【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
その時、ウィザーモンは自分の部屋で溜息を吐いていた。
「はぁ。どうしてこうも面倒事ばかり続くのであろうな。いや、一連の事態が繋がっていると仮定するならば、それも仕方のないことだろうが……」
大成たちの面倒をいろいろと見ている場面からは想像もできないが、これでもウィザーモンはこの街の特別名誉教授。暇人ではない。研究すべきことも、そして研究したいことも腐るほどある。だが、しばらくはそれらに取り掛かることはできないだろう。
それほどまでに、今の事態は切迫したものだった。
「はぁ」
再度、ウィザーモンは溜息を吐く。
ウィザーモンには、この先の予感がしていた。こういう時に限って、面倒事は重なるのだという。そして、それに自分が駆り出されるのだという。そんな、面倒事の予感が。
遠い目をしながら、山となった書類に目を通すウィザーモン。この数分後のことだった。
「ウィザーモンっ!急患だ!」
「……思ったよりも早かったか」
その面倒事がやって来たのは。
ノックも呼び鈴も鳴らさずに家に飛び込んできたのは旅人で、その表情には若干の焦りがある。
今度はどんな面倒事を持ってきた、と。今朝に朝一で襲撃してきたドルグレモンのことを思い出しながら、そう思うウィザーモン。
旅人に連れられるままに家の外に出たウィザーモンが見たものは。
「ぐぅうう……はぁっはぁっ……ぐっ……」
今にも死にそうなジュレイモンの姿だった。
そう。迷子の森で使用したカードの力で、旅人たちはジュレイモンごとこの街へとやって来た。そこまではいい。だが、ジュレイモンが瀕死であるという事実が改善したわけではない。
多種多様な種類がある旅人のカードであるが、その中に今の状態のジュレイモンを治せるものはない。だからこそ、旅人はウィザーモンを頼ったのである。
「はぁ。ダルクモンの下へと直接行ってくれれば楽だったのだが……仕方ない。ジュレイモンは僕が連れて行く。後で事情を聞かせてもらうぞ」
「ああ、頼んだ!」
「やれやれ……」
旅人の持ってきた面倒事に呆れながらも、ウィザーモンはブツブツと何かの言葉を呟いた。その瞬間、ウィザーモンはジュレイモンごと消えた。おそらくは、転移の魔術で移動したのだろう。
だが、旅人たちはこの場に残ったままだった。おそらくは、ついて来ても邪魔なだけということで、この場に置いていかれたのだろう。
まあ、それも仕方ないことだ。そこは、旅人たちもわかっている。
「あとは……祈るしかねぇな旅人」
「祈る……ね……結局、ナムはオレたちをジュレイモンに会わせようとしていたのか?」
「さぁな」
いつまでもここにいても仕方ない。そう考えて、ジュレイモンの完治を祈ってから、旅人たちは歩き出す。歩きながらも旅人たちの頭を占めていたのは、結局なぜナムは自分たちをあの場に連れて行ったのか、ということだった。
ナムの言っていたものを探す作業を途中でほっぽり出した形になるかもしれない。だが、二人はもう一度あの森に戻って、ナムの言っていた何かを探す気はなかった。二人とも面倒くさくなったのである。
「で、リュウ。今はどこに向かってるんだ?宿じゃないだろ」
「大成たちのところだ。あの人間たちについて何か知ってるかもしれないし、教えておいた方がいいかもしれないしな。……ティラさんだったか?名前」
「ああ、そうそう。ティラさんだ……もしかしてティラノモンを連れてるからティラさんか?安直な……」
「ネーミングセンスについては旅人に言われたくないと思うぜー?」
「うぐ……どうせ……オレのネーミングセンスは……」
話しながら歩き続ける旅人とスレイヤードラモンの二人。しばらくの間は和やかに話していた彼らだったが、そのうちに街中のピリピリとした雰囲気に気づいた。
いや、ピリピリと例えるのは違うかもしれない。緊張感に包まれていると言うべきか、住民の不安が漂っているしていると言うべきか。
まるで、明日世界が滅ぶ予言が言われた時のような。不安と緊張、そしてほんの少しの楽観が混じった雰囲気。そんな言い様のない雰囲気が、街中を包んでいたのだ。
「これ、何かあったのか?旅人はどう思う」
「どうせ……オレは……くそっ。改名しようかな……」
「それはもういいって言ってんだろ!ったく」
「え?この雰囲気?……さぁ。何かあったんだろ。この街って本当に騒動に事欠かないよな」
果たして、この街が騒動に事欠かないのか、それともトラブルホイホイと呼ばれるような存在がいるから事欠かないのか。
一体どちらなのか、微妙に気になったスレイヤードラモンだったが、関係のないことだとしてそんな考えは頭から振り払った。
まあ、敢えて言うのならば、どちらもと言うべきなのかもしれないが。
「後でウィザーモンに聞いてみるか。どうせジュレイモンの件についての説明もあるしな」
「だな。旅人、ちゃんと言えよ」
「え?オレが言うのかよ……」
「当たり前だろ」
ジュレイモンの件やこの街の件。旅人はウィザーモンに聞くこと、そして言うことを頭の中でまとめながら歩く。
そうこうしているうちに、彼の目の前には大成たちの家が見えていた。
「お、着いたな。いるか?」
「最近の大成はげーむとやらばっかりらしいからな。いるだろ」
「どうかなー」
着いて一番、旅人は玄関ドアをノックする。が、誰も出てこない。念のため、もう一度ノックする。が、やはり誰も出てこない。
これは留守ではないのだろうか、と。そんなことをぼんやりと思った旅人たち二人。とんだ無駄足である。
まあ、無駄足とはいえ、いないのならば仕方がないことだ。元々約束していたわけでもないだから。
「帰るか」と。そう呟いて、旅人が踵を返そうとしたその瞬間に――。
「あれ?旅人にリュウ?どうしたの?」
「優希か!」
背後から聞こえた声。それはこの家の住人の一人の優希のもので、旅人は振り返った。
レオルモンを連れている優希は、そんな旅人を不審げに見つめている。どうやら、玄関前に立ったままの旅人を怪しく思ったらしい。
「いや、お前らに会いに来たんだけどさ。いないみたいだったから帰ろうと」
「いない……?大成とスティングモンがいるはずなんだけど……」
旅人の言葉を聞いて、優希は先ほどまでとは別の意味で不審な表情をする。優希がこの家を出た時、大成たちはこの家の中にいたはずなのだ。
今日はウィザーモンからの依頼もないし、今の大成は出不精だ。どこかへと行ったとは考え難い。
「……考えても埒があかないわね。旅人たちも寄ってくでしょ?」
「まぁ、初めからそのつもりで来たんだしな」
「じゃ、いらっしゃい」
「では、どうぞ。こちらですな」
優希に促され、レオルモンに先導されて、旅人たちは家の中に入る。何度か来たことのあるリビングに旅人たちは通されたのだが――そこにいたのは、バツの悪そうな顔をした大成とスティングモンの二人だった。その手にはゲームのコントローラーが握られている。
どういうことか、と。そんな疑問を頭に浮かべる旅人とスレイヤードラモンの二人だが、一方でレオルモンと優希は呆れている。
どうやら、優希たちにはすべてがわかったらしい。
「どういうこと?」
「……はぁ。旅人、ごめん。見たままよ」
「見たままって……ああ」
本当に申し訳なさそうな優希に言われて、ようやく旅人も気づいた。ようするに、大成たちは居留守を使ったのである。
まあ、一応の名誉のために言っておくと、スティングモンは応対に出ようとしていた。が、ゲームに夢中になっていた大成に止められたのだ。つまり、悪いのは大成である。
同居人の阿呆加減が恥ずかしいのだろう。優希は、顔を赤くしていた。
「……ま、いいけどね」
「いいの!?」
「そりゃ、ちょっとはイラっとしたけど……夢中になったなら仕方ないだろ。少なくとも、オレやリュウにも覚えがあるしな。責めれないな」
「なんでそこで俺も挙げたんだ!」
「いや、五年前のことは忘れないぞ。オレは」
「う……」
自身も趣味や生き方のようなものに夢中になる質だからこそ、大成を責めなかった旅人。一方で、居留守を使った大成と同列扱いされたスレイヤードラモンは不服そうだった。
責められなかったから調子に乗ったのか。もう詫び入れる様子もなく、大成は立ち直った。
「それで旅人たちはどうして来たんだ……?」
「……まぁ、別にいいけど。リュウが大成たちに用があるって言うからなー」
「リュウが?」
今までなかっただけに、大成たちには旅人が自分たちに用があるということが思いつかなかった。それだけに、旅人のその言葉は納得だった。旅人の言葉に釣られるように、大成たちはスレイヤードラモンを見る。
どこから話そうか、と。話す雰囲気になったところで、スレイヤードラモンはそう悩んだ。
「さっき、俺たちはちょっと出てたんだけどな……」
「うん、それで?」
「その時に、何人かの人間に会った。ずいぶんと酷い奴らだったがな。リーダー格の子供はティラさんとか呼ばれてたな」
「うそだろっ!ティラさん!?」
「知ってんのか?」
いきなりの大成の食つきに、この場の全員はそれぞれ驚いた。
一方で、そんな大成も驚いたような顔をしている。どうやら大成にとっても、自分の知っている者の名前が出たことは驚きだったらしい。
「知ってる、けど知り合いじゃねぇ。俺が一方的に知っているだけだ」
「そうなのか?」
「ああ。デジタルモンスターのランキング第十位のプレイヤーだ。いわば有名人だな」
「ゲームの中で有名人って……」
「旅人はゲームをしないからわからないだろうけどな!ランキング上位者はそれこそ国民的アイドルにも匹敵するんだよ!」
まあ、そんな大成の戯言はともかくとして。
実際にティラさんと会った旅人たち二人は、先ほどのことを思い出す。確かに、彼は強かったと言えるかもしれない。周りの人々が成熟期デジモンを連れている中で、一人だけ完全体を連れていた。
そう考えれば、なるほど確かに。彼がランキング第十位というのも伊達ではないのだろう。
「ふぅん?でも、見た感じは酷い奴だったけどな」
「ティラさんはそんな奴じゃねぇぞ!」
「いや、知り合いでもねぇ奴に言えることじゃねぇだろ。……なぁ?」
「なんでリュウはそこでオレに振るんだよ。……とにかく、そういう奴らが彷徨いているみたいだから、気をつけろってことをリュウは言いたいみたいだぞ」
スレイヤードラモンの言いたいことを引き継いで、旅人が話す。
ティラさんたち彼らの目的はデジモンに限定しているようだったが、そんな彼らもデジモンを連れていたようであるし、その辺りの線引きが不明瞭だ。情報が足りない。
下手をすれば、優希や大成たちも彼らの襲撃の対象になるかもしれない。
旅人やスレイヤードラモンならば、彼ら程度はどうとでもなる。だが、優希や大成たちともなればそうともいかない。
だからこその忠告だった。
「そういえば、そんな感じの……大成はこの前に出会ったんでしょ?」
「ああ、ネツだろ」
「ネツ?」
知らない名前に首を傾げた旅人に、大成は一週間前のことを言う。ネツという人間と出会ったこと。デジモンのことを経験値としか見ていないような、狂った人物であったこと。
そんなネツのことを聞いていく旅人とスレイヤードラモンだが、二人は自分たちと出会った人間たちとネツの人物像が同じものだとは思えなかった。確かに、両者は似ているとも言えなくもないのだが、そこには言い切ることができない違和感がある。
とはいえ、旅人たちにはその違和感がわからなかったのだが。
「……ふぅん?しかし、どっちにせよ……人間か」
「旅人殿?どうかしたのですかな?」
「いや、さっきナムと会ったんだけどさ……アイツが言っていたこととか……この前のこととか。いろいろと思い出してな」
旅人の脳裏に思い起こされたのは、一週間前のこと。人間の世界でウィザーモンと共に侵入したビルの地下にて見た凄惨な光景。
何体ものデジモンが機械に繋がれたり、身体を切り離されていたりした光景。生きたパーツとして使われている者もいれば、そのまま機械の一部に組み込まれている者もいた。命を命とすら思わないからこそ生まれる、そんな何らかの実験現場。
あの光景が、人間が引き起こしたものであるのだ。
この世に生きる一人の者として、嫌悪感を抱かずにはいられない光景だった。事実、怒り狂った旅人たちの手によってあの場所は完膚無きまでに破壊され、そこにいたデジモンたちは楽になった。
旅人たちにとってあの場所はただ嫌悪感しかもたらさない場所だった。が、ウィザーモンには違ったらしい。彼には、あそこで行われている実験が何かわかったのだろう。あの時の珍しく愕然とした様子のウィザーモンの表情を、旅人は今でも鮮明に思い出せる。
「……ほんと。ナムの言った通りかもな」
先ほど、ナムは言っていた。今回の件は五年前とは違う、と。他ならぬ五年前の件の中心にいた旅人だからこそ、ナムの言っていた意味がわかるような気がした。
五年前に自分たちが解決したアレは、言うなればどうしようもない天災だった。世界という大きな存在の根本的な部分によってもたらされたものだった。
だが、今回の件は違う。今回の件は、五年前の件のような世界などという大きなものによってもたらされるものではない。おそらく今回の件は、小さなものによってもたらされるもの。
きっと今回の件に敵はいない。仮に敵を作るのならば、それは、と。そこまで考えて、旅人は溜息を吐く。
「はぁ……」
「旅人?どうかしたの?」
「別に。ただ、今回の件は五年前以上に面倒事だと思っただけだよ」
旅人のその溜息は、これから先の面倒事に嫌気が差したからこそのもので。
そして、旅人が溜息を吐いたその次の瞬間のことだった。
「なんだっ!?」
「何ですかっ!?」
「これって……!」
「これは……」
「面倒事か……はぁ」
「……こういうことって続くもんだな!」
街中に轟音が轟くのと共に、まるで地震のような揺れがこの街を襲ったのは。
というわけで、第百二話。
次回からの話に繋がる回ですが……また学術院の街が襲撃されますね。
何回襲撃されるんでしょうかね。一応、学術院過去最大の危機……かもしれないです。
さて、次回は学術院の危機に立ち向かいます。
それでは次回もよろしくお願いします。