恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者 作:エヴォルヴ
初心者向けダンジョン【惨刑の迷宮】は【亜人の洞穴】とは違って、縦穴のような形状でダンジョンが構成されている。まぁ、階層的なものになっており、下るのは楽だが上るのは無傷でないと難しい塩梅。これも罪人が逃げるのを防ぐ壁となっていたのだろう。
深い場所ほど罪が重いとされており、最下層である3階層目には餓鬼の親玉である『餓鬼の王』という大きな餓鬼が鎮座している。周囲にはもちろん餓鬼────なのだが、残念ながら亜人の狂戦士のように気に入らない餓鬼を自ら殺してるせいであるのは餓鬼の亡骸。そのアムリタ結晶よこせ。
「ではこちらに用意いたしましたのは神代回帰の火種」
「ハクスラ民御用達アイテム来たな」
「999個じゃ足りないアイテム来ましたね」
「これを────砕く!!」
火種と言いつつ見た目は完全にアムリタ結晶であるそれを握り潰すことで、ダンジョンに変化が訪れる。とはいえ、今回変化するのはボスだけなのだが……このボスに変化が訪れるというのが大事なのだ。
「グゲゲゲッ……!」
ボロボロの腰巻だけを装備していた餓鬼の王、その装備はまるで戦場の死体から鎧を剥いで繋いだかのような外見へと変わり、腹だけが膨れた痩せた身体や、肉がなく、皮だけとなった顔を覆い尽くしていく。
これが神代回帰の火種という特殊なアイテムの使用用途である。要はダークソウル2に登場した篝火の探求者的な効果を持っており、ダンジョンに入った直後に使えば出現する敵がボス撃破まで次の周と同じ強さとなり、ボス前で使えばボスだけが次の周の強さに変わる。これは休憩所で重ね掛けすることが可能だ。ただし、ボスを撃破した時点で効果が消えてしまうので、ボス以外を殲滅して休憩を繰り返すことでドロップアイテムを稼ぐのがマラソンのやり方。拾えるアイテムもリセットできるのでオススメ。ちなみに、DLCエリアには神代回帰の火種が確定で二つ落ちているので、何度でも神代回帰の火種回収ができてしまう。一つ使って二つ回収することで常に収益プラスである。なんでそんなに回収できるシステムになってるかって? 死ぬほど使うからに決まってるだろうが。
俺達のようなハクスラマラソン民による高速周回でも使うし、武器や防具、アクセサリーの強化にダンジョンから発掘された朽ちた武器などの修理及び付帯効果の厳選……もう本当に使いまくるのだ。ちなみに仙骨マラソンでも使っていたりする。朝活だとボスまで攻略するのが難しいので、時間が有り余る深夜にこっそりと。
まぁ、それはそれとして。神代回帰の火種の効果によって装備が完全にボスの風格をゲットした餓鬼の王は、性欲よりも闘争心が溢れているようで……完全武装で前に出た俺を注意深く睨んでいる。この広さであれば鉄華荒轟でもいいが、今回の試運転は鉄華荒轟ではなく、人魔戴冠の方だ。
「さてと……やろうか餓鬼の王」
「グゲゲゲッ……!」
鳴き声は相変わらず何だかよく分からんが、2メートル級のサイズの怪魔がどでかい三日月斧を持っていて、しかもダメージが通り難そうな大鎧を装備しているとなると凄く威圧感がある。砕いた神代回帰の火種は一つ……二周目くらいの強さを誇っているはずだ。最近はワンパンが常な戦いばかりしていたからどのくらいの塩梅なのか分からんが、多分ワンパンと見ていいだろう。
「「…………」」
睨み合いが続くこと数秒。先に動いたのは餓鬼の王。
「ゲゲゲゲゲゲッ!!!」
大振りに振り下ろされる三日月斧は、下手な防御を許さない圧倒的な殺意と火力を誇る。軽くステータスを上げた程度の初心者では、間違いなく成す術もなく殺されて死に戻ることになるだろう。
「行くぞ、ゲリュオン」
俺が呟いた瞬間、俺の装備が一新される。
黒い稲妻がパチパチと音を立てて帯電する帽子と外套と、いかにも高級そうな、しかし動きやすい紳士用のスーツとなった俺の装備は、餓鬼の王による一撃をほとんど無効化してみせた。身も蓋もない話をすれば変身バンク無敵というやつだ。
「え、何その帽子と外套知らん……こわ……」
「俺を、呼んだなッ!!」
「「ナニモン・ナンデス」」
騎士神、戦神の側面を持っている怪魔、ゲリュオン&クリュサオル────そのゲリュオンだけを人魔戴冠(呪い)で使うとこうなるのだ。騎士の姿でも、戦士の姿でもない、貴族や貴公子っぽい姿というのはどういうことなのだろうか?
「そこんとこどうなんだよゲリュオン」
『騎士や戦士とは戦うだけが責務ではない。仕える主と共に貴族の集会にも行くだろう』
カタカタ、と俺の下顔半分を覆い尽くす仮面が口を開いた。この仮面もランダム要素があって面白んだよな……口を全部覆い尽くす時もあれば、縦半分を隠す時もあるのだ。……しかし、戦場で戦うだけが責務じゃない、かぁ。
「つまり……
だからセットで使った時の姿と全然違うのか。
『それと、現代に合わせた姿という側面もある。お前が望むならいつもの鎧にもするが、どうする』
「いや、今回はこっちでやるわ」
『そうか。忠告だが、この状態では剣は使えん。気張れよ』
まぁ周回で剣を抜くなんて、とんでもないイレギュラーだろうしな……そこら辺は仕方あるまい。呪い版であれば他の武器も使えるし、そっちでやりくりしていこうじゃないか。
「んじゃあさっさと決めようか────ッ!!」
どでかい武器だった時よりも使いやすくなったお蔭で、最近鉈よりも使っている気がしないでもない妖蜂連花の加速装置を起動。黒い稲妻と共に餓鬼の王の懐に潜り込み────全力の拳を叩き込む。
「腹ァ!」
「ゴッ!?」
一撃目、腹。鎧を纏っている敵、もしくは骸骨系の怪魔は斬撃よりも打撃を叩き込んだ方がダメージが通りやすい。周を重ねるごとに、そういう弱点を突く構成を考えるのも楽しいし、弱点なんて関係ねぇ!! と言わんばかりのゴリ押しで突破していくのも楽しい。そして何より、自分が組んだビルドがガッツリ噛み合ってくれた瞬間が一番楽しいんだから。
「膝ァッ!!」
「ギィッ!?」
腹に叩き込んだ一撃で怯んだところに、刹那無心流拳術獄門を応用した震脚を噛ませて鎧ごと餓鬼の王の膝を粉砕。片足だけ粉砕したことでバランスが崩れて、こちらへと倒れてくるので……その倒れ込みに合わせてアッパーカット。面頬に守られていた前歯を叩き折った感触があったので、間違いなく大ダメージだ。
「ゲェアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「ハハハッ!! 元気だなぁ、おい!! 流石二周目強化個体!!」
膝を粉砕されたのが、顔面を粉砕されたのがどうしたと言わんばかりの咆哮と共に発生する、強い瘴気。二周目個体なんだから使えて当然だろうと言わんばかりに使ってくる、常世の穢れ。だが、その程度で俺が堪えるとでも思うてか!! この程度の瘴気は禍津日様んとこで戦える穢れ個体や、俺のマラソン会場各種よりも薄いわ!!
「穢れ発生で再生、形勢逆転とか思ってんだろうが甘いわ馬鹿め! 対策は持ってきてるんだよ」
そもそも使わなくてもいいんだが、これもちゃんと通用するかどうかのデータが欲しいのでぶっ放す。フックバスター六式のバレルに装填されていた、銀色の弾丸を天井に向かって放つと────ボスエリア全体に広がっていた常世の穢れが打ち消される。
「ゲ、ガァッ!?」
「っしゃオラッ!! やっぱいい仕事するぜパリピイケメンボーイズ!!」
二年生になるパリピイケメンボーイズは、百鬼夜行酒吞童子戦、討魔決戦大嶽丸やマラソンに連れ回されたことで常世の穢れの脅威を肌で感じ取ったらしく、もし一般人の避難が遅れている状態で常世の穢れが発生した場合、一般人が確実に死ぬか意識不明の重体で病院行きになると確信。もう凄い勢いで常世の穢れに一時的にでも対抗できる結界を生成する弾丸を作成してみせやがった。流石に討魔決戦には間に合わなかったようだが、本当にいい仕事しやがるよあの三人組。あいつらいなかったら俺の装備はもっと貧弱なものになっていたと言っていい。入学当初から声をかけて本当に良かった……
「とはいえこれは一時的な結界だからな……畳ませてもらうぞ!!」
バフは完全に温まってフルスロットル。この状態であれば、餓鬼の王くらいの重さであれば持ち上げることだって可能。と、いうわけで。加速装置を使って前ステップを超高速化。驚愕している餓鬼の王を掴める間合いに踏み込んで、バフを盛りに盛った力で持ち上げながら飛び上がる。
「これが俺の────スクリューパイルドライバーだァアアアアアアアアッ!!!」
「ゲバアアアアアアアアアアアアアッ!!!??」
「「クソ技止めてね」」
加速装置を利用した高速回転によって威力を高めたスクリューパイルドライバーにより、餓鬼の王の首をへし折る。鎧があろうが高所から叩き付けられてしまえば意味がないんだな、これが。
「ザンギ専を舐めるな……!!」
「たまにマリーザ使うじゃんお前」
「たまにディージェイとかガイルも使いますよね」
気分転換って大事だろ。……にしても、強化個体とはいえ餓鬼の王に2~3分かけてしまった……ブランクデカいね。マラソンにかまけて加護の検証とかサボっていたから、色々と見直すべきところを見直していかないとダメだな……あと結構体に違和感。ズレてんなって感じがあるし、一時的に神様に近付いた後に人間に戻ったのがデカいかも。
「ところで餓鬼の王のアムリタ結晶と素材って何に使ったっけ」
「「鈍器」」
「オッケー、思い出した。RTAで繋ぎで使ったらダメージ計算ミスって再走になった時のやつね」
嫌な思い出を蘇らせてくれるものだ。討魔2の……というか、討魔シリーズRTA走者だった俺にとって苦い思い出であるダメージ計算ミスによる再走。嫌な記憶過ぎて記憶の奥底深くに押し込めていた苦々しい再走を忘れていたとは、何たるガバ。再走の記憶も糧にするのが走者というものであろうに。
「というかゲリュオンとクリュサオル倒してたのかよ」
「マダラになってたって話する?」
「ええ……」
まぁ、何だかんだでお世話になってるんだけどな。人魔戴冠で留骸に続いてトップクラスに熟練度が高まってきているやつらだ。これからもお世話になるだろう。ゲリュオン&クリュサオルでも、ゲリュオン単品とクリュサオル単品でも、間違いなく。ブーメランも使えるし。
「さて、ダンジョンから弾き出されたらどうします?」
「とりあえずまた回す?」
「んー……一旦切り上げようぜ。ちょっと早いけど昼飯行こうや。奢るけど、何食べる?」
「「鰆」」
「あいよ。いいとこあるかねぇ……」