恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
竜の骨と、三日三晩叩き続けても形状が変化することがない金属を使って作られた大鉈
一メートルを超える大鉈に取り付けられた弦によって奏でられる音は
人を害する怪を狂わせ、人の心に安らぎを与えるという
ずっと、まもりたいものがあったのです
まだ、荒野を歩くのだろう
もう、こぼれてきえてしまったけれど
それでもと、屍を晒して咆哮するのだろう
それはきっと、どんなはなよりもうつくしかったのです
それこそがきっと、人間というものなのだろう
さて、先の素材マラソン兼リハビリついでのパーティーの招待状配達によって、常世の穢れ対策のピースを手に入れた巡は来たるべき討魔決戦に向けて大量の霊薬を虚無虚無プリンな顔で造り続けていた。マラソン中毒者であり、霊薬依存症患者でもあり、政治のことはよく分からないメロスであり、人質となったセリヌンティウスである巡であっても、討魔決戦に向けてやれることは全部やっておきたいとわざわざ頭を下げてきた五家のお偉いさん(現当主)及び政府関係者の願いを拒否することはできなかった。何だかんだでフォンダンショコラフラペチーノな気狂いである。
虚無虚無しながらも原液の霊薬────あとは専用の液剤で割るだけ────を作っている部屋は学園ではなく、鵐頼と彼に加護を与えている大国主命神がわざわざ天照大御神に許可を取ってきた天岩戸の中である。普段であれば天照大御神や月読が百年単位で溜まりに溜まった有給休暇を消化するための部屋なのだが、今回は特例ということで貸し出されている。ちなみにこの天岩戸、多忙な太陽神や月神が有休を消化するためにわざわざ作ったもので、時間の流れが現実世界と異なる。簡単に言えば、ドラゴンなボールに登場する精神と時の部屋みたいなもの。なお、あれとは違ってこっちは娯楽は大体揃っているし、プール並みに広い風呂場もある。食事も食券制でデリバリー可能。なお、手の込んだ料理などにはお金はかかるが────冷暖房設備完備の超快適空間である。
余談だが、この世界での天照大御神の引き篭もり事件はただの有給休暇消化のためのものだった。日食、月食は基本的に太陽神や月神が溜まりすぎた有休を消化しているから発生する現象であり、天岩戸から出てこない天照大御神を引っ張り出すための宴は天照大御神自身が提案したただの会食だ。
まぁ、そんな余談は置いておいて。とにかく巡はただひたすらに現在ダンジョンから出ようとして活性化する怪魔達を殲滅している戦士が使う霊薬や、討魔決戦に向けて霊薬の大量生産を一人で行っていた。もちろん、巡だけではなく、他の霊薬製作に自信のあるプロや学園の生徒や教員も総動員しているが、毎日のように大量の霊薬を服用している巡の生産スピードは彼らを驚愕させるものだ。
「しかし、ギャラクティック・ノヴァには狙いがあった」
「どうした、数時間も霊薬を作り続けてついに狂ったか?」
「ハイドラに引き潰された子猫が何か言ってる」
メンタルがミームによって支えられている巡に今回の付き添いとして選出されたのは、虎成琥珀。本来なら同じ男として治水やローズ、万莱などが選出される予定だったのだが、どういうわけか筋力高めのメンバーがローテーションで天岩戸に放り込まれることとなった。ちなみにこのローテーション、サラッと現れたテスカトリポカが持ってきたくじによって決められた。戦いの神でもあるからなのか、ゲームと同じようにテスカトリポカは戦いがあるところに現れる。たまにこの世界では双子なアレスやマルス、アテナとミネルヴァも現れる。泥沼になってくると野次馬にフォボスなんかも現れる。
「というか虎成さんも作れよ霊薬。素材はあるんだからさ」
「私は霊薬製作が苦手でな。羽津さんからも霊薬製作はてんでダメだと言われたくらいには」
「ふーん……あ、やっべこれ違う霊薬になった」
「数時間も連続でやっていればそうなるだろう……一度休め」
「そっか! 霊薬作るわ!」
「休めと言っているだろうがたわけ!!」
ステータスやパッシブスキルなどを鍛えた結果、巡よりも筋力ステータスが高くなっている琥珀がゲシュタルト崩壊しつつも霊薬を作ろうとする巡を取り押さえた。こいつはこういうことをやらかすと分かっていたからこその采配なのかもしれない。さすがはテスカトリポカ。戦士のことは何かと理解している神様。ジャガーは分かるが、なぜか七面鳥にもなれるらしい神様はやはり凄かった。
「まだ一日のノルマが終わらねえ……! 人の夢も星に願えば終わらないのサ……!! …………しかし、ギャラクティック・ノヴァには狙いがあった」
「お前、それが言いたいだけじゃないのか?」
炬燵から離れようとしない猫のように、霊薬を作るための設備から離れようとしない巡の手を丁寧にテーブルから引っぺがして、ベッドが置いてある部屋へと連行する琥珀は未だにミームに縋りつく巡のメンタルが中々回復しないことを懸念していた。
「なぁ、模歩巡。戦えるのか?」
「ん? ああ、酒吞童子と殴り合いが成立するくらいには留骸の人魔一戴は精度が上がってきたぞ。あれ正直使いにくいんだけどな」
「いや、そうではなく……そうでもあるが、そういうことじゃない。心の話だ」
「復讐とは自分の運命に決着をつけるためにある────エルメェスの姉御はそう言ってた。まぁ、あれ、復讐を肯定する言葉じゃないけど」
病院の人間が「え、なんで治ってんのこわ……」とドン引きするくらいの速度で、メンタルの回復は着実に進んでいる。具体的には霊薬のキメ過ぎでメンタルが回復しているように見えているだけであるが。ただ、完全に復活するためにはやはり大嶽丸と果心居士の存在を駆逐しなくてはならないだろう。
なお、完全に復活した時は巡に関わってきた人間の胃が死ぬ瞬間でもある。具体的には抑えられていたマラソン欲とハクスラ欲によって、目に映る人間を全て巻き込んで素材マラソンとジョブ育成マラソン(討魔2要素)と拡張パーツハクスラマラソン(討魔3要素)に奔走することになるからだ!! しかも今までよりも晴れやかで滅茶苦茶楽しそうな表情(当社比)*1でマラソンとハクスラするもんだから、男女関係なく関係者から「あれ? もしかしてこいつ今まで楽しそうにしてたの全部演技だったのでは?」みたいな邪推をされるレベルでマラソンとハクスラに勤しむことが決定している!!
やっぱりこいつはホモサピエンスじゃあない。サル目ヒト科ヒト属とゲノム的に凄く似ているだけの別の生物に違いない。ゲームで攻略対象になった場合、バレンタインチョコよりダース単位の素材の方が喜ぶとか罠過ぎる。しかもチョコ渡しても喜ぶしお返しで素材くれるから罠過ぎる。
「とりあえず一度寝ろ。最後に寝たのはいつだ」
「えーと、一時間前だな」
「……お前、その時計はこの部屋用ではないな?」
「コノヘヤヨウノモノダヨ」
「バレるような嘘を吐くな! ええい、寄こせ! この部屋用の時計を天照大御神様から渡されているだろう!!」
巡の手首に装備されていた時計を外してからナイスバルク(見た目は出るとこ出てる褐色系美少女)で巡をベッドに放り投げた琥珀は、大きな溜め息を吐きつつベッド近くに置いてある安楽椅子に座る。ここに至るまでにも巡は琥珀の拘束から抜け出そうと静かな抵抗をしていたこともあって、大分疲れているようだ。
「一度寝て思考をリセットさせてから次の作業に移れ……この部屋と現実世界は穢呼浄禍の大祭壇と同じようなものなのだろう?」
「何かしてないと落ち着かねぇんだなこれが」
全身が文字通り沈むくらいふかふかのベッドの中でスキルの練習をし始める巡を見て、琥珀は目を細めた。
「マグロかお前は」
「マグロ、撮影開始」
「マグロと同じように締め落としてやろうか?」
「寝技なんてそんな野蛮な……ここは穏便にエンフォルドで……」
「よし、分かった。貴様はあれだ。一度締め落としてでも眠らせないとダメだ」
お望み通り締め落としてやる、と笑みを浮かべて立ち上がった琥珀。それに反応しようとするが、人をダメにするどころか神をダメにするベッドによって身動きが取れない巡。
今から人を締め落とすつもりとは思えない微笑みのまま──── ────琥珀が、巡に急接近する。滑らかな動き。巡は起き上がることができずに対応できない。正常な精神状態だったとしても────瞬きをする暇もなく、呼吸する暇もなく、琥珀の絞め技が巡に通る……ことはなく。
「かかったなアホが!」
巡、人魔一戴を発動して自分を布切れにしてベッドから離脱! 使ったのは戦闘にはあまり不向きな一反木綿。体が布になっていることで攻撃が通りにくいという少々面倒な性質があり、火属性の魔法で燃やすのが一番倒しやすいという怪魔だ。
そんな怪魔の人魔一戴は自分を布に変えて緊急回避を発動させるというもの。ゲームでは任意使用ができず、HPが0になる攻撃を受ける時、一度だけ強制的に発動するというちょっと微妙なものであった。だが、この世界では任意のタイミングで発動可能。ゲームと違ってスロットにセットしておくことも必要ないため────もちろん禍津日が用意しているスロットを使えば咄嗟の発動はしやすいが────、マラソンや百鬼夜行で死ぬほど倒してきた怪魔であればスムーズに呪い版、加護版どちらも使えるレベルに到達していた。
自身を布切れに変えてベッドから離脱することで、逆に琥珀をベッドに追いやって初動を遅らせることに成功した巡。霊薬によるメンタルカバーによって戦闘IQが高まっているこいつを捕まえたいのならば、攻撃するぞという意識を向けてはいけない。やっぱりこいつスペースノイドか何かなのではなかろうか(ヘイトスピーチ)。
「俺よりも虎成さんの方が寝た方がいいだろ。ほとんどの属性の索敵スキルをカンストまで育てた俺を化粧で騙せると思うな」
「……索敵系は全部無属性だろう。それと風属性」
「? スキルは作るものだろ?」
「スキルを作る!?」
理論上、スキルを作ることは難しいことではない。討魔2からスキルコネクトというシステムが実装されたことで、スキルとスキルを組み合わせて新たなスキルを作ることが可能になっていた。組み合わせは数えきれないほど存在しており、時には産廃、時には神スキル、時には凡スキル、時には他のやつでいいスキルなど……様々なスキルが誕生していた。その全てのスキルを作ってちゃんと稼働するようにしていた運営は本当に不治の病。キャラ攻略で手に入るスキルと主人公が元々持っていたスキルを掛け合わせることで、「これもう交尾の隠喩でしょ」とか言ってる派閥が結構いるプレイヤーはステージ5の不治の病。スキルを擬人化させてCP作って同人誌を出してる連中もいたのでやはり人間はどこかおかしい。これが人の業。
そんな人の業は置いておいて。とにかくスキルを作ることは難しいことではない。ただ、作るよりも元々用意されている、過去の戦士達が連綿と受け継いできたスキルの方が型が出来上がっているものを使った方が強いし楽だ。なのでほとんどの人間がスキルを作ろうなんて考えに至ることがないのだ。
しかし、ここに例外が存在する。例外と呼ぶには少々狂っているし様子がおかしい存在ではあるが、存在する。そろそろ超新星がスキルとして昇華されそうになっている気狂いは、ゲーム本編で索敵スキルに引っかからない怪魔や、隠密が得意なキャラ、分身によって本体が隠れる怪魔などを捉えるために様々な方向で索敵スキルを作っていた。そもそも、そういった存在は加護を与えている存在が見つけてくれるか法則を教えてくれることが多々あるので本来は必要ないのだが、加護を持ち合わせていなかった巡はそういう相手に対する対策が必須であった。熱感知、振動感知など────様々な方向から相手を捉えるために、各属性で索敵スキルを開発したのである。何だかんだで一種の才を持っている。
なお、やり方さえ覚えてしまえば五家の次期当主達はできるようになるし、主人公はそんなことを学ばなくてもチュートリアルを終えたらそのうち簡単にやれてしまう。やっぱり活躍が約束された存在は格が違う。
「皆やらないけどさ、自分に合わないものがあるなら自分に合うもの作ればいいんだと俺は思うんだ」
「確かにお前のスキルに見慣れないものがいくつもあるとは思っていたが……お前、本当に狙われるぞ」
「ワダツミの福音書第一章第29節、釣りの成果を要求する者に針を刺し、その者を餌としなさい」
『ああ、ワダツミってそういうこと言うもんな。緩い口調でよ』
「「えっ」」
日本の神々の英雄的蛮族思考が垣間見えたところで、巡は先程ミスで作ってしまった霊薬の内容を改めて確認する。先程まで作っていたのは巡が普段から使っており、プロでも使う者が少なくない『勇シリーズ』の霊薬。好きなだけ使ってもいい素材があるのだから他のデメリット霊薬も大量生産しておきたいところではあるが、依頼されたのは『勇シリーズ』の霊薬の生産。それ以外を作るのはいくら気狂いでも気が引けた。ある程度の分別もあるのが真の気狂いの証左である。
(さてさて……デメリット有り系シリーズの失敗は基本的にデメリットだけが発生する霊薬だけど……こいつ、なんか色が違うんだよな)
どぎついピンク色の霊薬となったそれが入った瓶を揺らすと、チャプチャプと水音が鳴る。香りは嗅いだことがない不思議な香りだ。どこか清涼感と色気を感じる香り。清涼感と色気は両立するという新たな発見をしつつも、巡は霊薬の内容を精査していく。
(ふんふん……スタミナ増加に、スタミナ回復速度上昇、耐久力低下……あれ、普通に使えそうだなこれ……伸び幅はそこまでだけど、普段使いするなら悪くない)
新たな普段使い採用枠の発見か────そう思った矢先。霊薬の鑑定していた巡は見たことがないデメリット効果を確認する。
(極度の興奮状態? んー……?)
興奮状態とは、霊薬を大量に服用した結果ハイになっている状態のことだろうか? しかし、極度の、というところから、それ以上の興奮状態になってしまうということの可能性が高い。その結果、考えることができなくなってしまえば戦力がダウンしてしまう。
「うん、不採用だな」
とはいえ、処分するのももったいない。というわけでそのうち自分で試しに使ってみる、または怪魔に爆弾としてぶつけてみるかをすることにした巡。またこいつの投擲力に磨きがかかってしまうことが確定した。
「そういえば模歩巡」
「ん?」
「クリスマスの予定は決まったか?」
「聞いて驚け、リハビリ壺男RTAだ」
なんとも寂しい予定である。
「もしくはレート上げ。サボってたせいでシーズン終わってたぜ」
「もっとこう、あるだろう……」
「クリスマスって言っても、討魔決戦に向けて一般人も色々自粛するらしいからなぁ」
討魔決戦に向けて戦士があれこれと動いている中、一般人も色々とやることをやっていた。もちろん一部心無い人はあれこれと文句を言うだけ言って何もしていないが、自分達にもできることはないだろうかと動く人間は結構少なくない。例えば、避難所としてホテルを解放したり、ショッピングモールを避難所として使ったり、食料品を各自持ち寄って炊き出しの練習や、今も寝る間も惜しんで怪魔殲滅や結界の強化に勤しんでいる戦士に食事を用意したりと戦えない人は戦えない人なりに色々と考えて行動していた。人の光というのはこういうことを言うのだろう。こんな暖かな光を放つ人間という種が、一人の主人公を追い詰めて世界を終わらせてしまうこともあるのだが。
「小規模ではあるが、各地の避難所でクリスマスマーケットをやるらしいぞ」
「へー……カルト共が動かないといいけどな」
「まぁ、そこは懸念点ではあるが……」
「にしてもクリスマスマーケット……行ったことねぇな」
「そうなのか?」
「学園に入ってからは、ダンジョンか鍛冶場か錬金窯があるところか自分の部屋にいるしな」
つれづれなるまゝに、日くらし迷宮に向かひて、心にうつりゆく素材をそこはかとなくかき集めれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。
徒然草にもそう書いてあるので、巡はきっと雅な戦士であろう。平家の戦士が見れば間違いなく雅であると認めてくれるに違いない。
「あ、でも翡翠先輩に一回だけ連れて行ってもらったことあったっけ。あれをクリスマスマーケットと言っていいのかちょっと分からんけど」
巡が行ったことがあるのは、翡翠に連れられて行った戦士市場のクリスマスマーケットであって、一般的なクリスマスマーケットではないのだ。
「む……そうか、お前は翡翠先輩と関わりが深いからな。……そうか、初めてではなかったのか」
「……正直ちゃんとしたクリスマスマーケットは知らねぇよ? つか、なんで残念そうなんだよ」
「言わせるつもりか?」
「………………はーっ、ほんっとうに……翡翠先輩といい虎成さんといい、大耀さんといい……男の趣味が悪いぜ」
巡が入院中でもあれこれと世話をしてくれた茶菓子同好会メンバー達であったが、女性陣から向けられている感情に気付かないわけもない。火種として亡霊達を執行者が持っていってしまった後からは、特に。
もちろん、まだ自分が誰かと恋仲になることへの拒否反応は出る。それでも今までと比べてどこか後ろ髪を引かれるくらいの、本当に軽いものになっていた。なお、今でも頭は痛くなるし、動悸もする。
「趣味云々はともかく、翡翠先輩もそうだが五家の人間として、お前や明日夢は囲っておきたい人材であることは確かだ。……色んな意味でな」
「子供作れって? 無理だね」
「そうではなく。いや、それもあるのだろうが……お前や明日夢は五家の神獣から加護や呪いを受けている。お前は少々例外だが……五家の神獣の名は大きいんだ」
「あー……まぁ、なぁ……」
明日夢が麒麟や白虎、鳳凰の加護を分霊で与えられたことで、様々な界隈からお声がかかったという話は、巡の耳にも届いている。学園祭が始まる前から、明日夢にもお見合いのお誘いのお手紙や縁談やらたくさん舞い込んでいると、巡が本人から愚痴られていたのだ。
神の加護も間違いなく素晴らしいものだが、長い間日本を守り続けてきた由緒正しい家の中でも有名な五家に加護を与えている神獣、その加護を受けた者が手が出しにくい五家の人間ではなく、一般人にいる────ともなれば、取り込もうとする動きが出るのは当たり前のこと。しかもその忌一般人は豊穣の女神の加護も受けているともなれば、様々な理由で利用しようとする者は出てくる。
ちなみに、お見合いや縁談のお手紙についてはその全てを巡が開封することで、何が仕込まれていてもどうにかできるようにしていた。なるほど、これがデバフタンクちゃんですか。開封して何かが仕込まれていた確率は脅威の三割。ガチャでももっと手加減すると思うんですけど何考えているんですかね?
「そういうわけで、その……色々と家から言われていてな。お前がさっさと翡翠先輩や明日夢……もしくは私のことを────」
「白虎様ー、あんた精神回復系手に入れた?」
『残念なことに俺は回復が得意じゃなくてよ。鳳凰にもちょっと相談したが、からっきしだ。坊主はどうだ?』
「残念なことに自己回復しか……!!」
『クソッ……! お嬢を助けられんのは鳳凰しかいねぇってのか……!?』
「おい、人が勇気を出して色々と言っているのになんだその態度は!!?」
琥珀、思わず起き上がる。
「言い方はあれだが据え膳だぞ!? 翡翠先輩も明日夢も服装があれだっただろう!? 貴様それでも男か!?」
「女の子が据え膳とか言うんじゃありません。あと普段と服装とか髪型がちょっと違うなぁとか思ってたらこれだよ。ハニトラやめな? 俺をなんだと思ってんだ」
「何だかんだで私達をそういう目で見れるのは夏休みで把握済みだ。銭湯であれこれと話していたのもな!」
「夏休みのあれ、バレてんじゃねぇか!!」
さすがは巡の精神年齢を十代に引きずり込むことができる逸材、琥珀。メンタルがガッタガタでミームに縋らないと悪夢が巡り続けている巡が戦いの中ではなく、日常生活の中で大きな声を出せるようにしてみせた。これがアニマルセラピー。琥珀が与えられている加護は白虎なのでここは猫カフェと言っても過言ではない。
「しかも言い方からして貴様、ゲリュオンとの猥談第一弾、第二弾どちらも知ってるな!?」
「ああ。第一弾は翡翠先輩と明日夢からしっかり聞いている」
「ヴェアアアアアアアアアアッ*2!!?」
精神年齢が30代であっても、猥談が女性にバレていたという事実は心に十分なダメージを与えることに成功する。
「それにしても、こんなものの何がいいんだ? 脂肪の塊だぞ?」
少しだけ大きめの、ダボッとしたセーターを着ている琥珀が首をかしげる。翡翠が聞いたら周囲に盛大な静電気が発生しそうな発言であった。
首を傾げた時も軽くではあるが、明日夢に負けず劣らずのご立派な胸部装甲が揺れた。フルフルの鳴き声を放つ釣りあげられたガノトトスのものまねをしていた巡の網膜にもそれはしっかり焼き付いており、巡の心に大きなダメージが発生した。
「クソが……! 忘却霊薬と精神安定霊薬のストックはねぇ……! というか取り上げられた……!! これもお前のせいだなイシュメール!!」
『誰だよイシュメール』
そんなこんなで、この天岩戸の中にいる間巡はさり気なくかつ大胆な誘惑と戦うことになっていた。これもまた戦である。ちゃんと性欲はあるし、健康的で健全な十代の若い体を持っている巡は、岐の神という存在の側面も持つアラハバキは己の性癖ドンピシャリな少女達に耐えることはできるのだろうか。
なお、この戦いは現在天照大御神や菊理姫、瀬織津姫や伊邪那美、ケルトの性豪などが見守っている。メンタルがガタガタな彼に付け入るようなやり方ではあるが、ぽっかり空いてしまった虚空がそれで埋まったのであれば、それはそれで巡は立ち直る。というかむしろ前よりも強くなる。だって割合が低かろうが神様だもの。信仰(意味深)が高まれば強くなるのも当然である。地上最強の生物も言っていたように、喰らえば強くなるのである。
何かが起きることを期待している諸君には申し訳ないが、巡の拗らせ童貞振りは御存知の通りなのでここで何かが起きるということはない。大嶽丸討伐後のバレンタインなどで何かが起こる────かもしれないし、起こらないかもしれない。
琥珀の胸部装甲≧明日夢の胸部装甲>治水の胸筋>ローズの胸筋>翡翠の胸部装甲=玻璃の胸部装甲
なお、全員が全員プレイヤーが「エッッッッッッッッ!!!!!!」となる。大きさだけがエロスじゃないのであるってギリシャのエロース神が言ってた。
ワダツミ
「わぁ~、じゃあ君を釣り針に刺して鮫釣りするねぇ~」
「じゃあ、君のこと餌にして何匹マグロが釣れるか試してみようかぁ~」
「そぉれ~、ざっぱぁ~ん」
などの緩い感じのキャラみたいな口調と外見から放たれるとんでも発言ととんでも防御性能に戦慄するプレイヤーは数知れず。
あ、次回からバトルスタートです