恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
日本語を話してくれてはいるが、日本語に聞えない。そんな言葉を発する山の執行者の登場によって、俺がいる病室の空気は変なものになっていた。
「スイちゃん達には見えてないのね」
「はい。……何でですかね?」
今は、病室の外で薔薇苑家の人に連絡を取っていたローズ先輩が病室にエントリーしている。パリピイケメンボーイズと万莱君もここにいるが、山の執行者が見えてはいない。今ここで山の執行者が見えているのは俺と、ローズ先輩の二人だけだ。神様や神獣達にも見えてはいるようだけど。
「ああ、不死鳥の君。翼を捥がれた雛鳥の君は
「もう少し分かりやすい言い方をしてくれると嬉しいのだけれど?」
「対する君は夢から覚醒し、忘却を超えた先で資格を得た。私の義務、私の巡業は
コメディ? コメディって、ギャグマンガ的な感じ……じゃ、ないよな? 山の執行者が言っているのはきっと、そういうことじゃない。
「惜別、喪失、戻らぬ日々────この場にいる君達だけがそれを知っている。ゆえに、君達は
「つまり……誰か、大切な人を喪った経験があるやつだけが、あんたを見ることができるってこと?」
「然り。しかし、それは間違いでもある。切り取られたチケットでは舞台に上がれはしないのだから。目を逸らし、内にある
もう少し分かりやすい日本語で話してくれないか?
「憂う龍は価値を問う。彼の愛した者の未来が価値あるものだったのかと」
「どうだろうなぁ……」
世の中クソみたいなことが蔓延っているからなぁ……大嶽丸こと忌龍が生きていた時代とほとんど変わっちゃいないかもしれ────いやどうだ? 文明が発展した影響もあって悪化してないか? 世界が広くなったせいでそう感じるだけか? 法にも穴はあるんだよなぁ、的なノリで色々やってる連中もいれば、女性を道具としか見ていない異常性愛者がいたりと世紀末より世紀末しているクソみたいな世の中……でも、その中でもいい人は必ずいて……まぁ、世界の縮図はそこまで変わってないかもだけど、マシになったところは少なからずあるはず。あってくれないと困る。
「蒙昧な
『俺達はあまりやつとの関わりがねぇ。だが、何も考えてねぇのか? あんだけの大事を引き起こしておいてか?』
「そうだ、白虎よ。意志はなく、思想もなく、快楽のみで動く。見るに堪えぬ終わり無き
『あれがいけ好かないというのには同意だけれど、相当な言いようね』
「絶望を退ける力、何かを抱え、闘争を選ぶ
蒼白いマントを羽織る、俺が知る中で最も強い人外的にも果心居士は相容れない存在であるようだ。そういえばこいつ、人間の輝き大好きな人外だったな。その輝きが最も輝くのが戦いの中だから戦いに身を投じているって考察もあった気がしないでもない。元々は人間なんだっけ? それとも元々人外なんだっけ?
「私を呼んだ君。呪いと怨嗟の中にあっても明けの明星のように輝く君。だから歌い、踊ろうじゃないか。この汚物が如き
「俺とあんたで果心居士を殺すってこと?」
「否。蒙昧な
山の執行者は俺に指差して、言う。
「憂う龍は君に問うている。戦うことに価値はあるのだろうかと。君は答えを見せなくてはならない」
「ならどうするって?」
「蒙昧な
…………そういえば、山の執行者に出会う確率を上げるなら人類滅亡ルートが一番高いんだったかな。こう……カルマ値が云々的……人間だけでは乗り越えられない危機に主人公が含まれる可能性があるから見極める的な……そんな感じのだったっけ? どうだっけ。それとも人を殺した主人公を見極めるため? どんなこと言って現れたのか忘れちゃったよ……ってか、そうか。人を殺した経験があるっていうのも山の執行者に会う条件の一つだっけ。
山の執行者が出現するようになる条件はいくつかあって、そのどれか一つでも満たしていればランダムで出現するレアボスだ。初期バージョンから何度か修正は入っていたけれど、大枠は変わっていない。
一番簡単なのは人を殺した経験があること。この世界ではナレ死するどころか知らないところで死んだ絡繰りボス怪魔の傀儡を殺した後にボスであるそいつを倒すと、メンタルごっそり持っていかれる。そのメンタルの回復は恋人や親友枠とイチャイチャすることで回復する。なお闇落ちエンドの条件を満たしてもいるので、根本的解決にはなっていない模様。恋人も親友もいない場合? ……まぁ、人類滅亡ルートを楽しんでください。俺はスチルを全部回収したくて何度も終焉呼んだけど。ちなみに、恋人か親友を殺してから人類滅亡ルートに突入することもできたりする。運営は徹底的に主人公を絶望を焚べる者にしたいらしい。闇落ち主人公の恋人or親友枠を殺した後のスチルタペストリー、好評発売中!! ……今でも売れ筋である。人の心。
二つ目は俺やローズ先輩みたいに、大事な人を喪った経験があること。正直この条件を満たすことができるのは五家の皆さんであって主人公ではないので、この条件を満たして出現させるのは難しい。中盤~終盤クエストで条件を満たせるようにするの止めません? 五家の皆さんの主人公CPエンドスチルマグカップ、好評発売中!! ……こっちは温かいものを注ぐと闇落ちエンドで見れる心中スチルになります。比翼連理ってか? はははは! ……うーん、人の心。ちなみにこのマグカップ、今でも再販を希望されている希少品です。俺と遥斗と麗良は全員分ゲットしてます。最期に感じたのは恋人の温かな血(温かい飲み物)と、冷たくなっていく体(マグカップ本体)でしたってな。人の心。
まぁ、何にせよだ。俺は大嶽丸と戦わないといけないので、山の執行者が果心居士を殺してくれるらしい。やったぜ。
「でも無償でやってくれるわけじゃないだろ? 騙されんぞ」
「然り。我が炎は報復、復讐、憎悪の炎。火種がいる。
「火を付けろ、燃え残ったもの全てに……ってコト!?」
分かったよウォルター……理解した……俺の役目。コーラルに火を付ける。人とコーラルの共生を果たす。最後の引き金を引く……全部もやらなくちゃあならないのが、イレギュラーの辛い所だな。覚悟はいいか? 俺はできてる。だから、何もかもを焼き尽くす黒い鳥になるよ……それが、人の可能性だもんな、主任。
「で、火種はどこに?」
「君がもう、持っている」
「え、持ってるの俺」
香炉は寮に置いてあるし、違うだろう。俺の器は違うだろうし……火属性の武器って俺持ってたっけ? いや、そもそも山の執行者が言っている火種っていうのは多分それじゃないんだよな。
「持っているはずだ。抱えてきたはずだ。連れてきたはずだ。弄ばれた怨嗟の火種を」
「──────────────────もしかして、祢瑠姉さん達らしき黒い背後霊の皆さんのこと言ってます?」
「然り。そのために彼らはここまで君と歩んだのだ。君との決別を、火を付けるために」
未だに顔が見えない黒い影のような兄弟子と姉弟子……らしき人達の姿は見えない。姿を見せてくれる時と見せてくれない時の差はなんだ?
「呪いの坩堝となった君の魂にしがみつき、少しでも気を抜けば怨嗟と憎悪に焼き溶かされ、ただの呪いと化していたであろう彼らの残滓。それこそが、火種に相応しい」
「…………そうかぁ……」
なんか、こう、さ。ちょっとだけ期待してたんだよな。声も、顔も見えないけど、いつか話ができるんじゃないかとか。まぁ、ちょっとだけ期待していただけで何となくは察していたけど。ああ、この人達多分喋れないんだなって。毎回毎回何かを聞くとジェスチャーでしか反応を示してくれなかったからな。
「………………分かった。頼んだ」
「メグちゃん、いいの? 別の火種を探す方法もあるかもしれないのに」
「それを見つけるのに、どれだけ時間がかかるか分からないでしょう。それに、ここまで俺についてきて、役目を果たそうってところで水を差すのは……なんかあれでしょ」
話を聞くに、俺の中はとんでもない呪いの坩堝の諸相になっているようで、俺についてくるのは凄く辛くて苦しいものだったようだからな。なんで死んでも耐えてくださいしてるんだろう。やっぱりナナヤの呪いの言葉は凄いや。やっぱり対人特効兵器の劫罰の大剣作るべきでは? それを敵に突き刺して呪いの言葉を送るんだ。耐えてください役目でしょ。
「火種として彼らの残滓を預かった時、君の借りていた才は消える。分かっているだろうが」
「? …………あ! あのモノクロ視界とか、兄弟子と姉弟子のせいか!? あと大嶽丸!」
「然り。借り物の才────50人分の才と、極致へと至った憂う龍の才。君の刀剣の才は彼らから借りていたものゆえに」
そりゃあ武器も俺の体も精神も耐えられねぇわ。そもそも刀剣の才能がない俺に、才能があった連中の経験とか力とかがぶち込まれるんだから、そりゃあ負担が凄まじいわけだよ。
「ゆえに、その才は消える。構わないか?」
「問題ない。そもそも俺、刀剣使いじゃないし。さっさとやってくれ」
「覚悟、聞き届けたり。……さぁ、火種よ────我が内に宿り、燃え盛るがいい。その怨嗟、その憎悪、その献身こそが、
山の執行者の関節や、仮面の中で蒼白い炎が揺らめいて……俺の中から何かが引き抜かれていく。少しずつ行くのかと思ったら、なんか感慨に耽ることも許さない勢いで一気に引き抜かれた。具体的には何でも吸い込むダイソンの吸引力の変わらないただ一つの掃除機みたいな感じで。
俺の中から引き抜かれた何か────兄弟子と姉弟子の残滓が、山の執行者の中に入っていくと、山の執行者の関節という関節、仮面の穴から蒼白い炎が燃え盛り始めた。
「素晴らしい火種だ。これこそ、始まりの演目に相応しい。この炎を以って、討魔決戦の始まりを告げようではないか」
「ローズ先輩、討魔決戦っていつです?」
「12月31日……大晦日ね」
なるほど、最終章の決戦の日と同じ日。……ここまでに色々準備して挑むわけだけど、ここで敗北したら俺達は来年のお正月、初日の出を拝むことはできない。ちなみに大嶽丸を倒してエンディングというわけではなく、その後色々あったなぁ的なサムシングイベントをいくつか挟んでから卒業式でエンディングである。だったら最終決戦は卒業式の前の月にしてくれと言いたいところだが、ラスボスを倒したプレイヤーへのご褒美イベント盛りだくさんな1月2月なのだ。百鬼夜行は発生しないし、初詣の着物イベント、バレンタインのチョコ一喜一憂イベントなどなど……あとはあれだ。卒業式まで暇だからダンジョン攻略行き放題。攻略できなかったダンジョンに行ったり、素材を集めて二周目に備えたりと色々やれる準備期間でもあるのだ。
「その日が来るまでに、我が内で燃ゆる火種は天を焼くほどの炎となっているだろう。私を呼んだ君。素晴らしい舞台に集う役者はまだ揃っていない。招待状を送るといい」
「プロは招集されるし、五家は全員参加……となると……役者は人間じゃない?」
「然り。憂う龍が待つ城は常世────呪いの坩堝であり、禊の女神の加護を持つ君や、豊穣の女神の加護を持つ彼女であれば活動も容易だろうが……不死鳥の君も含め、演じることはできるのだろうか」
『大嶽丸を討伐するために、怪魔にも協力するように声をかけろ……ということか』
「然り。常世とは怪魔の舞台……舞台を知るものがいれば自由とは言えずとも、あるいは……では、
山の執行者はそれだけ告げて、炎と一緒に消えてしまった。俺が今の今まで握っていたペンダントに付いていた蒼白い炎もいつの間にか鎮火しており、うんともすんとも言わない不気味なアクセサリーと化している。
「さて……どうしようかな」
「巡君、話が読めないから全部話してもらってもいい?」
おい神と神獣。同時通訳ぐらいしやがれ。
コメディ
喜劇。人を笑わせることを目的とした演劇や映画、ラジオやテレビドラマなどの笑いを誘うやり取りを示す。
なお、コメディの西洋における元義は、悲劇の対照を成した意味である。
したがって本来は必ずしも笑えるものだけを意味するとは限らない。
(Wikipediaより引用)
人は誰しも生きて死ぬまでの道のりで、大なり小なり何かと決別しなければならない。その先に輝かしい未来があるのだから。ゆえに、私は決別を