恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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討魔決戦大嶽丸 その二

 我ながら、酷い呪いを皆にぶん投げたと思う。復活した大嶽丸を止めようと戦った師匠が使った呪物の類────確か、討魔シリーズにも登場した、何かと何かの繋がりを断つ呪物の一つによって大嶽丸から引き剥がされたことで……いや、祢瑠姉さんのことを殺したことで思い出した呪い。

 

 つまるところが恨み言とお願い。師匠にお願いして、町の人達全員に伝えてもらうように頼んだ言葉を要約すれば、『俺は全部忘れてなかったことにする。暴力も、罵倒も全部忘れるし、兄弟子と姉弟子のことも全部忘れる。少しでも悪いことをしたと思うなら、あの事件が起きる前みたいに、俺に接してください。俺はやられたことを忘れるけど、皆は耐えてください』────という、とんでもない身勝手で酷い内容の呪いだ。道場でそれを師匠に伝えたことと、俺にはたくさんの兄弟子と姉弟子がいたこと……くらいは思い出せた。ただ、町の人達が具体的に俺に対して何をしたのかは思い出せなかった。思い出せなくてもいいし、どうでもいいと思ってる自分の薄情さがもはやギャグ。ギャグにしてんじゃねぇぶっ飛ばすぞ。

 

 あと、師匠にお願いしていたことがもう一つあった。俺は忘れていたし、俺がラスボスになるとは記憶を失くす前の俺も分からなかったから当然っちゃ当然だが、万が一、俺が怪物になった時の保険を用意してほしいと伝えていたらしい。それが、師匠が使った呪物だ。代償ありきの呪物ではあるが、俺が完全に怪物になる前に使えば、分離するか分離できずとも弱体化するだろうという算段であったらしい。大嶽丸は弱体化してるよな? 弱体化するどころか、俺という不純物が抜けて強化されましたとかだったら笑えねぇぞ? 俺が処刑されても文句は言えねぇくらいのガバだ。

 

「ねぇ、大丈夫?」

 

「全ッ然大丈夫じゃないが???」

 

「うん、分かってるよ。……ごめん」

 

 はははは、くっそメンタル来てますが何か。自分じゃないとはいえ、自分の体を怪魔に乗っ取られて、自分の体で知り合いを殺されたんだぞ? しかもその感覚が残っているし、それをまるでテレビの画面を見ているような感じで見せつけられたんだ。メンタルに来ないわけがないだろうが。

 

「色々考えてないとおかしくなりそうなんだ。俺がおかしいのは元々だけどな? 無惨様が見たら異常者って言うくらいにはおかしい自覚あブッ!?」

 

「殴るぞ貴様」

 

「もう殴ってるじゃねぇか」

 

 見舞いに来てくれてるのは茶菓子同好会のメンバーである大耀さんと虎成さん、そして今リンゴを剥いてくれている翡翠先輩。外にローズ先輩もいる────入ってこんかい────し、飲み物を買ってくると言って出ていったパリピイケメンボーイズや万莱君もいる。なんだよ、いいやつばっかじゃねぇか。

 

「自虐するのはやめろ。普段と違って痛々しいものにしか見えん」

 

「つまり普段通りにすれば自虐OK……ってコト!?」

 

「琥珀、もう一発殴っておきなさい」

 

「そのつもりです」

 

「二発目と見せかけた三発目止めない? 大耀さん、地味に痛いから頬引っ張るの止めてくださる?」

 

 いや本当にさ、目を逸らすわけじゃないけど、今それを直視したら俺は間違いなく折れて動けなくなる。分かっている。俺が学園祭で殺したのは祢瑠姉さん本人ではないけど、本人の断片を使った何かだったこと。それを壊したことで自分でも驚くくらい動揺して、最後の一押しで大嶽丸が復活してしまったことも……うん、冷静に物事を考えることができなかった俺のガバが地獄を引き起こしている。ゲーム本編で大嶽丸が登場した時は……うん、確かに、学園祭の後に町の痕跡がある廃虚に突然城が出現して最終章突入って感じだった。世界の修正力ゥ……ですかねぇ。

 

 まぁ、それはそれとして。俺がどうして誰かと恋人になることに拒否反応があったのかだが、何となく察した。色々忘れてのうのうと生きているやつが幸せになっていいわけがないと考えていたからですね。もしくは、大事な人を犠牲にしたくせに幸せになろうとするんじゃねぇよカスがって考えていたからですね。考えていた、という言葉が正しい使い方とは思えんが。なるほど、俺は兄弟子と姉弟子の分までちゃんと苦しみ抜かない限り死ぬことは許されないと見た。

 

「ところで鵐頼首相マジの聖人でイケメンだったな」

 

「今その話する?」

 

「現実逃避ってやつさ大耀さん。いや、本当に。ペラ回してないと全身の震えが止まらねぇのよ」

 

 いや本当にイケメンだったな鵐頼首相……豪我鵐頼……加護無しの生身で怪魔を殴り殺せる人類のバグの一人であり、スポーツマンである。特筆すべきは聖人並みにいい人であるということ。あと筋肉ムキムキマッチョマンのイケメンであること。ちなみにメイン武器は盾。あと拳。あの人がいるから日本は海外の闇の連中から手を出されないと言われるくらいめっちゃ強いのだ。内部データ最強の名は伊達じゃないぜ。

 

「まさか自ら慰問しに回るとは思わなんだ。行動力凄ぇや。車使わないで日本全国を数時間で走って回るって噂、マジかもな」

 

 リンゴ美味ぇ。この時期だからサンふじとかか? え? 奥州ロマン? 知らねぇ品種だけど美味しい。

 

「まぁ、我らが日本の総理は聖人かつイケメンだったという話はそこそこにして次の話題なんだけど」

 

「君が始めた話題だからね? というか早くない?」

 

(相当キてるな、これは……)

 

「俺の目と腕どうしようって話と、町の皆の供養どうしようって話と、大嶽丸どうやって殺そうって話と、どれがいい?」

 

 ずばばばばんっ、と怪我人のはずの俺の頬に高速のビンタ叩き込まれた。怪我人を労わるって考えはないんですかね、この女の子達は。

 

「君に遠慮するとダメなのはここまでの付き合いで学習済みだよ」

 

「思考が読めるのか……!? 不味い……!」

 

「何が不味い? お前、また何か隠しているのか?」

 

「いや別に。大嶽丸のデータは俺が知ってる限り開示したし? 目は多分大嶽丸殺せばいいんだけどさ、左腕のこれはちょっと分からん」

 

 師匠が見つけてくれた呪物によって、俺は大嶽丸と切り離されたわけだけれど。代償が無かったわけじゃない。師匠が使った呪物は、使用者ではなく、突き立てられた側に代償が与えられるタイプの謎呪物。融合した魂を分離させることができる凄まじいものだというが、代償として俺の左腕がないなった。ないなったと思ったら、左腕が金属と樹木と蛇竜に近付いた。具体的には鱗が生えてる。どういうこったよ。

 

 真面目な話、俺の中の荒覇岐の側面が強くなったせいでこうなってるんだろうけど。先代アラハバキなんて金属で樹木で蛇で竜で賽で土偶だったし。どういうこったよ。そのうち俺の肩に犀の角生えてこないだろうな? ………………いや、それはそれで“アリ”だな。坩堝の諸相できるじゃん。俺は角人だった……? 壺作らなきゃ……怪魔と悪人を詰める壺。悪人に怪魔を溶かすことで皆善き人となるんだ……善き人にならなかったら? 耐えてください。善き人になるまで耐えてください。その間に俺は内部データに怯みモーションが存在しない戦士になります。目指せ神獣獅子舞。実はこの世界にも存在してるぞ神獣・獅子舞。獅子舞じゃなくて唐獅子だけど。

 

「そこんとこどう思います、禍津日様」

 

『あ゛あ゛ー……こりゃあれだな。二割が四割になってやがる。五分の二現人神ってとこだな。あの呪物の代償はこれでほとんどチャラだな』

 

「代償は?」

 

『まぁ、寿命だな。あの妖刀はそういうもんだ。天照のやつ、よく貸し出したな』

 

 天照大御神様が管理していたということは……ああ、伊勢神宮に用事があったっていうのはあの呪物を借りるためだったんだな師匠。俺の我が儘聞いてくれてありがとう師匠。あと、あんた多趣味な理由、俺が呪ったからなんですね師匠。弟子だった人達の趣味を引き継いでくださいって呪いかけたもんな。特に祢瑠姉さんの日本全国一人旅をしたいって夢は絶対叶えてって言っちゃったもんなー……うん、我ながらとんでもない呪いをかけてから色々忘れたもんだな。

 

「具体的な数値とかあります?」

 

『ほとんど混ざってた魂の分離だからなぁ……ま、使用者の運命力+巡の寿命50年ってとこか? 神に近付いたせいで寿命はプラマイゼロっぽいがな』

 

「まぁ、師匠が運命力無くなった程度で死ぬとは思えないし、俺の寿命もプラマイゼロだしで代償ほとんどゼロだな?」

 

『これで六割に到達してたら、寿命なんてあってないようなものになってたけどなぁ』

 

 なるほど、人間の割合が減って神様に近付いたら、寿命が延びるどころか寿命という概念がなくなるわけだ。あれか、イスの遺物のトリスメギストスの杖みたいなもんか。

 

「これ、戻るんですかね?」

 

『さぁな。そもそも人から神になる例はあっても、神から人ってのは────インドの連中ならなんか知ってるか?』

 

 供物用意して、インドラ様にでも聞いてみるかね。呪いのお蔭で繋がりはあるわけだし、無碍にはされないと思う。それか、テスカトリポカ様に聞いてみるのもありだな。あの神様、神威を抑えるんじゃなくて、正真正銘の人間になる祭具とか持っていたはずだし。

 

「目下どうにかする方法は分からないってことで次。町の皆の供養どうしよう」

 

 いや、これは本当にどうしよう案件なのだ。うちの地元って親類縁者があそこに密集しているせいで、遺族とかいないと思うんだよね。俺と師匠くらいか……うん、父さんと母さんは集中治療室で色々やってるみたいだけれど、多分生きていたとしても普通の生活は難しいだろう。あの時、父さんと母さんの首から胴までを切り裂いた大嶽丸の一撃は、間違いなく二人の命に手を届かせた。俺の手に残っている感触が教えている。生きていたとしても……うん、希望的観測は止めよう。無理だ。あの傷で生存は無理。ローズ先輩と大耀さんの回復魔法をすぐに使ったとしても、無理だ。多分なんて希望的観測は捨ててはっきりと言おう。俺が殺した。間違いなく、俺が斬った。大嶽丸が斬ったのだから、俺が斬ったわけじゃないと言ってくれる人はいるかもしれないけど、俺が斬ったのだ。町の人も、師匠も、俺が斬った。

 

 気色悪いことがあるとすれば、心のどっかで両親や町の人達を斬ったことにどこか安心や安堵、薄暗い歓びがあったということだ。もちろんこうして目覚めて思い返してみれば分かることではある。大嶽丸に体を奪われた時に考えていたことは「止まれやこの野郎」くらいしかなかったから。記憶を封印する前の俺のことはよく分からないが、相当に町の人達にされたことが────されたこと? されなかったこと? が堪えたのだろう。

 

 今の俺がそれをされたらどうするか……うん、やり返すな。麗良の福音書第五章39節、左の頬を打たれたら、相手の両頬が張り裂けるまで殴り返しなさい────という教えに従って殴り返す。もしくは遥斗の福音書第一章20節、一つの罵倒と石を投げられたのならば、百の感謝を込めた呪いの言葉を与えなさい────という教えに従って殴り返すだろう。……ああ、でも。それでも俺は愛を貰った自覚があるから、呪いの言葉を与えるだけで終わっていたかも。とりあえず耐えてください。どれだけ遠く穢れていても、星を探していた女の子みたいに耐えてください。我らが罪を許されよ。

 

 全部忘れたいくらい辛くて苦しくてずっと悲しいままで目に映るもの全てを灰にしたかったであろう俺には悪いが、今の俺はとても悲しい……(ポロロン)。ネットミームやネットスラングに頼らないと精神を保てないくらいには不安定になっているくらい私は悲しい……(ポロロン)。

 

「一つ問おう! この悲しみを乗り越えるには何が必要だと思うかね? そう、お葬式だ!」

 

「巡君」

 

「おっと失礼。いや本当にね、ミームに縋らないと心が保てないの」

 

 これだけ心が揺らいだのは遥斗と麗良がカップル成立するかしないかの瀬戸際で大喧嘩してしまった時以来だ。あの時は本当に心が壊れるかと思った……あのまま二人の仲が壊れていたら、積み上げてきた俺とあの二人の関係も壊れてしまうんじゃないかと考えて情緒不安定になっていた。

 

「葬式はなー、盛大なのがいいか質素なのがいいのか」

 

「巡君」

 

「今話題の樹木葬とかいいかもな。桜の木の下には死体が埋まっているとは言わんけど、アラハバキ様がいたところにドデカい桃の木があるんだ……あそこを墓所とする」

 

「模歩巡」

 

「ああ、うん。分かってる。まずは大嶽丸だろ。あとあのクソ野郎の……果心居士。ようやっとノイズが消えやがったぜ……!!」

 

 断片的に思い出したせいなのか、ノイズが消えてあの屑の名前がしっかり聞こえるようになった。果心居士……ああ、いたなぁ、果心居士。初代討魔で登場してDLCから外伝作品まで引っ掻き回してくれやがったクソ野郎がよぉ……あいつは生きているとろくなことしやがらねぇからな……なるほど、あのカルト共の教祖があいつなら何となく納得するわ。自分が気持ちいいと感じることをするだけの愉快犯であり、大嶽丸にご執心なのも大嶽丸が自分の心を滅茶苦茶にできなかったからとかいうくっだらないペラッペラの何がしたいのかよく分からないクズ。世界を支配したいとか、悪のカリスマになりたいとか、そういうことを考えているわけじゃない。カルトの教祖になったのだって、「その方が気持ちいいことができるから」程度の軽くて薄っぺらい考えからだろう。そのくせに頭がいいし狡猾だし、自分を弱い奴だと理解しているから勝ちを確信するまで前線には出てこない野郎だ。兄弟子と姉弟子を殺したあの日も、あいつは信者を改造した怪魔を使って自分は遠くで高みの見物だったはず。殺してェ……殺してぇよ……でも俺の力では無理。ならばどうするか……

 

「巡君、聞いて」

 

「なんすか翡翠先輩」

 

「私は……町の人達の供養とかしないで、忘れてもいいと思うわ」

 

 ………………何ですと?

 

「記憶を封印した後の君が……いいえ、封印した記憶よりも前から町の人達に良くしてもらっていたことは、分かるわ。でも……それでも、私は忘れてもいいと思う。酷いことをされたのは事実だもの」

 

「それはダメでしょ」

 

「どうして?」

 

「俺が背負わなきゃいけないから」

 

「あなたが背負わなくちゃいけない理由があるの?」

 

 背負わなくてはいけない理由があるのか、ですか。あるに決まってるでしょうに。だって、大嶽丸がやったとはいえ、俺の体が斬ったんだ。俺が斬って殺した。俺が滅ぼした。滅ぼしたんだから、俺が背負わないといけない。大嶽丸を倒して、俺が皆を────兄弟子と姉弟子も含めて供養して……ようやくゼロから再出発できると俺は考えている。そこまでやってから、ようやく俺はスタートラインに立てると思う。

 

 ……いや、どうだろう。背負って進んでいる自分に酔いたいだけかもしれねぇ。不幸になった気でいる自分を見て安心したいだけかもしれない。遥斗と麗良がいたら「「遅めの厨二病か? 似合わないし気持ち悪いから止めてパン寄越せ」」って辛辣な言葉を叩き込まれる気がしてならない。でも……町の皆を供養したいって思いは嘘じゃないのは確かだ。しかし、翡翠先輩の言葉に魅力を感じてしまった自分もいる。いやしかし……と、グルグル思考がループしている時であった。

 

「どうしても背負いたいなら、周りも巻き込みなさい」

 

「……?」

 

「そもそもあの町全員を供養するのに、どれだけのお金と労力がかかると思ってるの? 一人二人でも大仕事なのよ?」

 

「え、いや、まぁ、少しずつコツコツやればいいかなぁ、と……」

 

「全部まとめて集合墓地にするのか、慰霊碑にするのか、個人個人でお墓を建てるのかとか、色々考えることがあるけれど、考えてる? 年に何回拝むとか、お盆とか、色々イベントもあるわよ?」

 

 そういうことひっくるめて全部、自分一人でやれるの?

 俺の背景に宇宙が出現し始めた頃、俺の口にリンゴを突っ込みながら畳みかけていた翡翠先輩────ではなく、大耀さんや虎成さんも口を開く。

 

「あれ? そもそも巡君って、下手すると天涯孤独になるから色々手続き必要だよね?」

 

「ああ。相続問題に、学園の手続きに……ああ、お前を取り込もうとする連中も増えるだろうな」

 

 え、何それ聞いてない。

 

「明日夢が豊穣の女神の加護を含めた特異体質を狙われているように、お前も狙われる立場だ。天涯孤独ともなれば、付け入る隙も増えるしな」

 

「世の中ってクソだな」

 

「そうよ? そんな世界を一人だけで泳いでいける?」

 

 ……………………………………やっぱり俺は何かを背負って生きている自分に酔いたいだけだったのかもしれねぇ……現実はゲームのようには上手くいかねぇんだ……

 

「その顔からして、そこまで色々考えてなかったわねあなた」

 

「全く考えてねぇっす」

 

「全く……背負うなら背負うなりの面倒事があるのよ? そこまで考えて全部一人でできるなら全部一人で背負ってもいいけれど」

 

「それができないなら忘れた方がよっぽどいいだろうな」

 

 忘れがちだが、翡翠先輩も虎成さんも五家の当主になる人だ。庶民の俺では考えられないこととか、金勘定とか色々頭を悩ませているのだろう。特に翡翠先輩の家は弱っていて、色々大変なようだし。三野先輩が支援はしているけれど、火の車なのは間違いない。そういう人だからこその視点から見れば、俺が言っていることは責任感のないセリフに聞えたに違いない。

 

「それで? 君は本当に一人で背負える?」

 

「………………まだ難しいかもしれねぇっす」

 

「じゃあ周りに頼らないとね」

 

 初心に帰れということか……ペラ回してないと震えが止まらないし、ミームに縋らないといけない状態であることには変わりないけど、どうにかなる……なるかなぁ、なるのかなぁ……!! ……ならないとダメなんだけどさ。大嶽丸を殺す、果心居士を殺す、町の皆を供養する……色々タスクあるからね、ミームに縋りつつ進まないといかん。

 

「じゃあ、町の皆を供養するのは後で考えるとして……大嶽丸と果心居士をどう殺すかなんですけど」

 

「大嶽丸はどこにいるか分かるからいいけど、果心居士は?」

 

「まぁ、うん……ちょーっとチートというか、ズルじみたやり方だけど……やれる人が……人かな、あいつ……まぁ、いるんだよ」

 

 えーと確か……天照大御神様に渡されてたやつがインベントリにぶち込まれていたはず……っと、あったあった。これだ。

 

「……それは?」

 

「何やら良くないものを引き寄せる呪物にしか見えないが……」

 

 俺がインベントリから取り出したのは、天照大御神様から預かっていた────蒼白い火が灯っているペンダント。何かの顔のようにも見えるそのペンダントの中で揺らめいている火は、不気味なのに安心すら感じる温かさがある。

 

「これを持った状態で────こう、指鳴らしを何度かするとだ」

 

 パチンッ────と、指を鳴らした瞬間。どこからともなく心を不安にさせるパイプオルガンで奏でられるキャロルの旋律が流れ始め……

 

「私を呼んだのは────ああ、君か。なるほど、これも巡り合わせか」

 

 何もない空間から、蒼白いマントを羽織った何者かが現れた。

 顔は蝙蝠と昆虫か何かを掛け合わせたような見た目の仮面で隠されているが、目の部分から時折蒼白い炎が漏れ出している。よく見るとマントの下にある手足の関節は球体関節人形のようになっており、生気を感じさせない。だが、一挙手一投足に気品を感じさせると同時に、警戒させてくる。そんな、頭の何の生物なのか分からない羽がチャームポイントな彼? 彼女? 性別不明だった気がする────そんな存在こそ、チートの中のチートであり、俺がそのうち見定められる予定だったという存在。

 

「憂う龍の試練、愚昧な道化(ジェスター)の蒙昧な愚弄(サーカス)。歌い、踊ろうじゃないか。君にはその資格があり、私にはその義務がある」

 

「ごめん、何言ってるか全然わからねぇや」

 

「…………巡君、誰と話してるの? 大丈夫?」

 

 あれ、これで見えてないことある?? もしかして、このペンダント貰った人以外見えてないとかある? そこんとこ頼むぜ山の執行者様。




気狂い
ミームに縋りついてメンタルを保っているボドボド具合。怪魔並みの切り替え速度になるにはまだ足りない。

山の執行者
ようやく登場したよく分からん存在。過去も現在も未来も関係なく、呼ばれたら現れるよく分からんけどよく分からない強さを誇るよく分からないやつ。現在の巡が切れるカードの中で最も果心居士を殺せる可能性がある存在。呼ぶには条件があるため、今の今まで呼べていなかった。
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