恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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ボウ×ト×ボウ

 早いもので春休みが明けて新たな波乱の物語が始まる4月。入学式などの行事を恙なく終えて、授業が本格的に始まる討魔学園京都校の一角にて、我らが気狂い一号模歩巡はアクセサリーを磨きながら鬱陶しい視線をスルーしていた。

 

 この鬱陶しい視線の原因は、巡が編入生であることが大きいが、そこに対抗戦を見ていた生徒の好奇心、疑念、嫉妬、敵愾心などなどが加わり────さらに京都校の実力者からの推薦があったとか、一年間海外に行っていた、剣山の如き気配を放っていた双子とどういうわけか親密な関係を見せていたことなどが加わっている。

 

 もちろん全部が全部否定的な視線ではないことを巡も理解してはいるが、鬱陶しいことこの上ない。由緒正しい学園にて研鑽を積んできたという自負がある人間が多く、プライドが高い生徒の相手をするのは死ぬほど面倒くさいのだ。だからと言って叩き潰すとかはしない。そんなことをして、面倒事が押し寄せてきても困るのである。

 

「視線が鬱陶しいな」

 

「口にしてなかったことズカズカ言うスタイル嫌いじゃないよ」

 

「ははは! 言わねぇと伝わらねぇだろ?」

 

 近付くんじゃねぇぶっ殺すぞと言わんばかりのオーラを撒き散らしながらアクセサリーの手入れをしていた巡の正面に座ったのは、討魔決戦にて大嶽丸が陣取る城に突入して金鬼を撃破及び大嶽丸討伐の一助となった男、千磁光銘。討魔決戦を経て更なる研鑽を積んでいる彼は、いつもと変わらない快活な笑みを浮かべている。目の前の男にスケープゴートにされたことを忘れているかのようだ。

 

 そんな光銘、討魔2の主人公の親友ポジに収まるキャラであり、恋愛ルートもしっかり用意されている存在だ。なお、リマスター版からの登場なので巡が知らないのも無理はない。運営側が初手孤立無援系はリマスター前にやったし、せっかくならリマスター版はお助け枠用意しとこで実装された男である。巡? 存在があったり無かったりする、プレイヤーのさじ加減でいたりいなかったりするお助けキャラですが? ちなみに一部界隈では巡利用は甘えとかいうたわけた風潮があったが、運営がそれを「うんうん、そういう縛りもあるよね。でもそれを他人に押し付けてるのはダメだよね?」と公式アカウントで咎めてそういう風潮が消えるという珍事が発生した。どういうこった。

 

 ちなみに光銘の攻略ルートはフラグを消化しないと恋愛ルートが解放されないので気を付けよう! でないと、別のキャラの恋愛ルートに突入してトロフィー獲得ならずとか稀によくあるからね。フラグ消化はその気になれば簡単なので頑張ろう!

 

「ダチが────ああ、陽之輪兄妹のことな? あいつらが機嫌よさげにしてたから聞いたらよ、お前が原因らしいじゃねぇの」

 

「ああ、遥斗と麗良な。マラソンに付き合ってもらってる」

 

「へぇ、あいつらマラソンやるのか」

 

 会話が噛み合っていないのは勘のいい諸君であれば理解できるだろうが、光銘はそれに気付いていないし、巡は気付いているが訂正するのも面倒なので訂正していない。アンジャッシュしているが、気にしたら負け。

 

「あいつらマジで俺と……薔薇苑くらいしか交流してなくて孤立気味だったからありがたいぜ」

 

「ほーん……まぁ、下心マシマシで接触すればそらそうなるよねって」

 

「あー…………まぁ、あいつら面がいいからなぁ……」

 

 苦笑した光銘が脳裏に思い浮かべるのは、陽之輪兄妹に接触してきた輩が大抵下心で近付く不埒な輩であったこと。その全員が相手にもされずに撃沈していたこと。ならばとダンジョンでいいところを見せて関係を深めようとしたが、陽之輪兄妹は編入してきてすぐに海外へ行ってしまった。その短い期間で交流に成功して連絡先交換まで到達したのは、光銘と暮奈の二人のみ。うーん、ガードが堅い。セキュリティ意識が誉れ高い。

 

「羽津とも相性良さそうな感じするんだけどさ、羽津はほら、会社もあるから忙しくしててよ」

 

「あー……まぁ、確かに」

 

 まぁ、それはそれとして────光銘の視線が鬱陶しい発言によって視線が散ったこともあってか、近付くんじゃねぇぶっ殺すぞオーラを引っ込めた巡。東京校では行儀の良い振りをしていただけで、いつでもそういうオーラを撒き散らすことができた。京都校でそんなことしていいのか? 巡の予定だと一年だけしかいないので別に問題ないのである。

 

「つか、そんなアクセサリー購買で売ってたか?」

 

「錬金釜をご存じない……!?」

 

「錬金釜って、あのあんまし良くねぇ生徒のたまり場になってる教室にあるあれか? 使ったことねぇな……」

 

「? カリキュラムで違和感あったけど、京都校って錬金術の授業ない感じ?」

 

「ああ。何だったか……10年前くらいに選択科目になって、誰も選ばなくなったとかで科目もなくなったな」

 

 愚かしいことに、購買である程度のものが手に入ることもあってか錬金術の価値が京都校では薄れてしまっていた。東京校は京谷という錬金術の専門家がいる上に、霊薬をバカスカ使うはアクセサリーを作って狂喜乱舞する気狂いがいたお蔭で錬金術が有用なものであると理解している人間が多い。

 

 対する京都校は京谷クラスの錬金の専門家はおらず、その代わりに学園の購買である程度品質の高い霊薬やアクセサリーなどを購入できるようにした結果、自ら作るという考えが薄れてしまったようだ。サポートを手厚くするのはいいが、どこを手厚くするのがいいのかが分からないままやらかした感がある。

 

 では制度などの見直しをすればいいのでは、という考えに至りそうなものだが、京都校は10年前からジョブという革命的なシステムを開発することに躍起になっている。見直しをしようにも色々と手が回らないのも現実。それで学園の風紀が乱れているのはいかがなものか。

 

「ところでそのアクセサリーの効果ってどんな感じだ?」

 

「持久力と装備重量10%アップ。代わりに被ダメ5%アップ」

 

「……デメリット付きとはいえ、破格じゃねぇか?」

 

「こういうのがあるのに、皆どうしてアイテム合成しないのか疑問なんだけど」

 

 存外ズバズバと物を言う性格の巡の言葉が各方面に突き刺さる────と思いきや、そこまで突き刺さらないのは、京都校の錬金室が不良のたまり場となっており、そこが夜な夜なよろしくないイベントの開催場となっているためだ。昼間でもそういうことが起こるかもしれない、もしくは近付いたらカツアゲとかされそうなところに誰が近付くのかという話である。

 

 では春休み期間中にどうして巡がそういう不埒な連中と鉢合わせなかったのかと言えば、春休みで生徒が学園にはいなかった────寮にいる者はいたが────ことと、普段マラソンでは発揮されない幸運が発揮されたこと、錬金釜の火が灯ったことで一種の結界となっていたこと、何より巡が割合的には少ないが荒覇岐という現人神であったことが要因である。

 

 荒覇岐は脛巾(はばき)の神や、足の神とされることもある。そこから発展して下半身を癒す神や────性に関する神としても信仰されることがある神だ。なお、これは現実の話。討魔ではどうかと言えば、山に暮らしていた人の営みを見守ってきた精霊が神となったことから家庭の神、森の恵みや土砂や洪水などの試練、様々な側面を見せる山の神、己に罪ありきと怪魔を喰らい続けて堕ちた戦いの神など……ゲリュオンとクリュサオルもびっくりなレベルで様々な側面を持つ。

 

 では、巡がどの荒覇岐なのかと言えば、その時の状況によって本人の意志とか関係なく勝手に切り替わっている。普段は家庭の神としての側面が出ていることもあって、掃除中も家庭の神としての側面が濃い。一般家庭で団欒に性行為を上げるやつがいるだろうか? ……いるかもしれないが、それはマイノリティ。性行為は夜の営みであって、団欒ではない。家族の団欒と夜の営みは、ファミレスとバーくらい別の枠組みにいる。ゆえに神聖な学び舎でそういう不埒なことをやらかす連中を弾いていたのだ。なお、そのうちエンカウントして叩き潰すかもしれないが、それはそれ。

 

「アイテム合成なー……東京校じゃ生徒も結構やってんだもんな。俺もやってみようかな」

 

「始めるならまず基礎本読むのがいいぞ。東京校のと違って、京都校の釜って安全性考慮されてないから。手入れ用品も取り揃えておくといい。高いけど」

 

「ざっとどんくらいだ?」

 

「まぁ、合計で8万くらい?」

 

「んー…………長期で見れば安い、か?」

 

 脳内で算盤を弾いたらしい光銘は思い立ったが吉日と言わんばかりにタブレットを取り出し、液晶画面が巡に見えるようにテーブルに置く。

 

「セールもやってるみたいなんだが、どれがいいんだ?」

 

「ちょっと拝見。えーと……粗悪品、ギリ良品、お、このブランドのがセールは買いだろ……」

 

 また視線が増えてきたが、そんなこと気にせずにポチポチ錬金用品の選別を行っていく巡。初心者向けの手が出しやすく安価で、しかし下手な上級品よりも長く使える間違いない逸品達を厳選すること約5分。リストアップされたのは、初心者から上級者まで使いやすい錬金用品の数々……お値段合計で約6万9千円。

 

「こんなもんか」

 

「ん? この油、激安セールに入ってなかったか?」

 

「ああ、あれ粗悪品。数年前に流行ったんだよ、オリーブオイルで薄めた粗悪品」

 

「なんでオリーブオイルなんだ……?」

 

「色が似てるんだよ。粘度は全く違うけどな。粗悪品掴まされたせいで在庫抱えてるバイヤーの人達がセールに紛れ込ませるのがたまにある」

 

 京谷から話を聞いていなければ、巡も粗悪品を掴まされていたことだろう。安いからと言って飛びついたらそれが罠だった、ということはザラにある。

 

「なるほどなぁ……そういう目利きとか情報収集できねぇと、始めるの難しいわ」

 

「そういう敷居の高さが、錬金とかアイテム合成のハードルを高めてる節はある……京谷先生という存在のありがたみを感じる」

 

「何にせよ、この品物届いたら俺もアイテム合成とか初めてみるわ! ……あ、届いたら検品手伝ってもらってもいいか? 使い方とかも経験者が見てくれてた方がいいだろ?」

 

「ん、了解。……っと、あんの馬鹿共め……集合時間指定しておいて先行ったのか」

 

 パーティーを組んでいる場合、パーティーの誰かがダンジョンに入ったら、タブレットに通知が届くようになっている。この通知自体は初期バージョンからあるシステムであり、死に戻りがあるとはいえ、先走った者をカバーするための補助機能だ。もちろん通知を切ることも可能だが、推奨されていない。

 

「ちょっとダンジョン行ってくる。遥斗と麗良が先行ってるみたいだからさ」

 

「お、マジか。俺も付き合いたいとこだけど、ちょっと部活で呼ばれてんだよな」

 

「じゃあまた今度だな。マラソンに付き合ってもらおう」

 

「ん? マラソンとダンジョンに何か関係があんのか?」

 

 憐れ光銘。ハクスラ民兼マラソン狂いに足首を掴まれてしまった。彼は間違いなく抜け出せなくなるだろう……親友枠にいるがゆえに。可哀そうに……可哀想にねぇ……

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 さぁ、やってまいりました第n次熟練度上げ&素材マラソン大会。

 今回のメンバーは我らが気狂い一号模歩巡、一番踏み抜いたエンドは人類滅亡ルートメイケイオス陽之輪遥斗、暴れ出したら止まらない理性あるタイプのインテリ蛮族陽之輪麗良。フルメンバーではないが、フルメンバーであるこのハクスラ民共の憐れなる標的となってしまったのは初代討魔DLCダンジョン凱蟲百足城────ではなく、色とりどりの水晶が花のように咲いている『八束ノ逢殿(やつかのおうでん)』という異界化している巨大な屋敷である。

 

 お察しの通り、このダンジョンはあなたの血肉全部食べたい系お姫様の八束爬戯が封印されているダンジョンである。ちなみに蜘蛛や爬虫類の特徴を持っている怪魔ばかりだが、人型である。しかも美形。高難易度ダンジョンだが、敵は全員パリィもできる。というかパリィしてエルデンリンチするのが基本的な戦術となるエリアである。

 

 そんなダンジョンに突撃かました馬鹿共三匹に気付かないわけもなく、屋敷の奥でコロコロと花のような笑みを浮かべていた八束爬戯が口を開く。

 

「ああ、素敵なお客様がいらっしゃったようですね」

 

「は……しかし、お言葉ですが姫様……心から嫌な予感がしているのですが……」

 

 あの戦いを見て嫌な予感がしないやつがいたら、そいつはずぶの素人か、どんな罠を使われようが弱点を突かれようが傷一つ負わずに勝てる、そんな圧倒的強者だけだろう。

 

 さて、そんな嫌な予感がしていたのは八束爬戯のお付きの怪魔、紅蜘蛛。赤い髪に赤い瞳の美麗系怪魔であり、巡とは人間に化けた状態で学園祭で会ったことがある怪魔だ。得物は鋏を二つに分けたような外見の二刀である。

 

 人間の戦士と戦い続けた歴戦の猛者であり、八束爬戯に仕えていなければダンジョンの主になっていてもおかしくないレベルの怪魔の勘は侮れない。その嫌な予感は今から的中するのだから。

 

「────────やがて、火は熾る

 

 吹き荒れる魔力の奔流が、屋敷に住まう怪魔全員に緊張を与える。とはいえ、魔力や霊力の奔流というのは御しきれていないものが溢れた結果なので、洗練された魔法使いであればある程この奔流が起こらない。おとぎ話を魔法に変える万莱も奔流が起こらないように特別な訓練をしているくらいだ。

 

鎮魂の火。混沌の火。不吉の三本目。表裏たる安寧と破滅。全てが始まり、全てが終わる黄金の火は高らかに、世界に混沌の産声を上げる

 

 詠唱している男の目から、火が零れる。ただの火ではなく、黄色い────長年生きてきた中で見たことがない炎の色に嫌な予感がしたのか、それとも詠唱者が弱いと考えたのか……下っ端の、人間を舐め腐っている怪魔がその男の血肉を啜るために飛び出した。

 

「キィイイエエエエエッッ!!」

 

 突然の奇襲に巡も、ベールを纏った暗殺者のような装束の麗良も反応できない……ということではなく、普通に無視して通した。詠唱はもう終わりを告げるため、止める必要もない。

 

ああ、世に混沌あらんことを(ユア・バースデイ)

 

 詠唱者であった遥斗の瞳から零れた黄色い火が、奇襲してきた怪魔に全弾命中する。全盛期のそれを再現したその火をゼロ距離で喰らえばどうなるかなど、喰らったことがある者、使ったことがある者であれば察するだろう。

 

「アアアアッ!!? アアアアアアアアッ!!? アアガアアアッガががアアアああアアあッッッ!!!?」

 

 焼き溶かされて絶叫しながらのたうち回って灰となった怪魔。悲しきかな、初見殺しである。ちなみに再現しているのは威力と効果だけであり、本家のように生命を全て焼き溶かすとかはできない。

 

「よし、再現できてるな!!」

 

「おお、すげえな。マジで狂い火再現してんじゃん。どうやったん?」

 

「魔法を色々連結したんだよ。お蔭で今んところMPカッツカツ。ロマン技だな」

 

「詠唱が面倒なのでやっぱり物理が最適解では?」

 

「麗良並みに筋力上げてりゃな??」

 

 これを見せられてはもう手加減することはないだろう八束爬戯率いる怪魔達の殺気を感じ取りつつ、巡達は三日月のような禍々しい笑みを浮かべて動き出す。今まで相手にしてきた人間とは明らかに違う人間を相手に、彼女達の心は耐えることができるのだろうか。

 

 なお、遥斗と麗良がまだ育ちきっていないので何度もぶち殺されたことを明記しておく。




まぁ、素材は次いでで、今回の目的はスキルや目を育てることなのでね。
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