【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百四話~手を伸ばした先は誰~

 時は少し遡る。

 大成たちと別れた優希とレオルモンがたどり着いたのは、瓦礫の山となり果てた街の中だった。文字だけ見ると大成たちと同じようにも見える。が、あちらよりもずっと瓦礫の量は多い。

 その辺一帯は街というものの原型を留めていなかった。

 

「酷い……」

「お嬢様!ボーッとしている場合ではありませんぞ!」

「うん、わかってる。生きてる人を探そう」

 

 気を抜けば、崩れてくる瓦礫。まだいるかもしれない犯人。それらに気をつけながら、優希たちは生存者を探す。が、見当たらない。

 考えられる可能性の中で、最も可能性が高いのは、見える範囲にいないということだろう。つまり、優希たちの周りにある見上げ、見渡すほどのこの瓦礫の山。そこにいるということだ。

 

「っ。生きてるなら返事して!」

「誰かいませんかなー!」

 

 とはいえ、この膨大な瓦礫の山をひっくり返すことなどできるはずもないし、瓦礫の山の中のどこに埋まっているのかがわからない以上、下手に触るわけにもいかない。

 手詰まりだった。

 向こうからのコンタクトを願いながら、優希たちは声を上げる。もちろん、その際に辺りを見渡し、倒れている者がいないかのチェックも忘れない。

 

「いませんな……!避難が間に合ったと、考えるべきですかな……」

「そう思いたい、けど……」

 

 「思えないよ」と。目の前の惨状を前にして俯きながら弱々しく呟いた優希は、すぐさま両手で自分の頬を叩いた。

 苦しいのは、救助を待っている者なのだから、救助する立場の自分が弱音を吐くわけには行かない、と。そう考えて、優希は気合を入れ直し、そして同時に戒めたのである。一瞬でも絶望的な気分になりそうだった自分の頬を叩くことで。

 優希はそのまま顔を上げて走り出して――レオルモンは、そんな彼女を追った。

 

「お嬢様!?何か案があるのですかな!?」

「はっ……はっ……ない!けど、とりあえず足で稼ぐ!見つかるまで声も上げる!」

 

 瓦礫の山という足場の悪い中を走りながら、優希は辺りを見渡し、そして声を上げる。そこには、誰でもいいから生き残っていて欲しいという、祈りにも似た願いだけがあった。

 かれこれ一時間は探しただろうか。未だ、優希たちは一人も見つけられていない。そのせいだろう。優希たちは、自分たちの中にある焦りが強くなっているのを感じていた。

 

「……進化して、この辺り一帯の瓦礫を吹き飛ばす……しかないのかな」

「ですが、危険な賭けですぞ。だからこそ、ここまで声と足で探していたのではないですか!」

「そう、なんだけど……」

 

 こうも見つけられないとなると、その危険な賭けに賭けたくもなる。優希はそう言いたかった。危険か賭けに縋ってでも、優希は今自分の頭の中に浮かんだ考えをどうにかして否定したかった。

 ここまで同じ場所を探して、それでも見つからない理由。先ほどまで思い至らなかったもう一つの可能性に優希は気づいてしまったのである。

 

「……仕方ないですな」

「セバス?やってくれるの?」

「……むぅ……ゆっくりでいいのなら」

 

 レオルモンも、優希と同じ可能性に気づき、そして焦っていた。だからこそ、レオルモンも優希のその案を受け入れることにした。のだが、レオルモンも、自信はなかった。

 進化して瓦礫をどうにかする。それが優希の案であるわけだが、そこには当然手術をするかのような繊細さが求められる。雑かつ豪快にやればやるほど、瓦礫の下にいるだろう者を傷つけてしまう可能性が生まれてしまうのだから。ただの瓦礫排除作業ではないのだ。

 レオルモンは何度も進化し、その体で動いてきた。だが、その目的のどれもが相手を倒すことであったりと、繊細さとはほど遠い内容。

 繊細な作業はこれが初めてである。しかも、他人の命に関わる作業だ。だからこそ、自信を持ってできるなどとは言えなかった。

 

「ゆっくりでもいいけど、でも……なるべく急がないとダメだよ」

「……矛盾してますぞ。ですが、そうですな」

「が、頑張って」

「わかっておりますな……」

 

 とはいえ、自信が無かろうと、瓦礫の下に埋まっているだろう命のことを考えれば、迅速にやらなければならない。

 ゆっくりと繊細に、それでいて迅速に。それが要求であり、大前提。

 レオルモンは人生最大の難問を突きつけられていた。

 

「行くよ……?」

「……ふぅ。よっし。うむ。準備はいいですぞ!」

 

 優希の持つ力が鼓動する。その瞬間、優希の()()()光って――だが、その瞬間のことだった。

 

「っ!?お嬢様!」

「きゃっ……!」

 

 いきなりのレオルモンの声。

 それと同時に、優希はレオルモンに引っ張られ、瓦礫の影へと連れ込まれる。そんな、いきなりのレオルモンの行動に驚いたからだろうか。優希の光は消えてしまい、レオルモンの進化は不発に終わった。

 何が起きたのか、なぜ止めたのか。疑問と若干の抗議の視線を、優希はレオルモンに送る。

 

「どうしたの……?」

「静かにした方がいいかもしれませぬぞ……!」

 

 そんな優希の視線も気にとめず、レオルモンは瓦礫の影から様子を伺っていた。その表情は真面目そのもので、重大な何かがあったのだと優希に悟らせるには十分だった。

 

「足音が聞こえましたでな……」

「……!」

 

 そのレオルモンの言葉の意味は、優希もすぐにわかった。

 足音。それはつまり、誰かが来ているということ。この状況下で、来る誰かなどそう多くはない。可能性としては三つ。一つは生存者で、二つ目は優希たちと同じように救助している者。この二つならばいいが、問題は三つ目だ。三つ目、つまり、この状況の犯人ないしその仲間であるということ。

 ごくり、と。喉を鳴らして、ジッと身を潜める優希。三つの可能性の内のどれであるかわからない以上、静かにしていなければならないと理解していながらも、優希はどうしても言いたいことが一つあった。

 

「ねぇ……セバス……」

「お嬢様……静かに……!」

「いや、だから……」

 

 優希が何かを言おうとするたびに、レオルモンは優希をたしなめる。そんなことが数回も続けば、優希もヤケになっていた。どうにでもなれ、と。

 ジャリジャリ、と。瓦礫の山を歩く音が、そろろそ優希にも聞こえてきた。だが、その足音の主は角度的な問題で、まだレオルモンにも見えないらしい。

 パチッパチッ、と。小さいながらも、その足音よりもずっと大きな音が辺りに響く。まるで、電気が爆ぜるようなその音が。

 

「……むっ!?足音の主がまっすぐ近づいてきますな……!なぜこのセバスたちの居場所がバレて……」

「真面目に言ってる?」

「お嬢様はその理由がわかるのですかな?」

 

 まるでわからないとばかりに、首を傾げるレオルモン。そんなレオルモンは、自分にはわからない理由がわかっていることで、優希に尊敬の視線を送っている。

 だが、一方の優希としては、溜息を吐きたい気分だった。レオルモンが気づいていないのは、おそらくそれが無意識的なことで仕方ないことだろう。それは優希もわかっている。が、今の優希からしたら、レオルモンはボケているようにしか思えなかった。

 

「わかるもなにもね……」

「……?っ!お嬢様っ!」

 

 優希が正解を口に出そうとしたその瞬間。レオルモンが優希を押し倒した。

 押し倒された優希を襲う一瞬の痛み。その痛みにうめいたその直後だった。優希の耳に届いた轟音。その瞬間に優希の目に飛び込んできたのは、上空から降ってくる瓦礫の数々。

 咄嗟に、優希は腕を使って頭を庇う。

 そんな優希を守るように、レオルモンが上から降ってくる瓦礫を迎撃。

 瓦礫は数秒間も降り続けていて、その間ずっと優希は生きた心地がしなかった。

 

「っく。やはりバレていたのですかな……一体何故……!」

「何故も何もないでしょ。やっぱり気づいてなかったのね。あれだけわかりやすく居場所を教えてたら、誰だって気づくわよ」

 

 瓦礫の雨も止んだ。

 ようやく立ち上がれるようになった優希は、相変わらずの天然ボケをかますレオルモンに呆れながら立ち上がった。

 ちなみに言っておくと、優希たちが気づかれたのはレオルモンのせいである。警戒時のレオルモンには、静電気によって頭の毛から威嚇の音が鳴るという仕組みがあって――つまりはそういうことである。

 

「それにしても、いきなりとはね……襲撃犯と間違われたってことはないわよね?」

「ないでしょうな」

 

 先ほどの瓦礫の雨のせいで、土煙が酷い。

 土煙の中に先ほど優希たちを攻撃してきた者と思わしき人影は見えるが、それだけだ。鮮明な姿は見えず、優希たちは下手に動けなかった。

 いつ戦闘が始まってもいいように、優希たちは警戒しながら土煙が晴れるのを待つ。

 数十秒。土煙が晴れるまで、実際はそれだけだった。だが、いつ戦いが始まるかもわからない中で、優希たちは何分も経過したように感じて。

 

「え……うそ、でしょ……?」

「なんと……!?」

 

 土煙が晴れた時。その土煙の向こう側にいたのは、優希たちも驚く相手だった。

 優希は知っている。彼女のことを。正直に言えば、優希は彼女のことを妹分のようにも思っていた。

 レオルモンは知っている。彼のことを。正直に言えば、レオルモンは彼のことを気に入らなかった。

 そう。そこにいたのは――。

 

「久しぶりですね。優希さん」

「ァァァァアア」

「片成……ちゃん……!?なんで……!?」

 

 そこにいたのは、以前までの様子が嘘のような冷淡な表情をした片成と、狂気に満ちた雄叫びを放つエンジェモンの二人だった。

 

「なんでも何もないです。ただ、邪魔だっただけですよ」

「……っ」

 

 淡々と告げる片成。そんな片成を前にして、優希は呆然としてしまっていた。

 先ほどの瓦礫の雨は、間違いなくエンジェモンが行ったものだろう。この状況で、エンジェモン以外が犯人であるなどということはありえない。これは、優希たちに対した片成たちによる明確な攻撃行為だった。

 片成が自分の命を狙ってきた。その事実がわかったからこそ、優希は呆然としてしまっていたのである。

 

「お嬢様……」

 

 明らかにショックを受けている優希を、レオルモンは労わる。だが、優希の方を見ながらも、レオルモンの心は片成たちの方を向いていた。彼は、片成たちに聞きたいことがあったのだ。

 そのまま優希の方を向いたままで、レオルモンは片成たちに問いかける。

 

「先ほどの攻撃は故意ですかな。エンジェモン殿」

「ゥァァァァァ」

「無駄です。この道具は“もう”喋らない」

「……なるほど。エンジェモン殿の意思ではない、と。それでは、先ほどの攻撃は片成殿の意思ですかな?」

「さぁ。どうでしょうかね」

 

 レオルモンと会話する片成は、妖美な笑みを浮かべて話す。そこには、優希たちの知る片成の姿はなかった。ただ、機械的なまでの冷たさがあった。

 片成のことをよく知る優希としては、そんな片成の顔を見るのが辛く、そして悲しかった。()()()片成を知っているからこそ。

 

「なるほど。では、少々キツい灸が必要なようですな……!お嬢様!」

「……」

「……ショックなのは察しまする。それでも、片成殿を助けようと思うのならば……」

「わかってる。でも……助け、られる?」

 

 弱々しい声で呟く優希の脳裏には、最悪の可能性だけがあった。

 それを知ることになるかもしれないという恐怖と、そもそもどうしたらいいかもわからないという恐怖。その二つの未知への恐怖が、今の優希の足を止めていたのだ。

 そんな優希の姿を見て、レオルモンが思い出したのはいつかの記憶。究極に襲われ、命からがら助かったあの時の記憶。

 あの時は、大成によって優希は立ち直った。本来ならば、それは自分の仕事であったはずなのに。レオルモンはそう思った。そう思ったからこそ、彼は決めた。今度こそ、と。

 

「助けられるかどうか……それはわかりませ……いや、わからない」

「……」

「それでも、今動かなければきっと悲しむと思う。優希だけじゃない。片成も……エンジェモンも、大成も。みんな」

「……片成は今の自分を見て……どう思うと思う?」

「それもわからない。片成じゃないから。……キツいかもしれないけど、動いてくれ。いや、動かなきゃいけない」

「……わかってるよ」

 

 そう言った割に、優希は動かなかった。いや、動けなかったというべきか。

 知り合いが変な様子になっていること、そしてその知り合いと戦わなければならないこと。その二つの事実は、優希にとって重かった。覚悟は決めたはずであるのに、彼女の意思に反して、彼女の身体は動くことを拒否していたのだ。

 そんな優希を見て、レオルモンはゆっくりと目を閉じた。何かを待っているかのように未だ片成たちが襲ってこない事実が、彼にはありがたかった。

 

「優希が動けないなら……」

 

 そこでレオルモンは言葉を切る。ハッとして優希が彼を見ると、そこには覚悟を決めたようなレオルモンの姿だけあった。

 

「オレが代わりに動く。オレが全部上手くやる……オレは、優希の悲しむところは見たくない」

「待っ……!」

「うぉおおおおおおお!」

 

 優希が声をかけるも、遅い。優希が声をかけたその瞬間に、レオルモンはエンジェモンめがけて駆け出した。

 先ほどからなぜか動かなかったエンジェモンも、レオルモンが襲ってくるというのなら話は別らしい。迎撃のため、エンジェモンは構えた。

 レオルモンにとってエンジェモンは格上。だからこそ、正攻法に搦手を混ぜて戦う。時にはフェイント、と見せかけて正面から行く。時には瓦礫を目隠しとして使い、時には瓦礫を投擲攻撃に利用する。

 そんな戦い方でエンジェモンとレオルモンは戦っていた。

 

「エンジェモン!お前は今の片成をなんとも思わないのか!片成第一だったお前が、片成のことをなんとも!」

「ゥゥ……ァァア!」

「お前なら、片成を元に戻せるだろ!」

 

 声が届いているのか、いないのか。わかりようもない。だが、それでもレオルモンは戦いながら、ただ声を上げる。格上相手にそれは無謀の一言だ。ただでさえ勝つ確率が低いのに、余所見をしているのだから。

 それでも、レオルモンは声を上げる。すべては優希を悲しませたくないがために。優希の望むものを取り返すために。

 今の片成とエンジェモンが真実ではないと願い、かつての彼女たちが真実であると信じ、レオルモンは声を上げる。

 

「いいからァああああ!起きろォオオおお!」

 

 もはや口調を取り繕う余裕もなく、レオルモンは声を上げる。上げ続ける。その甲斐あったというのだろうか。

 

「ゥゥァ……ぁぅじ……」

「……っ!」

 

 レオルモンには一瞬だけ、エンジェモンが言葉を発したように聞こえた。これならばいける、と。彼はそう思った。今の彼には、一筋の希望の光が見えていた。

 だが、その希望の光は――。

 

「哀れだな」

「え……?」

 

 幻に過ぎなかった。いや、幻ではなかったかもしれない。が、真実は闇の中。先行きも、闇の中。希望の火種は激しく燃えるよりも前に、消えてしまった。

 レオルモンは、先ほどまでの片成たちをまるで何かを待っているかのようだと思っていて、そしてそれは正しかったのだ。

 

「進化の巫女はもらっていく。ああ、その餌はもう要らないからな。くれてやる」

 

 直後、レオルモンを襲ったのは一瞬の衝撃。

 薄れ行く視界の中、レオルモンは手を伸ばした。伸ばした先に誰を望んだのかもわからずに。

 




というわけで、第百四話。

片成の再登場回にして、優希誘拐(された)回でした。
次回はこの後のあれこれです。

それでは次回もよろしくお願いします。
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