【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

103 / 132
第百三話~残酷な再会~

 轟音。振動。先ほどから絶えずこの学術院の街を襲っていたこれら。

 明らかに只事ではない。

 どうするべきか、と。家にいた大成たちは、これからのことを考える。正直、彼らにも今の事態は掴めていなかった。が、そんな時だった。

 

「アナザーからの通信……?ウィザーモンか!」

 

 大成のアナザーに、ウィザーモンからの通信が入ったのは。

 このタイミングでの通信。十中八九、今のこの事態に関することだろう。すぐさま大成はその通信に出た。

 

「どうなってるんだ!?」

――やれやれ……少しは落ち着きたまえ――

「落ち着けるか!」

――ふむ。それもそうか。こちらも時間がない。簡潔に言わせてもらう。今、この街は襲撃されている。人間と……そのパートナーデジモンにな――

「人間に!?」

 

 ウィザーモンから教えられたことに、大成は驚いてしまった。

 一応、大成もそういう人種がいることは旅人たちから聞いていたし、そもそも自身も零やネツといった人物と会ったことがある。だから、デジモンを襲う人間がいることは予想していた。が、こうも大胆に、そしてすぐ襲撃してくるとは予想外だった。だからこそ、大成は驚いたのである。

 

――こちらでも対応しているが……何分人手不足だ。別に戦えとまでは言わない。が、救助活動くらいにはしてくれ――

「わかった。優希と旅人にも伝えておくぞ?」

――旅人もそこにいるのか?頼む。君たちの顔はこの街の者たちに知られている。敵とは間違われないから安心したまえ。では、切るぞ――

 

 伝えるべきことだけを簡潔に伝えて、さっさと通信を切ってしまったウィザーモン。それほどまでに、事態は切迫しているということなのだろう。

 絵に書いたような、街単位での緊急事態。そんな始めての事態に、自然と大成も浮き足立ってしまっていた。

 とはいえ、仕事はしなければならない。すぐさま、大成はウィザーモンから聞いたことを優希と旅人にも伝えた。

 

「なるほど。やっぱりか。ずいぶんと早いことで……これ、オレたちが連れて来たとかじゃないよな?」

「違うと思うが……ま、わかんねぇな。どうする旅人。今度は逃げるなんて言うなよ?」

「わかってるさ。ドルは……何とかするか。じゃ、オレたちはとりあえず救助を最優先で、襲撃犯は見つけ次第捕縛だ」

「了解。じゃ、大成たちも無理はするなよ!」

 

 大成から言われた内容を把握し、旅人とスレイヤードラモンはすぐさまこの家から出ていく。おそらくは救助活動をしに行ったのだろう。迅速な行動だった。

 彼ら、それもスレイヤードラモンがいるだけで、大成はかなりの安心感を感じてしまっていた。まだ事態は解決してもいないのに。

 だが、事態が解決していないのだから、このまま安心するわけにもいかない。

 ホッと一息つきそうになってさえいた自分に気づいて、大成は急いで気合を入れ直した。

 

「セバス!私たちも行くよ!」

「了解ですな!大成殿もスティングモン殿もお気を付けくだされ!」

「わかってる!イモ!」

「はい!行きましょう!」

 

 旅人たちに引き続いて大成たちも家を出て、すぐさま大成たちと優希たちは別れた。さすがに、固まって行動するのは効率が悪い。

 反対方向に走っていく優希を見送って、大成たちは走り出した。

 火災や倒壊によるものだろうか。街はところどころから黒い煙や茶色い煙が上がっていた。それだけではない。大成たちが走っている間にも、そうした煙の類はどんどん酷くなっていく。

 それはつまり、被害が酷くなっているということで。体力がないなりに、大成の足も自然と早くなっていく。

 数分後、大成たちがたどり着いたのは、ひときわ倒壊現象が激しいところだった。

 

「誰かいないのか!」

「生きていたら返事をしてください!」

 

 走っているうちにたどり着いたこの場所だったが、犯人はいない。もう別の場所に移ったのか、それとも捕まったのか。はたまた、まだここにいるのか。

 そのどれなのかは大成にわかるはずもなかった。だが、大成たちにはそのどれでもよかった。大成たちの頭の中にあるのは、ただ生存者の救助。それだけだったから。

 

「おーい!誰かいないのかー!」

「誰かー!いませんかー!」

 

 声を張り上げる。だが、応える声はない。それの示すところはつまり、そういうことで。

 生存者はいない。一瞬、大成たちはそんな絶望的な考えを思い浮かべそうになる。その次の瞬間だった。大成たちの目に、それが飛び込んできたのは。

 

「いました!」

「おい、大丈夫か!?」

 

 瓦礫に埋もれるように、倒れたまま動かない小さなデジモンだった。気絶しているのだろう。死んでしまったのならば、光となって消えるはずであるから、まだ生きているはずである。

 

「う……」

 

 急いで寄って、スティングモンは瓦礫をどかす。大成がそっと持ち上げると、その小さなデジモンは僅かにうめいた。

 自分でも誰かを助けることができた。その事実に、大成は僅かに嬉しくなった。が、ハッとして気を取り直す。ここには、まだこの小さなデジモンと同じような者たちが大勢いるかもしれないのだから。

 傷だらけの小さなデジモンを前にして、大成は急いでアナザーを取り出した。

 アナザーには、収納したデジモンの回復能力がある。いちいち負傷者を安全な場所に運ぶよりは、中に入れて回復させつつ、他の負傷者を探す方がよっぽど効率的だ。

 フッと。そんな擬音をつけられそうな感じで、小さなデジモンはアナザーの中へと入った。

 「これでよし」と。小さく頷いて、大成はスティングモンと共に次の負傷者を探そうとした――そんな瞬間のことだった。

 

「大成くんかい?」

「っ!?」

 

 背後から聞こえたのは、いつか聞いたことのある声。一度だけ会ったことのある人の声。だが、致命的にどこかが違う声。

 ハッとして、大成は振り返った。そこにいたのは。

 

「……好季!」

「やぁ。久しぶりだね」

 

 そこにいたのは、好季だった。好季のような、誰かだった。

 いや、誤解がないように言うとそこにいたのは紛うことなく、好季である。以前、優希に求婚した彼だ。

 それでも、大成には目の前の人物が以前と同じとは思えなかった。どこかが違ったのだ。知り合いということもあって、警戒するつもりはない。するつもりはないのに、なぜか警戒してしまう。

 そうしてしまうほどに、好季は以前とどこか違った。

 

「……誰だ?」

「酷いな。好季だよ。以前も会ったことあるだろう?それとも、忘れたかい?」

「……そうだな。悪い」

「ははっ。まあ、いいよ。積もる話もあるだろう?これから話さないかい?」

「でも、今は見ての通り緊急事態だ。積もる話もあるだろうけど、今は救助するのが先だな」

 

 好季に致命的なまでの違和感を感じても、大成は他の負傷者を探して走り出した。今は緊急事態なのだから、好季に気を取られている訳にはいかない、と。そう考えてのことだった。

 だが、そう考えた大成は、考えが甘かったと言うべきだろう。なぜ好季はこの状況で世間話をしようとしたのか。もっと言えば、なぜ好季は救助するわけでもなくここにいたのか。そこに思い至らなかったのだから。

 

「大成さん!」

 

 大成が気づいたのは、スティングモンの悲鳴を聞いた時だった。

 運が良かったとしか言いようがない。スティングモンがそれに気づけたことも。スティングモンの声を聞いてハッとした大成が身体を捻ることができたのも。

 ブンッと。そんな風切り音が、大成の耳に届いた。次いで、大成が感じたのは、鋭い痛み。気づけば、大成の左腕には浅い傷が出来ていた。

 

「あれ、運が良いね。本当なら、首が落ちるはずだったんだけど」

「好季……!」

「これ?そっ。僕の()()

「ニァァァァ……」

 

 そう言った好季の傍に立ったのは、彼のパートナーデジモンのミケモンだった。

 かつて大成も見たことのあるデジモンである。だが、その身に纏っている雰囲気は、かつての時とは大きく違っていた。口は半開きでヨダレが垂れていて、目の焦点は定まっていない。明らかに正気ではない様子。というか、一転してホラーゲームに登場しそうな様子だった。

 どうやら、好季だけでなく、ミケモンにも何かがあったらしい。そのことを、大成は思い知らされた。

 大成たちの出方を見ているのか、ミケモンは唸るだけで動かない。好季は、そんなミケモンを愉快そうに見ていた。

 

「どうします……?」

 

 スティングモンが大成に尋ねる。

 大成の答えは決まっていた。好季とは長い付き合いでも、深い付き合いでもない。それでも、知り合いではある。

 

「やるぞ。イモ!」

「はい!」

 

 人間、それも知り合いとの戦いに躊躇いを覚えない訳ではない。それでも、大成は戦うことを決めた。

 大成は相手が人間ではないからこそ戦うのではない。大成にとって大切なことは、種族云々ではないのだ。大成にとって大切なこと。そこにこそ、大成の戦う理由があった。

 今回の件で言えば、大成は今の好季が嫌だった。たったそれだけ。実に感情的な理由だったが、それだけで大成には戦う理由になる。

 そして、スティングモンはそんな大成を尊重した。

 

「どうします……?」

 

 先ほどと同じことをスティングモンが尋ねる。だが、言葉は同じでも、そこに込められた意味は違った。先ほどのそれは戦うかどうかの確認だったが、彼が今回尋ねたのは作戦の内容である。

 尋ねられた大成は、一瞬だけ考え、すぐに作戦を決定する。即座に、大成はアナザーとデジメモリを取り出した。

 

「決まってるだろ。全力だ!完全体で完封勝利!ミケモン()()()()!」

「……!任されました!大成さんも気をつけてくださいね!」

「わかってら!セット『エクスブイモン・ジョグレス』!」

「ジョグレス進化――!」

 

 腕に走る痛みを堪えて、大成はデジメモリをアナザーにセット。直後、スティングモンはディノビーモンへと進化した。

 

「へぇ……?」

「ニァァァァァ!」

 

 目の前でいきなり完全体へと進化するという現象に面白そうな表情をする好季とミケモン。

 一方のディノビーモンは即座に突っ込んで、ミケモンを確保。当然、暴れられてダメージを負う。が、それは必要経費だった。ディノビーモンはダメージを受けながらも、そのまま暴れるミケモンを連れてどこかへと飛んでいく。

 これで、大成は好季と二人きりになった。

 

「へぇ。分断作戦かい?」

「こっちとしては助かるけど……うまく行き過ぎて怖いな。追わなくていいのか?」

「道具を追う必要があるかい?向こうからやって来るのが筋というものだろう?」

 

 ミケモンをディノビーモンに任せ、その間に大成が好季を何とかする。それが、今回大成が立てた作戦。今回の一件は、ただ倒すだけでは勝利とは言えない。だからこそ、大成も戦う覚悟を決めた上で、この作戦を立てた。

 客観的に見れば、非常に感情任せの穴だらけ作戦。とはいえ、それにしては今のところは上手くいっている。上手くいっているのだが――大成は、ここからどうするべきかを悩んでいた。

 

「……本当に、正気を失ってるんだよな?素だったらどうしようもねぇぞ」

 

 殴り合う。論外である。大成はインドア派で喧嘩もロクにしたことがない。しかも、好季は大人だ。子供の大成とは体格が違う。さらに言えば、そもそもノックアウトすれば好季が元に戻るという保証はない。

 では、言葉による説得。説得できるほど、大成は言葉が達者な訳ではなかった。そもそも、正気を失っていると仮定される相手に言葉が通用するかという問題もある。

 優希を呼んで、愛の力による説得。やはり論外である。

 いろいろと考えて、それでも良い方法が思い浮かばなかった大成。タイムアップのようだった。

 

「詰んだな」

「やれやれ……来ないのかい?それじゃ、こっちから行く、よっ!」

「げっ!?」

 

 考えたままの大成に焦れたのか、好季は大成に突っ込んでくる。まず間違いなく、大成にとって最悪の殴り合いのパターンだろう。

 好季の右の拳が唸る。何とか躱すことができた大成だったが、それは幸運によってもたらされたものだった。幸運は、二度は続かない。

 

「そらそらっ!」

「がっ……ぐっ……!」

「どうしたんだい?もっと強がってみさてくれよ!」

「がはっ……」

 

 いつの間にか、連続で殴る好季と連続で殴られる大成という図が出来上がっていた。大成には殴られた経験などない。この世界に来てからだって、極論を言えばほとんど見ていただけだ。デジモン同士の戦いの痛みに比べれば屁でもない痛みだろうが、それでも大成にとっては相当な痛みだった。

 苦痛が口から漏れ、その度に大成の視界は白くなる。いや、視界だけではないか。連続的に来る痛みで、痛みに慣れていない大成は、もはやまともに思考することすら困難になっていた。

 

「ぐっ……あ……」

「なんだい。もう終わりかい?つまらないね……」

 

 数分後。

 心底つまらなそうに、そう呟いた好季。その足元には、蹲って苦しそうな大成が転がっていた。

 

「弱いくせに、なんで分断作戦なんかしたんだか……」

「……ぅ、る……せ……ぇ……」

「……へぇ。まだ喋れるんだ。じゃ、もう少し殴ろうかな」

 

 にやり、と。残虐な笑みを浮かべながら、腕を鳴らし、足を振り上げる好季。

 蹴られる。今の大成にそれがわかるほどの思考はできなかった。いや、例えそれがわかっても、今の大成には躱すことなどできないか。

 どちらにせよ、思考もまともにできない状況で、大成の口から出たのは――。

 

「ギャ……る……ゲー……」

 

 ずいぶんとくだらないことだった。

 いや、もちろん意識して言った訳でない。大成は、好季のことを思い返した時に必ずと言っていいほど自然と思い起こされるイメージがあって、それが口から漏れただけなのだ。

 

「……?なんだい……それは?」

「……」

「答えろ……答えてくれ!」

 

 だが、好季の方には何にがあったようである。足を下ろし、大成に詰め寄った彼のその表情には焦りだけがあった。そこには、大成の呟いた言葉の意味を、何が何でも知ろうという意思があった。

 

「……ぁぅ……?……だ……ろ……」

「いいから答えろ!殴るぞ!」

 

 一方で、痛みでろくな思考もできないからこそ、大成はゆっくりとでしか好季の言葉を咀嚼することができない。

 そんな大成の姿が、好季はなおのこと気に障って、余計に焦燥感に駆られた。

 

「答えろよ!」

「がふっ……」

 

 そんな焦燥感ゆえか、好季はつい手まで出してしまった。

 追加でダメージを負った大成は、もはやされるがままで意識さえ薄れていて。それでも、これが大事なチャンスであるとはわかったらしい。

 薄れ行く意識の中、自分が何をしているのか、したいのかもわからず、大成は呂律の回らない口でただ必死に何かを話そうとした。

 

「……ぉ……まぇ……が……好……ろぉ……か……」

 

 だが、そこで限界が来てしまったらしい。すべては痛みに誘われるままだった。

 ばたり、と。そんな音を立てて大成は倒れる。

 

「あ……あぁ……ぁあああああああああ!」

 

 そして、直後に響き渡る絶叫。

 だが、まるで地獄の苦しみを味わっているかのようなそんな叫び声を上げたのは――なぜか、先ほどまで大成を殴っていた好季の方だった。

 ここに第三者がいれば、十人が十人、狂ったように叫ぶ彼を心配するだろう。それほど、今の彼は苦しそうだった。

 そして、数分間。声が枯れ果て、喉が潰れるほどに叫んだ好季は――。

 

「……やれ……やれ……僕は……ギャルゲーが……好きなのに……これじゃ、王道なRPG……か、アクション……じゃないか……ああ、でも……青春系……ぎゃる……げー……にも……こういうの……あるか……」

 

 泣きながら、ぶっ倒れた。

 その顔は、まるで罪という名の苦痛に苛まれるかのようだった。

 




というわけで、第百三話。

青春(ゲーム)な話でした。
まあ、片方はそんな歳はとうに過ぎてますけど……。
もうちょっと丁寧に書けばよかったと思ったり。

ともあれ、さて次回。
大成たちに変わって、優希たちのお話。
彼女たちが出会ったのは……?

それでは次回もよろしくお願いします。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。