【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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注意。
この小説は私の前作『ワールド・トラベラー』の直接の続編です。
一応、前作を知らなくても理解できるように書きますが、前作を知らないとわからないように書いてしまうこともあるかもしれません。その時は遠慮なく、言ってください。直ちに修正いたします。
また、感想や評価、その他諸々お待ちしております。


第零章~新たに/再び~
第一話~新たに/再び~


――さて!今回チャンピョンに挑戦するのは若き闘士!ランキング第十位ティラさん!そしてその相棒ティラノモンだー!――

 

 アナウンスが、どこか電子的なその空間に響き渡る。電子的。その言葉が示すとおりに、この空間は現実ではない。コンピュータで再現された仮想空間だ。仮想空間とは言っても、辺りに見える空間はどこまでも続く空と草原。それらは再現されたとはいえ、現実と見間違うほどに精巧に作られていた。

 そして、アナウンスが響き渡った数秒後。誰もいなかったその空間に数メートルはあろうかという赤い恐竜を引き連れた少年が突如として現れた。だが、その少年は緊張しているのか、表情が硬い。

 

――挑戦者が入場しました!さて、そんな挑戦者を迎え撃つのは、我らがチャンピョン!一億人のユーザーの中で、自らのパートナーを最高世代である完全体へと進化させることができた五人の中の一人!ランキング第一位の勇気さん!そしてその相棒のスカルグレイモンだー!――

 

 アナウンスと同時に派手な爆音が鳴り響き、一人の青年がこの場に現れる。青年は正しく王者といった雰囲気で、堂々としている。先ほどの少年とは対照的だ。そして、そんな青年が引き連れているのは、骨だけでできた異形の恐竜。先ほどの少年の赤い竜を遥かに凌ぐ体躯を持つその異形の恐竜の姿は、いっそ狂気を感じさせた。

 

「きょ、ぎょっ!ごぞ、かってびせまず!」

「……」

「……すいません」

「ならば、行動で!戦いで!その強さを示してみろ!」

 

 緊張を紛らわせるためか、それとも自分に喝を入れるためか。少年は威勢の良い啖呵を切った。だが、いかんせん噛みすぎだ。耳まで赤くなっている今の少年の心情を言うのならば、“穴があったら入りたい”というところだろうか。

 そんな少年のミスをなかったかのように振る舞う青年は、きっとフォローしたつもりだったのだろう。

 もっとも、少年にとってはそのフォローが逆に辛いのだが。

 

――さてさて!勝つのは一体どちらか!勝利の女神はどちらに微笑むのか!バトル開始だー!――

 

 だが、時は無情だ。少年のメンタル回復を待つことなく、舞台は次の段階へと進んでいく。

 アナウンスと共に、表示されたカウント。そのカウントがゼロになった瞬間。赤い恐竜と異形の恐竜はぶつかり合った――。

 

 

 

 

 

 五年前。世界は救われた。

 たった一人の人間を切欠にして。その人間の相棒たちとかつて世界に存在した英雄たちの手によって。だが、その事実を知る者は数少ない。いや、それどころか、世界が消滅の危機に遭っていたことを知っているものすら数少ない。人知れず、世界の危機は去ったのだ。

 世界の危機が訪れていたことなど知らない者は、危機感を抱くことなどなく平穏そのものとした暮らしを堪能しているだろう。

 だが、世界の危機について知る者がまったくいないというわけでもない。世界の消滅。そんな事態があったということを知った時、人は、生物は、どのような反応をし、どのようなことを想うのか。

 これは、続き。終わったはずの物語の続き。それでいて、別の。まったく異なる新しい物語でもある。

 世界はまだ、終わってはいない。だというのなら、当たり前のように物語は紡がれる。私が、あなたが、彼が、彼女が、私たちが、彼らが、彼女たちが。世界中にいるさまざまな人々が、それぞれの物語を――。

 

「よっしゃぁああああああああ!アグモンキター!」

 

 平和で豊かな日本という国。そこに存在する小さな街で暮らすその少年。名前を“布津大成”というその少年は、ヘルメットのようなモノを外しながら、明朝だというのに大声で叫んでいた。

 ちなみに、そんな大成に対する近所の反応はない。近所の方々にとって、大成のこの叫びはいつものことなのだ。よって、毎日のように聞こえる大成の叫び声に対しても、“ああ、またか”で済ませている。

 そして大成が叫んでいる理由。それには彼がハマっているゲームが関係している。

 ヴァーチャルゲーム“デジタルモンスター”。三年前に発売されてからアップデートを繰り返して、今や全世界に一億人のユーザーを抱える一大ゲームである。

 

「やったぜ。ふふふ……アグモンだ!アグモン!……グレイモンにしようかなぁ……ティラノモンにしようかなぁ……ぐへへへぇ……」

 

 悦に浸るあまり人として見ることのできない顔をしている大成は放っておいて。

 このゲームを分類するのならば、育成ゲームということだろうか。このゲームのタイトルでもある“デジタルモンスター”――通称デジモン。成長進化することによって、さまざまな形態に姿を変える不思議な生き物であるそのデジモンを育てるゲームなのだ。このデジモンは、ゲームの中の存在でありながらも、本物の生き物と遜色ない。

 このゲームにはさまざまな楽しみ方が存在する。そんなこともあって大勢の人々がハマっているのである。

 そしてこの大成も、このゲームにハマった者の一人だ。

 

「やっと!やっと……はわぁ~……やべ……眠気が限界……ぐぅ……」

 

 そんな大成は休日だった(・・・)からといって、トイレと食事以外の時間はこのゲームに費やしていた。そのために疲労が限界に来たのだ。死んだようにベッドに倒れ、大成は眠りにつく。

 どうでもいいことだが、日が変わった今、今日は休日ではなく平日。そして大成は学生である。もちろん、時間に余裕がある大学生とかではなく、中学生だ。ついでに言えば、この春から花の受験生である中学三年生だったりする。現在時刻から大成の起床予定時間まで三時間もない。どうやら、“また”寝坊による遅刻をする羽目になりそうな大成だった。

 

「ハッ!今何……あぁあああ!」

 

 そんな大成は朝の十時に目が覚めた。当然、遅刻である。

 やらかしてしまったことを自覚しつつ、それでもサボらずに学校へと行こうとする大成は所謂良い子の範疇になるのだろう。もっとも、本当に良い子ならば遅刻などしないのだろうが。

 鞄を持って、二階の自室から一階のキッチンへと降りていく大成。キッチンの机には朝ごはんと書置きが置いてあった。

 どうせいつもと同じことが書いてあるんだろ。そう思いながらも、大成は書置きに目を通す。

 案の定、そこには“いつも通り”に大成の両親から、二三日帰ることができないという旨のことが書いてあった。

 そのことに溜め息を吐いて、朝ごはんを食べた大成は学校へと向かって行く。

 ちなみに、そんな大成をご近所の方々が達観した目で見つめていたのは言うまでもないことである。

 

「おはようー!」

「お?大成!相変わらずの重役出勤だな!」

「それを言うなら重役登校だろ」

「いや、そういうことじゃなくてだな」

 

 ちょうど休憩時間の時に学校に着いた大成は、見知ったクラスメイトと言葉を交わしながら、自分の席へと行く。

 当然だが、遅刻しても堂々と入ってくる大成を見る周りの目は冷たい。というよりも、大成はその遅刻の多さゆえに周りから不良のような扱いを受けているのだ。その上、大成と会話する者など、先ほどのクラスメートを含めて僅かしかいない。軽く寂しい奴みたいな状態ではあるのだが、大成自身は特に気にしていなかったりする。

 

「またあのゲーム?」

「おぉ、優希!聞いてくれよ!俺の相棒さ昨日アグモンに進化したんだぜ!」

「はぁ……それで遅刻してたら世話ないでしょ。っていうか、アグモンって成長期じゃん。対して珍しいわけでもないし」

「いいだろ、別に!」

 

 席に着いた大成に話しかけるのは、彼と会話する数少ない女子の一人である“小路優希”だ。

 ちなみに。特徴のない、どこにでもいるような顔立ちの大成とは違って、優希はそれなりに整った容姿の少女である。その上で優希は成績優秀だ。そんな完璧超人二歩手前の優希が、不良扱いされている大成とそれなりに親しいということは学園の七不思議の一つに数えられていたりするのだが、それはほんの余談である。

 そんな二人の雑談も、次の授業の担当教師が教室へと入ってきたことによって終わったのであった。

 

 

 

 

 

 授業も終わって放課後。遅刻に対する説教をしようとした担任教師を躱して、大成は優希と一緒に下校していた。そんな大成を優希は呆れた目で見ているのだが、大成は対して気にしていなかったりする。無駄なところで神経が図太い。

 優希も大成の図太さを知っているからこそ、何も言わないのである。もっとも、それは大成と似たような人を知っているということも関係しているのだが。

 ちなみに、二人が一緒に下校しているのは、大成の家が優希の家と学校の間にあるからである。

 

「よっしゃ!帰っていよいよ……ふへへ……」

「絶対そのうち捕まるって……」

「何か言ったか?」

「何も」

 

 相変わらず常人とは思えないような顔をして歩く大成の隣で、優希は溜め息を吐く。大成は、普段の顔は普通なのに、時々変な顔をするのだ。その顔は一言で言えば、気持ち悪いという顔だろうか。子供のうちはいいだろうが、大人になると問答無用で国家権力に職務質問されそうな顔というのが一番近いのかもしれない。

 そんな顔をしている大成だが、優希が何も言わずにその横を歩いているのは単に慣れたからである。ちなみに、優希も大成と出会った当初の頃はドン引きしていた。慣れとは恐ろしいものだ。

 大成のそんな顔を引き攣った笑みで見守る近隣住人の寛容さを前に、全力で頭を下げたくなる優希だった。

 

「っていうか、優希もやったらどうだよ?面白いぜ?あ、もしかして隠れてやってるとか?そうだよなー……デジモンにやたら詳しいもんなー」

「やらないし、やってない。面白いとは思うけど……本物を知ってるし」

「最後なんて?」

「なんでもない!」

 

 最後にボソッと小声で呟いた優希の言葉をうまく聞き取れずに、思わず聞き返した大成。だが、優希が誤魔化した為にその内容を把握することはできなかった。

 もっとも、優希がつい呟いてしまったことは大成にとって驚天動地の事実だ。それを知ることができなかったのは、大成にとって幸と不幸のどちらだろうか。

 そうしてそろそろ大成が家に着くだろう頃、優希が前方を歩くある男を発見して、驚いたような顔をした。

 

「あれ?旅人?」

「……おー優希か!久しぶりだな!……何その微妙な表情」

「別に」

「はぁ。昔はもっと可愛げがあったの――」

「わーわー!」

 

 突如現れた旅人という男の言葉に、顔を赤くしながら叫ぶ優希の姿は大成が今まで見たことのないような表情だ。しかも、旅人と優希はかなりの仲らしく、大成のことなど眼中にない様子で二人の世界を形成している。空気になりつつある大成は、多少の気まずさを感じられずにはいられなかった。

 とはいっても、このままというのは面倒だ。なので、大成も空気を読まずにこの二人の会話に混ざることにする。

 

「あー優希?このおじさんは知り合い?」

「おじっ……そうか……そうだよな……おじさん……かぁ……」

「旅人落ち込むなら向こう行って。この人は旅人って言って……」

「恋人?優希って年上趣味だったんだな」

「ななな……そんなわけ無いでしょ!」

 

 道の隅で落ち込む初対面の旅人はともかく、クール系の冷静な性格だと思っていた優希が、動揺起伏の激しい反応をしたことに大成は驚きを隠せない。優希とは少なくとも数年来の付き合いだが、大成が初めて見る姿だった。

 

「で?本当のところはなんなんだ?」

「私が住んでいる孤児院に昔いた人」

「なるへそ」

「そりゃ、もう二十歳超えてるし……歳くったよなぁ……」

「はいはい。旅人って五年前から変わってないでしょ」

「あー……悪い。子供の頃の癖で俺って年上の人はとりあえずおじさんって言っちゃうんだよな」

 

 いい加減に、落ち込む旅人にウザくなった優希は無理やり旅人を立たせて歩かせる。すっかりと手慣れた感を大成に見せさせる姿だ。

 ちなみに、旅人が立ち直ったのはこの数分後。大成と優希がもうすぐ別れる場所に来た時でのことだ。そして立ち直った旅人を大成は馬鹿を見るような目で見ていた。人前でこのように隠そうともせずに簡単に落ち込む旅人に呆れたのである。

 その辺り、大成も旅人の扱いの第一歩を心得始めたと言える。

 

「はぁ。もういいや。とりあえず行くわ」

「え?もう?っていうか、一回くらいウチに寄ってかないの?みんな怒ってたよ」

「……いや……まぁ……だからだよ」

 

 旅人は、怒られるのが怖いからこそ、故郷ともいえる孤児院に帰ってこないということを優希は知っていた。だが、旅人もこのままではいけないと思っているのだろう。だからこそ、今日この辺りをうろついていたのだ。もっとも、やはり怖気づいたようだが。

 詳しい事情を知らない大成だが、旅人は怒られるのが嫌で帰らないというのは何となく察したらしい。子供のような人だな、と呆れていた。だが、呆れても嫌えないのは、なぜだろうか。不思議に思う大成だった。

 

「……今度はどこ行くの?」

「うーん……北極辺りにイッカクやアザラシとか、シロクマとか見にいてくる」

「大丈夫?リュウやドルとはまだ会えてないんでしょ?」

「別に何ともなるよ。大成くんだっけ?優希のことよろしく!それじゃあまたな」

 

 リュウやドルというのが誰を指しているのかは当然ながらわからない大成だったが、それよりも北極辺りに行くという旅人の言葉に信じられない思いだった。大成にとって外国などテレビの中の出来事だ。現実味がないと言ってもいい。そんな場所に行くことを、まるで散歩に行くかのように告げる旅人に驚いたのだ。

 そうこうしている間にも旅人は見えなくなる。結局、大成の中の旅人の第一印象は不思議な人という感じだった。

 

「なんていうか……個性的な人だな」

「自分もその個性的な人って括りに入るの自覚してる?ま、旅人に関して言えば確かにそうかもね」

「っていうか、北極行くって仕事か?」

「あー……趣味でしょ?」

「ふーん……寂しいか?」

「全然。……どこにでも現れるから、どこかに行った気がしないっていうか、ね」

 

 そう、旅人は突然いなくなるくせに、突然現れるというある意味神出鬼没な人物なのだ。

 例を挙げると、街頭インタビューに参加していたり、雑誌に後姿が載っていたり。優希が一番驚いたのは、映画を見に行った時に、映画のエキストラでスクリーンいっぱいに旅人の顔が映った時である。

 ちなみに、その時。優希はいきなりだったので飲んでいたジュースを吹いてしまった。一緒に行っていた友達に変な顔をされたのは言うまでもない。

 

「へぇ……」

 

 妙な人もいるものだ、と優希の愚痴を聞きながら、大成は早く帰りたい気持ちになるのだった。

 理由はもちろん、ゲームである。




というわけで、始まります。
“目指せ!前作越え!”を目標にやっていきますので、よろしくお願いします。
ちなみに、この小説の題名は現段階での“仮”ですので、ご理解ください。
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