【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百五話~何度目の再起~

「う……」

 

 その日、レオルモンは見知らぬ部屋のベッドの上で目を覚ました。一体ここはどこなのか、と。そう疑問に思ったのも束の間のこと。

 一瞬後に、レオルモンはすべてを思い出した。

 様子のおかしい片成たちと戦闘になったこと。その途中で、何者かに襲われたこと。優希が連れて行かれたこと。そのすべてを。

 

「ぁぁぁあああああ!?」

 

 すべてを思い出したレオルモンは、まるで狂ったかのような声を上げる。いや、狂いたいのかもしれない。悲しむところは見たくないと言っておきながら、その実、優希の言葉を無視して突っ走っり、その挙句に最も大切な者をさらわれてしまったのだから。

 これでは杏にも顔向けできない、と。レオルモンはこの世界にはいない者の顔を思い浮かべる。

 そして、そんな時だった。

 

「……っく……ぅ……ぁぁ!」

「やれやれ。やっと起きたと思ったら……その調子かね?」

「……?」

 

 この部屋に響き渡る第三者の声。

 その声を聞いて、レオルモンは初めて気づく。この部屋にいたのは、自分だけではなかったことに。レオルモンの見舞いにでも来ていたのだろうか、この部屋にはウィザーモンがいたのだ。

 彼は、つい先ほどまでこの部屋で仮眠していた。が、先ほどのレオルモンの声によって起こされたのである。

 

「ウィザーモンか……」

「ふむ。それが素かね?……だいぶ弱っているらしいな。まあ、仕方がないかもしれないがね」

「……」

「ああ、ついでに言えばこの部屋はこの街にある医療施設の中の一室だ。君の怪我も酷かったからな。まあ、それを抜きにしても寝過ぎだろうがね」

「そう、か……?どれくらい……?」

「ふむ。ざっと三日というべきか?君が気絶した詳しい時間を知らないからな。一概にどうとは言えないが……ああ、君を拾ったのは旅人だ。後で礼でも言っておくといい」

 

 ウィザーモンの言葉に、弱々しく応えるレオルモン。そんな彼を見れば、本当に聞いているのかは怪しいものだ。それでも、ウィザーモンは事務的報告として話していく。あの時あったことを。あれからあったことを。

 レオルモンにとってはそれを聞くことが辛いことだろうとは、ウィザーモンも何となく予想していた。が、そう予想しながらも、気遣うということが意識になかったウィザーモン。彼は、ただ事務的に話を進めていく。

 ウィザーモンのその態度は冷たいものだ。だが、今はそんな冷たい態度がレオルモンにはありがたく思えていた。

 

「この街を襲った者たちのことだがね。全員捕縛。調査の結果、デジモン人間全員の精神に何らかの異常が見受けられた。まぁ、予想はつくがね。洗脳……多方その辺りだろう」

「じゃあ……やはり……片成たちも……」

「片成?……ああ、君と戦った者たちか。彼女たちも旅人が拾ってきた。君と同じ場所に倒れていたらしいぞ」

 

 ウィザーモンは答えてくれたが、レオルモンが聞きたいのはそこではない。

 レオルモンは洗脳のことはよく知らない。だが、それが簡単にできるものだとはどうしても思えなかった。洗脳した側された側どちらにとっても、何らかのリスクがあるのではないかと思えたのだ。

 だからこそ、レオルモンは聞きたかった。片成たちが本当に大丈夫であるか。

 

「……ふむ。話が早いな。洗脳自体は僕やこの街にいる者たちによって解いた。が、精神的なダメージが酷くてね。目覚めるだろうが、いつ目覚めるかはわからない。下手をすれば数年は寝たままということもありうるだろうな」

「それ、は……」

「この街を襲った者たちに施された洗脳は、その辺りの手加減をされていなかった。おそらく、本当に使い捨ての駒として利用されていたのだろうな」

 

 ウィザーモンのその言葉に、レオルモンは思い出す。気を失う前の最後に聞こえた声の言っていたことを。餌、と。そう言っていた。それはつまり、そういうことだったのだろう。

 洗脳などする輩だ。倫理や道理を求める方が間違っているかもしれないが、胸糞悪くなることをしてくれるものである。それも含め、優希がさらわれたこともあって、レオルモンの機嫌は悪くなる一方だった。

 

「まあ、君の気にかけている片成とやらはまだいい。問題は大成と戦った……好季……だったか?まあ、そちらの方だ」

「好季が……!?」

「彼は自力で洗脳を解きかかっていてね。そのせいで頭の……脳だったかな。そこに酷いダメージがあった。もう少し処置が遅れれば取り返しがつかないことになっていただろう。洗脳に逆らうことはそれだけ危険がある。覚えておきたまえ」

「……」

 

 またも知り合いが操られて、この街にいた。その事実に、レオルモンは薄ら寒いものを覚えていた。偶然、ではないだろう。彼らを操っていた者は、おそらく本当に狙って彼らを操ったのだ。優希をさらうために。

 つまり、優希とレオルモンの二人は、その何者かの策にまんまと嵌ってしまったということになる。

 証拠も何もないが、レオルモンはそう感じていた。

 

「ふむ。襲撃者の現状はこれくらいだな。おそらく襲撃者たちの狙いは……」

「優希……だろ……」

「ふむ?君もわかっていたか。ま、わかるだろうな。この街を派手に襲ったのは陽動か、それかついでだろう。最近のあちこちでの襲撃事件を考えればね」

「あちこちの襲撃事件……!なら、その犯人たちも同じように……」

「だろうね。む?ということは……いかんな。事件が解決しても後始末が面倒そうだ。……はぁ。また研究が遠のく……」

 

 そう言ったウィザーモンは、遠い目をして溜息を吐いた。そこにはこの先に来るだろう面倒事を憂う気配だけがあって、その背中には哀愁が漂っていた。

 そんな彼の姿に、上に立つ者特有の苦労を感じることができたレオルモン。一瞬、今の状況も忘れて同情してしまった。が、すぐに今の状況を思い出したのだろう。その目の中にあった同情は自然とどこかへと消えていった。

 

「なんで優希ばかり……」

「優希ばかり、ね。本当はわかっているのではないかね?」

「……どう言う意味だ」

「そのままの意味だ。僕が犯人だったら、優希を狙わないはずがないな。……もしもの話だ。だから、そんな怖い顔をするな」

「……」

 

 ウィザーモンの言う通りだった。

 先ほど、どうしてと言ったが、レオルモンも本当はわかっていた。いや、優希の狙われる理由など、彼にはそれしか思いつかない。

 そう。優希の持つ強制進化の力。アレは、この世界に関わる者であれば誰だって喉から手が出るほど欲しいものだろう。効果が切れた後のデメリットがあるものの、そんなものは何の意味もない。それだけの価値が、あの力にはある。

 だからこそ、その力を持つというだけで優希が狙われるには十分だった。

 

「……優希……またオレは……守れなかった……!」

「ふむ。守れな()()()。過去形かね。まぁ、落ち込むのはいいが……やることをやってから落ち込んだらどうかね?」

「……」

「話していて気も紛れただろう?研究において過去は大事であるが、今の状況にはそれは当てはまらない。いい加減に未来へと目を向けたらどうだね?次は建設的に未来の話をしようではないか」

「……確かに気は紛れた。けど!……今の状況が変わったわけじゃない。……優希は、いないんだ。オレのせいで!」

「だから、落ち込むのはやることをやってからだと言っているだろう。僕は優希の居場所がわかると言ったらどうだね?」

「えっ!?」

 

 一瞬、レオルモンはウィザーモンの言っていることの意味がわからなかった。それが、あまりにも軽く告げられたが故に。だが、時間を追うたびに、彼の頭はその意味を理解していく。それは、彼にとって再びの光明が見え始めた瞬間だった。

 ウィザーモンは、彼が自分の言葉の意味を理解したことをわかったのだろう。ウィザーモンは自分の言葉の意味を詳しく説明し始めた。

 

「つまり、だな。優希はアナザーを持っている。アレには通信機能が備わっているだろう?その機能と僕の魔術をリンクさせて、おおまかな居場所を探るのだ」

「そんなこと……!」

「できる……が、二度目は流石にバレるだろう。優希がさらわれた理由を考えれば、時間との勝負になることは間違いないがね。失敗ができない以上、念入りな準備も必要だ。さて……」

 

 説明は詳しい理論等に触れなかったおかげで、レオルモンにとってもわかりやすかった。内容としてはシンプルなものであったことも彼の理解に協力していただろう。

 ひとしきり説明したウィザーモンは、レオルモンに向かい合う。レオルモンには、言われなくともその先の言葉がわかった。

 

「僕が言いたいこと、わかっているかね?」

「ああ。……ウィザーモン殿」

「む。口調が戻ったな。少しは冷静になったかね?」

「いや、まったく。正直、腸が煮えくりかえるどころか、蒸発しそうなほどですが……それでも、その思いはとっておくことにしますぞ……頼めますかな?」

「ふむ。それがいいだろうな」

 

 優先順位を間違えてはならない。後でもできること。後ではできないこと。それを間違えてはならない。落ち込むのも、反省も後でできるのだ。もう一度チャンスがあるのならば、そのチャンスは逃すべきではない。

 覚悟はもう決めた。レオルモンは、このチャンスを誰かに任せるつもりはなかった。他ならぬ、優希のパートナーデジモンだからこそ。

 

「作戦開始は明日の正午だ」

「って……今からではないのですかな!?」

 

 だが、覚悟を決めたレオルモンに告げられたその言葉は、彼にとっては出鼻を挫かれるようなものだった。彼としては、今すぐにでも優希の下へと行くつもりだったのである。

 

「仕方ないだろう。僕の方でも準備があるし、君の方も準備があるだろう?」

「そのようなものは……!」

「ない、と言い切るのは無謀だ。第一、大成たちや旅人たちの準備もできていないのだからな」

「む……」

「ふむ。自分一人で行くつもりだったのかね?志は立派だが、いくらなんでも無謀であるぞ……」

 

 正直に言えば、レオルモンは一人で行くつもりだった。いや、誰かが一緒に行くという考えが抜け落ちていたといってもいいだろう。それは彼の意地云々ではなく、単純に忘れていたからで。どうやら、彼はまだ冷静になれていないようだった。

 そんなレオルモンを見て、ウィザーモンは溜息を吐く。やる気があるのは結構だが、それだけでは失敗する可能性が高くなるだけなのだ。特にこの状況では。

 そう思うウィザーモンにできたのは、せいぜい明日までに冷静になっておくことを言い含めておくことくらいだった。

 

「むぅ……!」

「気持ちはわかるが落ち着け。君だって起きたばかりで本調子ではないだろう。怪我をしては目も当てられないし、少しは身体を動かしたらどうだね?」

「それは……そうですな……」

 

 自分や旅人たち、大成たちの準備云々はこの際どうでもいいだろう。彼らに準備らしい準備がいるとはレオルモンには思えなかった。が、ウィザーモンの方の準備は魔術的な要素もある作戦実行の準備であるため、レオルモンでもどうにもできない。それがわかったからこそ、彼は歯痒い思いをするしかなかった。

 「しっかりと準備しておくように」とそれだけを告げて、部屋から出て行ったウィザーモン。そんな彼を見送ったレオルモンは、部屋の中で落ち着きなく動き回る。というか、落ち着けるはずもなかった。

 

「……少し体を動かしますかな」

 

 結局、休む気にもなれなかったレオルモンは、ウィザーモンの言っていた通りに体を動かすことにして部屋を出る。

 そんなレオルモンは部屋から出て初めて気がついた。医療施設だというのに、この建物の中がずいぶんと騒がしいことに。

 騒がしいということは、それだけこの建物の中に人がいるということ。ここが医療施設であることを考えれば、つまり、先の襲撃時に生き残った人々ということである。

 

「喜んでいいのか……わかりませぬな」

 

 ポツリ、と。レオルモンはそんなことを呟く。

 数多くの声が聞こえることから、かなりの数の者たちが生き残ったのだろう。それは素直に喜ばしいことだ。それでも、確かに犠牲者は出ているわけであるし、そもそもここにいるという時点で何らかの怪我を負っているということでもあって。

 手放しで喜べないというのが実際のところだろう。

 

「出口はどこですかな?」

 

 忙しそうに走り回るダルクモンとウィッチモンの姿を横目に見ながら、レオルモンは出口を探して歩き回る。

 なぜか大穴の空いた部屋の横を通り過ぎてしばらく歩いて――そして、十数分。若干迷った気がしないでもなかったレオルモンだが、まあ、無事に出口にたどり着いたのだから良しとしたのだった。

 

「お、セバス!もう大丈夫なのか……?」

「む。大成殿……ご心配おかけしましたな。大丈夫ですぞ。と、いうか……」

 

 出口から出たところにいたのは大成とスティングモン、旅人やドルグレモンにスレイヤードラモンといった面々だった。

 

「アレは……何をしているのですかな?」

「ああ、旅人たち?なんかよくわからないけど……ドルを置いてどっかに行ってたらしくてな。簡単に言えば、ドルが怒った」

「は、はぁ……でも、あれは……」

 

 そう言うレオルモンの眼前には、ドルグレモンの攻撃を必死に躱す旅人とスレイヤードラモンの姿があった。スレイヤードラモンはともかくとして、完全体の攻撃を躱す旅人の姿には、レオルモンも頬を引き攣らせるしかなかった。

 

「しかし、この雰囲気は……いつも通りですな。本当に」

 

 羨ましそうで、それでいて辛そうにそう呟いたレオルモン。

 そう。この面々はいつも通りだった。一人だけ全身を包帯に巻かれた大成がいなければ、レオルモンも襲撃があったことは忘れてしまっただろう。振り返れば、そこに優希がいるようにさえ感じるほどに、この面々はいつも通りで、いつも通りすぎた。

 それでも、いや、だからこそか。だからこそ、一人だけいつもと違う大成の姿が、より異常に見えた。

 

「大成殿。怪我は……大丈夫ですかな?」

「ああ、これ?ウィザーモンたちのおかげで大丈夫だよ。痛みだけは」

「外傷の完治は……もうしばらく時間がかかるみたいですね」

 

 そんな大成の姿を見て、レオルモンは先ほどまでの自分の考えが恥ずかしくなった。

 大成たちならば準備をしなくてもいいだろう、と。レオルモンは先ほどそう思った。が、実際、大成はここまでの怪我を負っていて、その状態で優希を助けるために手を貸してくれる。

 別に優希の救出が遅くなっていいとは今でも微塵にも思わない。それでも、自分のことばかりで大成たちのことを軽視していた部分があったことに、レオルモンは気づいたのである。

 

「優希のことは……なんて言えばいいのかわからねぇけど……とにかく!俺たちや旅人たちも手伝うからな!」

「……はい!絶対に優希さんを取り返しましょう!」

「……本当に、ありがとう……!」

「別にお礼を言わなくても……なっ!」

「そうですよ。僕たちの仲ですし!」

 

 そして、だからこそ、そう言ってくれる大成たちの存在が眩しくて、罪悪感でちょっと辛くなったレオルモンだった。

 




というわけで、第百五話。

事後報告回でした。
次回からいよいよ優希奪還へと乗り込む――と、行きたいのですが。
その前に久々なあの人物たちの話が入ります。

それでは次回もよろしくお願いします。
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