【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百一話~森の主~

 迷子の森と呼ばれる森へと侵入した五人の人間たち。その後ろを、彼らのパートナーデジモンであろうデジモンたちがついて行く。

 まるで隊列を組むかのように、彼らは進む。旅人たちに尾行されているとも知らずに。

 

「止まれ。こいつだ。対象は……」

 

 そんな彼らは、リーダーであろう一人の少年の声によって、一本の大きな木の前で立ち止まった。その樹は、まるで樹齢千年を超えるかのような、そんな大樹だった。人間の世界にあったのならば、それこそ有名になってもおかしくないほどのもの。

 立ち止まった彼らは、まるで親の仇を見るかのような目で、その樹を睨んでいた。

 

「貴様らが人間か……噂になっているぞよ……畜生に劣らずの蛮族であると……!」

 

 直後、彼らの耳に届いたのは、厳かな声だった。まるで、老人のような枯れた声でありながら、長い年月を生きたからこその重さを感じさせる声。心臓の弱いものならば、思わず逃げ出してしまいたくなるような、そんな力強い声。

 そんな声が、彼らの耳に届いたのだ。

 そう。その大樹こそ、ジュレイモンと呼ばれる完全体デジモンである。

 

「喋るのか」

「喋るとも。見下すのもいい加減にするぞよ。何用でこの森へと来た?よもや友好を結びに来たわけではあるまい?」

「無論、友好だ。我々の目的はただ一つ。貴様らデジモンの支配だけ。我々に従え」

 

 人間側の物言いは、傲慢では言い足りないほどだった。支配する。従え。そんなことを言っておきながら、友好などとはよく言えたものである。

 ジュレイモンも、そんな彼らを見下していた。哀れなものを見るかのような目で見つめながら。

 

「支配を目的としながら友好か……よく言えたものであるぞよ。冗談にしては面白いぞ?」

「冗談ではない」

「……ふむ。聞いていた話と違うな。自分たちが何をしているのかすらも分かっておらぬ愚か者。ここまで来るといっそ哀れみを誘うぞな」

「何を言っている?我々は従うのか、従わないのかを聞いているのだ!」

 

 なかなか答えを出さないジュレイモンに対し、リーダー格の少年が苛立ったような声を上げる。

 そんな少年の声に同調したかのように、彼ら人間が連れて来たデジモンたちも唸り声を上げた。今すぐにでもジュレイモンに襲いかかりそうな雰囲気だ。

 ジュレイモンは、そんな彼らを哀れみ、そして嘲笑う。ジュレイモンの答えは、初めから決まっていた。

 

「答えはNOぞよ。蛮族に()()()者」

「ティラさん……どうしますか?」

「決まっている!従わぬ者は……皆殺しだ!」

「はっ!」

 

 交渉とも言えぬ交渉は、決裂だった。

 人間の一人から、ティラさんと呼ばれた少年。その少年の荒げた声に従って、人間たちはそれぞれのパートナーデジモンに指示を出す。デジモンたちが、動き出す。

 その瞬間に――。

 

「……人形の貴様らを哀れだと思わんでもない。が、こうなれば行き着く先は同じこと。儂が貴様ら蛮族に負けると思うてか……!」

 

 その瞬間に、ジュレイモンの身体から枝のような触手やツタがワサワサと溢れ出した。どれもが、人間の胴体を優に超えるほど太い。それほどのものが、空間を埋め尽くすほどに溢れてきたのだ。これこそ、ジュレイモンが戦闘態勢に移ったということなのだろう。

 一方で、人間たちに指示を出されたデジモンたちは、ジュレイモンを取り囲んだ。デジモンたちは、計五匹。内の四匹は同じデジモンで、赤い恐竜のような成熟期デジモンのティラノモンだった。

 そして、最後の一匹が――。

 

「殺せ!メタルティラノモン!」

 

 ティラさんのパートナーデジモン。人間たちが連れて来たデジモンの中で、唯一完全体のデジモン。身体の半分が機械の灰色の恐竜。体色こそ違えど、ティラノモンの正統強化体と言えるかのような、メタルティラノモンと呼ばれるデジモンだった。

 

「ウグゥウウウウ!」

「アァウウウウウ!」

「グァゥウウウウ!」

「ズゥウウウウウ!」

 

 血管が浮き出るのではないかと心配してしまうくらいの血走った目で、四匹のティラノモンが唸る。その口からはヨダレのようなドロドロとしたものが垂れており、周囲には異臭が蔓延していた。が、鼻が曲がるほどの異臭であるというのに、この場の誰もが気にした様子はない。

 四匹のティラノモンの唸りは、まるで威嚇するかのよう。だが、長い年月を生きてきたジュレイモンにとって、彼らの威嚇など、子供の駄々と同じであった。

 ジュレイモンにとって、数だけのティラノモンなど脅威ではない。ジュレイモンにとって脅威だったのは、自分と同格のメタルティラノモンのみ。

 

「……」

「……」

 

 もはやジュレイモンの耳には、ティラノモンの唸り声など入ってこなかった。ただ、メタルティラノモンの一挙一動を気にしていた。

 まるで、世界が停まってしまったかのような沈黙。この一瞬後、沈黙は破られた。

 

「ガァアアアアアアアアアアアア!」

 

 メタルティラノモンの咆哮。ピリピリとした圧迫感が、辺りの空間を震わせる。

 その咆哮と共に、四匹のティラノモンたちがジュレイモンに襲いかかった。

 四方から迫り来るティラノモン。それを感じ取ったジュレイモンは、すぐさま行動に移す。フンッという風切り音。この場に響いたその音は、ジュレイモンの身体に生えるツタが振り回された音だった。

 狙いなど関係ない。振り回されたそのツタは、まるでムチのよう。しなったそのツタは、四匹のティラノモンたちを全員吹き飛ばす。

 

「やはりティラノモンではダメか……」

「どうしますか!?」

「メタルティラノモン行けっ!お前たちは待機だ!」

「はっ!」

 

 一連の行動を傍から見ていたティラさんは、四匹のティラノモンではジュレイモンの相手にならないことを悟った。だからこそ、他の人間たちに指示を出し、ティラノモンを待機させたのだ。すべては、メタルティラノモンに戦いやすい状況を作るために。

 一方で、ジュレイモンも一瞬後に来る本番に備えていた。先ほどのティラノモンたちの攻撃が人間側の小手調べだったというのはわかっていた。本命が、メタルティラノモンだということも。

 ここからは、ジュレイモンにとって、久しぶりの同格相手の命のやり取り。気を抜けるはずもなかった。

 

「ガァグアァアアアアア!」

「来るか……!迎え撃つぞよ!」

 

 咆哮と共に駆け出すメタルティラノモン。

 ジュレイモンは自分のツタを、枝を、触手を、メタルティラノモンに向かわせる。上から、正面から、背後から、地面から。

 四方八方から来るソレ。メタルティラノモンは、それらを引きちぎり進む。時には腕力で。時にはその鋭い爪や牙で。だが、いかんせん数が多い。メタルティラノモンは思うように進めていなかった。

 

「グガゥウウウウウ」

「ぬぅう!」

 

 とはいえ、思うようにいっていないのはジュレイモンも同じこと。物量作戦でメタルティラノモンを追い詰めようとしているのに、致命的な一撃を与えられていないのだから。

 つまり、戦況は互角だった。先に崩れた方が負けである。

 ジュレイモンは、決して近づかれるわけにはいかない。物量攻撃を力づくで対応するようなメタルティラノモンだ。近づかれてしまえば、そのパワーの餌食となってしまう。逆に言えば、押し切ればいい。

 一方のメタルティラノモンは、なんとしてもこの物量を耐えなければならなかった。パワーとスタミナが失われれば、この物量に押し切られてしまう。逆に言えば、押し切ればいい。

 結局は両者とも根は同じだった。物量で押し切るか、それともパワーとスタミナで押し切るか。これは、その勝負だった。

 とはいえ――。

 

「やれっ!」

「ティラさん!行きますよ!……行けっティラノモン軍団!」

「グアァアアア!」

「グゥウウウア!」

「ギャウゥウウ!」

「ガゥウウウウ!」

 

 とはいえ、それは一対一だった場合だけなのだが。そう。この勝負は初めから一対一ではない。初めから、一対五の戦いである。

 メタルティラノモンのフォローするように、自らツタや触手の前に躍り出るティラノモンたち。普通ならば、結果は先ほどと同じ。あしらわれて終わりである。が、ティラノモンたちには作戦があった。

 

「放て!」

「ウグゥウウウウ……ハガァ!」

「アァウウウウウ……アゥウ!」

「グァゥウウウウ……グアゥ!」

「ズゥウウウウウ……ズバウ!」

 

 ティラさんの声と共に、ティラノモンが口から放つのは深紅の炎。“ファイアーブレス”と呼ばれるティラノモンの必殺技。

 単体では、確かにジュレイモンに効き目は薄いどころか、無いに等しい。そもそも、木は火に弱いなど、ゲームの中だけの話。実際、生きた木々は水分を含んでいるため、燃えにくい。

 だが、それが集まれば話は別だ。しかも、ティラノモンの、ひいては人間側の狙いはジュレイモンを燃やすことにはなかった。

 

「これは……くだらないことをしてくれるぞよ!」

 

 すぐさま、ジュレイモンは彼らの狙いに気がついた。ティラノモンの合体技によって、ジュレイモンの目の前が覆われていたのだ。

 そう。ティラノモンたちの狙い。それは視界を潰すことによる目隠しだった。

 とはいえ、ジュレイモンも黙って見ている訳がない。すぐさまツタをひと薙。ティラノモンたちの深紅の炎を蹴散らし、彼らを吹き飛ばす。

 

「なっ!?」

 

 だが、その先でジュレイモンが見たのは、こちらに左腕を向けるメタルティラノモンの姿だった。

 そう。先ほどのティラノモンの真の目的。それは、先ほどまではジュレイモンの物量作戦によって作ることができなかった僅かな時間を稼ぎ、その時間でもってメタルティラノモンに必殺技の準備をさせること。

 ジュレイモンは、その彼らの策にハマってしまった。

 あれだけのパワーを持つメタルティラノモンの必殺技だ。どれほどの威力かは想像に難くない。だからこそ、ジュレイモンは攻撃に使用していたツタや触手を自身に巻き付け、防御を固める。

 

「撃て!」

「ガァアアアアアアアアアアア!」

 

 ティラさんの声と共に、メタルティラノモンの左腕より放たれるエネルギー弾。“ヌークリアレーザー”と呼ばれるそのエネルギー弾は、ジュレイモンの執拗な防御姿勢などもろともしなかった。ただ、目の前のものをすべて貫いていく。

 一瞬後。そのエネルギー弾が通ったところだけ、何もなかった。

 

「ぐぅうううう!やって……くれたぞな……!」

 

 ジュレイモンは生きていた。が、その身体は大きく欠けている。ダメージも大きなものだった。

 そう。ジュレイモンの先ほどの執拗な防御姿勢は、エネルギー弾を防ぐことこそできなかったが、軌道を逸らすことはできたのだ。結果、致命傷ではあるが、即死は避けられたのである。

 息絶え絶えに、ジュレイモンはメタルティラノモンを睨む。

 

「トドメをさせ」

「グァウ……ガァアアアア!」

 

 そんなジュレイモンにトドメを刺すべく、メタルティラノモンは右腕を上げる。

 一瞬後、メタルティラノモンの右腕から放たれたのは、ミサイルだった。“ギガデストロイヤーⅡ”と呼ばれる、メタルティラノモンのもう一つの必殺技。核弾頭に匹敵する威力のソレは、ジュレイモンを消し飛ばして余りある威力を誇る。

 今のジュレイモンには、これを躱すすべも、防ぐすべもない。悔しい思いを抱きながらも、ジュレイモンは自分の死を悟った。

 これまでか、と。そう思い、目を閉じたジュレイモンは――。

 

「なっ!?」

「グアァアア!?」

「誰だ……!?」

「報告が違うぞ……!」

「メタルティラノモンの必殺技をあんな簡単に!?」

「……!」

 

 彼ら人間たちのザワめきを聞いた。そして、いつまで経っても来る感じがしない相手の技。

 これが数十秒も続けば、ジュレイモンもさすがにおかしいと思う。だからこそ、生きている実感に疑問を抱きながら、ジュレイモンはそっと目を開いた。

 そこにいたのは。

 

「なんでこう……ナムが関わった時には面倒事に巻き込まれることになるんだろうな?」

「っていうか、旅人の決断が遅かったせいで、ジュレイモンの身体がすごいことになってるぞ。謝っとけよ」

「う……仕方ないだろ。状況がつかめなかったんだから!」

 

 そこにいたのは、人間と白い竜騎士。

 そう。事態が掴めずに、先ほどまで傍観を決め込んでいた旅人とスレイヤードラモンの二人である。しかも、スレイヤードラモンのその手には、先ほど放たれた“ギガデストロイヤーⅡ”が抱えられている。

 人間に助けられた。その事実に、ジュレイモンは年甲斐もなく混乱してしまっていた。

 

「っていうか、いい加減にそのミサイルどっかにやれよ。そろそろ爆発しそうで怖いんだけど」

「……それもそうだな。どうやって片付ける?」

「そうだなー……適当でいいんじゃね?空の上とかで爆発させれば」

 

 動かない、いや、動けないティラさんたちやジュレイモンの前で、会話する旅人たち二人。そこには、いっそ余裕ささえも感じさせられる。

 混乱するこの場の中で、この二人だけが話していた。

 

「そうだな。んじゃ、ちょっと行ってくるわ」

「おお、いってらっしゃいー」

 

 やがて、話がまとまったのだろう。

 気楽な口調で、スレイヤードラモンはこの場から消えた。少なくとも、ジュレイモンやティラさんたちにはそうとしか見えなかった。

 そしてこの直後。この場を衝撃が襲う。それは、遥か上の方から来る凄まじいばかりの風だった。

 ともすれば、何者かの攻撃とも思えるそのいきなりの衝撃に、旅人以外のこの場の全員が混乱していた。が、その次の瞬間に――。

 

「よっと。片付けてきたぜ」

「おお、おかえり。はやかったなー」

 

 スレイヤードラモンが、この場に再び現れた。

 何が起こったのか。あの白い竜騎士が何かしたのか。そんなことを思うジュレイモンやティラさんたち。

 まあ、あながち間違いでもなかった。スレイヤードラモンは一瞬で遥か上空に移動し、そして手に抱えていた“ギガデストロイヤーⅡ”を放り投げ、爆発させたのだ。

 この場を襲った衝撃は、この時の爆風である。

 あまりに杜撰な爆弾処理。それでも、それで何とかしてしまったのが、スレイヤードラモンだった。

 

「さて。で、爆弾処理もしたところで……この場をどうする?」

「うーん……どうする?」

「おいおい、そりゃないだろ旅人。どうするどころじゃねぇよ。特に、ジュレイモンは放っておけば死ぬだろうし」

「でも、なぁ……戦うのはなぁ……勝てるだろうけどなぁ……面倒なんだよなぁ」

「……蹴散らすぐらいわけねぇぞ」

「いや、わかってるよ。前みたいに拗ねるなよリュウ」

 

 明らかに下に見られている。混乱する頭でも、その事実だけはティラさんたちにもわかったようだった。彼らの旅人たちを見る目がだんだんとキツいものに変わってきている。

 どうするか、と。本格的にそう悩む旅人。そんな旅人に話しかけるのは、少し不機嫌になっているティラさんだった。

 

「アンタ、どうしてそいつを庇った?」

「え?いや。死にそうだったし、リュウから聞いたけどお前らの言っていることが訳わからなかったからかな。それに……」

「どういうことだ?」

「いや、首を傾げられてもな。ま、明らかに面倒事そうだしなー」

 

 こうして話してみて、旅人はわかった。

 こいつらは、自分たちの言動をおかしいことだとは微塵も思っていない。それどころか、どこか狂信のような精神さえも感じられる。こういった輩に付き合うのは、いろいろと面倒そうだ、と。

 そう思ったからこそ、旅人はこの場から撤退することにした。すぐさま旅人はカードを取り出す。

 

「じゃ!」

「逃がすと思うのか……!?」

「逃げるよ。set『転移』!んじゃなー」

 

 一瞬後、“転移”のカードの力で、旅人たちは消える。

 後に残ったのは、ティラさんたちだけだった。

 そう。旅人は、ジュレイモンも一緒に連れて行ったのだ。

 




というわけで、第百一話。

ジュレイモンVS人間たちな回でした。
ちなみに、これと似たようなことが世界規模で起こってるのが今の現状ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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