレゼントを買ったり、いい店にご飯連れて行ったりできなかったことだろうか? なぁに、前世の両親祖父母の死生観は結構あっさりしているから葬式終わったらサパッと切り替えるだろ。お、紅茶味も中々美味。
「何だかんだで食べ歩きって特別感ありません?」
「何となく分かるわぁ、それ」
「確かに……何か特別な感じがするよね」
「食べながら歩くっていうところに何か特別感を覚える要素があるのかしらね?」
茶菓子同好会は茶菓子を摘むだけではない。カラオケに行ったり、食べ歩きをしたり、ゲームセンターに行ったりダンジョンに行ったりするのだ。俺が初めてローズ先輩に出会った時は、何か色々踏み込まれたく無さそうにしていたが、俺にそんなことは関係ねぇ。しつこく絡んでいった結果がこうである。死にゲーをプレイして身に着けたしつこさを舐めるな。
「今度はどういうルートを通るか……悩みどころだぁ……」
「串焼き食べたいわね」
「あら、だったらあたし、美味しいとこ知ってるわよ♡」
「大耀さんは何食べたい?」
「うーん……タコス?」
「いいね!」
タコスの食べられる店は……あったな、確か。百鬼夜行が終わったら、お疲れさま会も兼ねて食べ歩き祭を開催してもいいかもしれない。幹事は俺。年長者ァ! 年長者何やってんだァ!! でも同好会の長は俺だから幹事するのは当然の義務だァ!! 行先は気が向くままにだけど。
『美味しいものの話もいいけれど、百鬼夜行のことも忘れないようにね』
「それはもちろん。誉れある戦いを見せてやりますとも」
「メグちゃんと関わってると誉れある戦いって何だったかしらってなるわね」
「勝ちゃいいんすよ、勝ちゃ。背中見せて鼓舞するとかは他の人にお任せしますわ」
俺にはそんな戦い方はとてもじゃないができない。斬らせずして斬る、撃たせずして撃つ、毒も使えば罠も待ち伏せもゲリラ戦だってやる。目潰し金的上等。武器が壊れたら手足で、手足が壊れたら口で、それでもダメなら自爆特攻だろうがやって勝つ。プライドなんて大層なものを俺は持っていないので、何が何でも勝ちを掴みに行く。戦いだぞ? 負けたら何かを奪われるかもしれない。それが嫌だから足掻くのだ。潔く死ぬ? まだ体が動くのに足掻かない理由が、勝ちを取りに行くのを諦める理由がどこにあるというのか。
味方の鼓舞は瑞騎先輩とかローズ先輩とかに任せて俺は誉れある戦士として勝ちに行く。大耀さんは……まぁ、どういう道に行くのかは任せる。可能であれば俺と共に誉れを勝ち取りに来てほしいが……本人次第だ。
『それにしても、百鬼夜行の頻度が増えているのは気になりますね。昔はあっても十数年に一度程度だったと思いますが』
『それだけ怪魔が強くなっているのか、結界が脆くなっているのか……』
『それでも私達は人間達を信じるしかない。未来を切り開いていくのは結局、人間の可能性なんだもの』
神様と神獣が何かカッコいいこと言ってるけど、ジェラートを食べながらじゃちょっとカッコつかない気がするのは俺だけか? あ、おいコラ鳥公、俺のジェラートを盗って行くんじゃねぇ。隙を見ておにぎり掻っ攫っていくトンビか貴様。
……にしても百鬼夜行か……ふむ……
「とりあえず毒壺とモロトフは用意するとして……体に巻き付けるやつと奥歯に仕込むものも欲しいし、他の欲しいもの各種は合成するか」
「待ちなさい?」
「何を作るかだけでもいいから話してくれる?」
誉れある戦いをするための下準備については、まだローズ先輩と瑞騎先輩は追い付いていないらしい。このステージに早く上がってきてほしいものだ。