【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百話~森の中にあるのは樹~

 優希が片成不在の事実を知った日のこと。

 旅人はとある森の中に来ていた。光がほとんど入ってこないような、そんな森。“とある”などと、ずいぶんと適当な言い方であるが、本当に“とある”としか言い様がない。その詳しい位置については、旅人もよく知らないのだ。

 ならなぜ、その詳しい位置について知らない場所にいることができるのか。それは、旅人が連れて来られたからである。

 そう。この――。

 

「何?」

「いや、行き先くらい教えて欲しいと思ってね」

 

 ナムという少女に。

 純白のドレスという、おおよそ森を歩くに相応しくないどころか、不便が目立つような格好。それでも、特に気にした様子もなくナムは歩く。

 彼女が旅人の下へ訪れたのは今朝のことである。旅人が泊まっている宿にいきなり現れたのだ。そして、気持ちよく眠る旅人を叩き起こし、あれよあれよとこの場まで連れて来たのである。

 まあ、その方法は徒歩ではないのだが。そう。旅人はこの森のことなど知らない。学術院の街の近くにこのような森などないのだ。

 おそらくはナムお得意の何らかの謎現象だろう、と。旅人はアタリをつけていた。

 

「ドルもいないし……っていうか、本当にどこに連れて行く気だよ?」

「ついてくればわかる」

「って言われても……お前が関わる件に良い思い出がないんだけど?」

 

 個人的なナムという少女についての好感度はともあれ、旅人にとってナムという少女は面倒事の象徴である。個人的に嫌いというわけではないが、面倒事がもれなく付いてくることを考えれば、あまり関わり合いたくなかった。

 まあ、そんな旅人の個人的な考えや事情など、このナムという少女が考えることはありえないのだが。

 旅人がいくら聞いても、何も答えようとしないナム。そんなナムに溜息を吐いてから、旅人はとなりを歩くスレイヤードラモンに話しかけた。

 

「やれやれ……ドルはウィザーモンのところに行ったしな。リュウだけが頼りだぞ」

「一応聞くけど、何のだ?」

「帰り道」

「へぇ。珍しい。街に戻る気はあるんだな。てっきり帰り道がわからなかったら、そのまま旅に出るかと思ったぜ」

「そりゃ、その方が楽しそうだけどな……ドルを置いていったら、どうなるか。前は殴られた程度で済んだけど、次は鉄球辺りが飛んできそうだ」

「ああ、確かにな。でも黙って出てきたんだから、また殴られそうだけどな」

「そこはほら、ナムのせいにする」

 

 そう。旅人が言ったように、この場にドルグレモンはいない。

 ドルグレモン、彼は以前からの野望を果たすため、旅人たちがナムに連れて行かれるよりも前にウィザーモンの下に行っていたのだ。まあ、結果として置いていかれる形となったわけだが、そのことを今の彼が知る由もなかった。

 そんなわけで、この場にいるのはスレイヤードラモンと旅人とナムの三人である。

 黙ったまま、旅人たちを先導して歩くナム。そんなナムについていく旅人たちとしては、そろそろどこへ向かっているのか教えて欲しかった。

 

「そろそろ」

「え?そろそろ……?ああ、目的地か。っていうか、いい加減に教えて欲しいんだけど」

 

 目的地が近いと告げたナムは、そのままそこで足を止めた。そして、旅人に向かい合う。

 常時無表情のナムだが、それはイコールで何も感じていないということではない。本当に微々たるものだが、纏っている雰囲気が変化することだってある。

 ナムに見つめられた旅人は、今彼女が纏っている雰囲気が真面目なもののように思えた。だからこそ、茶々を入れず、彼女の言葉を待つ。

 そして、そんな二人に押されて、スレイヤードラモンも黙り込んだ。

 沈黙が辺りを包む。

 

「この先にある」

「何がだよ」

「自分で確かめる。私。ここまで」

「……相変わらずだな。ってか、ナムが出てきたってことは……ナム“たち”が動く何かがあるってことか?」

 

 勝手に案内をするだけして、そして去ろうとするナム。

 実に身勝手だが、彼女がそういう“存在”であることは、旅人は五年前の段階で知っている。そして、彼女“たち”がそう簡単に動く存在ではないことも。彼女“たち”が動く時、それは何かがある時だ。五年前もそうだった。

 だからこそ、旅人はナムに問うたのだ。わざわざ複数系にして。

 だが、そんな旅人の予想に反して、ナムは首を横に振る。その時のナムの雰囲気は、どこか納得がいっていないような、悔しそうな、そんなもののように旅人には思えた。

 

「今回。五年前と違う。“我々”干渉しない。決まった」

「……どういうことだ?ナムが動いているんだから、干渉するんじゃないのか?」

「世界の在り方は生きるものが決める。私が手伝える範囲。ここまで。これ以上は怒られる」

「怒られるって……」

 

 ナムが怒られるような存在でないことを知っているがゆえに、旅人は愕然と呟いた。が、しばらくしてから、ハッとして思い直した。

 先ほど、ナムは言っていた。決まった、と。ということは、話し合ったのだろう。旅人も知っている彼らと。その結果、今回起こるだろう何かに、彼女たちは干渉しないことを決めたのだ。

 まあ、先ほどの納得していない様子からして、ナム自身は干渉したいようであるが。

 

「そっか。じゃ、何かが起こるけど、前みたいに解決の手段を教えてくれることはないわけだ。まぁ、オレとしては面倒事に巻き込まれるのが確定でない分、いいけどな」

「確かに面倒だったけど、アレはアレで貴重な経験だったじゃねぇか。っていうか、どうせ旅人は巻き込まれる気がするぞ。なんて言ったかな……そう。トラブルメーカーってやつだ」

「旅人。巻き込まれるの。確定」

「お前らやめろよ!不吉なこと言うの!というか、リュウ!オレがトラブルを作ってるみたいな言い方をするな!」

「ま、どっちかって言うとトラブルホイホイだよな」

 

 不吉な予言を残すナムに、不名誉な二つ名をつけてくるスレイヤードラモン。

 あんまりな言い草をする二人を前にして、旅人は思わず唸った。というか、ナムの正体を知っている身として、ナムの言葉はシャレにならないからやめて欲しかった。

 まあ、旅人がどれだけわめいても、二人が言葉を撤回することはなかったのだが。

 

「頑張れ」

「どういう意味……!」

 

 結局、それだけ言ってナムは消えた。文字通り、一瞬で、いつの間にか。相変わらずの神出鬼没さに溜息を吐きながら、旅人はこの先にあることを思う。

 ナムの最後の一言が、この先を暗示しているようで――旅人は気が重かったのだった。

 

「いつまでもこうしている訳にはいかないだろ、旅人」

「……そうだな。行くか」

「ああ。この先って言ってたな。それを見ればいいのか?……何があると思う?」

「蛇が出てくるような何かだろ」

「鬼が出てくるかもしれないぜ?ま、その時は俺がぶちのめすけどな」

「頼もしいな」

 

 ナムの言っていたこの先にあるもの。それが何かはわからないが、旅人もスレイヤードラモンも、ロクでもないものであることは共に予想しているようだった。

 周囲を警戒しながら、二人は進む。が、視界の先にあるのは、どこまで行っても森だった。本当に先に何かあるのか、怪しいくらいに。

 

「ナムが嘘を言うはずはないからな。隠されてる……もしくは隠れているってことか?」

「たぶん、そうかもしれないな。この森、結構深い。何かを隠すのにはもってこいの構造だ」

「リュウが空の上から探すって案もあるが……」

「やめておいた方がいいだろな。上からじゃ森の中の様子が見えない。いっそのこと、木を全部切り倒すって案もあるぜ?」

「それもやめておいた方がいいだろ。環境破壊ってレベルじゃないぞ。それにこの森に住んでいるデジモン相手に無駄な争いが起こるだろ」

 

 周囲を警戒し、目に見えぬ何かを探しながら、旅人たちは互いにこの状況を打開する案を提案していく。だが、二人とも良い案は思いつかなかった。どちらの出す案も欠点しかなかったり、リスクが大きすぎたりしたのである。

 結局、地道に探すことになって。旅人たちは森の中を探していく。気がつけば、ナムと別れてから、旅人たちは一時間以上もこの森を彷徨っていた。

 

「さて、どうするかね。オレたちが見つけられない。それとも、ナムに騙された。あるいは、ナムが勘違いしている。リュウどれだと思う?」

「後半二つは旅人も思ってもないだろ。あとは俺たちが迷子になっているってのだな。たぶん、俺のか、俺たちが見つけられないが正解だぜ?」

「……ああ。なるほどな」

 

 スレイヤードラモンの言葉に、納得したような声を上げる旅人。

 おそらく、ナムの示していた何かはとんでもなく隠れているか、あるいは隠されている。前者の考え方は、自然にそうなった場合。後者の考え方は、何者かが故意にそうしている場合。

 現段階では、どちらもありうるが、旅人たちの精神的には前者の方がありがたかった。後者の、何者かが故意に隠している場合だと、旅人たちはイタズラに引っかかったようでムカつくのだ。

 歩き続ける旅人たち。この森は空が見えないため、今がどのくらいの時間か知ることはできない。が、時間的には、そろそろ昼を回った頃だろうか。

 

「……この調子だと、そのうち夜になりそうだな。さっきリュウ言ってたろ。オレたちが迷子になっているって。もしそうだったら?」

「これだけの森だ。仕方ないだろうな。抜け出すのは簡単だが……」

「目的はナムの言っている何かを探すことだもんな」

 

 スレイヤードラモンが自分たちの迷子の可能性を上げた時から、旅人たちは自分たちが真っ直ぐに歩いている自信がなかった。

 目的地もなく、フラフラと旅をしている普段ならば、真っ直ぐに歩いている自信がなくとも問題はない。だが、今回のように目的がある場合は、こういったように真っ直ぐに歩いているかどうかわからない状態は問題あるどころの話ではなかった。

 

「……もしかして、ここって“迷子の森”か?デジモンもいないし……それっぽいな」

「え?何?そんな森があるのか?」

「ああ。俺も来るのは初めてだけどな」

 

 スレイヤードラモンの言う通り、この世界には迷子の森というものがある。その名の通り、入った者が迷子になる森。実際は、中に入った者の方向感覚を一時的に狂わせる森である。なぜ方向感覚が狂わされるかは諸説あるが、解明されてはいない。また、デジモンが住んでいないのも特徴である。

 とはいえ、名前の割に抜け出す方法は簡単だったりする。夜に森の木々の枝からジャンプし、いちいち星空を眺めればいいのだ。星の位置で方向を確認し、微修正を繰り返しながら歩く。それだけである。

 まあ、これを知らなければ出るのは苦労するし、入ったまま出てこなかった者も大勢いるのだが。

 

「へぇ。この世界にもまだまだ面白そうな場所がたくさんあるな」

「一応言っておくけど、この森を面白そうなんて言える奴は少ないからな」

「別にいだろ。リュウ」

 

 今いる森が面白い森だと知り、テンションが上がっている旅人。そんな旅人に、若干呆れるスレイヤードラモンだったが――直後、彼の耳はある微妙な音を聞き取った。

 

「旅人!」

「んあ?どうした?見つけたのか……?」

「わからない……けど、足音がする。数は……結構多い。どうする?」

「んー」

 

 足音ということは、生き物だろう。かれこれ二時間以上迷っている身の旅人としては、接触しても良いような気がしていた。が、同時に、安易に接触するのもマズイ気がしていて。

 悩んだ結果、旅人たちの選んだ行動は身を隠し、状況を見守ることだった。

 

「人間だな。しかも、デジモンを連れてる……大成たちと同じような奴らか?旅人はどう思う?」

「どうだろうな。でも、殺気立ちすぎだろ」

 

 木の上の枝に身を潜める旅人たち。そんな旅人たちの真下を、デジモンを連れた人間たちが五人ほど歩いて行く。見つからなかったようで、旅人たちはホッと安堵の息を吐いた。

 隠れたまではいいのだが、スレイヤードラモンの白い鎧がやたらと目立ったため、見つかりはしないかと気が気でなかったのだ。

 まあ、仮に見つかったからどうなるのだという話であるし、もっと言えば、そもそもスレイヤードラモンをアナザーの中に入れればよかったという話だったのだが。

 

「後を追うか?」

「だな。set『不可視』……行くぞ、リュウ!」

 

 ともあれ、やっとあった変化だ。旅人たちは頷きあって、彼らを追い始る。

 “不可視”のカードの力で姿は消えているとはいえ、バレないとは限らない。つかず離れずの距離を保ちながら、旅人たちは彼らの後を追う。

 その際、旅人たちは彼らを観察していたのだが――。

 

「なんか、おかしくないか?」

「ああ。旅人、あれ本当に人間か?それにしては……なんだかな」

「オレに聞くなよ。ま、言いたいことはわかるけどな。なんかナムみたいだ」

 

 旅人たちから見て、彼らの様子はおかしかった。

 見るからに殺気立っている上に、まるでナムのように表情が無い。それは、人間たちだけではなく、彼らと共にいるデジモンたちも同じだった。

 見れば見るほど疑問しか生まれない彼ら。ここが迷子の森である可能性も含めれば、一体何をしに来たんだという話である。

 だが、そんな彼らの目的は、旅人たちにもすぐにわかることとなった。

 

「おい、あれ……!」

 

 彼らの後を追い始めて数分。その時、彼らの足が止まった。

 同時にスレイヤードラモンが声を出す。スレイヤードラモンの言葉の先にあったのは一本の木。旅人にとっては一本の木にしか見えないソレも、スレイヤードラモンから見れば違ったらしい。

 

「リュウ、あの木がどうかしたのか?」

「あれ、デジモンだ。完全体のジュレイモンだな。……そうか。幻覚を見せる霧を発生させる能力を持つって聞いたが……ここが迷子の森だったのはそういうことか!」

「言ってる場合か?」

 

 ジュレイモンとは、大木の姿をしたデジモンである。樹海の主であり、身体からは幻覚を見せる霧を発生させる。さらに、その幻覚によって森の深みに誘い込んだデジモンを、枝のような触手やツタで敵を取りこんで自らの栄養としてしまうとされる恐ろしいデジモンだ。

 この森が迷子の森と呼ばれる森なのは、おそらくあのジュレイモンが原因なのだろう。思いがけず、この森の真実が発覚した瞬間だった。

 だが、旅人たちがそうこうしている間にも、事態は進んでいたようである。

 大木に顔があるという真の姿を現したジュレイモンに、彼ら人間たちが何かを話している。が、どうにもお互いに友好的な雰囲気ではなかった。

 

「リュウ、なんて言っているかわかるか?」

「そりゃ、あれだけデカイ声で言ってればな。旅人はわからねぇのか?」

「さすがに何かを言っていることはわかるけどな。内容まではわからねぇよ。で、何を揉めてるんだ?」

「いや、支離滅裂過ぎて……ってか、あいつら正気を保ってるのか?言葉に脈絡がなさすぎるぞ」

 

 ジュレイモンと彼らの言い争いが聞こえない旅人には、スレイヤードラモンが言っていることの本当の意味はわからなかった。

 だからこそ、旅人はより詳しい話を聞こうとスレイヤードラモンに声をかけようとして――。

 

「なっ!?」

 

 そんな旅人の目の前で、彼ら人間の連れて来たデジモンたちが、ジュレイモンに襲いかかった、

 




というわけで、第百話。

今回の話は旅人サイドのお話でした。
少し前作を読んでいないとわかりづらい話だったかもしれません。
わからなかった方々には申し訳ないです。

さて、次回に続きます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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