恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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エピローグが短いとかそういうことは気にしてはならない。


討魔決戦大嶽丸 御終い

 禍津日の神社のその先にある山、かつて堕ちた神荒覇吐がいた山の、大きな桃の木────と巡は思っていた樹木の下に、一人の男がいた。

 

「へぇ、てめぇが現世に来るとは珍しいこともあるじゃねぇか」

 

 手を合わせて禅を行っている男に声をかけるのは、人間と大嶽丸の戦いの趨勢を見ていた南米の最高神、山の心臓、煙る鏡────黒き太陽の化身たるテスカトリポカ。

 

「てめぇがいるのはあれか? クベーラの配下が戦ってるってのがあるのか?」

 

「……」

 

「無視……ってわけじゃねぇな。禅ってやつか? 儀式なら邪魔したな」

 

 手を合わせ、禅を続ける男の姿は────あまりにも質素だ。無地の袈裟に、蓮華の耳飾りがあるだけの、あまりにも質素な姿。しかし、どこか神秘さや荘厳な空気を放っていることが、この男が神や、それに近しい存在であることを示している。

 

「……かの童、その重荷は、私では降ろしてやることができません」

 

 曼荼羅を瞳に宿した男が目を開けて、呟く。

 

「あん?」

 

「いえ……私であろうと、西洋や中東の主であろうと、あなた方神であろうと……童の重荷は背負えません」

 

「ああ、だろうな。あの戦士は手にしたもの、背負ったものは呪いだろうが全て持っていく」

 

 きっと、前世であっても無自覚に背負い続けたのだろうと、呪いを授けたことで一端を見たテスカトリポカは思う。どうあってもあの男────巡という男は、背負ったものを捨てるつもりはないのだろう。手放すことはないのだろう。霊薬を原液で飲んで忘れるどころか封印してしまったのも、何か因果というか、そういう星の定めの下に生まれたのではないかと思うほどに、巡は多くを背負っていく。

 

「しかし、童の心を清め、歩き出す手助けくらいはできましょう」

 

「具体的には?」

 

「御供養とは、死者のためにあるもの────しかし。それと同時に、生者のためにあるものですから」

 

 にっこりと、アルカイックスマイルと呼ばれる笑みを浮かべて、袈裟の男はどこから取り出したのか数珠を取り出して手を合わせる。

 

「かの執行者が喜劇で決別を促すのであれば、私は御供養を通してあの童の背を押しましょう」

 

「珍しいこともあるもんだ。あんた、個人に固執するような質じゃねぇだろ?」

 

「ええ、それはもちろん。しかし、仏とは誰であろうと門を開きましょう。それが死者を大事に背負い、歩き続けて寺へとやってきた童であれば、御供養してやるのが務めなれば」

 

「なるほど。俺はそういう文化圏の神じゃないから分からんが、インドラなら分かるかもしれん」

 

 大嶽丸が生み出した巨大な城が崩れつつある中、最も怪魔がいる場所で相も変わらず血みどろになって戦っている巡を眺めるテスカトリポカと、袈裟の男。

 

 巡の戦い方は、己の命も含めて駒にしている。文字通り修羅や羅刹が如き戦いを前にして、人の負の感情を喰らい、人の血肉を貪る怪魔ですら怯み、一瞬動きが止まる。今の戦士達が選択することがない、古い時代────加護など存在しなかった時代の、本当に古い時代の戦士達の戦い方だ。大嶽丸の城の最上階で起こった美しさすら感じさせた流星群のような大爆発が巡の自爆とは、ここにいる戦士の多くが夢にも思わないだろう。巡の戦い方を知っている人間であれば、あれが巡の仕業であったと分かるだろうけれど。

 

「テスカトリポカ様」

 

「あん?」

 

「この先も、彼は戦うのでしょうね」

 

「だろうな。あいつが中心となるかはともかく、あいつは陰陽の陰だ。大耀明日夢を中心とした陽の楔に対して、一人で陰の楔を担えるやつを運命が逃がすことはねぇ」

 

 残党狩りに励んで素材を山ほど集めている巡の体に浮き上がっている呪いの刻印の数々。禊の女神禍津日、疫病の女神疱瘡神、雷霆の神王インドラ────そして、袈裟の男と話している煙る鏡テスカトリポカ、さらには五家の神獣から渡された呪いを背負ってもなお、巡は人としての形を保っている。

 際限なく呪いを背負う底なしの呪いの器は、これからも面倒事に巻き込まれていくのだろう。口では嫌だとか、なんて美しいのとか、ちくわ大明神とか、サプライズギャラクティック・ノヴァ理論とか色々言いつつ、素材やら何やらを求めて嬉々として渦中に飛び込んでいくのが目に見えている。

 

「そもそも、あいつの夢は平和な老後だ。それを叶えるための苦難は斬り捨てていくだろうよ」

 

「なるほど。聞きしに勝る面白い童のようですね」

 

 であれば、と袈裟の男は改めて手を合わせて力を込める。その力はやがて梵語となり、曼荼羅となり────転輪へと変わってから、巨大な鐘へと姿を変えた。

 

「此度の戦の終わりを告げる手助けくらいは、私手ずからさせていただきましょう」

 

「へぇ? 除夜の鐘をあんた自ら鳴らすのか」

 

「ええ。準備をしていた日ノ本の仏徒達には申し訳ありませんが……その力を全てここに集めれば、この通り」

 

 面白いものが見れると、テスカトリポカは笑みを浮かべてその瞬間を見届ける。突如として現れた聖なる力を感じ取ったのか、感知能力が高い戦士や、結界術に長けた戦士、そして仏門の怪魔が涙を流しながら手を合わせて山の方を見る中────

 

「私は王であり、しかして転輪聖王にあらず。私は真理の王。法輪は真理によって回るもの。無上の輪を回すのは私ではなく────」

 

 ゴォン、と鐘が鳴る。煩悩を消し去る除夜の鐘が鳴る。

 

「空虚を知り、中道を知った。覚醒の(とき)、来たれり。私は知るべきを知る者」

 

 鐘が鳴るたびに、怪魔が消え失せていく。苦しむことも、何かを感じることもなく、消滅していく。

 

「三昧を修め、苦諦を修めた。覚醒の(とき)、来たれり。私は修めるべきを修める者」

 

 鐘が鳴るたびに、戦士達の傷が癒えていく。戦いの終わりを告げる鐘が、戦いで傷付いた者の傷を癒していく。

 

「集諦を断ち、七欲を断った。覚醒の(とき)、来たれり。私は断つべきを断った者」

 

 煩悩を消し去る鐘が日本中に鳴り響く。新年を告げる除夜の鐘が鳴り響く。純粋な浄化の鐘の音は現世に溢れ出た怪魔を消滅させるだけに留まらず、ダンジョンから出ようと暴れていた怪魔をダンジョンの奥へと追いやる程の力を発揮していた。

 

 鳴り響くこと、108回。煩悩を打ち払う鐘は梵語となって空へと流れて消えていく。一年分の祈りが込められた除夜の鐘によって、大嶽丸の城は完全に崩れ落ち、怪魔は消滅し────討魔決戦の残党狩りは終止符が打たれた。

 

 まだまだ刈り取るつもりだったらしい気狂いの絶妙に情けない呻き声が聞えるような気がしないでもないが、とっても美味しいレイド周回とはいつしか終わりを告げるもの。鵐頼による勝利宣言が成されたことで勝鬨を上げる戦士達を見届けた袈裟の男は姿を消し、テスカトリポカも煙となって消える。

 

 最後の最後で少々グダグダしたが、討魔決戦大嶽丸、人類の勝利である。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

「御供養の他に土地の管理とか聞いてないんだが?」

 

『ヒヒッ、口より手を動かせ~。いやぁ、大変だなぁ?』

 

「クソがッ!!」

 

 大嶽丸をブチ転がしてすぐのことだ。正月休み返上で工事業者の皆様が俺の地元の復興を手伝ってくださったお蔭で、正月明けにはもう俺の地元は人が住める状態になっていた。建物? 俺の実家と師匠の道場兼家しかありませんが何か? しかもその肝心の師匠はまだ入院中だし。目が覚めてすぐにリハビリには突入したようなので心配はしてないけど。俺がかけた呪いのお蔭でまだまだ師匠はお元気に過ごしてくれそうで安心。

 

 まぁ、それはそれとして。現状、俺の地元の生存者は俺と師匠だけなのだ。その中で現在、土地の管理とかなんか色々やれるのが俺のみなわけで────鵐頼首相の根回しの結果、土地の管理者が俺ということになり、死ぬほど面倒くさい仕事を虚無虚無しながらやっているわけだ。目の前には、逃げ出したくなる書類の山。でもこれをしないと死ぬほど面倒くさいタスクが増える。具体的には、後ろ暗い大人がここの権利を主張して面倒なことになる。まぁ、人がいない土地を国が管理するのは分からんでもないが……貴様らに渡す土地はねぇ!! 呪ってよろしいか?

 

「くそぅ……本来なら今頃初詣に行ったり、御供養の準備したりで忙しくしてるはずだったのに……」

 

『ま、人生上手くいかねぇもんさ』

 

「師匠が退院したら管理者を師匠に押し付けてやる……」

 

 俺はさっさとマラソンがしたいんだ……御供養を終わらせて、マラソンがしたいんだ……あの除夜の鐘のせいでノルマまで到達しなかった怪魔の素材を集めるためのマラソンがしたいんだよバーニィ。

 

「まぁ、この七面倒くさい作業をしつつ思うことは……討魔2どうしようねって話」

 

 討魔2において東京校は後半まで出番が無くてな? 東京校が介入する時にはもはや手遅れというかもうボスラッシュです、ってのがザラなの。初代主人公と討魔2主人公の夢のタッグは運営的にも強すぎるらしい。

 

 じゃあ転入すればいいじゃんって? ところがどっこい、転入には成績が上位じゃないとダメ。俺は学力が中の上くらいの成績なので、転入は無理。翡翠先輩とローズ先輩のご指導あってこの成績なのだ。じゃあ今流行りの交換学生に自己推薦すればいいのかとも考えたが、あれは成績の他にあれこれと手続きが面倒くさい。でもバッドエンドが走ってくるのが分かっているのに、動かないわけにはいかない。どうしたもんかなぁ……村正爺さんにも会ってないし、DLC系もあるし……

 

『どうせあっちから面倒事が来るだろ』

 

『それよりも我が主よ、お前にはもっと考えるべきことがあるだろう?』

 

『ブルルッ……』

 

 クソがッ! 味方がいねぇ!! しかもこいつら書類仕事ってやつをやらねぇタイプだから書類作成についてアドバイスをもらうことすらできねぇ!!

 

『正直な話。お前三人共娶った方が早えだろ。色々鑑みてもよ』

 

「不義理」

 

『選ばない方が不義理だと思うが?』

 

「ソソソソソ……」

 

 うん、分かってはいるよ? 問題の先延ばしをしてるだけなのは理解してはいるよ? でもね、俺は恋愛弱者。選ぶことができないやつとは敵にも味方にもなれないとはよく言ったものだが、俺は人を選ぶということができない人間。交友関係という点においては選ぶことができるが、恋愛とかになると途端にダメになる。前世? 恋愛とはご縁がない彼女いない歴=年齢ですが何か。

 

「今更ながら、更地になったとはいえ、町一つ分の土地貰っちゃっていいのか、俺。そのうち師匠に管理者押し付けるけど」

 

『五家の土地になるんだからいいだろ』

 

「え、俺中間管理職になんの?」

 

『ああ、やっぱ聞いてなかったなお前……』

 

 ? 俺は何か聞き逃してしまったらしい。新年早々お片付けの後に鵐頼首相の懐刀────まさかのハンバーガーショップの店長だった千方さんだ────の付き添いのお偉いさん方や五家の人達とお話はした覚えがあるが……あれ? そういえばあの時何を説明されたんだっけ? あのとんでもない浄化の力が込められた除夜の鐘のせいで貴重な素材がノルマに到達しなかったショックが抜けず、ほとんど記憶にないんだが……あの除夜の鐘鳴らしてたの、絶対とんでもないやつだろ。仏門の高位の人が来てただろ、絶対に。

 

『お前、五家の分家になったぞ。五家連名での分家だから扱いがちょっと不思議なことになってるが』

 

「え、俺の苗字変わんの?」

 

 どうしよう、戸籍謄本とかあれこれの仕方知らない……前世で学べばよかった……確定申告はインターン先やバイト先でやり方教えてもらったから問題ない。サンキューホテルレストランの人。フォーエバー定食屋の御夫婦。いつまでもお元気で大学のカフェテリアの厨房の皆さん。

 

『本格的に外堀埋まってきたなお前』

 

「嫌じゃ嫌じゃ。人の心案件*1なんぞになりとうない。だから狂い火(クトゥグア)呼ぶね……」

 

『おいあいつはヤバいからやめとけ』

 

「May Chaos!! Take the World!!」

 

 新年明けてもバッドエンドは音もなく走ってくるから油断ならねぇ……!! やっぱりこの世界は一度焼き溶かしておくべきではなかろうか。焼き溶かすのはフォンダンショコラだけでいい? バレンタインを連想させるお菓子の名前を出すのは止めるんだ。アスランもモウヤメルンダ!! って言ってくれてるから止めるんだ。そもそもまだ御供養ができてないのに、色恋沙汰に現を抜かすなんて赦されないんDA。

*1
男主人公バッドエンドルートの一つ。種馬エンドとも呼ぶ。




というわけでぐだぐだだが討魔決戦大嶽丸はこれで終わりだ!!あとは討魔2に至るまでの閑話を挟んで討魔2に突撃かますぜ!!
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