恋愛要素ありの死にゲーに転生して鉈を振り回す転生者   作:エヴォルヴ

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それを消化するのは────今ッ!!


シナリオ始まってるのに前作ボスがまだ残っているというノイズ

「チキチキ! 巨猛の大迷宮周回攻略マラソン大会~!!」

 

「「Fooooo!!」」

 

「「お、おー……?」」

 

 エレキギターの形状をした大鉈を背負った巡がわざわざ用意したらしい看板を掲げて叫ぶと、双子のインモラル兄妹がテンション高めに叫ぶ。そんなテンションにいまいち乗り切れていないのは、先日ナンパされていたところを武力介入によってサルベージされて、茶菓子同好会に放り込まれた僕っ子美少女の薔薇苑暮奈と、マラソンキチに足首を掴まれてしまった憐れな気遣いできる系イケメン千磁光銘。

 

「さぁ晴れ渡る空なんてものが見えないくせになんか明るい巨猛の大迷宮、その第一階層にやってきております誉れある戦部」

 

「巡、貴様京都校でもろくでもないことをしているのか……?」

 

「茶菓子同好会とは仮の姿、本来の姿がこの誉れある戦部よ……!」

 

 誉れある戦と茶菓子とは表裏一体。格ゲーの100先にお供のお菓子とジュースが必須なように、お茶請けとお茶には戦が付き物。日々精進という言葉があるように、お茶とお菓子を楽しんでいる時も戦いなのだ。

 

「では本日の周回攻略マラソン大会に参加してくださっている方々を紹介いたします。とりあえず主催者はこの俺……! 鉈ブンブン丸ことエルデンリンチ至上主義模歩巡よ……! あ、今日のおやつはいぶりがっこのクリームチーズ和えクラッカーを添えてですよろしく」

 

「クロワッサンください。サクサクじゃなくてふわふわしっとり系の」

 

「そう言うと思って用意したぜ! 神の恵みを受け取れぇッ!」

 

「なんだこの土管の形をしたクロワッサンは……たまげたなぁ」

 

「くり抜いた。ほら、そこにいぶりがっこクリームチーズ和えを詰め込め。幸せが待ってるぞ」

 

「「なんでそんな酷い事するんですか?」」

 

「中身は夕飯で使うからだが?」

 

 手渡されたくり抜かれた土管型クロワッサンに、いぶりがっこのクリームチーズ和えを詰め込んで口に詰め込んでは「うめっ、うめっ……」とか、「染み込んできやがる……体に……!」とかブツブツ呟くインモラル兄妹。その姿を見て、今回の素敵なメンバーの中で東京校に属している人間は巡の同類であることを察した。インモラル兄妹と三股現人神を比べるなんて、インモラル兄妹にスゴク・シツレイに当たる。

 

「では次ィ! 死ぬほど波長が合うやつの一人、目から出るのはビーム? いいえ全てを焼き溶かすウェルカム to 混沌ボンファイア系イケメンボーイ陽之輪遥斗ォ!!」

 

「よろしくお願いしまーす。あ、加護はイドゥン様から貰ってます。将来の夢は魔法攻撃でクリティカルダメージを出すことです!! 装備構成は全部魔法与ダメ特化にしてます。スキルも現在調整中です。DPS万歳」

 

(あ、間違いなく彼は巡と同類だな)

 

「素敵な自己紹介ありがとうございます。ではお次は────またもや死ぬほど波長が合うやつの一人、物理が効かない? 違います、それはあなたの物理が足りていないだけ。叡智によって放たれる暴力は正に武の高み、陽之輪麗良ァ!!」

 

「陽之輪麗良です。加護はイドゥン様から。座右の銘は死なぬなら、死にたくなるまで殴ろうフェニックス。将来の夢はヘラクレスと真っ向勝負をして勝利することです。装備構成は見ての通り物理特化です。DPS万歳」

 

 そんな暗殺者みたいな装束なのに? という疑問が周囲で浮かんだが、ツッコんだら自分も麗良の思想に染まる気がしたので、誰もツッコまない。

 

「以上、新メンバー紹介終わり。暮奈さんと千磁君はもう琥珀さんと知り合いだもんね。ビルドも変わってないし」

 

「まぁな。加護とかも前に話したことあるし、いいだろ」

 

「うん。僕もそう思うかな」

 

「本当なら東京校の素敵なご友人も連れて来たかったんだけど、今回はダメだったよ」

 

 茶菓子同好会のメンバーと、万莱、パリピイケメンボーイズ、治水、玻璃などのメンバーにも誘いを出してみたが、一日フリーだったのは琥珀のみ。他のメンバーは家の用事だったり、講義だったり、ソロ活のススメだったり、装備の新調だったりで忙しくしていた。では、どうして琥珀だけがフリーだったかと言えば、巡の管理をするに当たって取り決められた事柄の一つが起因している。

 

 神様のくせに巫女の共有財産と化した三股マラソンキチ気狂いこと巡のメンタルケアのためという名目で、巫女三人はローテーションを組んでお泊まり会を開催している。会場は睡眠がそこまで必要ではない禍津日に天照大神からの業務改善命令が下ったことで神域に用意された仮眠室。東京校の茶菓子同好会には全員配られている巻物を用いれば一発でワープできる場所でもある。

 

 そんな場所で行われるお泊まり会は、普段の茶菓子同好会メンバーでの強化合宿とは違って部屋でワイワイするのではなく、さっさと布団に入って寝るだけなのだが────ここでこのお泊まり会の真価が発揮される。仮眠室に用意される布団がまさかの一人用お布団1セットだけなのだ。一緒の布団で寝ることを強制することで、普段一人で寝ている時は夢を見て枕を濡らして朝になったら夢の内容を覚えておらずキレ散らかしながら洗濯している巡が、夢を見ないで快眠できるためメンタルケアできるというわけである。考案者? 巫女三人が考えて、そこに宇迦や神獣がブラッシュアップをかけたよ。

 

 健全な男子であれば美少女と一緒に寝るなんて状況になったら若い欲望を爆発させてしまいそうなものであり、最初にこの管理方法を提唱した翡翠もあわよくば手を出してもらえたらなぁ……的な考えだったが────ここにいるのが誰だと思っているのか。性欲がほとんどマラソンとハクスラと攻略に変換される脳内構造をしているまともな生命とは思えない男である。遥斗と麗良というとんでもないインモラルかつピュアでプラトニックでアダルティなカップルを間近で見続けてきた結果、恋愛観がボロボロになってしまった哀れで醜い気狂いである。お前達に巡が救えるか。まずは恋愛観の修正から始めましょう。きっとまだ間に合う。なお、手遅れである。現実は非情だ。とくと見よ、お前の恋愛観たるを。こんなものがまともな生命に育まれるものか。

 

 まぁ、そんな感じで健気に巡の性癖と恋愛観をぐちゃぐちゃに歪めるために頑張ってる最中の巫女の一人、琥珀が今回のお泊まり会のお相手だったわけ。ちなみにお泊まり会が始まったのは新学期が始まってから。巫女の中で実は巡と一緒の布団で寝たことがない*1琥珀がスタートに選ばれ、馬鹿みたいに緊張している中、巡がストレージから英雄譚を取り出して読み聞かせを始め────焚かれていた安眠の香で眠くなっていき、いつの間にか寝かしつけられるという大敗北を喫した翌日の今である。大敗北の様子は白虎がしっかり記憶して、どうだったかを聞いた神や神獣に話をして「ああ……」と天を仰がれるレベルでの大敗北である。巡は琥珀のことを可愛い妹か何かだと思っているのではなかろうか? 否、ちゃんと女の子だと理解しているのにこうである。そろそろ刺されないだろうか。

 

 翌朝自分がいつも大きなぬいぐるみを抱いて寝ているせいで巡をぬいぐるみ代わりにしていたことに真っ赤になりながら悶絶していた琥珀のことは置いておいて。今回の巡達の目的は巨猛の大迷宮の攻略である。前回はSAN値チェックが入るやつのせいでファンブルしたが、今回はそいつが目的ではない。

 

「今回のスケジュールを発表します。第一階層、第二階層、第三階層を攻略後ダンジョンから弾き出されるのを繰り返します」

 

「「…………………………なんて?」」

 

「せんせー、目標周回数は?」

 

「最低2ループです。他の戦士のパーティーがドン引きするような周回で周囲を怖がらせましょう!!」

 

 常識人である暮奈と光銘が疑問符を浮かべるところを、琥珀は自分も昔はそうだったと小さく頷きつつ、随分と染められてしまったものだと感慨深く苦笑していた。

 

 そうこうしているうちに最初の行軍が始まる。疑問符を浮かべながらも動けるのはさすがメインキャラクターの二人と言うべきだろう。パーティー行動の基本である『離れて行動しない』が染み付いている。

 

『白虎、彼はいつもこんな感じなのかしら?』

 

『んまぁ、こんな感じだなぁ。陽之輪兄妹だったか? あいつらも大分猫被ってたみたいだが……ありゃ坊主と同類だ』

 

『ふぅむ、心に壁を作っていたせいで私もあの兄妹を深くは知らなんだ……サトリの御方であれば話は別だが、なるほど、彼と同族というのであれば頷けるところもある』

 

『聞けばステータスの解放もせずに迷宮に潜って日銭を稼ごうとしてたらしいからねぇ……』

 

 神と神獣が会話している中、ボス部屋目指して行軍する巡一行。自然に飲み込まれた家屋や巨大な樹木など、人類は自然には勝てないのだと感じてしまうような光景がどこか美しさを感じさせる巨猛の大迷宮を突き進めば、怪魔がやってくる。最初に現れたのは、巡、遥斗、麗良の気狂いだけではなく、ここにいる面子全員が少々イラっときた経験がある怪魔だ。

 

「フゴッ……! ゴゴゴッ……!!」

 

 雄大な牙、明らかに硬そうな毛皮、額には緑色の宝玉が輝いている猪型怪魔の玉猪(きょちょ)である。他の怪魔と戦っていたら横から突進を喰らって吹っ飛ばされてそのまま死に戻り、なんてこともあるので、誰が呼んだかホーミング生肉。突進の構えを見せる玉猪に対して回避行動を取ろうとする暮奈と光銘だったが────

 

「先頭を麗良にして整列!!」

 

 巡の叫びに反応して動きを止める。麗良を先頭にして整列、と聞えたがどうするつもりなのか。まさ彼女を肉壁にするつもりか────いや、そんなことを巡が選択するとは考えにくい────様々な思考が交錯する中、麗良が取り出したのは、彼女の体がすっぽりと覆われてしまうくらい巨大な、十字架を象ったような形状の盾。

 

「『鉄の心(アイアン・ハート)』、『ヘイスト』、『我慢』、『盾の心(シールダー)』、『レイジ』、『フォートレス』……」

 

 ベールの下で小さく呟かれるスキル。魔法をエンチャント以外一切所持しておらず、近接攻撃に寄与するスキルのみを獲得している麗良ではあるが、自身のバトルスタイルのために大量のバフを仕込むためのMPを供えている。

 

 暗殺者のような装束を纏う麗良の体を、様々なスキルのエフェクトが覆っては混ざり合っていく。文字通り鉄壁の要塞と化した麗良を切り崩せるとすれば、状態異常による時間経過か、魔法による物理防御を貫通する攻撃くらいだろう。ある程度賢い怪魔が多い巨猛の大迷宮であったが、第一階層にいる怪魔が畜生であることには変わりない。麗良の変化に気付きはしたが、自身の攻撃が受け止められるとは一切考えず、玉猪は全力の突進で麗良に攻撃を仕掛けた。

 

「────────」

 

 そして、突進の勢いのまま爆散した。

 

「カウンターキャラに真正面から攻撃するなんて、やっぱり畜生は畜生ですね」

 

「何が起きた……?」

 

「カウンターですよ。突進攻撃が直撃したタイミングでシールドバッシュ。これで突進系は殺せます」

 

 軽々と言ってはいるが、間違いなく至難の業。突進を真正面から受けるだけならともかく、激突するタイミングにドンピシャで合わせてシールドバッシュを叩き込んでカウンターするなど、どれだけ練習すればできるというのか。

 

「……僕の結界居合に近いのかな」

 

「ちょっと違いますね。暮奈先輩の居合は唯一無二の攻め受け両刀ですけど、私のシールドバッシュは相手に依存してるカウンターです。そもそも暮奈先輩にやったら先に私の腕が飛びます」

 

 だから外側から、集中力を削ぎ落すための攻撃をする必要が、あったんですね。

 そんなメガトン構文が麗良と遥斗、加えて巡の心の声となり、加護によって心を読めてしまう暮奈に伝わることで、この三人と薔薇苑家が敵対してなくて良かったとホッとする暮奈。やっぱりこの気狂い共揃ってはいけないタイプの連中だ。誰だって相手の戦い方に合わせて高品質な得意の押し付けをしてくるやつと戦いたくはないのである。

 

「あれ、普通の生き物にやったら大事故だよな……」

 

「まぁ、ミンチより酷いことになるでしょうね」

 

「というか麗良、殴ればすぐじゃねぇの?」

 

「そうですね。でも、検証もしたかったので」

 

 脳筋ではあるが、考えることができるタイプの脳筋なので防御した際にどうすれば敵を殴れるかも考える麗良。ちなみに脳筋らしく筋力が馬鹿みたいに伸びているが、最低限の技量も振っている。例えるなら、煙の特大剣を振り回していたと思ったら突然ロングソードが飛び出してくる脳筋(上質)戦士のような存在が麗良である。竜狩りの鎧と戦っていたはずなのにいきなり横からファランの不死隊が斬りつけてくるような驚きがやってくるインテリ蛮族なのだ。

 

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 

 インテリ蛮族とメイケイオスのスキル検証や、他メンバーとの連携を意識しつつ順調に巨猛の大迷宮を突き進む巡一行は、当然のことながら大した消耗もなくボス部屋の前にやってきた。ボスバトル前の準備として、巡は霊薬をがぶ飲みし始め────

 

「あ、巡。狂魔と勇魔くれ」

 

「あいよ」

 

「物理系ください」

 

「鏖シリーズでいいか?」

 

「最高じゃないですか」

 

 明らかに通常の霊薬じゃない物を要求する遥斗と麗良。狂シリーズと勇シリーズは高額だが購買に売っている場合もあるので暮奈と光銘も分かる。だが、鏖シリーズというのは京都校のメンバーも琥珀も知らない禍々しい色の霊薬だ。明らかに普通の霊薬ではない。

 

「ちょっと待て、その霊薬なん────」

 

「うーん、最高品質の味。クソ不味いって聞いてたんですけど、悪くないですね」

 

「最近味付けしても効果が無くならないことに気付いてな……今回はイチゴ味よ」

 

 誰かが止める前に巡も麗良も霊薬をがぶ飲みしてしまった。大丈夫なのかと思ったメンバーがタブレットで状態を確認すると、明らかに異常なステータスバフと大きなデメリットを享受している。とはいえ、デメリットに対して効果がとんでもない。

 だが、医療関係にも精通する薔薇苑家の暮奈ですらそれを知らないともなれば、その霊薬は何なのかという疑問が浮かぶ。暮奈がそれを問いただそうとした瞬間、三人はほとんど同じタイミングで見覚えのある短剣を取り出し。

 

「「「そい」」」

 

 思い切り腹に突き立てた。ジャパニーズ切腹である。

 

「何やってんだ!!?」

 

「何してるんだい!!?」

 

「「「え、出血によるバフ」」」

 

 巡とパーティーを組んだことで手に入れたスキル、【血の歓喜】を獲得している遥斗と麗良の行動に頭がおかしくなると言わんばかりに頭を抱える光銘と暮奈。巨猛の大迷宮第一階層ボス部屋まで来ているのに、遥斗と麗良の本質が巡とほとんど変わらないことに気付かないとはさては鈍感系親友枠だな?? 順応しているのは琥珀のみ。善い傾向である。

 

「んじゃ気を取り直してボス戦行こうぜ。なぁに、大嶽丸共よりは楽勝だぜ」

 

 そんなことを言いながらボス部屋に突入した巡と、あとを追ったパーティーメンバー達。巨猛の大迷宮第一階層のボスである『猛る巨獣 儘虎(じんこ)』という巨大な炎を纏う虎がいるはずなのだが────

 

 

 

 

「あはぁ……白虎の気配があると思ったらやっぱりねぇ……今回は女の子なんだぁ……?」

 

 

 

 

 ニタニタと厭らしい笑みを浮かべる上半身が人間、下半身がドロドロに溶けたスライムのような怪魔がいた。

 

「他の人間もとっても美味しそうだけど……白虎の君は一段と美味しそうだぁ……きっといい声で泣き叫んでくれるんだろうねぇ……」

 

 そう言ってニタニタと笑う怪魔の背後では、スライムに飲み込まれて苦悶の叫びをあげて食い荒らされている、まだ生存しているらしい儘虎。明らかなイレギュラーではあるが、それに対して巡や遥斗、麗良はというと。

 

(((あ、楽しい玩具だ)))

 

 買い与えられた新しい玩具を見て喜ぶ子供のように目を輝かせていた。

*1
翡翠は寝かしつけたし、明日夢は男性観を滅茶苦茶にされている。可愛いね




巡お泊まりのすがた
「うおデッッッッ…!? っと、待て待てそっち行くと布団から出ちゃうぞこっち来なさいな。もうワンサイズ大きくしません?それか布団増やしましょ?」


琥珀お泊まりのすがた
なんか幸せそうに寝てる


白虎
「男ってのはな、デカい胸で包まれりゃ一発で落ちんだよ…っておいマジか坊主。お嬢の押し付けられて理性飛ばねぇってどんな精神力だよ」
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