恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
強くはない。が、弱くもない。そんな印象を巡も羽津も感じていた。
『おー、よく避けるねぇ。結構自信作なんだけどなあ、それ』
同時に襲い来るローブの傀儡。手にする得物は刀、槍、斧など多種多様だが、別の行動へと移る瞬間に僅かなタイムラグがある。中堅以上で場数を踏んでいる戦士であれば、油断しなければ勝てる程度の強さしかない。
『うーん、やっぱり人間の部分を残しすぎたかな? でもそれがテーマだからなぁ。人の部分は大部分残したいんだよね』
「禍津日様とか酒吞童子に聞いてた通りのクソ野郎だなマジで」
『へぇ、あの鬼まだ生きてたんだ! あれの一団は素体として欲しいんだけどねぇ。絶対いいものできるじゃない?』
人間も怪魔も、何かの素体としてしか見ていない。そんな屑みたいな発言を受けて、巡はラジオカセットから聞こえてくる存在を駆除対象として認定した。そいつが怪魔であって、素晴らしい武具の素材となるものを落とすかもしれないとしても、二度と復活してこないように殺すと決めた。
「というか、てめぇは見てるだけかよ。出張ってこいや暫定黒幕」
『いやいや! 僕は弱いからねぇ……裏でコソコソやる方が好きなんだ。弱いやつが前に出てどうなるって言うんだい?』
「殺してやるってんだよ」
『ふひっ……ああ、やっぱり君を選んだのは正解だったなぁ……じゃあ、ギア上げて行こうかぁ!!? その方が楽しいよねぇ!!』
声が響いた瞬間、傀儡の動きが少しだけ滑らかになる。だが、まだ落ち着いて対処すれば問題ない速度。迫りくる攻撃を、巡は拳と脚で。羽津は槍とメリケンサックで冷静に捌いていく。時折挟まれる挟撃には、背中合わせになることで対処する。初めての連携ではあったが、存外上手くいっていた。
(おい巡、気付いてっか?)
(はい。……人が来ない)
武器と武器がぶつかり合う金属音が響く中、風魔法を応用した疑似的な通信を使って会話をする。これだけ派手に武器と武器がぶつかり合って、凄まじい金属音が鳴り響いているというのに、学園祭に来ている一般人も、見回りをしているはずのプロ戦士も、学園の教職員や生徒も、誰もやってこない。そもそも、棄権の件について京谷から連絡が来ていないのもおかしい。
『ああ、言い忘れてたんだけどね。人払いはちゃあんと済ませているよ。電波ジャックもね』
「用意周到過ぎて殺意湧きそう」
「湧いてんだよなぁ……てか、こいつらも毒効かねぇな! 俺の相手こんなんばっか!!」
「出血エンチャしないんで?」
「それだと殺しちまうだろうが!」
ごもっとも。
カルトがカルトしている証拠が今、目の前にある。だからこそ情報が欲しいので、できるなら殺さずに生け捕りにしたいという意見は巡も羽津も一致している。もちろん、生け捕りが難しいとなればいよいよ殺すつもりではあるが。
そもそも、ゲリュオンとクリュサオルの召喚を待機状態にしていつでも使えるようにしているのも、生け捕りプランが失敗した時のサブプランだ。確実に殺すなら数と圧倒的な力で轢き潰すのが最も効率的なのだ。痕跡が無くなるかもしれないが、それでも被害が出るよりかはマシである。
『にしても神様とか神獣達ってバカだよねぇ。僕みたいな三下に何度も何度も出し抜かれてるくせになぁんにも対策しないんだもの』
「………………今日の学園の結界に何か混ざりものがあるのは」
『正ッ解! 僕はこういう裏工作が大得意なんだ。ま、誤魔化せたとしても精々1時間と少しくらいだけどねぇ……主クラス……それこそ百鬼を統べるほどの怪魔が遊びに来たせいで、警戒がそっちに行って気付けてない』
ケタケタと笑うそれに不快感を露わにしつつも、巡と羽津の動きに揺らぎはない。相手が致命的な隙を見せるまで防ぎ続ける。相手に有効な毒が見つかるまで凌ぎ続ける。弱者の戦い方が根幹にある二人の戦士は、ラジオカセットやローブの傀儡の視界から状況を見ていた悪意の主から見ても見事な耐久戦であった。
『それにしても、君達みたいな耐久特化は久しく見てないなぁ。最後に見たのは小田原の小僧の防衛線とかかなぁ? ま、僕が唆したせいで滅んだんだけどさ! はははっ! 簡単に騙されて本当に笑い転げるとこだったよ!!』
『越後の軍神と甲斐の虎を見て、ギャン泣きしながら逃げ出したやつの言うことは違ぇな。……ああ、そういやほとんどの武将から恨まれてんなお前』
『痛いとこ突くなぁ。事実だし否定はしないよ。あんなの見たら誰でも逃げるでしょ』
悪意の主の脳裏に焼き付いている怪物達の顔。顔を変え、声を変え、身分を変えて日本中を引っ掻き回していた男の脳裏に焼き付いて消えることのない武将達。その中でも印象に残っているのが越後の軍神上杉謙信と、甲斐の虎武田信玄だ。多くの矢玉や魔法で全身穴だらけになりながらも斬りかかってきた怪物である。その後も何だかんだで生き残って死ぬまで現役だった彼らの殺意は今でも鮮明に思い出せる。思い出して生を実感している。
「そのまま死ねばよかったのに」
『やりたいことがあるからねぇ、死ぬなんて御免だよ』
「それが大嶽丸復活かよ。この時代に」
『何度も試したけど毎回毎回邪魔が入ってね。豊穣の女神の加護を持ってる人間含めて、本当に障害が多くて参っちゃうね』
でも、と言葉を区切った男は、声だけでも邪悪な笑みを浮かべているのが伝わってくるような声音で言う。
『邪魔が入れば入る程、目標を達成した時の快感は得難いもの……君達も男なら分かるだろう? 僕はね、気持ちいいことが好きなんだ』
「うーん、気持ち悪い。フェルグスの叔父貴みたいな快活さもないただひたすらに気持ち悪い意見止めてくださる?」
「山椒でも食ってろ。脳内麻薬分泌されるからな」
『なんだ、君達あれか。
「「黙れ殺すぞ」」
気持ち悪い思い出話をし始めた悪意の主にノータイムで殺害予告を放つ巡と羽津。誰が好き好んで敵の性事情を聴きたいのか。少なくともここにいる二人には、そういった性癖はなかった。同性同士の恋愛を否定するつもりはないが、巡と羽津は異性が好きな男である。
『それで……時間稼ぎはもういいのかな?』
「キッショ。なんで分かるんだよ」
『このローブ着てる子達は全部僕の目であり、耳でもある。だからちゃんと流れを見てたし、聞いていたよ。やり手だね、管狐の加護を与えられた君』
悪意の主は、巡と羽津がやろうとしていたこと────今、ようやく完了したことについて気付いていた。生け捕りは第二目標にして、第一目標を時間稼ぎ及び、情報伝達へと切り替えた。それを成功させたのは羽津に加護を与えている管狐の力と、上級ジョブ【スパルタ】のスキルの応用である。
管狐はその名の通り、管の中にいる狐である。しかし、自分を管にすることも可能。羽津はその力の解釈を広げ、自分の霊気とアムリタ結晶、そして管狐の力をメガホンに見立て、【スパルタ】のスキルの一つで、本来であればパーティーを組んだメンバーの物理カット率を激増させるスキル、
(言い方からして学園内部にもこいつのシンパがいやがるな……下手しなくてもプロの中にもか? カルトのくせに色々手広くやってるからなこいつら……)
『まぁ、無駄なんだけどね』
その言葉と共に、周囲で怒号や悲鳴、爆発音が響き渡る。それと同時に吹き上がる人間の霊気とは別の邪悪な気配────怪魔特有の妖気が学園のいたるところで湧き上がった。
『人間は徒党を組むと厄介だからねえ。対策くらいはするとも』
「てめぇ、まさか────!?」
『お察しの通り、僕の信者はほとんど改造済みでねぇ。素体としてダメなやつも爆弾にしちゃえばこの通り! 即席百鬼夜行の完成ってわけ!』
例のごとく索敵スキルを全てアクティブ状態にしている巡の脳内に入り込んでくる情報の数々。人の反応だったはずのものが怪魔と同じ反応へと変わり、周囲の人間に襲い掛かっている。突然のことに学園祭に集まった人々は大混乱。爆弾と化した信者と怪魔化した人間のほとんどはプロや、そこに居合わせた学園の生徒含めた戦闘員がどうにか対処しているようで、今のところ死者は出ていないが、犠牲者が出るのは時間の問題だろう。逃げる場所を探して将棋倒しになって犠牲者が出る可能性がある。
『騒ぎに気付いた神や神獣達もなんかやってるみたいだけど、一手どころか五手遅い』
「ゲリュオン! クリュサオル! 市民の避難の援護頼んだ!! 騎士神として導いてこい!!」
「────ああ、任せろ!! 駆けよ、クリュサオル!!」
「ブルルルルッ!!」
最悪のシナリオを想定した巡が、ゲリュオンとクリュサオルを召喚する。騎士神ゲリュオン・クリュサオルとして黒騎士と黒馬が天を駆けていく中、巡は相手にしている存在の生け捕りを選択肢から消去。
「……羽津さん、時間がない。こいつら殺します」
「ああ、クソが! 用意周到なやつがやってくることなんざ色々あったはずだ! 読み違えるとは情けねぇ!!」
『いや、読みは悪くなかったよ? 情報収集がしたいのも分かる。難しいと分かった瞬間に戦力を増やして避難誘導を始めさせる手腕も悪くなかった。けど、僕がちょっとだけ上手だっただけさ』
誇っていいよ、と拍手を送る悪意の主に心底嫌そうな表情を浮かべた羽津は、自身に向けて振り下ろされた斧の横腹をメリケンサックで殴り飛ばすことで相手の初動を潰す。それと同時に管狐の力を駆使した槍の一突きで相手の腱を貫き、機動力を奪い取る。窮鼠猫を嚙むという言葉があるように、何をしてくるか分からない相手を確実に殺すための行動である。
忘れているかもしれないが、羽津は分家とはいえ虎成家の人間であり、お察しの通り討魔2の攻略対象として登場したキャラクターである。巡がそれを忘れているのは、今を爆走することに心血を注いでいるせいで次回作のことについて頭が回っていないことや、討魔2RTA走者だったことが起因している。
Q.RTAに恋愛は必要ですか?
A.いいえ、必要ありませんよ。最速を狙う上で恋愛はただのガバに繋がりますからね。
Q.このRTAを走ったことがないんですけど、私も走者になれますか?
A.はい、なれますよ! 最初は比較的簡単な世界滅亡Any%から始めてみましょう!
Q.討魔初心者でも、あなたみたいになれますか?
A.君は走者になれる。次は君だ。
上記のQ&Aは、素敵なご友人に唆されてバ美肉RTA走者となっていた前世の巡のRTA配信中のQ&Aの一部抜粋である。ちなみに討魔シリーズRTAはR18シーンが無いため、健全な配信として認められていた。実は開発元がその配信をチラ見していたこともあったりするが、それはそれとして。とにかく巡はRTAの印象が強すぎて覚えていないのである。トロコン、隠し要素コンプまでしているくせに、ゲーマーの風上にも置けぬ誉れの無さであった。
さて、巡のゲーマーとしてのどうでもいい格が少々落ちたところで状況は変わらない。生け捕りプランは破棄して、敵対者を殺すことにシフトした時点で巡のギアが上がる。敵を生かすための手加減が必要な生け捕りよりも、何でもいいから殺す方がやりやすい。巡の対人戦が面倒発言は、怪魔を相手にし続けたせいで狂った精神性にも起因しているのかもしれない。元々狂っている? それはそう。
『じゃあこっちもそろそろトップギアにしようかな!!』
悪意の主の言葉と共に、ローブの傀儡に変化が起きる。傀儡達が動けなくなった傀儡に集まったかと思えば、まるで元々分身していたかのように一つになったのだ。
融合した傀儡達の下半身は四足獣のそれに似たものとなり、得物を持っていた腕は────まるでたくさんの人間と怪魔を無理矢理縫い合わせたような外見となって、武器を飲み込んでしまっていた。人間としての形を残しているのは、ローブに隠された頭部から上半身に掛けての部分のみ。
「うわ、醜吐涅みたいなコズミックサイコホラー」
『いい着眼点だね。確かにあの異形からインスピレーションを得ているよ。あとプラナリアとか』
「自己分裂してたやつが一つに戻るとこうなるってどういうこと────っとぉ、危ねぇ!?」
コズミックサイコホラーな外見となった傀儡は、その見た目通りのリーチと剛腕を披露する。しかも分裂していた時よりも動きが滑らかで機敏である。
さらに、明らかに人間業ではない攻撃も披露してくる。異形と化している腕の一部が蠢いたかと思ったら、それが人面の口となって巡や羽津に襲い掛かってきたのだ。
初見殺しもいいところな攻撃に対して、巡と羽津は場数を踏んだことによる経験からくる予測で対応。迫りくる触手を掻い潜りながら、ローブの傀儡へと肉薄していく。この手の怪魔は下手に距離を離したり、中途半端な距離にいると事故が発生すると理解していたからだ。
『大型怪魔相手に距離を取らない! 手慣れてるね!』
「生憎遠距離職じゃないもんでな!!」
「近付かねえとこいつの
最短最速で殺して、別のところへ援護に向かう。そこに至るまでの思考は違えど、到達した答えが同じだった二人は前へ、前へと突き進む。
途中、何度か被弾覚悟の前進があったが、巡と羽津はそれを積み重ねてきた技や育ててきたスキルで対応。今回の学園祭で万が一の事態が発生した場合に備えて張り巡らされた結界によって、戦士は百鬼夜行と同じように制限付きの死に戻りができる────が、結界に何かが仕組まれているこの状況で死に戻りに頼るのは難しいと判断した二人は、ダメージを最低限に留めて怪魔を殺す道を作った。
『なるほど、いい殺気だ。でも、決定打はあるのかな? 毒は効かないし、連打じゃこれは倒せないよ?』
「あるに決まってんだろ」
「決めろ、巡!!」
羽津のメリケンサックから放たれた衝撃波が触手を全て蹴散らして、巡の突破口を開く。その一瞬を巡は見逃すことなく、妖蜂連花に霊力を注いで加速装置を起動。同時に変形機構も稼働させて、先程までに溜め込んだエネルギーを叩き込む用意を整えた。
現れる蓮華の蕾のように連なって回転する刃。その中には極太の杭が仕込まれている。ゲームであれば多段ヒットによる過剰なヒットストップが発生する程のブレードと、超高威力のパイルバンカーが同時に叩き込まれたのならば、いかに高耐久そうなローブの傀儡であっても一たまりもないだろう。
「てめぇの思い通りにはさせねぇよ────!!」
加速によって体にかかる負荷は凄まじいが、少し休めば問題ない。
超高速の、怪力無双と謳われる酒吞童子が全力で振るう金棒や、八束爬戯が戯れを止めて振りかざす大太刀の一撃にも匹敵するその一撃がローブの傀儡に叩き込まれる直後。
『ああ、そういえば言い忘れてた』
悪意の主が愉しそうに口を開く。
『それね、君が大好きだった祢瑠お姉ちゃんが素体のベースになってるんだ』
「────────────────────────────────────ぇあ」
その言葉を聞いたのとほとんど同時に、巡の一撃がローブの傀儡の心臓部────核がある部分に突き刺さる。間違いなく必殺の一撃。ブレードが高速回転しながら肉を引き裂いて開花し、蓮華の中から現れた極太の杭がローブの傀儡の核を確実に貫いた。
パイルバンカーによってぶち抜かれた核。その衝撃は乱気流のように周囲にあるものを────羽津も例に漏れず────吹き飛ばして、ローブの傀儡の着ているローブも吹き飛ばすほどだ。
『ふっ……ふふふふ……!! 君に贈る最後の一押しをずううううううっと考えていた』
ローブの下で隠れて見えていなかった姿が露わになる。
「ぁ、ぎ……っ」
ローブに隠されていたのは、つぎはぎだらけの体。けれど、顔につぎはぎはなく……とても綺麗な少女の顔。
その姿を、巡は知らない。
だって、忘れてしまったから。
その姿を見ても、巡は誰なのか分からない。
だって、覚えていたら苦しいから。
その姿を見ても、巡は理解できない。
だって、覚えていたら悲しいから。
分からないはずなのに、心はそれを覚えている。
でも。
魂がその姿を覚えている。
その人は、俺が初めて好きになった人で。
「ぁ……ぐっ……ぎぃっ……!!」
揺らぐ。揺らいでいく。心の奥底に沈んでいた何かが、浮上してくる。
「…………………………めぐ、る?」
ぐちゃぐちゃになってどうしようもない心と思考を、さらにぐちゃぐちゃにするような声が響く。優しくて、温かくて、懐かしい声が。その声の主は────今、巡が心臓をぶち抜いた傀儡。
「ひっ……ぁぃ……!?」
『くっ……ふふ────あははっははっははははは!!?』
悪意の主が笑う。予想外のことに驚き、はしゃぐ子供のように。狂気に飲まれた人間のように。
「どうしたの? また泣いて……怖い夢でも見た?」
『予想外だ! こんな予想外なことが起こるなんて!!』
ラジオカセットからノイズ音が出るくらい、大きな声で笑いながら、悪意の主は。果心居士は言う。
『こんな愉快なことは初めてだよ!! 怪魔との繋がりが断たれて、こびりついた魂が言葉を発するなんて!! ああ、なんて素晴らしい決定打なんだ!! 最高だ!! この上ない決定打!!』
ローブの傀儡が足から灰となって崩れていく中、ボロボロと涙を流して震える巡の頬に、ローブの傀儡の────藤原祢瑠の手が触れる。
「そんなに泣かないの。ね? 大丈夫……私がいるから────」
その言葉と共に、彼女の体が完全に崩れて消えた。灰は風に吹かれて舞い上がり、かき集めようとしても指の間から零れて消えていく。
「────────────────────ぁは」
それが決定打だったかのように、巡の体に変化が起こる。
額から禍々しい紫紺の角が出現し、巡の体を蝕んでいくかのように、心臓を中心にして体に亀裂が生じる。
「は、ははは……!」
その亀裂は体全体に広がっていき、やがて、亀裂から禍々しい龍の鱗が生えてきた。全ての鱗が剱山のように逆立っており、見る者に不快感を────忌み嫌いたくなる禍々しさを発している。
鱗が亀裂に沿って生え揃った後、巡の顔を覆い隠すように恐ろしい形相をした鬼が顔を出す。だが、なぜだろうか。恐ろしさの中に妖艶さすら感じさせてしまうのは。
「……………………ああ、そうか」
凄まじい風圧で吹っ飛ばされて、運悪く頭を壁に打ち付けてしまった羽津の朦朧とした意識の中、巡だったはずの男の口から声が発せられる。
「鈴鹿のいない時代に興味は無い…………だが」
おどろおどろしい、聞いただけで背筋が凍り付くような声。
「こうして、甦りを果たしたのであれば……甦らせたのが下郎であっても、義理は────果たさねばなるまい」
ラジオカセットから何か不快な声が聞こえてくる前に、男は────怪魔であろうその男は、どこからか飛来した刀を握って歩き出した。
「非道を成し、悪行を成し……屍山血河を成す……それが、望まれているが故に。……まずは」
学園の────とある教室がある方角に向けて握っていた刀、【三明之剣】を振う。まるで、子供が木の棒を振るかのような、そんな軽い動きで振るわれた刀は。
「この身の、肉親を────この手にて斬る」
その教室にいた、誰か
「……まだ、完全には折れないか。強いな、この身の魂は。ならば、折れて砕けるまで、斬る」
男が目を向けたのは教室ではなく、その先の方角────丁度、巡の地元がある方角を見て、その姿を消した。
討魔学園にて開催された学園祭から始まったこの戦いは、後世の歴史書にてこう綴られる。
【討魔決戦大嶽丸:忌み龍の試練】と。
なお、奥の方に巡の意識はあるので、この状況を画面越しに見てます。感覚?共有してるに決まってんだろ。あと加護は当然ですがロック状態で弾かれました。
さ、巡君。楽しもうね。忘れる方法を知らずにあの時折れてしまえば、ただの化け物になれたのにね。誰がどう言おうと君は多くの人達から、多くのものを託されて生かされた特別な存在だからね。皆の分までずうっと、ちゃあんと苦しもうね。