【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~ 作:行方不明
優希救出に向けての決意を固めたレオルモンたち。
明日の出発までの時間を有効活用するべく奮闘していたそんな彼らのことは一旦置いておいて――学術院の街からほど遠い海辺でのこと。
そこは不規則ながら、どこか風情のある波の音だけが辺りに響く物静かな海辺。だが。
「ぴよぉおおおおおお!」
そんな物静かな海辺を台無しにする絶叫。そして地響き。
そこには、
まあ、助けられるのが遅いのもいつものことであるのだが。
「勇ぅううう!助けてぇええ!」
「あー……うん。そだなー」
「ちょっとぉおお!」
「グルァアアアア!」
そんなこんなで、この命懸けの追いかけっこが終わったのはこの数分後のこと。ピヨモンが叫ぶこともできなくなってからのことで、息絶え絶えになってからのことだった。
こうなることを覚悟して勇に着いてきたピヨモンだったが、こうも毎日神経を磨り減らす追いかけっこをしていると、そろそろ寿命が足りなくなってきたような気がしたのだった。
「ぴょーぴっよー……」
「面白い疲れ方するよな。ピヨモンって。ってか、今度はそういう話し方にしたんだな」
「酷い……ぴよー……」
「疲れてるなら無理して喋らなくてもいいって」
「グゥルル……」
何故このピヨモンが勇と一緒に旅をしているのか。それは、一週間と数日前まで遡る。
先日のネツたちによる町の襲撃を、ピヨモンは勇と零の力で乗り切った。ネツたちは投獄。事件はそれで終わった、ように思えた。
新たに事が起こったのはその数日後のことだった。夜、暑さに苦しんだピヨモンは目を覚ました。その時、ピヨモンが見たのは――燃える街。
その時生き残ったのはピヨモンを含めてわずか数人。生き残った者たちはそれぞれ、自分の考えで散り散りになった。住処も仲間も失ったピヨモンは、考えた結果、安住の地を見つけるまで勇に着いて行くことにしたのである。
証拠がないため、犯人は不明。しかし、ピヨモンの中では犯人は決まっていたようなものだった。
そう。その事件の数日前に投獄されていた相手である。
まあ、問題は――完全体の力ですら拒む監獄をどうやって抜け出したか、なのだが。
「スカルグレイモンも、いい加減に慣れろよ。朝起きるたびにピヨモンを狙って動くじゃないか!」
「グルゥ?」
「うん……首を傾げてもダメだからな!」
「い、さむ……そのスカルグレイモン……知性を取り戻して……ない?」
「え?そうか……?じゃ、喋ってみろ!あ、い、う、え、お!」
「グルゥウウウ」
「ほら、やっぱりダメか……」
そういうことが言いたいんじゃないんだけど、と。相変わらず意味不明なやり取りをする二人を見ていたピヨモンは、そんなことを思う。
ピヨモンにとってスカルグレイモンとは、伝説に記されるような恐怖の対象なのだ。悪い子はスカルグレイモンに連れて行かれ、スカルグレイモンになってしまうなどという話まであるくらいである。
まあ、さすがにそれは幼子向けの嘘であるが、スカルグレイモンイコール恐怖というのは、もはや確立されたものだった。スカルグレイモン。その名は制御不能な暴力なのである。
だからこそ、ピヨモンは意外だったのだ。勇限定とはいえ、他者の言うことを聞くスカルグレイモンが。
「これが、他のスカルグレイモンもそう……な、わけないわねー……ぴよぴよ」
「……?ピヨモンどうかしたのか?」
「ぴよー……なんでもない。ただ、勇たちの非常識さを再認識しただけよ」
「それ、毎日に言ってるだろ」
「それだけ勇たちが非常識だってことぴよ」
ピヨモンは他のスカルグレイモンを知らない。が、それでも自信を持って言えた。勇のスカルグレイモンは他のスカルグレイモンと何か違うと。その何かはピヨモンにはわからなかったが、彼らと付き合っていると自然とそう思えた。
「まったく……どういうことなんだかね」
「グルァァ」
「ぴよぴよ。ま、話を変えるわ。次の目的地の街は……そろそろなはずなんだけど……」
「何も見えないぞ。本当にこの辺りなのか?」
「正直自信ない……」
現在、勇たちはどこでもいいから街と呼べるものを目指していた。
ピヨモンは先ほども述べたように安住の地を探して。勇は、スカルグレイモンがいる限り行動が制限されてしまうものの、その制限の中でもできるだけ情報収集をしたかったからだ。
そんな目的のため、勇たちはピヨモンの情報を元にして街を目指していた。のだが、ピヨモンの情報は当てにならなかった。
「自信ないって……」
「だって、聞いたことがあるのは話だけだもーん」
「実際に行ったことは……ないのか」
「そう!海に街があるって話を聞いてねー!一度行ってみたかったんだー!」
つまり、不確定な情報に勇たちは振り回されているということである。
まあ、勇たちはそこまで急いではいないのだから、不確定な情報でも別に良いといえばいい。道端で野垂れ死にするようなことさえなければ。
あえて不都合を挙げるならば、ピヨモンの命懸けの追いかけっこの終わりが伸びるだけである。ピヨモン以外に全く問題はなかった。
「でも、一日以上この辺りにいるけど、街らしい街は見当たらないぞ」
「ぴよ……そうね」
「もっと先か……?うーん……ちょっと距離を稼いでみるか!」
「……まさか」
「よし。スカルグレイモン!」
何かをすることに決めた勇は、スカルグレイモンに声をかける。
勇の声を聞いたスカルグレイモンは、右腕を地面につけた。
ああ、これはアレだ、と。この先の展開が予想ついたピヨモンは、はやくも死んだ目をしていた。ピヨモンは、“これ”が嫌いだった。いや、これが効率の良いものであることは、ピヨモンも知っている。だが、それでも感情面は別だった。
「頼むぞ!」
「グルァアアアアアアアア!」
「ぴよぉおおおおお!」
咆哮。絶叫。二つの声を残して、スカルグレイモンが駆ける。
そう。勇がすることに決めた何かとは、スカルグレイモンに乗っていくことだった。これならば、ピヨモンと勇が歩く必要がなく、そしてスカルグレイモンが彼らにペースを合わせなくていい分、速い。
まあ、速い。速いのだが、代償として乗り心地は最悪だった。
「なんで勇は平気なの!?」
「え?……慣れ?」
「ぴよぉー……」
質問に疑問で返す勇。その邪気のない顔に腹が立ったピヨモンは、一発殴りたくなった。
勇は気になっていないようだが、乗っているものを考慮しないスカルグレイモンの乗り心地は最悪の一言。初めての時のように森の木々をなぎ倒しながら進むことはないとはいえ、それでもかなり悪い。
「ピヨモンだって初めての時は平気だったじゃないか!」
「あの時は非常事態だったから、忘れていただけよ!」
「なら、今も忘れたらどうだ?」
「無理ー!」
普段は戦闘で活かされるスカルグレイモンの運動能力の高さも、乗り心地の最悪さを助長させていた。
まず速度が速い。流石に空気抵抗で勇たちの身体がバラバラになるほどの速度は出ていない。が、しがみついていなければ、たちどころに空気抵抗で吹っ飛ぶ。
しかも、このスカルグレイモン。眼前にある障害物は、時にはジャンプして躱し、時には空いている左腕で破壊する。その時の衝撃は、勇たちを容赦なく襲う。
ようするに、スカルグレイモンに乗るということは、命綱なしで新幹線の屋根に掴まっているようなものなのだ。
なぜ勇は平気なのか、問い詰めたいピヨモンだった。
「あ!前方にあるの……崖だな。たぶん跳ぶ!舌噛むから口閉じてた方がいいぞ!」
「へぁ……?ぴっ……ちょ、待って……!」
勇の言葉に、ピヨモンは引き攣った。
地殻変動でもあったのだろうか。河を挟んだこちら側とあちら側では高さが違った。断崖絶壁と言えるほどの崖。まさに壁だった。見渡す限りの壁が、行く末を阻んでいる。
高さは数十メートルくらいだったが、長さはどれだけあるのかわかったものではなかった。
「止まりましょう!で、別の道を探しましょう!回り道しましょう!」
「いや、でも……もう跳ぶぞ」
「グルァアアアアア!」
「ぴよぴよぴよぉおおおおおお!」
気合の入った咆哮と共に、十数メートルはあろうかという断崖絶壁をスカルグレイモンは
瞬間、凄まじい負荷が勇たち二人を襲った。一足で十数メートルを跳んだその跳躍力による負荷がモロに二人を襲ったのである。これには、さすがの勇も苦しそうだった。
ズドン、と。そんな轟音と共に、スカルグレイモンは瓦礫の上に着地する。
それは同時に、勇たちが負荷から解放されたということで。
「ふぅ……キツかったな」
「死ぬかと……思った……」
無事に生きているという安堵の息を漏らす勇たち。だが、恐怖はまだ終わっていなかった。
ピシリ、と。その瞬間に、そんな音が勇たちには聞こえた気がした。
「……」
「……」
「グルァ?」
勇とピヨモンには、この先の展開が読めた。
その運動能力と外見の割に、スカルグレイモンは重量がある。そんなスカルグレイモンが飛び上がり、あまつさえ勢いよく着地すれば、着地面にどれだけの負荷がかかるか。
いや、そもそも、今勇たちのいる場所は、いつ崩れてもおかしくない崖という場所である。そんな場所に、負荷をかけて着地すればどうなるか。
何もわかっていないのは、理性なきスカルグレイモンだけだった。
一瞬後。何かが突き刺さるかのような轟音と共に勇たちのいた場所は崩れ落ちた。こうなれば、重力に引かれ落ちていくしかない。
「ちょっ……」
「やっ……ぱりぃいい!」
予想していたとはいえ、それでも実際に体験するのは違った。
だが、崩落の角度的な問題で陸地からズレて海の方に落ちているらしく、幸いに勇たちが落ちている先にあるのは海だ。まあ、衝撃が吸収される分、陸地に落ちるよりはいいだろう。
十数メートルの落下の衝撃を吸収しきれるかどうかは別として。
それよりも、勇たちに重要なのは身体を襲う負荷だった。先ほどの負荷は上から叩きつけられるかのようなものだっただが、今回の負荷は下から吹き上がるようなものだった。
離されまい、と勇とピヨモンの二人はスカルグレイモンにしがみつく。
だが。
「グルァッ!」
「えっ!?」
「なっ!?」
だが、次の瞬間のことだった。スカルグレイモンは、落下しながらも勇たちを掴み、
まさかスカルグレイモンがこの状況でその行動に出るとは、勇にも想像できなかった。打って変わって、上空へと上がっていく勇とピヨモンの身体。
「ぐへっ」
「うわっ」
一瞬後には、勇とピヨモンは先ほどの崖の上に叩きつけられていた。
叩きつけられた痛みはある。それでも、先ほどのスカルグレイモンの行動の意味は、すぐわかった。だからこそ、勇は急いで立ち上がり、崖の下を見る。
だが、そこにあったのは驚愕の光景だった。
「あれは……シードラモン!?いや、色が違う……亜種?進化体?それにしてもどうして……!」
そう。近くの海から出た赤い大蛇のようなデジモンが、スカルグレイモンに巻きついている光景だった。赤い大蛇は、スカルグレイモンを海に引きずり込もうとしていた。
一方で、スカルグレイモンも陸地に上がろうと必死に抵抗している。抵抗しているのだが、あまり意味をなしていない。
どうやらスカルグレイモンが落ちたところは水深がそれなりに深いらしい。足がつかないのだ。足が付けば踏ん張りも効き、抵抗らしい抵抗もできるのだろう。
今やスカルグレイモンの抵抗は赤い大蛇の拘束を解くために暴れることくらいだった。
「まずい……!スカルグレイモンが……!」
「あれは……メガシードラモン!?なんでこんな浅瀬にいるのよ!」
「メガシードラモン……もしかして完全体か!?」
「そう!本当はもっと沖合の深いところにいるはずなのに……!早く何とかしないとスカルグレイモンでも危ない!」
メガシードラモン。それが赤い大蛇の名前。水棲の完全体デジモンだった。
その姿を前に、勇もピヨモンも焦るしかない。スカルグレイモンは頑張っているが、正直なところ二人には彼がメガシードラモンに勝てる可能性は低いと思っていた。
もちろん、信じてはいる。スカルグレイモンのその強さを。だが、それ以上に相性が悪いと言うべきか。
スカルグレイモンには水中での活動を可能にするような身体の構造も、水中戦の経験もない。その状態で水棲の生き物に、ホームである水中で戦う。ハンデどころの話ではなかった。
「勇なんとかならないの!?」
「今考えてる!考え……てるけど……!」
難しい、と。必死に頭を悩ませる勇だが、良い案は思いつくことがなかった。
そもそも、勇はゲーム時代の経験ゆえにこの世界でも強者たり得た。だが、あのゲームには水中戦など実装されていない。水棲種も、普通に陸揚げされて戦っていた。
つまり、勇にとっても今回は未知の戦いということだった。
「グルァア……ガバっ……ァアア!」
スカルグレイモンの咆哮が、激しい水音と共に響き渡る。が、その声は勇が今まで聞いたどれよりも苦しそうで、辛そうなものだった。
一つ、作戦がないこともない。勇の頭の中には、一つの作戦があった。だが、それは分の悪い賭けである上に、勇たちにも危険が及ぶもの。
だからこそ、勇はその作戦を告げるかどうかを一瞬考えた。考えて――。
「スカルグレイモンっ!海を吹き飛ばせ!」
自分たちの危険とスカルグレイモンの危機。天秤は、スカルグレイモンに傾いた。
指示を出した勇は、直後にピヨモンを抱えて走り出す。それはこの場から逃げるため。焼け石に水程度の距離しか稼げないだろうが、それでもないよりはマシだと判断したからのこと。
そして、その一瞬後に。
「グルァアアアアアアアアア!」
懸命に脚を動かす勇の背後で聞こえた咆哮。それと共に、背後で起こった大爆発。襲い来る爆風。
勇とピヨモンには、それに耐える術はなく――その一瞬後に、凄まじい勢いで吹き飛ばされたのだった。
というわけで、第百六話。
前回までとは打って変わって、勇サイドのお話。
しばらく続きます。
さて、次回はスカルグレイモンVSメガシードラモン回ですね。
それでは次回もよろしくお願いします。