【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

107 / 132
第百七話~陽はまた昇る~

 “グラウンド・ゼロ”。それは核兵器にも匹敵するほどの威力を誇る有機体系ミサイルにして、スカルグレイモンの必殺技。

 例え直撃しなくとも、爆発時の熱と爆風はかなりのものであり、近場で爆発しようものならその場にいた人間たちに命はない。

 今回、至近距離でこの技が炸裂したのにも関わらず、勇たちが生き残ることができたのは運が良いと言うことでしかなかった。

 海中で爆発したこと。メガシードラモンが爆発を最小限に抑えるように動いたこと。そして、勇たちが少しでもその場を離れようと懸命に足を動かしたこと。それらすべてが偶然にも噛み合って、良い方向に進んだのだ。

 これらどれかが欠けていたのならば、勇たちはもうこの世にはいなかった。

 

「い、さむ……」

「ぅ……」

「おき、てよ……!」

 

 とはいえ、その代償と言うべきなのか。爆風に吹き飛ばされた時に頭を打ち、勇は気絶してしまったのだが――まあ、命がかかった結果で気絶ならば安いものだろう。

 勇とは違って、ギリギリ意識を保っているピヨモンは、そんな彼を起こそうと奮闘する。彼が起きるのは、まだ先になりそうだった。

 そして、そんな勇たちの一方で――。

 

「グルァアアアアアアア!」

 

 完全に水中に引き込まれてしまったスカルグレイモンは、そこでメガシードラモンと戦っていた。

 先ほどの自爆攻撃でメガシードラモンの拘束を振り払えたのは良かった。が、それだけだった。勇が企んだほど、海の水をどうにかできなかったのである。

 結局、メガシードラモンに水中戦を挑まなければならないという状況は変わらなかった。

 状況はあまり好転していない。もちろん、まったくという訳ではないのだが、それでも多少マシというレベルであった。

 もし、この時に勇が起きていたのならば、拘束を外すことができた今のうちに陸地へ向かって逃げろと言っただろう。それが一番どうにかなる確率が高いから。今目の前にあることに愚直に立ち向かうのは、困難なことでしかない。

 だが、その指示を受けていない今のスカルグレイモンは、目の前にあることがどんなに困難なことでもそれに気づくことはない。彼には、眼前の敵を倒すことだけが頭にあった。

 

「破壊のケモノめ……!悪魔の手先には相応しい姿だな!」

 

 ここへ来て、初めてメガシードラモンが喋る。その声は忌々しげで、メガシードラモンの今の心情を端的に表していた。が、スカルグレイモンには関係がない。いや、意味はないというべきか。

 理性なきスカルグレイモンには、メガシードラモンの心情を推し量ることも、その言葉の意味を探ることもできないのだから。

 

「貴様らなどにやらせはせん!このワシが我らが子を守る!」

「グルァアアアアア!」

 

 咆哮するスカルグレイモンは、気合だけは一人前だった。気合だけは。

 一方のメガシードラモンの気合もスカルグレイモンに負けていない。彼には、まるで後がないとばかりの鬼気迫る迫力があった。

 メガシードラモンは、縦横無尽に水中を駆ける。それはまるで、彼が海と一体化しているかのようだった。

 それは、水棲生物だからこそ許された特権。他のどの生物も、それこそ専用の機械ですら許されない彼らだけのもの。

 

「ガルバババババ……!グギャァバ!」

「苦しかろう!悔しかろう!手も足も出ずに負けるのは!だが……!我らの同胞と我が子らの受けた苦痛はこの程度でないと知れ!」

「グゥウウウウウ!」

 

 水中とは不思議なもので、水による圧力もあれば、水による浮力もある。深さなどの位置関係で、全く別の姿と環境を作る。世界のどこを探しても、このような場所によって変化する環境はそうはないだろう。

 メガシードラモンは、そんな世界に適応した種。この世界の強みを活かした戦いこそ、彼の独壇場だった。メガシードラモンは、水中を自由に動いている。時には水の流れさえ操って、スカルグレイモンの動きの邪魔をする。

 一方で、スカルグレイモンは水の圧力によってうまく動くことができていない。それこそ、メガシードラモンにされるがままだった。

 

「ガルゥウウウウウウ!」

「怒りに震えているか……!」

「アゥウグウウウウウウ!」

 

 されるがままで何もできないからだろう。怒りを伴ったスカルグレイモンの咆哮。陸地では大気を震わせるそれは、水の流れを一時的にでも書き換えるほどの威力があった。それほどまでに、彼は怒っているのだ。

 もはや、スカルグレイモンは怒りに狂えるケモノだった。

 

「怒れ怒れ!それこそケモノには相応しい姿よ。怒りに震え……命令と本能のままに殺戮する。何をしているのかすらも理解できずに。それこそ知性ある者からケモノに身を堕とした貴様に与えられる罰!だが!」

「アガァアアアアアアアアアア!」

「もはやワシも貴様と同じケモノ!貴様ら人間に与する者たちを憎むもの!……ワシの怒りは貴様以上と知れ!」

 

 そんなスカルグレイモンの姿を目にしても、メガシードラモンは怯まない。

 メガシードラモンの脳裏にあるのは、人間とそのパートナーデジモンによって破壊される街と逃げ惑うデジモンたち。泣きわめき、助けを請いながらも、一切の躊躇例外なく消されていった子供たち。狼藉者に果敢に戦いを挑み散っていった仲間たち。

 いくつもの嘆きや悲しみ、恨み、そして憎しみの声。数日経った今も生々しく鮮明に思い出されるその声々。

 そんな彼らの姿や声が、メガシードラモンの頭を蝕んでいた。

 

「グルァアアアアアアア!」

「ォオオオオオオオオオ!無力さに嘆き苦しみ!我らの怒りを買ったことを後悔して死ね!」

「グルッゥウウウ!」

 

 グルグルとスカルグレイモンの周りを高速で泳ぐメガシードラモン。その瞬間、スカルグレイモンはこれまで以上に水に振り回されることとなった。

 そう。メガシードラモンが絶え間なく泳ぎ続けることによって、水の流れが回転状態で固定され、渦潮のような現象が起きたのだ。必殺技と言えるほど大層なものではない。それでも、それはスカルグレイモンの身体を振り回し、彼の動きを止め、ダメージがを与えるほどの力はあった。

 

「グルァアアアアアアアアア!」

「……!もう一度アレをやる気か……!」

 

 だが、スカルグレイモンもただでやられ続ける訳ではない。メガシードラモンは見た。水の流れに振り回されながらも、背中を何とか自分に向けようとしているスカルグレイモンのその姿を。

 それの示すところはただ一つ。もう一度アレをやる気なのだ。メガシードラモンをして脅威と断ぜざるを得ない威力のアレ――スカルグレイモン最大の必殺技“グラウンド・ゼロ”を。

 先ほどは、水と自身の必殺技を当てたことでメガシードラモンは助かった。メガシードラモンが“守りたかったもの”も。

 だが、問題はもう一度同じことをされた時だ。だからこそ、そんなスカルグレイモンを邪魔するようにメガシードラモンは動き始める。

 

「させぬ!」

 

 渦潮に振り回されるスカルグレイモンを、メガシードラモンは強襲。そのまま巻き、締め付けた。

 もちろん、それだけでは先ほどの二の舞になってしまう。だからこそ、今回はスカルグレイモンの背中のミサイルの部分を重点的に締め付ける。それこそ、ミサイルがびくとも動かないくらいに。

 これで、グラウンド・ゼロは封じたわけなのだが――。

 

「グァアアアアアアアア!」

「っむ!?っくぅ……!」

 

 だが、メガシードラモンはスカルグレイモンの全身に巻きつけるほど、スカルグレイモンよりも圧倒的に長いわけではない。

 何が言いたいのかというと、ミサイルの辺りを重点的に巻き付くということはつまり、別の部位の巻き付きは甘くなってしまうということ。

 ミサイルが封じられた代償として、スカルグレイモンは右腕の自由を得ていた。

 

「っく……ぬぐ……」

「グルッ……グァッ……!グルウウウ!」

「負けるかァ……!」

 

 背中のメガシードラモンを剥がそうとするスカルグレイモンに、耐えるメガシードラモン。

 メガシードラモンがここにいるからだろう。いつの間にか渦潮は収まっていた。戦いは、純粋な根比べの勝負となったのだ。

 

 

 

 

 

 水中の勝負がそんなことになっていた一方で――。

 

「……うぐ……!頭痛いってぇさ……」

「勇!起きたのね!」

「ピヨモン?」

 

 気絶していた勇は、目を覚ました。頭に走るズキズキとした痛みを堪えながら、立ち上がった勇。ダメージが抜けきっていないのだろう。彼は、まるで酔っぱらいのようにフラフラと歩いていく。

 彼の行くその先にあるのは崖で――ピヨモンは、慌てて彼を止めた。

 

「ちょ、なにやってるの!落ちたら……!」

「スカルグレイモンは……あいつはどうなった!?」

「ぴよ……それは……」

 

 ピヨモンは言葉を濁した。濁した、のだが、勇の真剣な眼差しを前に隠しても意味はないと悟ったのだろう。やがてポツポツと話し始めた。

 あの爆発の後、スカルグレイモンは完全に水中に引き込まれてしまい、その姿を確認することができないということ。けれど、スカルグレイモンの咆哮は時折聞こえてくること。

 わかる範囲でのすべてのことを、ピヨモンは勇に話した。

 

「……そっか。ピヨモン。頼みがあるんだ」

「ぴよ……頼み?……何?」

「オラを連れて海の上を飛んでほしい。スカルグレイモンを探す」

「ぴよ……ぴよー!?」

 

 真摯に頼まれた勇の頼みだ。ピヨモンとしても、当然聞いてあげたかった。上げたかったのだが、こればかりは無理だった。別に臆病風に吹かれたとか、そういう部分は少ししかない。問題は、ピヨモンという種が飛行に適さない種であるということにある。

 ピヨモンという種は、外見に似合わず飛行に適さない。もちろん少しくらいは飛べるが、それはもはや飛べるというレベルではなく、浮くというレベル。何とか地面すれすれを行く程度だ。

 勇という荷物を持っての飛行は、まず不可能どころか、考えるのも無謀というレベルだった。

 

「無理無理無理無理!私はそもそも飛べないって!」

「だよな。知ってる」

「ぴよ?」

 

 そう。勇は知っている。ゲーム時代の知識として、ピヨモンは飛ぶことなどできないことを知っている。それでもここで聞いたのは、自分の中にあるほんの少しの期待を潰すためだった。

 勇は、あえて自分の中にある期待を押しつぶすことで、言い換えれば自らを追い詰めることで、覚悟を決めようとしているのだ。

 

「アイツがああなったのは……オラがノロマだったからだ。簡単に他人の命を握り潰すようなアイツを許せなくて……オラはアイツの声に乗った」

「ぴよ……?アイツ?」

「オラの弱味に漬け込んできたとか、アイツがオラに何かしたとか、そんなことは言い訳に過ぎない。オラは……あの時、負けたんだ」

 

 訳のわからないといった顔で戸惑うピヨモンを前にして、勇は告白していた。いや、それはピヨモンにしていたというよりは、自分自身に向けた告白だった。

 一つ一つを確かめて、最後に覚悟を決めるための。

 

「アイツをぶちのめしたくて、目の前にあった簡単に手に入る力に縋り付いた。簡単に手に入るものなんてないのに……」

 

 今、勇が思い出したのは、自身のこと。田舎から都会の学校へと引っ越した時のこと。

 あの時、実にあっさりと変わった環境。だが、その環境での日々は簡単ではなかった。勇気を持って進まなければ、友達一つすら満足にできなかったほど。

 人を取り巻く環境は簡単に変わる。だが、環境の中で人は簡単に過ごせない。勇は、そのことを知っている。

 目を閉じ、かつての日々に、今の日々に、目を向けた勇。目を開けた時、彼の覚悟は決まっていた。

 

「ぴよぴよ……」

「ピヨモン」

「ピヨっ!?」

「行ってくるから、待っててくれ」

 

 その言葉に、ピヨモンは驚くしかなかった。勇のしようとしていることに気がついて、彼女は血の気が引いてしまう。

 勇のしようとしていること。それは自殺と同じことだ。助かる確率なんてゼロに近い。ピヨモンは勇を見殺しにしたくなかった。

 

「待って待って!ダメよ!だって……!行ったら死んじゃう!」

「別に死なないってぇさ。ちょっくら、アイツの様子を見てくるだけで」

「戦場になってる海の中に入った時点で死ぬってー!」

 

 勇のしようとしていること。それは、直接海の中に入って、スカルグレイモンの下へと行くことだった。

 直接的な力は皆無の非力な身で、どこにあるとも知れぬ息のできない場所の戦場に行く。なんと無謀なことだろうか。

 というか、勇が海に行く方法は崖を降りるしかなく、この崖は断崖絶壁。彼が海の中に入るためには、崖を飛び降りるしかない。

 つまり、身投げと何ら変わりないのだ。彼がしようとしているのは、まさに自殺行為の無茶だった。

 

「ぴよ!勇気と無謀は違うわ!間違えちゃいけない!」

「……そうだな。わかってる。オラのこれは勇気じゃないってぇさ」

 

 ピヨモンに返事をしながらも、勇は崖の方へと歩いていく。ピヨモンが全力で引っ張っているというのに、彼は止まる気配がない。

 そして。彼は、崖を飛び降りた。

 

「ぴよぉおおおおおお!」

 

 だが、ここでまだピヨモンが頑張る。

 その足に勇を掴んで、必死に羽を羽ばたかせたのだ。それは、彼女にとって人生初と言えるほど上手にできた飛行だった。その甲斐あったのだろう。

 ピヨモンは勇と共に――海に落ちた。僅かながらに減速して。

 ぽちゃん、と。そんな音を立てて勇たちは海に落ちる。

 

「がばがばがば……!」

「びぶびぶびぶ……!」

 

 それでも、ピヨモンの頑張りのおかげだろう。彼らが身投げでよくあるような失神現象を経験することもなく、痛みに悶絶するようなこともなかったのは。

 海水が口と鼻に入り、たいへん苦しい。こんな経験をしたのは小学生以来だろうか、と。苦しみながらも、勇はそんなことを呑気に考えて。

 

「がば……?がばがば……!」

 

 そんな勇は見た。いや、見たというのは語弊があるか。水中という視界が効かない中、見た気がしたのだ。メガシードラモンを背中から引き剥がそうとして力尽きたのか、海中に沈んでいくスカルグレイモンの姿を。

 もはや、勇は苦しさを忘れていた。ただ、自分のパートナーを助けることだけが頭にあって、彼は海の中に潜っていく。

 それは、命を捨てるような愚行だった。他人は、そんな彼を無謀だと言うだろう。他人は、そんな彼を愚かだと言うだろう。

 

「がばがば……がばばぶばびぼん!」

 

 だが、それでも、勇にはスカルグレイモンを見捨てるという選択肢はなかった。文字通り、存在しなかったのだ。

 どれほど無謀でも、愚行でも、沈み行くその姿を見た瞬間に、彼の身体は動いていた。それだけ、彼にとってスカルグレイモンは大切な存在だった。

 彼にとって後も先も周りも何も関係なかった。大切なもののために、自分もまたすべてを賭ける。無意識的にでも、勇はそう思っていたのだろう。他人に自分のすべてを賭けるには勇気がいる。無意識的だろうと、その勇気が勇を動かしていたのだ。

 

「がばっ……!」

 

 とはいえ、現実は無情だった。どれだけ精神的にやる気があろうと、スカルグレイモンに届くよりも前に勇の身体は限界だった。

 身体が動かなくなる。意識が薄れ行く。それでも、最後の最後まで勇はスカルグレイモンめがけて手を伸ばし続けた。

 何者にも、それこそ死や限界にすら囚われず、ただ進む意思。それは万物を照らす太陽にも似たもので――。

 

――聞こえたよ。勇の声!――

「……?」

 

 聞こえた懐かしい声の幻聴を最後に、勇の意識は途切れた。

 直後。勇の意思が途切れるのと入れ替わるように、光が暗き海を照らす。

 それは、まるで海の中に太陽が昇ったかのようだった。

 




11月21日! ついにデジアドトライの公開日ですね!
ネクストオーダーの執行者というボロボロな黒オメガモンも気になりますし……年内にはリンクスもありますし……目が離せませんね!

ともあれ、第百七話。
勇回その2。ついに彼が復活――というところで、次回に続きます。

それでは次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。