【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第百九話~救出のために動き出す~

 レオルモンが起床した翌日のこと。

 太陽がちょうど真上に登る正午の時間。大成たちは、復興作業著しい学術院の街中を歩き、ウィザーモンの下へと向かって歩いていた。

 メンバーは大成とスティングモン、旅人とスレイヤードラモンとドルグレモン、そしてレオルモン。今動けるメンバー全員が優希救出に向けて行くことになる。

 

「ふむ。来たな。時間通りのようで何よりだ」

 

 ウィザーモンがいたのは、以前片成がナムと出会った公園、の跡地だった。

 ここもやはり先の襲撃でボロボロになってしまっていて、今度作り直されることになる。そのため、敷地面積のほとんどが更地となっていて、瓦礫やゴミも撤去されていた。

 本当に地面があるだけ。そんな場所だった。

 そんな場所で、ウィザーモンは巨大な魔法陣を描いて大成たちを待っていたのだ。

 

「時間通りって……セバスが急かすんだよ。気持ちはわかるけど……朝五時から起こされるのは勘弁して欲しいぜ……」

「うっ……しっ、しかしですな!大成殿は寝坊癖がありますからして、寝坊などしないように……!」

「こんな時に寝坊なんかしねぇよ。……たぶん」

 

 大成とスティングモンの二人が眠そうなこと以外は、いつも通りの様子。そんな彼らの様子にウィザーモンは頼もしさすら感じていた。

 

「ふむ。頼もしいな。これなら、どうにかなるだろう」

 

 この優希救出作戦は失敗することができないほどの重大任務と言っていい。必ず成功させなければならない。

 それは、レオルモンのためや、自分の感情のためだけでなかった。

 この作戦の失敗はこの街の、いや、もしかしたらこの世界全体に関わるほどの大事になるかもしれない。そのことにウィザーモンは気づいていたからだった。

 

「そういえば、どこに着くかわからないんだよな?帰りはどうするんだ」

「ああ、いい質問だ大成。帰りは旅人とスレイヤードラモンにどうにかしてもらえ」

「え?」

「あ?」

 

 大成の質問に、何でもないことのようにあっさりと返すウィザーモン。そんな彼の姿を前にして、大成も帰り道の心配はなくなった。

 とはいえ、ウィザーモンに丸投げされた二人には初耳の事実だったのだが。

 

「というわけだ。頼むぞ。二人とも」

「……別にいいけどさ」

「初めに言っておいて欲しかったな」

「ぼっ僕は!?」

「ドルグレモン。帰り道で君はそれほどやることがないだろう」

「酷い!」

 

 何が気に食わないのか、旅人とスレイヤードラモンを恨めしそうに睨むドルグレモン。

 普通はそこでウィザーモンを見るんじゃないだろうか、と。そんなことを旅人は思う。

 いつも通りの、いつも通り過ぎる時間が過ぎ行っていた。リラックスするという意味では、こういう雰囲気は大切だろう。

 だが、まあ――。

 

「……そろそろ行きませぬかな?」

 

 だが、まあ、残念ながらと言うか、当たり前と言うか。

 なかなか出発しない現状に、最も優希救出を渇望しているだろうレオルモンはイライラしていたのだが。

 

「まぁ、そうだな。んじゃ、行くか!」

 

 レオルモンが怖かったわけでは決してない。決してないが、レオルモンがイライラしているのがわかったからこそ、大成はそんなことを言った。

 まあ、確かにいつまでもこうしている訳にもいかない。大成たちはウィザーモンに案内されるままに、地面に描かれた魔法陣の中に立たされた。

 

「さて、それでは優希のことは頼むぞ。個人的にも……この街の特別名誉教授としてもな」

「……?それってどういう意味だよ?」

「何。気にするな。どちらにせよ、君たちのやることは変わらない」

 

 魔法陣が光を放つ。それを構成する文字や線。それら一つ一つがさまざまな色を放って、ともすれば、これはとても幻想的な光景だった。

 それでも、今の大成たちにその景色を楽しむ余裕はない。これから、敵地のど真ん中に行くことが予想できて、今更ながらに緊張してきていたのだ。

 緊張せず、いつも通りにのほほんとしていたのは、旅人とそのパートナー二人組だけだった。

 

「なんで旅人たちはそんないつも通りなんだよ……」

「なんで……って言われても。なぁ?」

「ねぇ?」

「ま、確かにな」

 

 緊張している様子が見受けられない旅人たちに、その理由を尋ねた大成。あわよくばその秘訣でも教えてもらおうと思ったからこその質問だったが、残念ながら教えてもらえなかった。

 まあ、これに関しては経験と言うしかないので、仕方ないのだが。

 そうこうしている間にも、魔法陣が光はさらに強くなっていく。光を放ち始めて数十秒も経つ頃には、大成たちはその眩しすぎる光に、周りがほとんど見えなくなっていた。

 状況を知ることができるのは、互いの声だけ。

 いよいよその時が近くなっていることを大成は感じた。

 

「ああ、敵もさることでな。詳しい居場所を掴めなかった。近くには出るだろうが、優希の真正面に出ることは無理だろう。もしかしたら少々探すことになるかもしれん」

「え……?そういうことはもっと早く言えよ!」

「別になんてことありませんぞ大成殿。……優希の近くに行けるだけで儲けものだ。絶対優希を助け出す」

「え?今喋ったのってセバスか?」

 

 そんな、お互いの状況が見えない中で聞こえてくる声。

 聞きなれた声であるからこそ、誰の言葉であるかは大成にもすぐわかった。まあ、口調の違いに多少戸惑ったりしたが。

 

「今の状況で僕はこの街から離れられない。頼んだぞ」

 

 ウィザーモンのその言葉がどこからか聞こえてきて、その数秒後。

 白くなった視界に次いで、一瞬だけの浮遊感が大成たちを襲う。大成たちがそれを感じて、その直後のことだった。

 

「ここは……」

「着いたんですかね?」

 

 大成たちは、森の中にいた。深く、そして巨大な森だった。

 木々は大きく、軽く見積もっても十数メートルほどの高さがある。幹は、手を広げた大人が数人がかりでなければ一周できないほど太い。人間世界の木と成長率が同じならば、樹齢にして千年以上はあるだろう。それほどの木が、普通に生えている。

 ここは、そんな森だった。

 

「タイムスリップしたみたいだ!」

「大成さん……世界を超えている時点で元々似たようなものじゃないですか」

「……それもそうか」

 

 周りを見渡せば見渡すほど、必ず大きな木々の一部が目に入る。

 そんな大きすぎる木々のせいで、大成は自分が小さくなってしまったかにような錯覚さえしてしまった。

 まあ、そんな森の木々のことはともかくとして。

 森のスケールの大きさに圧倒されていた大成だったが、ハッとしてこの森へと来た理由を思い出した。そんな大成が見渡せば、すでにレオルモンや旅人たちは森の木々に触れたりして、森の様子を探っていた。

 

「ここら辺に優希がいるとかだけど……どう思う?」

「そうですな。旅人殿。木々のせいで視界が悪いですからな。しばらく別行動で探した方が効率が良くありませんかな?」

「……優希のことで焦ってるのはわかるけど、そりゃダメだろ」

「なぜですかな。大成殿」

 

 いや、何故も何も、と。そう思いながら、大成はいつもとは違って察しの悪いレオルモンに頬が引き攣る。さらに、意見した自分に彼のイライラとした視線がぶつけられて、大成はさらに頬が引き攣った。

 

「どうやら、冷静に見えるのは外側だけみたいだな。セバス。だって、誘拐犯がいるかもしれないこの森で別れるのはダメだろ」

「しかし……!」

「気持ちはわかるけどさ。でも、もし別れて迷子になったり、別れてから敵に襲われたらそれこそ危険だぜ?」

 

 大成の言うことにも一理あった。焦燥感が苛むレオルモンにも、それくらいはわかる。それでも、レオルモンは効率を重視したかった。

 ここには片成たちのような操られている者たち、操っている者たちがいるかもしれない以上、安全をとるべきだというのが大成の意見。それをわかった上で、それでもなお優希を早く助けたいから、効率をとるべきだというのが、レオルモンの意見だった。

 どちらも間違ってはいない。ようするには、効率をとるか、安全をとるかだ。

 

「むぅう……たっ旅人殿はどちらですかな!」

「ん?オレ?」

 

 意見が割れた時、意見の決定はリーダーの一言か、それか多数決というのが一般的。

 だからこそ、レオルモンは傍観していた旅人たちの意見を聞く。

 いきなり話題を振られたことには驚いた。だが、聞かれたことは聞かれたのだ。だからこそ、とりあえず旅人は自分の率直な意見を言う。

 

「どっちでもいいけどさ。でも、こうしている間にも探した方が良くないか?」

「……それもそうですな」

 

 旅人の一言で、大成とレオルモンを含めたこの場の全員がハッとなって気づく。

 あくまで、ここには優希を助けに来たことに。どのような方法、どのような効率であれ、優希を見つけ、助け出せばそれでいいことに。

 ともあれ、結局は効率さよりも安全さをとることになる。

 決めてはこの後のスレイヤードラモンの言葉。未知の場所でバラバラになるのは危険だろうというその言葉で、全員が共に動くことが決まったのだった。

 

「さて……考えられるのは二つか?そこらだよな」

「え?何がですか?」

 

 草の根を掻き分けるように、怪しいものは微塵も見逃さないとばかりに、大成たちは注意して進む。が、怪しいものなど見当たらなかった。というか、どこからどう見ても普通の巨大な森である。

 本当に優希はここにいるのだろうか、と。何人かがそう不安になっていた時にスレイヤードラモンが言ったのが、上の言葉だった。

 スティングモンの聞き返しに、彼は自分の考えたことを簡潔に言っていく。

 

「この森は一つ一つの木々がデカくて、視界が悪い。この木々の間や上に建物が隠れされている可能性が一つ。もう一つが……」

「もう一つが?」

「……地下にいる可能性だな」

 

 スレイヤードラモンの言葉に、大成たちはハッとなった。確かにその可能性はありうる、と。

 今まで、大成たちは地上だけを探していた。視界に映るものは逃さず見ていた。が、逆に視界の外にはあまり注意をしていなかった。地下は言うに及ばず、それこそ木々の上の方でさえも。

 以前の大成とは違って、拐われた者がわかりやすい場所にいるとは限らない。そのことに、大成たちは今更ながらに気づいたのだ。

 

「っく……!それではどうすれば……!」

 

 どうすればいいのか、と。新たに浮上した可能性に、レオルモンは苦々しく呟いた。

 木々の上の方はまだいい。だが、地下などはそれこそ確かめようがない。掘り返せば別だろうが、優希がいるかもしれない現状で、あまり手荒なことはできない。

 

「……!そうだ!旅人のカード!何かそういうの無いのか!?人探せるやつ!」

「悪い。無い」

 

 即答だった。まあ、仕方がない。

 旅人の持つカードは、確かにいくつも種類がある。が、無いものは無い。

 アイディアと修練でいくらでも幅を利かせられるウィザーモンたちの魔術とは違って、今の旅人のカードはそれほど利便性に富んでいる訳ではない。出来ることは多いが、出来ないことも当然のようにあるのだ。

 

「旅人役立たずだね~」

「ドルは黙ってろ。でも、地下なら入口があるはずだろ。あと、上ならしっかり見てればいいし……」

「結局、それしかねぇだろうな」

「じゃ、地下の可能性を考えて、僕が掘り返す~?」

「いや、ダメだろ」

 

 どうやっても不可能、もしくは無意味な案ばかりが飛び交う。もちろん、そうしている間にもしっかりと探しているのだが、やはり怪しいものは見つからない。

 こうも見つからないとなれば、犯人たちはよほど高度に隠蔽しているのだろう。

 

「この辺りにはいないのか……?」

「いやいや大成。諦めるのは早いぞ。他力本願な方法もないわけでもないしな。諦めずに探せ」

「他力本願……な方法?どんなのだよ?」

「他力本願過ぎて運が良くねぇと使えねぇから、しばらくは地道に探すぞ」

 

 スレイヤードラモンの言う他力本願な方法。首を傾げた大成は、他の面々を見る。が、他の面々にも何のことかわからないらしい。大成の疑問の視線に答えられる者はいなかった。

 そして、この頃には探し始めて一時間が経過していて。焦燥感ゆえに感じているストレスによって、レオルモンは不機嫌に拍車がかかっていた――が、そんな時のことだった。

 

「まさか他力本願な方法で行けるなんてな……」

「……?」

 

 呆れたように、スレイヤードラモンは呟いた。

 小さいながら、この場の全員に聞こえたその呟き。それを前にして、この場の全員が疑問に首を傾げる。が、次の瞬間には、その疑問は氷解することとなった。

 

「こんなところまで来るなんて……執念というべきですか」

「アンタは……!」

 

 木の陰から現れたのは、人間の女性だ。

 ゲームの中のアバターと現実の人間ということで僅かながらに違いはあるが、以前、あのゲームの中で大成と優希が出会ったあの女性と同じ姿の女性。おそらくは同一人物だろう。

 これはチャンスだった。今までなかった人物が出てきたのだ。彼女を捕まえれば、何かしらわかるだろう。

 

「なんで出て来たんだ?隠れてりゃ、俺たちは見つけられなかったかもしれなかったのに」

「バケモノに言う必要はありません」

「……ムカつくな。旅人。やっていいか?」

「いや、ちょっと落ち着けよ」

 

 究極体のスレイヤードラモンにすら、忌々しげな目で睨むその女性。その姿には、初見の旅人たちですら、彼女のデジモン嫌いを感じさせられた。

 とはいえ、彼女がデジモン嫌いであろうとなかろうと関係はない。とにかく彼女を捕まえればいい。

 そう考えて、大成たちは自然と構えていた。

 

「……ここで始末します。我々が……そして、この者たちが」

「……おいおい」

 

 思わず、全員の頬が引き攣った。

 一体どこに潜んでいたというのか。

 彼女の声に合わせるように出てきたのは、数百を超える数の人間たちとそのパートナーであろうデジモンたちで。その誰もが正気を失っているかのように、半開きの口で虚ろな目をしていた。

 

「うわ~……これだけの数と戦うのは流石に初めてだね……」

「これって……」

「間違いなく、学術院の街を襲った奴らと同じことされてんな。予想はしていた。していた……が、この数は予想外だな」

 

 引き攣った頬のまま、スレイヤードラモンが言う。

 スレイヤードラモンとしても、この数は面倒だった。操られている者を倒すのは彼としても望まない。倒すだけならば容易いが、傷つけないように戦闘不能状態に追い込む必要を考えれば、面倒では言い足りない。

 しかも、それはスレイヤードラモンの場合だ。

 いろいろな意味で経験豊富な旅人とドルグレモンはともかくとして、大成たちにこの数相手はキツかった。

 

「どうしようか……」

「いや、どうしようもないだろ、大成。やるしかないさ。やるしか。……はぁ。面倒だ」

「そうですぞ!お嬢様を助けるためにはここを超えなければならないのですからな!」

「わかってるよ。イモ!」

「わかってます!頑張りましょう!」

 

 優希を助けるためにも、ここで逃げるわけにはいかない。

 そう考えて――この直後。大成たちは、この数百の敵に戦いを挑む。

 




というわけで、第百九話。

いよいよ救出――と、思いきや。そう上手くはいかないようです。
そんなわけで、次回から戦闘ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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