【完結】デジタルモンスターA&A~紡がれる物語~   作:行方不明

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第十一話~進化の力!獣王咆哮!~

 大成が救出された頃。優希とレオルモンは、以前あの街で襲ってきた謎の男と戦っていた。

 

「……?」

「セット『アグモン・ベビーフレイム』……よそ見とは余裕だな」

「わっ!」

 

 遠くに聞こえた奇声に、優希が気を取られたその瞬間に男はSDカードのようなものを取り出して、自身の腕に取り付けられた機械に差し込む。そして、その瞬間に現れる複数の火球。その火球は、優希とレオルモンめがけて寸分違わずに放たれた。

 自身の元へと向かってくるその火球を、優希は地面を転がるようにして避けた。ギリギリな躱し方だ。だが、そんな躱し方でなければ、火球を躱すことはできないということでもある。

 既に幾度目かの男の攻撃。未だ直撃を受けたことはない。男の実力がこんなものなら、このままいけば優希たちが勝つだろう。だが、優希も直感で悟っていた。そんなことはありえない。男も本気を出していないはいない、と。

 

「お嬢様っ!大丈夫ですかっ!」

「無事!」

 

 そう優希と会話する間にも、レオルモンは男に接近し、その前足の鋭い爪で男に攻撃する。だが、男も馬鹿ではない。まるで踊るように、レオルモンの前足を掴み、そのまま攻撃を受け流すようにして躱す。すぐさま体勢を立て直して、再びの攻撃を仕掛けるレオルモンだったが、その攻撃が男に届くことはなかった。

 さながら、武術の達人のように。レオルモンにスペックで劣っているだろうその男は、技でレオルモンを翻弄している。

 

「っく……なかなかやりますなっ」

「レオルモン……成長期のデジモンだな。これは……やはり、見当違いか?セット『グレイモン・メガフレイム』」

「……?」

 

 男は呟きながらも新たなSDカード擬きを機械にセットし、先ほどよりも巨大な火球を発生させる。火球の発生によって、周囲の気温が急激に温められて上がっていく。

 その火球を前に、レオルモンも止まらざるを得なかった。その火球は、間違いなく自身を一撃で仕留めるほどの威力があるとわかったのだ。

 そして、パチパチと辺りに鳴り響く音。それは、レオルモンの頭の毛から鳴り響く音。警戒時に発生した静電気によって鳴り響く、威嚇の音である。

 

「突っ込んでこないか」

「自滅を選ぶ趣味はないのでな」

「しゃべる猫の分際でよく言うな」

「ッ!ふ、ふふ……ち、挑発などき、効きませぬな」

「……いや、思いっきり効いてるじゃない」

「ゆ……お嬢様はどちらの味方ですかっ!?」

 

 叫ぶレオルモンを横目に捉えながらも、優希も男から目を逸らさない。優希とて、この状況で自分が戦力(・・)として役に立つなど思ってはいない。多少運動が得意だからといって、スペックの差を覆せるほどの技を優希は持っていない。だからこそ、この場で自分に出来ることを探している。

 そんな優希だが、先ほどから一つ気になることがあった。男の戦い方は、どうも自分たちを倒そうとするソレではない。まるで、何かを観察するような、そんな戦い方だ。男が何を目的としているのか。それが優希には気にかかっていた。

 

「まったく!この前も今日も……一体何なの?」

「この前……はっ!?ストーカーめっ!成敗してくれるっ!」

「それは、お前自身が一番よくわかっていると思うが?」

「……?」

 

 以前、あの街で襲ってきた時もそうだったのだが、男の会話の内容はどこかわかりづらい。そこから何かを聞き取ることは、難しいだろう。

 だが、それでも、優希には一つだけわかることがあった。この男は、理由はどうであれ、自分を狙って来たのだということだ。

 

「……見当違いなら、用はない。時間の無駄だな」

 

 その言葉と共に、放たれた火球。その火球を優希とレオルモンは必死になって避けた。

 一方で、男は避けられることも想定していたのか、次の攻撃の準備に移っていた。放たれたのは、炎の刃。それすらも、優希たちはすべて避けることができた。

 だが、それは避けることができたというよりも、元々狙われていなかったというのが正しい。男の攻撃は、どれも狙いが甘い。それが、まるで手のひらの上で踊らされているようで、優希たちは良い気がしなかった。

 

「……っち。やはり、まだ試作品か。完成品とは程遠い」

「っく。その力は一体……?」

「言う必要があるか?」

 

 戦い方が上手い。それが、男と戦っているレオルモンの感想だった。

 男の攻撃で、一番隙が大きいのは、このSDカード擬きを機会に差し込む瞬間だ。だが、男もそれをわかっているのだろう。相手の隙にその行為を行うことで、安易に隙をさらさない。実際、攻撃を実行しているその最中に、次なるSDカード擬きを男は機械に差し込んでいる。

 あのSDカード擬き。あれに、優希はどこか既視感を抱いていた。だが、その感覚を優希は無理矢理に振り払った。今は戦闘中だ。そんなことを考えていては、すぐにやられてしまうだろう。ただでさえ、優希は足でまとい気味なのだから。

 

「セット『ガルルモン・フォックスファイアー』」

「……ッ!させませぬっ!」

 

 このままではジリ貧の末に負ける未来を感じたのだろう。レオルモンは攻撃を躱しながら、男の懐へと潜り込む。そのまま連続で攻撃を仕掛け続けた。息も吐かせぬ連撃。男に力を使う隙を与えずに、そのまま押し切るつもりなのだろう。

 だが、男とてそれだけでやられるほど弱くはない。うまくレオルモンの攻撃を躱している。

 

「っく。これでも……」

「イラついているな。そんな攻撃では私を倒すことはできないというのに」

「うるさいっ!」

「セバスっ!落ち着いてっ!」

 

 先ほどの挑発や思う通りにいかない戦闘運びが、レオルモンから冷静さを奪っているのだろう。実際、傍から見ていてもわかるほどに、レオルモンは冷静さを失っている。だが、冷静さを失うということは、戦闘において悪手の一つだ。

 レオルモンの攻撃は、先ほどから単調になり過ぎている。その単調さといえば、素人の優希にもなんとなく予想できるほど、と言えばどれほどのものかわかるだろう。

 

「ふん……あの女が“進化の巫女”だとしても……こんなのが守り手か。やはり見当違いではないのか?アイツめ……適当なことを言いやがって……せっかく苦労してまであの子鬼共を利用したというのに……」

「進化の巫女……?」

「知らないのか?これは……ますます見当違いの可能性があるな」

 

 進化の巫女。うっかり漏らしただろうそのキーワード。それが何を指すのかは、優希たちにはわからないことだ。だが、重要な言葉であることを予想した優希は、頭の中にその単語をしっかりと刻み込む。

 一方で、連撃に連撃を重ねたレオルモンは、その体力も尽き始めていた。考えなしに攻撃し続けたのだ。体力がなくなるのも、当然の帰結だろう。

 そんなレオルモンだが、次の瞬間に足を縺れさせて転んでしまう。体力の限界を前に、バランスを取り損なったのだ。息絶え絶えながらも、すぐにレオルモンは立ち上がる。その根性は賞賛するべきものだ。だが、この場においては決定的な隙でしかない。

 

「セット『テイルモン・ネコパンチ』」

「がぁっ!」

「セバスっ!」

 

 その隙を、男は逃がさない。以前の時とは違う、本気の一撃。猫のように鋭い爪がレオルモンを切り裂いて、吹き飛ばす。吹き飛ばされたレオルモンは、そのまま地面に叩きつけられた。素人目に見ても、レオルモンのダメージや疲労は深刻だ。もう立ち上がれないだろう。

 そんなレオルモンを興味ないモノのように見た男は、そのまま優希に向かい合った。

 

「もっとマシなパートナーだったのなら、とその身の不幸を呪うんだな」

「……私はセバスと出会って不幸になったことなんて一回もない」

「泣き叫び現実から逃げる訳でもなく、現実を理解できないほど呆然としている訳でもない……か……」

「泣き叫ぶ?呆然とする?それこそまさか。だって……まだ、私のパートナーは負けてないもの」

「何を言って――ッ!」

 

 その優希の言葉と共に背後に聞こえた音。背後に聞こえたその音は、普段なら聞き逃すような微かな物音だ。だが、男はそんな微かな音を敏感に聞き取った。そんな僅かな音に、男は悪寒を感じたのだ。いや、本能的にでもわかってたのかもしれない。それこそが、優希たちの反撃の狼煙であると。

 その悪寒に従うように、男は勢いよく振り返った。振り返った先にいたのは弱々しく、だが、確かに立ち上がるレオルモンの姿。その姿を視界に捉えた時、男は焦ったかのように攻撃態勢に移った。それは、男の何も感じていないかのような、一種の余裕とも取れる表情が崩れ去った瞬間でもある。

 

「セット『――ッ!」

「アンタとは短い付き合いだけど、今のアンタは、すっごいレアだってわかるわ……ねッ!」

 

 そして、初めて崩れ去った均衡に、初めて訪れたチャンス。そのチャンスを逃すことを優希はしなかった。

 男の力は、SDカード擬きを機械に差し込むことで初めて効果を発揮する。つまり、その二つを一緒にさえさせなければいいのだ。

 優希は全力で男を取り押さえにかかる。もちろん、成人男性の男と女子の優希では、力の差がある。だが、そんなことを承知の上で、優希は取り押さえにかかっていた。稼ぐのは、数秒。それだけでいいのだから。

 

「セバスっ!行くよっ!」

「ハァッ……ハァッ……」

 

 レオルモンは虫の息だ。このチャンスを逃せば、もう二度と勝機は訪れないだろう。それがわかったからこそ、優希は奥の手(・・・)を使うことにしたのだ。

 直後、優希の首にかけられたネックレスが光る(・・)。その光と呼応するように、レオルモンの体も光り輝いていた。まるで、活力が漲っているかのように。レオルモンの体の傷がどんどん治っていく。そして――。

 

「っち!これは……」

「レオルモン!進化――!」

 

 それは、光。それは、未来。それは、可能性。それこそが、“進化”。

 レオルモンの姿が、まったく別の姿へと変貌する。レオルモンの頃にあった幼さの消えた、雄々しい“王”の風格が漂う姿へと。

 それこそが、成熟期の聖獣型デジモンのライアモンだった。それこそが、デジモンという種の、進化の力だった。

 

「ァアアアアアア!」

「っく――!」

 

 ライアモンが咆哮する。そのあまりの声量に身構えた男。だが、優希に取り押さえかけられていたその状態で、それはしてはならぬことだった。その隙に、優希は男の腕から機械を奪うことに成功する。優希は、勢いのままにそれを放り投げた。

 これで、男の力は使えなくなった。つまり、男の戦力はこれでなくなったにも等しいのだ。自身の失態を受け入れながらも、男はライアモンから目を背けなかった。男はわかっているのだ。もはや立場は逆転していると。どちらが狩る者で、どちらが狩られる者なのかを。

 

「うぉおおおおおおお!」

「っ!」

「オレがぁ――!」

 

 いつものライアモンに似合わないその口調。荒々しいその口調の雰囲気そのままに、ライアモンは男へと突撃する。そんなライアモンを、優希は懐かしさと共に見ていた。

 今でこそ、ライアモンは過保護気味な丁寧口調だ。だが、昔からそうだった訳ではない。かつては、こういう口調だった。そんなライアモンだったが、ある日を境に変わったのだ。

 実は、優希は一度死にかけている。理由はただの交通事故だ。それも、優希の過失は全く無いと言える事故。当時、ライアモンはその場に居合わせなかった。だからこそ、ライアモンはそのことを悔いているのだ。どうして、自分は守れなかったのだ、と。

 もちろん、事が偶然であった以上、ほとんどライアモンに落ち度はないといっていい。だが、それでも。“大好きな優希がいなくなるかもしれない”という事は、ライアモンをひどく恐れさせたのだ。

 

――セバスチャンって、どんな時も主を守る執事の名前なんだぜ?――

――またアンタは……そんな嘘誰から聞いたの?――

――嘘じゃないやい!漫画であったもん!――

――思いっきり作り話じゃない!――

 

 そんな時だ。ライアモンの名前が種族の名前から、セバスという名前になったのは。当然、セバスチャンというのは、西洋でありふれた名前というだけの、特に何の特別性もない名前だ。だが、ライアモンにとってそんなことはどうでもよかった。

 例えその虚構の物語でも。その物語にあるような、この名前に相応しいの者となろうと。そう決めたのだ。だからこそ、自分の性格を捻じ曲げてまで、ライアモンは――。

 

「お嬢様……いや、優希は!他でもないっ、このオレが守るんだァっ!」

 

 放たれた拳。それは、寸分違わずに直撃し、男を吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた男だが、驚くべきことになんとか立ち上がった。男は拳の当たる直前で、後ろに飛ぶことによって衝撃を分散させ、ダメージを減らしたのだ。だが、それでも完全に減らしきることはできなかったのか、随分と辛そうである。

 

「はっ……はっ……次で仕留める」

「くっ……なるほど、確かに見当違いではなかったようだな」

「何をごちゃごちゃと――!」

「私はこれで逃げさせてもらう」

「ッ!逃がすかっ!」

 

 その言葉に、嫌な予感を感じたライアモンは男に突撃するが、もう遅い。ライアモンが走り出す前に、男は懐から取り出した玉を地面に叩きつけたのだ。

 その直後に、辺りに満ちる白煙。その白煙によって視界は遮られ、優希たちは男を見失う。驚くべきことにその白煙は特殊らしく、獣であるライアモンの鼻を以てしても男がどこへ行ったのかを探らせないものだった。

 そして、白煙が晴れた時、既に男の姿はどこにもなかった。

 

「逃げられたか……」

「……セバス、口調。昔に戻ったね」

「う……やっぱり、こっちの方がいいか?」

 

 やはり、自分の口調や普段の振る舞いに関しては、少し自信ないのだろう。所在無さげに、ライアモンは優希を見ていた。そんなライアモンに苦笑しながら、優希はその言葉を投げかけるのだった。

 

「でも、私はどっちのセバスも好き……かな」

「っ!……ふふ……し、仕方ないですな。はっはっはっ……がっ――」

「……あ、戻った(・・・)。大丈夫?」

 

 優希の言葉に、やたらと嬉しそうにするライアモンだったが、その時も長くは続かなかった。優希の言った戻った(・・・)という単語には、二つの意味が込められていたのだ。一つは口調。そしてもう一つは、その姿が、である。

 通常、デジモンは例外を除いて、一度進化したら前の成長段階に戻ることはない。だが、今回は、その例外の内の一つである。だから、成熟期のライアモンから成長期のレオルモンに戻ってしまったのだ。

 

「……お嬢様、すみませんが手を貸してくださりませんか?恥ずかしながら、疲労で……動けぬのです」

「ごめん、無理」

「なぜに!?」

「腰が抜けて……あはは……」

 

 今回の戦いの際、男に対して不敵に接していた優希だったが、その実、いろいろと無茶をしていたのである。その結果がコレ。過度の緊張から解放されたことによって、安心して腰が抜けてしまったのだ。

 一方で、レオルモンも疲労で動けなかった。理由は言わずもがな、件の例外的な“進化”を行ったためである。

 地面に座り込んだままの二人。そんな二人のこの状態は、この戦闘の被害が過度に広がらないようにしていたスレイヤードラモンたちが合流するまで続いたのだった。

 

 

 

 

 

 その頃。優希たちから逃げ出した男は、地面に座り込んでいた。もはや、立っていられないのである。戦闘の傷のこともあって、体力と気力の限界だったのだ。いや、むしろ、あの場所から遠くのここまで逃げてきたことこそ、賞賛すべきことかもしれない。

 荒れた息を整える男だったが、その直後、辺りに音が鳴り響いた。それは、男の持っている通信機の呼び出し音。普段なら気にしないことでもあるが、誰からの連絡かわかった男は、多少イラつきならがらも、その呼び出しに出るのだった。

 

――だいぶ派手に負けたみたいだな――

 

 通信機は大層なものではない。音声だけの簡単なものである。

 男は、画面に表示された名前を見るまでもなく、聞こえてくる音声から、誰からの通信かわかっていた。それほどまでに、男はその声の主のことを理解していたと言いっていい。聞こえてくるのは、男性の声。男にとって古くから付き合いのある友人であり、そして今の男の上司となっている人物である。

 

「今回の目的は、試作品の実験とあの女の価値の確認。ならば、本来の目的は達したはずだ。危険を冒してまで、奪われた試作品まで取り返してきたのだ。お釣りがくる成果なはずだ」

――確かに。だが、試作品が奪われたのは、君の過失だろう。それに、君が動いたのだ。もう少し期待してもいいと思うがね――

「お前は私を買い被り過ぎだ」

――そうかね?よく言うよ。貴英。君ほど信のおける部下はいないというのに――

「まったく。とりあえず、一度帰還する」

――了解。待っている――

 

 通信は短いものだ。だが、貴英と呼ばれた男は気づいていた。本当はあの通信の主が、戦いに負けた自分のことを心配して通信してきたのだろう、というその意図に。

 その通信を終えた後、ため息を吐きながらも貴英はその疲れた体に鞭打ちながらも立ち上がった。そうして、帰還するためにこの場を去っていくのだった。

 




というわけで、優希の奥の手は進化の力で、レオルモンの成熟期はライアモンでした。
まあ、定番ですね。レオルモンについてはレオモンと迷ったんですけどね……。
ちなみに、この戦闘中スレイヤードラモンたちは、貴英の技のせいで森が火事にならないように尽力していました。

というわけで、次回は事後報告回です。そして、その次から第二章に入ります。
いや、もしかしたら、第二章に入る前に番外編を一話程度入れるかもしれません。

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